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「安倍首相が再稼働を表明すべきだ」安念潤司中央大学教授に聞く、「空気主権がむしばむ原発行政」

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「安倍首相が再稼働を表明すべきだ」安念潤司中央大学教授に聞く、「空気主権がむしばむ原発行政」
 JBpress「世界の中の日本」2014.06.13(金)井本 省吾
 昨年6月、「『原発再稼働ゼロなら、電気代50%値上げも』」と題し、経済産業省で電気料金の値上げの審査をしている電気料金審査専門小委員会の委員長、安念潤司・中央大学法科大学院教授にインタビューした記事を掲載した。
 それから1年経ったが、原発はいまだに稼働ゼロ。再稼働時期が決まっている原発もゼロ。円安に伴う輸入原燃料価格の上昇も加わって「震災前より電気代50%上昇」が現実味を帯びてきた。
*メドが立たない原発再稼働、電気料金は大幅に上昇
 一般には再稼働を審査しているのは原子力規制委員会のように見られているが、法的には今でも電力会社はただちに再稼働できる。原子力規制委に再稼働についての審査権はないという。では、何が稼働を阻止しているのか。
 安念氏は「原発を止めていなければいけないという世の中の空気のため。日本は『法治』より『空気』が支配する『空気主権国家』だ」と語る。
 「空気を打破するには、安倍(晋三)首相自らが、電力会社は法律どおり再稼働できると表明することが大事だ」と説く安念氏に再度、原発行政のあり方を聞いた。

井本 標準家庭の7月の電気料金は、東日本大震災が起こった2011年3月に比べ大幅に上がっています。上げ幅の少ない北陸電力で13%、一番高い東京電力は37%、平均して20%以上です。規制のない産業用はもっと高い。
安念 1年前は大ざっぱに「このままなら電気代は5割上昇もあり得る」と言ったのですが、今は本当にそうなって不思議はない。というか、見通しがまったく立たない状況です。正直、ここまで再稼働が遅れ、1基も動かない状態が今日まで続くとは考えていませんでしたね。
井本 典型例は東京電力です。東電は2012年7月に値上げ申請しましたが、値上げは2013年4月に柏崎刈羽原発5、6号機(新潟県)が動くことが前提でした。
安念 まあ4月は難しいが、7月か9月、遅くても2014年初頭には再稼働できるだろうと関係者は皆、見ていましたよね。今や一体いつになるのか、まったく音沙汰なしという状況です。
井本 新潟県には原発稼働に厳しい目を向ける泉田裕彦知事という「壁」もありますから。
 北海道電力では泊原発の再稼働のメドがつかない中で業績が悪化、このままでは債務超過になると危惧する川合克彦社長が資源エネルギー庁の制止を振り切る形で、今年2月に電気料金の値上げ申請を表明しました。
安念 企業経営者として当然の行動でしょう。債務超過を回避するためには原発再稼働か、値上げするしかない。
井本 茂木敏充経済産業相は「(経費削減への)ありとあらゆる努力を行うことが重要」と言いましたが。
安念 もちろん人件費も含め経費削減の努力は欠かせません。でも、火力発電の燃料費に比べたら、他のコストはケタ違いに小さい。
*政投銀による北電優先株引き受けは弥縫策
井本 そこで、政府が用意したのは日本政策投資銀行による北電の500億円分の優先株引き受けでした。
安念 いささか姑息です。政投銀の資金調達先の3分の1から半分は財政投融資ですから、形を変えた公金の投入で、しかも500億円なんて一時しのぎにしかなりません。泊原発が動かなければ早晩、再び債務超過が迫ってくる。展望のないつなぎ融資で、当面の事態を糊塗する弥縫策です。
井本 4月に消費税が上がった今、電力料金まで上げては有権者の反発を食らって安倍政権の支持率が下がる。それを恐れて弥縫策に動くのでしょうね。
