集団的自衛権を考える 「今」容認 国益損ねる
作家・佐藤優氏 2014年4月22日 中日新聞朝刊
私は集団的自衛権の行使そのものには賛成です。世界で軍事力の相互依存性が高まっているし、自衛隊はイラク戦争での米軍の後方支援などで実質的に行使したともいえる。憲法との整合性をはっきりさせておかないと、国際社会から「日本は何をするか分からない」と思われます。
でも、今踏み込むのは絶対にダメです。クリミア情勢をめぐって米ロの緊張がかつてなく高まっている。その中で、米国と密接なつながりがある日本が集団的自衛権の行使容認を表明すれば、国際社会に「日本はロシアと事を構えるのだな」と誤解されますよ。
尖閣諸島が問題化した3年前ならば「中国への牽制」だと受け止められるでしょうが、世界がいま注目しているのはクリミアです。ロシアからすれば日露戦争や旧日本軍のシベリア出兵の記憶を呼び覚ますことになり、北方領土周辺で日本漁船の拿捕や銃撃が頻発するのは目に見えています。
ロシアと戦いたい人なんて日本にはいないはずですが、安倍政権は無自覚で進んでいる。信条を優先して国益を損ねる事態は、靖国神社参拝で懲りたと思っていたのですが・・・。先日の国際司法裁判所での調査捕鯨の敗訴も、日本が「国際社会の共通認識を持っていなのでは」との疑義を持たれていると読むべきです。
今やるべきではないもう一つの理由は、安倍晋三首相が指名した小松一郎・内閣法制局長官の奇抜な言動です。憲法解釈をつかさどる重要な立場にいながら、野党の議員との怒鳴り合い騒動まで起した。海外メディアの特派員も注目しているので、いずれ世界に発信されてしまいますよ。
米ロが緊張し、議論を進める人にも問題がある状況下で解釈改憲に突き進むメリットが、私にはわからない。意味がわからないということは不気味ですよ。
◎上記事は「中日新聞4月22日付朝刊」より書き写し(来栖)
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〈来栖の独白〉
世界(米ロ)がクリミア(ウクライナ)で緊張の今、集団的自衛権の行使容認はまずいと私も考える。ただ、
>自衛隊はイラク戦争での米軍の後方支援などで実質的に行使したともいえる。
これは、どうか。実質的戦闘地域に派遣されながら、憲法に手足を縛られた自衛隊員の多くは矛盾と恐怖の中で精神に異状を来した、といわれている。集団的自衛権行使などできなかったのだ。帰国後、自殺した隊員もいた。彼らの苦悩は、察して余りある。
>小松一郎・内閣法制局長官の奇抜な言動
これまでの「法匪」に比べるなら、よほどマシである。
イラク派遣 10年の真実
「クローズアップ現代」2014年4月16日(水)放送
煙に包まれる自衛隊の車両。
自衛隊がイラクで行った訓練を撮影した映像です。
自衛隊員
「大丈夫ですか?大丈夫ですか?」
イラク派遣から10年。
膨大な映像記録が初めて開示されました。発足以来、最も戦場に近い場所での活動となったイラク派遣。自衛隊は現地での任務を、1,000本にも及ぶテープに記録していました。
武装した群衆に囲まれる車両。宿営地への攻撃。そして、多国籍軍との活動。戦場に近い場所に派遣されることの現実が見えてきました。
自衛隊員
「前方、炎上中。」
隊員が死亡した場合の準備まで、極秘裏に進められていたことも分かってきました。
元統合幕僚長
「棺を準備して持ってって、そこはわからないように非常に気をつかいながら準備だけはしてた。」
自衛隊の任務の拡大に向け議論が進められている今、イラク派遣が残した教訓を未公開の資料から探ります。
“戦場に近かった” イラク派遣10年
今年(2014年)1月。イラク派遣10年を機に開かれた懇親会。現地に派遣された隊員たちが全国から集まりました。
元派遣隊員
「いつテロがある緊張の中で過ごしていましたので、精神的にきつかったのはある。」
元派遣隊員
「あそこは戦場に近かった所だったかな。」
イラク派遣10年 極秘映像は何を語る
この10年公開されることのなかった映像記録が、防衛省に保管されていました。半年に及ぶ交渉で初めて開示されました。自衛隊が撮影した、1,000本に及ぶイラク派遣の記録です。その内容の大半は医療支援や給水、道路の修復など、人道復興支援活動の様子でした。
しかし詳しく見ていくと、これまで明らかにされてこなかったイラク派遣の実態が、記録されていたことが分かりました。
派遣からおよそ1か月後。夜間の宿営地を映した映像です。
自衛隊員
「ただいまの時刻、イラク時間10時57分です。突然、鉄帽と防弾チョッキ着用が命令されました。」
自衛隊員
「戦闘服。」
自衛隊員
「A警備の要員はただちに指揮所に集合。」
宿営地にアナウンスされたA警備。
不測の事態に緊急で警戒に当たる態勢のことです。この夜、武装勢力が宿営地を攻撃するかもしれないという情報が、現地警察から寄せられていました。 自衛隊は、派遣された当初から武装勢力に狙われていたことが分かります。
