【佐藤優の地球を斬る】外相訪露でプーチン氏の本音探れ
産経ニュース 2014.4.14 08:00
10日付の産経新聞に掲載された宮家邦彦氏(キヤノングローバル戦略研究所研究主幹、元外交官)のWorld Watch「欧州情勢は複雑怪奇?」は、ウクライナ危機がヨーロッパに与えている影響を冷静に分析した優れた論考だ。結論部を引用しておく。
<それでは過去70年間封印されてきた欧州のナショナリズムはどこへ行くのか。筆者の独断と偏見をご紹介しよう。
確実に言えることは伝統的ナショナリズムが復活してもドイツなどでネオナチのような極端な排外主義が再燃する可能性は当面ないことだ。
一方そこまでは至らないもののEU(欧州連合)のような行き過ぎた国際主義やEU官僚による中央集権的支配を快く思わない国が増える可能性はある。
同時に、これらのナショナリズムは欧州独自のロジックを加速するかもしれない。例えば米国の知らないところで、将来独露間にクリミア併合を黙認しウクライナを「緩衝国家」とする密約が結ばれる可能性はないだろうか。
1939年8月末、平沼騏一郎内閣は「独ソ不可侵条約に依(よ)り、欧州の天地は複雑怪奇なる新情勢を生じた」と述べ総辞職した。同じことが再び起こらないともかぎらない。日本の政治指導者は欧州情勢について戦前の間違いを繰り返してはならない>
*欧州のナショナリズム
ナショナリズムが過去の現象ではなく、21世紀に息を吹き返しているという宮家氏の分析は鋭い。英国のスコットランドでは11月に独立の是非をめぐる住民投票が行われる。ベルギー北部のフラマン語(オランダ語)使用地域でも、分離独立派が無視できない影響力を持っている。
ロシアのプーチン大統領は「元インテリジェンス・オフィサー(諜報機関員)という言葉は存在しない」とよく口にする。インテリジェンス機関に勤務した者は組織を離れても一生諜報業務を続け、国家に奉仕する義務があるという意味だ。プーチン大統領は諜報機関員の目で、ナショナリズムや民族自決権がヨーロッパで再び力を取り戻していることを確認した上で、「民族自決権」というカードを切れば、ヨーロッパはロシアによるクリミア併合を最終的に認めることになると判断した。米国にクリミアの現状を力によって覆す意思と能力がない状況で、プーチン大統領の思惑通りに事態は進捗している。
現在、ウクライナ東部の情勢が緊張している。そのため、今月末に予定されている岸田文雄外相の訪露が延期、もしくは中止されるのではないかという報道が一部でなされている。これに対して、複数の外務省幹部がオフレコ懇談で、「まだ何も決まっていない」と強調している。外務省内部で「ロシアによるクリミア編入後、欧米主要国の外相がロシアを訪問したことはない。対米配慮から、外相訪露を中止すべきだ」という意見と、「安倍晋三首相とプーチン大統領の間に構築された良好な信頼関を崩さず、北方領土交渉の継続するために淡々と訪問すべきだ」という意見が対立しているようだ。
*落としどころは
ロシアはウクライナの新政権を認めていない。しかし、5月25日に行われるウクライナ大統領選挙にロシアは異議を申し立てていない。この状況を踏まえた上で岸田外相はモスクワにおもむき、ラブロフ露外相と会談すべきだと思う。そこで、岸田外相がラブロフ外相に、ウクライナ問題をめぐる国際社会の懸念を伝え、ロシアから、「(クリミアを除き)ウクライナとの国境線を変更しない」という約束を取りつけることが、平和を維持するために死活的に重要だ。ロシアは国境線の不変更に同意するとともに何かの条件をつけてくる。この条件を分析すれば、ロシアの落としどころについての本音がわかる。(SANKEI EXPRESS 作家、元外務省主任分析官)
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