安念 原発の稼働停止でどこの電力会社も業績は悪化しています。誰しも値上げは歓迎しませんが、このまま原発が停まっている状態が続くのであれば、もう弥縫策は止め、原発が動かないことを前提に値上げするしかないでしょう。その代わり再稼働した時は、すぐに値下げすればいいと思います。
井本 なるほど。一方で、原発を再稼働するという方法もありますね。安念先生は以前から「定期検査の終えた原子炉は再稼働できる。原子力規制委員会に再稼働の審査権はない」と言っています。
安念 ええ、電力会社は規制委員会の設けた新規制基準に適合するように原子炉関連機器の新増設や必要な工事を行わなければなりません。しかし、そのために運転停止までする必要はありません。現在、電力各社が規制委に申請しているのは、原子炉等規制法に基づく原子炉設置変更許可をはじめとする許認可ですが、この許認可の審査手続と原子炉の運転は並行してできるんです。
 政府も今年2月、菅直人議員(元首相)の質問主意書に対し、「原子炉等規制法には、原子力規制委員会が原子炉の再稼働を認可する規定はない」と答弁しています。
 もちろん審査の結果、稼働を止めて修理や必要な設備の新設をせよと言われることはあり得ます。その際はそれが済むまで原子炉を停止しなければなりません。しかし、稼働を続けながら基準を満たすための工事ができることも多々あるわけです。
井本 法律で認められているのに電力会社が再稼働しないのは、世の中の原発への拒否反応が強いから?
*ムラ社会・日本の「空気主権」
安念 世の「空気」に従うということです。空気に逆らうと、世間から爪はじきに遭う。政治家は有権者を失う。役所や企業は批判にさらされ、トップは辞任に追い込まれ、管理職は左遷の憂き目に遭う危険がある。
 日本は法治国家ながら法律より一段上に空気という権威が存在する。この構造は戦前からずっと同じで、法律よりも空気にしたがっていれば、誰も責任を取らなくていい仕組みです。
 北電に出資した政策投資銀行だって、債務超過になろうかという会社に出資するのは背任を疑われかねない行為です。でも、政府部内の空気を忖度してやったのなら実質的な責任は問われないだろう、ということです。
 日本は終身雇用のムラ社会。その中にいれば安全、安心だが、そこから外されると不安が大きく、やり直しの利きにくい社会です。「原子力ムラ」とはそれを指した言葉ですが、同様のムラ社会は随所にあります。だから合法でも空気に逆らうことはしない。それが空気主権です。「今の空気では仕方がない」と。
井本 空気に逆らうと極右、極左、変人、原理主義者などと言われます。
安念 そうしたレッテルにさして中身はない。要するにアイツは空気に逆らっているというだけのことです。
井本 今の日本は「怖い原発の再稼働には反対、でも電気代の値上げにも反対」という空気です。この矛盾を糊塗するのが例えば北電への政策投資銀行の出資ですが、今のところそれでもっているし、原発停止で停電の恐れがあると言われたが、停電もない。それが反原発派を勢いづかせている面があります。停電がないなら現状を続けようというモラトリアム状態です。
安念 でも、いつまで続けられるのか。老朽火力発電所を無理やり稼働させていますから、危なっかしいですよ。昨年10月に和歌山県海南市にある1970年代前半に建てられた関西電力の一番古い火力発電所の視察に行きました。素人目にも古いなと分かる発電所です。福島の原発事故がなかったら廃止されていたかもしれません。
 日本の電力会社の技術力は大したものですが、運転には手間がかかる。止めて点検できればいいけど、それだと電力が不足し、不測の事態を招く危険があるので、週末か深夜に点検する。そのため皆、疲れ果てて大変だと言っていました。福島原発事故の時もそうでしたが、現場は立派です。疲労しても仕事を続ける責任感がある。でも、そんな老朽設備と従業員の疲労を抱えていつまで稼働できるのか、という不安は絶えません。