そして、この1か月後。宿営地に向けて迫撃砲が撃ち込まれました。映像には、迫撃砲の着弾地点を探す隊員たちが映っていました。
自衛隊員
「ここです。」
自衛隊員
「間違いなく破裂してるね。」
着弾地点から数メートルにわたって、土地がえぐられていました。
自衛隊員
「おそらく82ミリ迫撃砲。」
迫撃砲は、各国の軍隊にも配備されている殺傷力の高い兵器です。
こうした迫撃砲やロケット弾による宿営地への攻撃は、13回に及びました。
イラク派遣10年 “非戦闘地域”の実相
自衛隊が派遣された非戦闘地域。こうした線引きをしたのは、憲法9条の下で海外での武力行使が禁止されているからです。そのために作られたイラク支援法。非戦闘地域への派遣であれば、他国の武力行使と一体化せず憲法に抵触しないとしたのです。
当時、陸上自衛隊のトップを務めていた先崎一さんです。
自衛隊の転機となった任務だったと振り返ります。
元統合幕僚長 先崎一さん
「政治的には非戦闘地域といわれていたが、対テロ戦が実際に行われている地域への派遣で、派遣部隊からみれば何が起こってもおかしくないと。
戦闘地域に臨むという気持ちを原点に置きながら、危機意識を共有して臨んだ。」
派遣から1年半後の訓練の映像です。
自衛隊員
「痛い! 痛い!」
自衛隊は路上に仕掛けられた爆弾で攻撃されたことを想定していました。
自衛隊員
「負傷者3名。 警戒処置等、取れない。」
イラクで、多国籍軍を狙ったテロが一向に収まらなかったからです。
自衛隊員
「搬送が終わった者については警戒に就け、警戒!」
人道復興支援の陰で、こうした訓練を繰り返さざるをえない状況が続いていました。訓練には、多国籍軍が参加していたことも分かりました。付近に展開する他国の軍隊と共に活動することが、日常化していたのです。
先崎さんは攻撃によって隊員が死亡した場合の対応まで、極秘に検討していたことを明かしました。
遺体をどのように運ぶのか、詳細に手順を検討。
国主催の葬儀も考えられていました。さらに宿営地に棺まで持ち込んでいたといいます。
元統合幕僚長 先崎一さん
「忘れもしないですね、先遣隊、業務支援隊が、約10個近く棺を準備して持っていって、クウェートとサマーワに置いて。隊員の目に触れないようにしておかないと、かえって逆効果にもなりますから、そこは分からないように、非常に気をつかいながら準備だけはしていた。自分が経験をした中では一番ハードルの高い、有事に近い体験をしたイラク派遣だったと思います。」
イラク派遣10年 極秘映像は語る
ゲスト宮下大輔記者(社会部)
●非戦闘地域への派遣 かなり際どい現場だった?
そうですね。
映像にもありました、多国籍軍との訓練の1か月ほど前には、実際に自衛隊の車両が市街地を移動中に、道路に仕掛けられた爆弾で攻撃を受けるという事態がありました。このときは、隊員にけがはありませんでしたが、車両に被害が出ました。もちろん宿営地の外での活動を控えれば、部隊の安全はより確保できたのかもしれませんが、外で復興支援活動をしなければ、逆に今度は住民の不満が爆発しかねないという状況にありました。
映像にありました訓練に参加していたのは、オーストラリア軍ですが、自衛隊が宿営地の外での活動を安全に行うためには、治安維持を任務とする多国籍軍と連携して対処する必要に迫られていたといえます。
イラク派遣10年 隊員たちの心にも…
イラクへ派遣された陸海空の自衛隊員は、5年間で延べ1万人。隊員の精神面にも大きな影響を与えていました。
NHKの調べで、このうち帰国後28人が、みずから命を絶っていたことが分かりました。
28人は、なぜ命を落としたのか。
イラク派遣から1か月後に自殺した20代の隊員の母親が、取材に応じました。
イラク派遣のときの土産と、迷彩服につけていた記章が飾られていました。
派遣中の任務は宿営地の警備でした。
「(息子が)『ジープの上で銃をかまえて、どこから何が飛んでくるかおっかなかった、恐かった、神経をつかった』って。夜は交代で警備をしていたようで、『交代しても寝れない状態だ』と言っていた。」
息子は帰国後自衛隊でカウンセリングを受けましたが、精神状態は安定しませんでした。
母親は、息子の言動の異変を心配していました。
20代の隊員を亡くした母
「(息子は)『おかしいんじゃ、カウンセリング』って。『命を大事にしろというよりも逆に聞こえる、自死しろ』と、『(自死)しろと言われているのと同じだ、そういう風に聞こえてきた』と言ってた。」
この数日後、息子は死を選びました。
自衛隊はイラク派遣の任務が隊員の精神面に与える影響を、当初から危惧していました。
これは現地に派遣された医師が、隊員の精神状態を分析した内部資料です。
宿営地にロケット弾が撃ち込まれた際の隊員の心境を、聞き取っていました。
20代 警備担当
“発射したと思われる場所はずいぶん近くに見えた。恐怖感を覚えた。”
30代 警備担当
“そこに誰かいるようだと言われ、緊張と恐怖が走った。”
