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五木寛之著『親鸞』完結編〜回想の人びと 「専修念仏迫害…弟子たちが死罪…安楽房遵西…後鳥羽上皇」

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『親鸞』完結編 285
 中日新聞朝刊 2014/4/18 Fri.
  回想の人びと(5)
  (前段略)
 時安はしばらく、言葉も発せずにその画(え)を凝視していたが、やがてわれに返ったように顔をあげた。
「わが目を疑うとは、このことだ。まさか生きているあいだに、見ることがかなうとは思ってもいなかった」
 時安の人相が一変していた。竜夫人は、画に手をそえて時安の前にさしだした。
「これをお贈りいたします」
「本当か」
「はい」
「わしに渡さぬというたら、そなたを殺してでも奪うところだった」
 時安の表情がゆるんだ。
「その見返りは---」
「おわかりのはずです」
「われら六波羅の手で覚蓮坊を捕え、かつての罪状をあきらかにすることじゃな」
 竜夫人が頭をさげた。
「はい。いまを去る47年前の専修念仏の迫害のとき、法然上人の弟子たちが死罪となったことは、御存知でしょう。その一人、安楽房遵西どのは、このわたくしめと深い因縁のあったおかたでございます
 時安は腕組みして竜夫人の言葉に耳をかたむけた。竜夫人はつづけた。
「このきびしい断罪の原因は、当時の後鳥羽上皇さまが大そう、お怒りになったことだとききました」
「それは存じておる」
「後鳥羽上皇がことのほか寵愛されていた女官二人が、上皇の熊野参詣の留守中に、安楽房遵西どののところへ奔ったことを知って、激怒なされたとか。しかし、それは本当でしょうか」 *リンクは来栖

 『親鸞』完結編 286
 中日新聞朝刊 2014/4/19 Sat.
  回想の人びと(6)
 北条時安は放心したように『李燕図(りえんず)』にみとれながら、うわの空の口調で応じた。
「そういう話になっておるのだ。安楽房とやらは、世にうたわれた美僧であったとか。御所の女房たちは念仏にことよせて夜中(やちゅう)に密会し、高貴な女性(にょしょう)まで不義を重ねたという。それを知って上皇が烈火のごとく怒られたというのも無理はあるまい」
 時安の言葉に竜夫人は首をふった。
「それは、為(ため)にする嘘の噂でございました」
「ほう」
 時安は目をあげて竜夫人をみた。
「どういうことだ」
「ひときわ誇り高く、癇癖のおつよい上皇の性格を利用して、専修念仏の流行を断ち切ろうという企みでございます。その仕掛け人こそ---」
「覚蓮坊だったとみているのじゃな」
「はい。朝廷側の検非違使は、かつてのしがらみから覚蓮坊に手出しいたしません。ここはひとつ六波羅がたのお力で覚蓮坊を捕え、お裁きいただきたく」
 時安はふたたび『李燕図』にみとれながら、
「覚蓮坊を取り調べたところで、やつが本当のことを白状するとは思えぬのだが。たとえ拷問してしゃべらせたとしても、それが真実かどうかはのう」
「拷問などということはいたしませぬ」
 竜夫人は笑い声をたてた。
「わたしは宋の国で妓館につとめたとき、さまざまな秘技を学びました。閨房の術(わざ)のみではありません。かの国、数千年の歴史のなかで編みだされた驚くべき技術を、この国ではじめて使わせていただくつもりです」 (以下略)
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五木寛之著『親鸞』完結編〜「ツブテの弥七は私の父親でございます」わしらはみんな河原の石ころ、つぶて 2014-04-07 | 仏教・・・/親鸞/五木寛之 
五木寛之著『親鸞』 激動編 97 犬麻呂通信 2011-04-09 | 仏教・・・/親鸞/五木寛之
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