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「安保法制懇」報告書 全文(2)

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【安保法制懇報告書 全文】
「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」報告書 全文(2)
 中日〈東京〉新聞 2014年5月16日

 2、わが国を取り巻く安全保障環境の変化
 わが国を取り巻く安全保障環境は、一層厳しさを増している。このような傾向は、08年の報告書の時に比べ、一層顕著となっている。
 第1は、技術の進歩と脅威やリスクの性質の変化である。今日では、技術の進歩やグローバリゼーションの進展により、大量破壊兵器およびその運搬手段は拡散・高度化・小型化しており、また、国境を越える脅威が増大し、国際テロの広がりが懸念されている。例えば北朝鮮は、度重なる国連安全保障理事会による非難・制裁決議を無視して、既に日本全土を覆う弾道ミサイルを配備し、米国に到達する弾道ミサイルを開発中である。北朝鮮は、また、核実験を3度実施しており、核弾頭の小型化に努めているほか、生物・化学兵器を保有しているとみられる。また現在、さまざまな主体によるサイバー攻撃が社会全体にとって大きな脅威・リスクとなっている。その対象は国家、企業、個人を超えて重層化・融合化が進み、国際社会の一致した迅速な対応が求められる。すなわち、世界のどの地域で発生する事象であっても、直ちにわが国の平和と安全に影響を及ぼし得るのである。したがって、従来のように国境の内側と外側を明確に区別することは難しくなっている。また、宇宙についても、その利用が民生・軍事双方に広がっていることから、その安定的利用を図るためには、平素からの監視とルール設定を含め、米国との協力をはじめとする国際協力の一層の強化が求められている。
 第2は、国家間のパワーバランスの変化である。このパワーバランスの変化の担い手は、中国、インド、冷戦後復活したロシア等国力が増大している国であり、国際政治の力学にも大きな影響を与えている。特にアジア太平洋地域においては緊張が高まっており、領土等をめぐる不安定要素も存在する。中国の影響力の増大は明らかであり、公表国防費の名目上の規模は、過去10年間で約4倍、過去26年間で約40倍の規模となっており、国防費の高い伸びを背景に、近代的戦闘機や新型弾道ミサイルを含む最新兵器の導入とその量的拡大が顕著である。中国の国防費に関しては引き続き不透明な部分が多いが、14年度公式発表予算額でも12兆円以上であり、わが国の3倍近くに達している。この趨勢(すうせい)が続けば、一層強大な中国軍が登場する。また、領有権に関する独自の主張に基づく力による一方的な現状変更の試みも看取されている。以上のような状況を踏まえれば、これに伴うリスクの増大が見られ、地域の平和と安定を確保するためにわが国がより大きな役割を果たすことが必要となっている。
 第3の変化は、日米関係の深化と拡大である。90年代以降は、弾道ミサイルや国際テロをはじめとした多様な事態に対処するための運用面での協力が一層重要になってきており、これまでの安全保障・防衛協力関係は大幅に拡大している。その具体的な表れとして、装備や情報を含めたさまざまなリソースの共有が進んでおり、今後ともその傾向が進むことが予想される。13年10月に開催された日米外務・防衛閣僚協議(「2プラス2」)において、「日米防衛協力のための指針(ガイドライン)」の見直しを行うことで合意され、日米間の具体的な防衛協力における役割分担を含めた安全保障・防衛協力の強化について議論していくこととなっている。日米同盟なくして、わが国が単独で上記第1および第2のような状況の変化に対応してその安全を全うし得ないことは自明であるとともに、同時に半世紀以上前の終戦直後とは異なり、わが国が一方的に米国の庇護(ひご)を期待するのではなく、日米両国や関係国が協力して地域の平和と安全に貢献しなければならない時代になっている。同盟の活力を維持し、さらに深化させるためには、より公平な負担を実現すべく不断の努力を続けていくことが必要になっているのである。このように、安全保障の全ての面での日米同盟の強化が不可欠であるが、これに加え、地域の平和と安定を確保するために重要な役割を果たすアジア太平洋地域内外のパートナーとの信頼・協力関係も必要となっている。
