蜜月が続く独中関係と、目を覆いたくなる日独関係の実態
現代ビジネス 2014年05月09日(金)川口マーン惠美「シュトゥットガルト通信」
*ドイツにとって、アジアで一番重要な国
3月28日、習近平がドイツを訪問した。ドイツと中国は、ここ5〜6年、蜜月が続いている。2011年には、二国間政府サミットの協定も結ばれている。二国間政府サミットというのは、両国の懸案を二国間で集中的に審議するためのもので、首脳や閣僚が少なくとも年に一度差し向かいで会談するばかりでなく、企業の大物が一緒に移動しては、随時、大型商談も締結する。
要するに、中国とドイツの間では、政治、経済、文化すべてにおいて、交流がたいへん密である。一番密なのは、もちろん商売。人権問題についてはすでに2008年より、申し訳程度にしか言及されない。
今回の訪問の際も、メルケル・習両首脳が見守る中、18件の大型商談の契約書に次々とサインが取り交わされた。ドイツの車メーカーの、中国でのフィーバーぶりは今も凄い。
2012年の中国におけるドイツ車の販売台数は1320万台で、4年間で2倍になった。2000年から見ると、12年間で20倍の伸びだ。そのうえ、エアバスも、50機、100機とまとめ買いしてくれる。ドイツにとっては、大変有難い国だ。
ドイツ製品の中国への輸出総額は、フランスとイギリスとイタリアとスペインを全部合わせた額よりもまだ多い。しかし、中国がドイツへ輸出している額は、それよりさらに多い。中国はことあるごとに、ドイツがいかに中国にとって大切な国であるかを繰り返し強調。
それに対してメルケル首相も、やはりことあるごとに、「中国はドイツにとって、アジアで一番重要な国である」と返礼している。当然のことながら、ドイツの投資家の間での中国ブームは去るどころか、ますます過熱するばかりで、いまだに、乗り遅れては大変という高揚したムードだ。
*中国の大国意識と新しい外交政策
さて、大型商談締結の喜びも冷めやらぬ3月28日の夜、ある財団が、習金平主席を主賓に据えてベルリンで晩餐会を催した。現役の政治家は招かれていない。そのときの習主席のスピーチの内容が日本にも漏れ伝わっており、習氏が南京事件や尖閣問題について一方的な意見を披露したことについて憤慨した人も多かったと聞く。
ただ、私はスピーチの全内容をドイツ語訳で読んだが、習氏の30分近いスピーチの主目的は、日本批判などではなかったと思っている。ドイツメディアも、日本批判の部分は全く取り上げなかった。
習氏の目的は、中国がこれから世界の大国として世界政治に積極的に関与していくという意思の宣言である。そのために、中国が太古よりいかに平和を愛する国であったかということが、スピーチの初めから終わりまで、これでもか、これでもかと強調された。侵略など一度もしたことがないという件(くだり)には、ビックリ仰天だ。
いずれにしても、中国は、今までのように輸出の世界チャンピオンであるだけではなく、世界の安全保障と政治に関与する大国になるのだという高らかな宣言がこのスピーチの言わんとすることである。
そして、そのメッセージはちゃんとドイツ人に伝わったらしく、翌日は、これを中国の大国意識、および、新しい外交政策の始まりとみる報道が相次いだ(この習近平氏のスピーチについては、現在発売中の『WILL』6月号に詳しく書いた)。ドイツ人は、中国の大国宣言に、おそらくあまり危惧は感じていない。元々、直接の脅威はないし、一緒に儲けられるなら幸いと思っているのだろう。
*"緑の躍進"をドイツの技術力で
習氏が帰国したと思ったら、4月13日、今度はドイツの外相シュタインマイヤー氏が中国を訪問した。第1日の訪問地は、河北省の省都、石家荘市。北京から300キロ、高速鉄道で2時間だ。超高層ビルの立ち並ぶ中級の都市だが、中国の中でも大気汚染が一番ひどい都市の一つだという。
今年の初め、石家庄市の男性が、「汚染を防ぐ管理責任を怠った」として、同市環境保護局を相手に裁判所に訴状を提出している。私は、薄暗いスモッグの中、皆がマスクをしている北京の写真ばかり見ていたので、大気汚染は北京が一番ひどいのかと思っていたが、それは間違いだった。北京のスモッグは、石家荘市などから流れてきた汚染物質によっても助長されているらしい。
高速鉄道から降り立ったシュタインマイヤー氏を、河北省の共産党委員会書記長が出迎え、「一年で一番いい季節においでになりましたね」と歓迎の言葉を述べたというが、街はスモッグで霞んで、よく見えなかった。
その後、移動した会談場所の迎賓館でも、カーテンは閉められたままだったそうだ (フランクフルター・アルゲマイネ紙による)。ちなみに、この石家荘市の正定県の共産党委員会副書記が、習近平のキャリアの始まり。