中には、睡眠障害を訴える隊員もいました。
20代 警備担当
“比較的近い所に発射光が見えたので、敵がそばにいる気がして弾を込めようか悩んだ。今でもその光景が思い起こされて、寝つけない。”
この隊員は生死に関わる経験のあと精神が不安定になる、急性ストレス障害を発症していると診断されていました。
さらに内部資料には、派遣されたおよそ4,000人を対象に行った心理調査の記録もありました。
睡眠障害や不安など心の不調を訴えた隊員は、どの部隊も1割以上。
中には、3割を超える部隊もあったことが分かりました。
隊員の心に深刻な影響を与えたイラク派遣。
自衛隊に求められる役割が広がる中で、防衛省はさらなる対策を迫られています。
防衛省 メンタルヘルス企画官 藤井真さん
「これまでも任務がいろいろ拡大するにつれ、メンタルヘルスケアに力を入れてきたが、どうしても心の傷を受けるような活動もあるので、今後とも力をいれて対策を講じていきたい。」
イラク派遣後みずから命を絶った28人の隊員たち。
帰国後、精神の不調を訴え自殺した40代の隊員の妻が、取材に応じてくれました。夫を支えられなかったことを今も悔やんでいました。
40代の隊員を亡くした妻
「どうしたらいいかわからない。孤立した感じで、かなりつらかった。私は主人のことをサポートして、生きていてもらいたいと思って。」
妻は自衛隊の活動が広がろうとしている今、隊員が直面する現実をもっと知ってほしいと語っていました。
40代の隊員を亡くした妻
「(自殺した隊員は)1人、2人ではないです。亡くなった人数ではないですけど、亡くなった人数の何十倍の人が苦しんでいるわけで、マイナス面も含めて表に出していかないと、苦しいですね。」
◎上記事の著作権は[NHK]に帰属します
◇ 集団的自衛権で山本庸幸最高裁新判事「憲法解釈変更、難しい」 ← 「法匪」と呼ぶに相応しい 2013-08-20 | 政治〈領土/防衛/安全保障/憲法/歴史認識〉
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◇ 【憲法】 テロが「想定外」という欠陥/ ウソの文化=「議院内閣制」とは名ばかりで、実態は「官僚内閣制」 2012-09-07 | 政治〈領土/防衛/安全保障/憲法/歴史認識〉
【私と憲法】(3)ウソの文化と決別すべきだ 日本漢字能力検定協会理事長・高坂節三氏
産経ニュース2012.9.7 07:52
憲法について真剣に考え始めたのは経済同友会で憲法問題調査会委員長になってからだが、それ以前も商社にいたのでいろいろ思うことはあった。
その中で一番考えさせられたのは、イラン・イラク戦争でイラン国内に取り残された在留邦人をトルコ航空が救出してくれた昭和60年の事件だ。日本からは自衛隊機も民間機も「危険だから」と来なかった。海外邦人を守ってくれないことについて、日本の安全保障への疑問は多々あった。われわれは一生懸命、外貨を稼ぎ資源を持ってくるけれど、一朝事があっても国が何もしないのはどうなのかと。
かつて商社は戦争でもうかるなどといわれたが実のところ、戦争は明らかに商売上もマイナスだ。経済界としても平和は大事と考えているが、世界平和を求めなければいけない。一国平和主義では結局、日本の平和も守れないのが現実で、日本も力の体系を無視するわけにはいかないはずだ。
いったい、世界に冠たる経済大国にまでなった日本が自国民すら守れない、海外に派遣された自衛隊員も他国の軍隊に守られて活動するということでいいのか。集団的自衛権についても「持っているけど使えない」などというのは明らかな論理矛盾だ。最高裁ではなく、内閣法制局がその判断をしているのもおかしい。最高裁は「政治がからむ高度な問題は司法判断になじまない」として“職場放棄”している。また、最高裁が衆院の一票の格差は違憲状態だと判断しても、国会がいつまでたっても是正しない。この国はどうなっているのか、と思わざるをえない。
学校の先生はウソをつくなと教えているが「持っているが使えない」というウソを国として教えているわけだ。子供の教育上も非常によくない。われわれはこうした精神の腐敗をもたらすウソの文化から決別すべきだろう。
【プロフィル】高坂節三 こうさか・せつぞう
京都府生まれ。京都大卒。伊藤忠常務、栗田工業会長、東京都教育委員などを歴任。経済同友会で憲法問題調査会の委員長を務めた。平成23年から現職。兄は政治学者の故高坂正堯氏。著書に「経済人からみた日本国憲法」など。76歳。
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◇ 野田総理は「時間軸の違い」という技術論に矮小化したが、官僚統治こそが「決められない政治」の根本原因だ 2012-06-06 | 政治/検察/裁判/小沢一郎/メディア
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