【書評】『なぜ中国人にはもう1%も未来がないのか』石平著
SankeiBiz 2014.6.1 08:02
■伝統的な家族主義が育む利己
南シナ海をめぐる中国の強圧姿勢がベトナムの反発を招き、アジアに緊張をもたらしています。尖閣や歴史問題でもそうですが、なぜ中国はあそこまで他国に強圧的態度に出るのか。一方、中国国内では環境汚染や汚職問題などが悪化し、暴動やテロが頻発、社会崩壊の危機を迎えていますが、これらも我々日本人の理解を超えています。
まさに「中国の謎」ですが、本書では、中国が抱えるさまざまな問題の根本に、中国人の伝統的な家族主義があると分析し、その観点から中国の今後を見通した一冊です。
中国では古代から皇帝制度や儒教、道教を通して家族主義が肥大化してきたという歴史的背景を解説。それが中国人の利己的な民族性を育み、頻繁な王朝交代や天下大乱を招いたと論じています。
毛沢東はこの家族主義を破壊し、共産社会を築こうとしましたが失敗。その後の改革開放路線とともに家族主義は復活し、かつて以上に強大になった結果、一族への利益誘導型の汚職や金銭至上主義が蔓延(まんえん)、不動産バブルが起こり、環境汚染から各派閥の権力闘争、少数民族問題、反日まで、あらゆる問題が噴出。そして歴史が示すように、家族主義の肥大化によってこれからの中国の大混乱と崩壊が不可避であることを論証・予測しています。
日本に帰化した元中国人の著者が、歴史と現在を往来しつつ、中国の本質と未来を鮮やかに読み解いてくれています。反響も大きく、発売即重版になりました。(石平著 徳間書店・本体1000円+税)
徳間書店・一般書籍編集部 明石直彦
◎上記事の著作権は[SankeiBiz]に帰属します
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【石平のChina Watch】行き詰まる習政権「悪夢の5月」
産経ニュース 2014.5.29 12:20
今月22日、中国新疆ウイグル自治区ウルムチ市の朝市で起きた史上最大の襲撃事件は国内外に大きな衝撃を与えた。それに先立ち5日には広州市でもウイグル人の犯行とされる襲撃事件が発生し、12日には同自治区のホータンで警察署に爆発物が投げ込まれた。政権発足以来、習近平国家主席が唱える「厳打高圧(厳しく打撃し高圧な姿勢で臨む)政策」の下でウイグル人に対する弾圧は、かつてないほど厳しくなってきたが、それが逆にウイグル人のより一層の激しい抵抗を招いた。弾圧すればするほど、受ける抵抗も激しくなるという強権政治の深いジレンマに、習政権ははまっている。
10万人の武装警察を同自治区に送り込み、事実上の戒厳体制を敷いても22日の大規模な襲撃を防ぐことはできなかった。「厳打高圧政策」は完全に破綻している。習主席の指導力に対する疑問が政権内で広がることも予想され、彼の政治的威信は大いに傷つくことになろう。ウイグル人との泥沼の戦いでの最大の敗者は習主席自身なのである。
抵抗をしているのはウイグル人だけではない。今月12日、四川省宜賓市では男による放火で路線バスが爆発し、77人の負傷者が出た。4日後の16日、今度は安徽省樅陽県金渡村の共産党委員会の建物に村民が乱入して自爆し、村の党ナンバー2の主任を爆死させた。政権は「死への恐怖」を民衆に対する抑え付けの最後の手段に使っているが、民衆がもはや死も恐れずに反乱を始めている。これは政権にとって最も恐れるべき事態である。
外交的にも習主席は大変な苦境に立たされている。5月初旬にベトナムとの係争海域で中国側の強行掘削に端を発した中越衝突事件の発生以来、関係諸国の猛反発を受けて中国の孤立化が目立ってきているからだ。
ケリー米国務長官は12日、「中国の攻撃的な行動を深く懸念している」と中国を名指しで批判した。16日、カーニー大統領報道官は記者会見において、中国の一方的な行動は「挑発的だ」とあらためて批判し、領有権争いをめぐるベトナムとの対立激化は中国側に原因があるとの考えを示した。アメリカは、中国とベトナムとの対立において完全にベトナム側に立つことになった。
10日から開かれた東南アジア諸国連合(ASEAN)外相会議は、南シナ海での緊張の高まりに「深刻な懸念」を表明する共同声明を発表した。ASEAN諸国が結束して中国を牽制(けんせい)する立場を示したといえる。拙速な掘削強行で中国はアメリカとの対立を深めただけでなく、東南アジア諸国から総スカンを食う結果となった。これはどう見ても、習政権の外交的大失敗であろう。
大失敗を何とか挽回すべく、習主席は21日に上海で開かれていたアジア信頼醸成措置会議で「アジアの安全はアジアの人民が守らなければならない」と演説し、アメリカの影響力を排して自国主導の安全保障体制づくりを進める「新アジア安全観」を提唱してみせた。
しかしそれは会議の共同声明に盛り込まれることもなく単なる習主席の一方的な発言に終わった。そして今日に至るまで、「盟友」のロシアを含め、習主席が唱える「新アジア安全観」に同調するような国は一つも現れていない。
アメリカを排除して中国の主導権を確立しようとする習主席の甘すぎるもくろみは見事に外れた。
こうしてみると、終わろうとしているこの5月は習主席にとってまさにショックと失敗の連続の「悪夢の1カ月」である。発足1年半余にして、習政権は早くも行き詰まりの様相を呈している。
時代を逆行するこの政権の異様な強硬路線が長く続くはずもないのである。
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書評『なぜ中国人にはもう1%も未来がないのか』 / 石平 行き詰まる習政権「悪夢の5月」
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