なぜ、シュタインマイヤー氏が石家荘市に行ったかというと、彼の選挙区であるブランデンブルク州と河北省がパートナーシップを結んでいるということもあるが、本当の目的は、やはり商売だ。
石家荘市には、鉄鋼、セメント、ガラス他、環境を汚染する重工業が集中しているが、このたび習近平氏の鶴の一声で、環境改善に取り組むことが決まった。
習氏によれば、2020年までに、河北省のセメントの生産量は6000万トン減、石炭は40%減、ガラスは3000万トン減とし、同時に同市を、環境汚染の元凶である老朽化した工業地帯から、近代的で環境に優しいハイテク工業地帯に変えていくというのが遠大なる目標である。合言葉は"緑の躍進"。
とはいっても、あまりの汚染でどこからどう手を付ければよいかわからない。そこでシュタインマイヤー氏が、「それではドイツの技術を持ってお手を貸しましょう」という筋立てになったというわけ。
*新しい商戦にエンジン全開のドイツ
ドイツの大物政治家の中国訪問はこれだけではない。シュタインマイヤー外相訪中から1週間も開けずして、今度は"エネルギー・経済大臣兼副首相兼SPD党首"であるガブリエル氏が中国に飛んだ。目的地は"北京モーターショー"、ドイツの車メーカーにとって、上海モーターショーと並んで、何より大切な見本市だ。
SPDは伝統的に中国と仲が良いが、ガブリエル大臣も例外ではなく、中国はもう何度も訪問している。2005年には、ドイツを訪れていた胡錦濤書記がシーメンスの工場を見学したいと言い出し、偶然、その近くに居を構えているガブリエルが、自宅に胡氏を招待した。
その中国通のガブリエル氏、今回、大臣としては初めての訪中だが、車メーカーの応援だけでなく、「中国は、自国の成長モデルが限界に達したことを知っている」と、やはりドイツの環境ノウハウの売り込みに余念がない。ドイツは、右手で車を売り、左手で環境改善グッズを売っているわけで、とてもしたたかだ。
しかし、日本企業もドイツに負けない車と環境ノウハウを持っており、聞くところによれば、協力のシグナルもすでに発信済み。今年3月には、日本の産業界・経済界が中心になって「中国大気汚染改善協力ネットワーク」が設立され、中国で説明会やセミナーなどが開催されている。
また、政府も4月に北京で日中大気汚染対策セミナーを開き、大気汚染対策の経験と技術の共有を図った。あとは、ドイツの商魂を見習えれば言うことなし!?
いずれにしても、ドイツは中国の環境改善に協力するという掛け声とともに、新しい商戦をエンジン全開で開始したとみられる。中国の環境汚染の度合いを見れば、これは巨大なマーケットであることは間違いない。
それに合わせるように、ドイツのメディアも一斉に中国の環境汚染についての報道を始めた。今まではメインのニュースで流れるのは大気汚染ばかりだったが、今回は、河川の汚染や環境問題がらみのデモの実態までが報道されている。
一方、受け入れ側の中国も大変乗り気のようだ。自国の環境汚染でひと儲けを狙っている人たちが、中国人のあいだにもたくさんいるのだろう。
なお、ドイツ政府としては、最新のノウハウ提供の交換条件として、ドイツの中小企業に為されている様々な障害を除去し、また、技術や商標コピーももっと真剣に取り締まるよう、中国側に要求していくそうだ。とくに特許侵害に関しては、現在、ドイツ企業はなす術がないほど混乱した状況だという。
*ドイツから軽視され続ける日本
さて、ガブリエル大臣は、今年中にもう一度中国を訪問する予定だそうだが、次回も日本は素通りするのだろうか? 彼はまだ一度も日本を訪れていない。中国の隣に日本という国があるのを、忘れてしまったのかもしれない。
そうでなくても、ここ数年、日本が甚だしく軽視されている現状には、目を覆いたくなる。独中の首脳会談は、ここ数年コンスタントに行われているというのに、メルケル氏は2008年の洞爺湖サミット以来、日本を訪れていない。
そう思っていた矢先、さらにショックなことがあった。4月30日に安倍首相がベルリンへ飛んだが、メルケル首相との首脳会談を、第1テレビも第2テレビも、夜のメインニュースで一切取り上げなかったのだ。
これには、最近、何があってもあまり驚かない私も、さすがにビックリ。先日、韓国大統領が訪独した時も、夜のメインニュースが取り上げなかったが、日本も同じ扱いかと思うと、かなりがっくりきた。
しかし、これが現在の日独関係の実態なのであろう。「中国の要人が来ようものなら、いつもトップニュースで長々と報道されるのに」と書くと、ちょっと僻みっぽいか・・・?
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