 第4の変化は、地域における多国間安全保障協力等の枠組みの動きである。67年に設立された東南アジア諸国連合(ASEAN)に加え、冷戦の終結や共通の安全保障課題の拡大に伴い、経済分野におけるアジア太平洋経済協力会議(APEC、89年)や外交分野におけるASEAN地域フォーラム(ARF、94年)にとどまらず、東アジア首脳会議(EAS、05年)の成立・拡大や拡大ASEAN国防相会議(ADMMプラス、10年)の創設など、政治・安全保障・防衛分野においてもさまざまな協力の枠組みが重層的に発展してきている。わが国としては、こうした状況を踏まえ、より積極的に各種協力活動に幅広く参加し、指導的な役割を果たすことができるような制度的・財政的・人的基盤を整備することが求められる。
 第5の変化は、アフガニスタンやイラクの復興支援、南スーダンの国づくり、また、シーレーンを脅かすアデン湾における海賊対処のように、国際社会全体が対応しなければならないような深刻な事案の発生が増えていることである。また、PKOを例にとれば、停戦監視といった任務が中心であったいわゆる伝統型から、より多様な任務を持つように変化するなど、近年、軍事力が求められる運用場面がより多様化し、復興支援、人道支援、海賊対処等に広がるとともに、世界のどの地域で発生する事象であっても、より迅速かつ切れ目なく総合的な視点からのアプローチが必要となっている。こうした国連を中心とした紛争対処、平和構築や復興支援の重要性はますます増大しており、国際社会の協力が一層求められている。
 最後に、第6の変化は、自衛隊の国際社会における活動である。91年のペルシャ湾における機雷掃海以降今日まで、自衛隊は直近の現在活動中の南スーダンにおける活動を含めて33件の国際的な活動に参加し、実績を積んできた。その中には、92年のカンボジアにおけるPKO、93年のモザンビークにおけるPKO、94年のザイール共和国(当時)東部におけるルワンダ難民救援のための人道的な国際救援活動、01年の米国同時多発テロ事件後の「不朽の自由作戦」に従事する艦船に対するインド洋における補給支援活動、03年から09年に至るイラク人道復興支援活動等が含まれる。海外における大規模災害に際しても、近年、自衛隊は、その機能や能力を生かした国際緊急援助活動を積極的に行ってきており、最近の例を挙げれば、13年11月にフィリピンを横断した台風により同国で発生した被害に関し、1200人規模の自衛隊員が、被災民の診療、ワクチン接種、防疫活動、物資の空輸、被災民の空輸等の活動を実施した。07年には国際緊急援助活動を含む国際平和協力活動が自衛隊の「本来任務」と位置付けられた。自衛隊の実績と能力は、国内外から高く評価されており、復興支援、人道支援、教育、能力構築、計画策定等さまざまな分野で、今後一層の役割を担うことが必要である。
 以上をまとめれば、わが国の外交・安全保障・防衛をめぐる状況は大きく変化しており、最近の戦略環境の変化はその規模と速度において過去と比べても顕著なものがあり、予測が困難な事態も増えている。これまでは、少なからぬ分野において、いわば事態の発生に応じて、憲法解釈の整理や新たな個別政策の展開を逐次図ってきたことは事実であるが、変化の規模と速度に鑑みれば、わが国の平和と安全を維持し、地域および国際社会の平和と安定を実現していく上では、従来の憲法解釈では十分に対応することができない状況に立ち至っている。
 3、わが国として取るべき具体的行動の事例
 08年の報告書では、4類型(/(1)/公海における米艦の防護、/(2)/米国に向かうかもしれない弾道ミサイルの迎撃、/(3)/国際的な平和活動における武器使用、/(4)/同じPKO等に参加している他国の活動に対する後方支援)のそれぞれに関し、懇談会の提言を提示した。本懇談会では、これに加え、上述のようなわが国を取り巻く安全保障環境の変化に鑑みれば、例えば以下のような事例においてわが国が対応を迫られる場合があり得るが、従来の憲法解釈や法制度では十分に対応することができず、こうした事例に際してわが国が具体的な行動を取ることを可能とするあるべき憲法解釈や法制度を考える必要があるという問題意識が共有された。なお、以下の事例は上述の4類型と同様にあくまで次ページ以下で述べる憲法解釈や法制度の整理の必要性を明らかにするための具体例として挙げたものであり、これらの事例のみを合憲・可能とすべきとの趣旨ではない。
 /(1)/事例1…わが国の近隣で有事が発生した際の船舶の検査、米艦等への攻撃排除等
 ―わが国の近隣で、ある国に対する武力攻撃が発生し、米国が集団的自衛権を行使してこの国を支援している状況で、海上自衛隊護衛艦の近傍を攻撃国に対し重要な武器を供給するために航行している船舶がある場合、たとえ被攻撃国および米国から要請があろうとも、わが国は、わが国への武力攻撃が発生しない限り、この船舶に対して強制的な停船・立入検査や必要な場合のわが国への回航を実施できない。現行の憲法解釈ではこれらの活動が「武力の行使」に当たり得るとされるためである。しかし、このような事案が放置されれば、紛争が拡大し、やがてはわが国自身に火の粉が降りかかり、わが国の安全に影響を与えかつ国民の生命・財産が直接脅かされることになる。
 ―また、被攻撃国を支援する米国その他の国々の艦船等が攻撃されているときには、これを排除するようわが国が協力する必要がある。この点に関連して、現行の「周辺事態に際してわが国の平和および安全を確保するための措置に関する法律」(周辺事態法)では、自衛隊による後方地域支援または後方地域捜索救助活動は、後方地域、すなわち「わが国領域ならびに現に戦闘行為が行われておらず、かつ、そこで実施される活動の期間を通じて戦闘行為が行われることがないと認められるわが国周辺の公海およびその上空の範囲」でしか実施できず、また、弾薬を含む武器の提供や戦闘作戦行動のために発進準備中の航空機に対する給油および整備については当時は米軍からのニーズがなかったとして含まれていないなど、米国に対する支援も限定的であり、また、そもそも米国以外の国に対する支援は規定されておらず、不可能である。
 ―そもそも「抑止」を十分に機能させ、わが国有事の可能性を可能な限り低くするためには、法的基盤をしかるべく整備する必要がある。
 /(2)/事例2…米国が武力攻撃を受けた場合の対米支援
 ―米国も外部からの侵害に無傷ではあり得ない。例えば、01年の米国同時多発テロ事件では、民間航空機がハイジャックされ、米国の経済、軍事を象徴する建物に相次いで突入する自爆テロが行われ、日本人を含む約3千人の犠牲者が出た。仮に米国が弾道ミサイルによる奇襲といった武力攻撃を受け、その後、攻撃国に対して他の同盟国と共に自衛権を行使している状況において、現行の憲法解釈では、わが国が直接攻撃されたわけではないのでわが国ができることに大きな制約がある。
 ―わが国を攻撃しようと考える国は、米国が日米安全保障条約上の義務に基づき反撃する可能性が高いと考えるからこそ思いとどまる面が大きい。その米国が攻撃を受けているのに、必要な場合にもわが国が十分に対応できないということであれば、米国の同盟国、日本に対する信頼は失われ、日米同盟に甚大な影響が及ぶおそれがある。日米同盟が揺らげばわが国の存立自体に影響を与えることになる。
 ―わが国は、わが国近傍の国家から米国が弾道ミサイルによる奇襲といった武力攻撃を受けた場合、米国防衛のための米軍の軍事行動に自衛隊が参加することはおろか、例えば、事例1で述べたように、攻撃国に武器を供給するために航行している船舶の強制的な停船・立入検査や必要な場合のわが国への回航でさえも、現行の憲法解釈では「武力の行使」に当たり得るとして実施できない。船舶の検査等は、陸上の戦闘のような活動とは明らかに異なる一方で、攻撃国への武器の移転を阻む洋上における重要な活動であり、こうしたことを実施できるようにすべきである。また、場合によっては米国以外の国々とも連携する必要があり、こうした国々をも支援することができるようにすべきである。
 /(3)/事例3…わが国の船舶の航行に重大な影響を及ぼす海域(海峡等)における機雷の除去
 ―湾岸戦争に際してイラクは、ペルシャ湾に多数の機雷を敷設し、当該機雷は世界の原油の主要な輸送経路の一つである同湾におけるわが国のタンカーを含む船舶の航行の重大な障害となった。今後、わが国が輸入する原油の大部分が通過する重要な海峡等で武力攻撃が発生し、攻撃国が敷設した機雷で海上交通路が封鎖されれば、わが国への原油供給の大部分が止まる。これが放置されれば、わが国の経済および国民生活に死活的な影響があり、わが国の存立に影響を与えることになる。
 ―武力紛争の状況に応じて各国が共同して掃海活動を行うことになるであろうが、現行の憲法解釈では、わが国は停戦協定が正式に署名されるなどにより機雷が「遺棄機雷」と評価されるようになるまで掃海活動に参加できない。そのような現状は改める必要がある。
 /(4)/事例4…イラクのクウェート侵攻のような国際秩序の維持に重大な影響を及ぼす武力攻撃が発生した際の国連の決定に基づく活動への参加
 ―イラクのクウェート侵攻のような国際秩序の維持に重大な影響を及ぼす武力攻撃が発生し、国際正義がじゅうりんされ国際秩序が不安定になれば、わが国の平和と安全に無関係ではあり得ない。例えばテロがまん延し、わが国を含む国際社会全体へ無差別な攻撃が行われるおそれがあり、わが国の安全、国民の生命・財産に甚大な被害を与えることになる。
 ―わが国は、国連安全保障理事会常任理事国が一国も拒否権を行使せず、軍事的措置を容認する国連安全保障理事会決議が採択された場合ですら、現行の憲法解釈では、支援国の海軍艦船の防護といった措置が取れないし、また、支援活動についても、後方地域における、しかも限られた範囲のものしかできない。加えて、現状では国内法の担保もないので、その都度特別措置法等のような立法も必要である。
 ―国際の平和と安全の維持・回復のための国連安全保障理事会の措置に協力することは、国連憲章に明記された国連加盟国の責務である。国際社会全体の秩序を守るために必要な貢献をしなければ、それは、自らのよって立つ安全の土台を掘り崩すことになる。
 /(5)/事例5…わが国領海で潜没航行する外国潜水艦が退去の要求に応じず徘徊(はいかい)を継続する場合の対応
 ―04年11月に、先島群島周辺のわが国領海内を潜没航行している中国原子力潜水艦を海上自衛隊のP3Cが確認した。また、13年5月には、領海への侵入はなかったものの、接続水域内を航行する潜没潜水艦を海上自衛隊のP3Cが相次いで確認した。現行法上、わが国に対する「武力攻撃」(=一般に組織的・計画的な武力の行使)がなければ、防衛出動に伴う武力の行使はできない。潜没航行する外国潜水艦がわが国領海に侵入してきた場合、自衛隊は警察権に基づく海上警備行動等によって退去要求等を行うことができる(04年のケース)が、その潜水艦が執拗(しつよう)に徘徊を継続するような場合に、その事態が「武力攻撃事態」と認定されなければ、現行の海上警備行動等の権限では自衛隊が実力を行使してその潜水艦を強制的に退去させることは認められていない。このような現状を放置してはならない。
 /(6)/事例6…海上保安庁等が速やかに対処することが困難な海域や離島等において、船舶や民間人に対し武装集団が不法行為を行う場合の対応
 ―このような場合、海上における事案については、当該事案が自衛隊法第82条にいう「海上における人命もしくは財産の保護または治安の維持のため特別の必要がある場合」に該当すると判断される場合は、内閣総理大臣の承認を得て防衛大臣が命令することによって、自衛隊部隊が海上警備行動を取ることができる。また、陸上における事案については、当該事案が自衛隊法第78条にいう「一般の警察力をもつては、治安を維持することができないと認められる場合」に該当すると判断される場合は、内閣総理大臣が命令することによって、自衛隊部隊が治安出動することができる。さらに、防衛大臣は、事態が緊迫し、防衛出動命令が予想される場合には、内閣総理大臣の承認を得て、自衛隊の部隊等にあらかじめ展開させることが見込まれる地域内において防御施設を構築する措置を命ずることができる。
 ―しかし、このような海上警備行動や治安出動、防御施設構築の措置等の発令手続きを経る間に、仮にも対応の時機を逸するようなことが生じるのは避けなければならないが、部隊が適時に展開する上での手続き的な敷居が高いため、より迅速な対応を可能とするための手当てが必要である。
 ―事例5および6のような場合を含め、武力攻撃に至らない侵害を含む各種の事態に応じた対応を可能とすべく、どのような実力の行使が可能か、国際法の基準に照らし検討する必要がある。
 ―現在の法制度では、防衛出動との間に権限の隙間が生じ得ることから、結果として相手を抑止できなくなるおそれがある。

 ◎上記事の著作権は[東京新聞]に帰属します
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「安保法制懇」報告書 全文(1)
「安保法制懇」報告書 全文(2)
「安保法制懇」報告書 全文(3)
「安保法制懇」報告書 全文(4)
「安保法制懇」報告書 全文(5)
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