*福井地裁の大飯原発再稼働差し止め判決の波紋
井本 原発が再稼働しないと、停電が発生する危険が常にあるわけですね。
安念 その通りです。経営的にも関電は、再稼働の可能性の高い高浜原発だけでは黒字を維持しがたい。やはり出力の大きい大飯原発も動いてくれないと困る。
井本 その大飯原発について、安全性が確保できていないとして周辺住民らが関電に運転差し止めを求める訴訟を起こしました。これに対し福井地裁は5月に安全性の欠陥を指摘し、再稼働を認めない判決を下しました。憲法が保障する人格権は原発による経済活動に優先するという考え方です。原子力規制委の判断にゆだねない形での判決が出たわけです。
安念 行政上の許認可を受けた施設でも、そういう訴訟や判決はあり得ます。50階建ての高層ビルが建築確認を得たとしても、住民の民事訴訟の結果、許可差し止めやビルの撤去を求められることも、理論上はあり得ます。実際には示談、和解の形になることが多いですが。
井本 福井地裁の判決をどう見ますか。反原発派が「画期的な判決」と評価する一方、原子力関係の専門家には批判的な意見が多いです。
安念 僕もこの判決に批判的ですが、裁判官の仕事には敬意を払っています。批判する時は判決の全文を読むべきだと思っていますが、読まない人が結構多い。例えば、日本原子力学会が判決に対しコメントを出していますが、総括的な批判で、判決の全文に目を通しているようには見えません。
 裁判所は、当事者の出した証拠だけで判決を出すのであって、世の中の知見のすべてが法廷に現れているという保証はないのです。当事者がしっかりした証拠や科学的知見を出したうえで裁判官を説得できなければ、敗訴も十分あり得ます。それにしても関電がこれほど大負けするとは思いませんでした。
井本 関電は控訴すると言っているので、今後の展開は分かりませんが、政治的、社会的には大飯原発の再稼働はしにくくなるかもしれませんね。原子力規制委員会の田中俊一委員長は「この判決に関係なく、従来通りの考え方で審査を続ける」としていますが。
 一方で政府は9月に任期が切れる原子力規制委の委員2人を交代させます。地震学者の島崎邦彦氏など安全審査に厳しい姿勢を貫いてきた委員の交代で、再稼働が前に進むのではないかと電力会社は期待しているようです。
*原子力規制委と「にぎる」電力会社
安念 規制基準そのものは同じなので、それほど変化はないでしょう。ただ原子力規制委の規制は裁量の余地があるため、委員によって微妙に変わることはあり得ると思います。
 規制基準は具体的な寸法などスペックまで書いてあるわけではありません。例えば、加圧破損を防止するための設備を用意せよと書いてあるだけ。良く言えば技術や科学的知見の変化に柔軟に対応できるようにしてあるわけですが、電力会社にしてみれば具体的にどうすればいいのか、分かりにくい。
 そこで、電力会社の担当者はしばしば規制委と「にぎった」という言い方をする。スペックなどについて「この寸法、素材で行きますよ」「いいでしょう」という具合です。曖昧な部分を逐一チェックして「にぎる」分、審査は遅れがちになる。
井本 どうしたら、いいでしょう。
安念 安倍首相は「原子力規制委員会が定めた世界で最も厳しい水準の安全規制を満たさない限り、原発の再稼働はない」と言う。安全重視のようで、悪く言えば原発の安全評価の責任を規制委に丸投げして逃げている。規制委にしてみれば、最後の責任を取らされるのだから慎重にならざるを得ない。特に地震や津波の影響を見極めるのに時間をかけており、活断層を調べるのにトレンチ(溝)を掘ってからということになり、それだけで何カ月もかかってしまう。
 今の地震学では地震を予知できず、分からないことが多いそうです。そこで責任を追及されないようにと規制基準をかさ上げし、どんどん厳しくしてしまう。それで審査が遅れ実質的に再稼働させないことにもなってしまうわけです。
 原発の稼働に伴う残存リスクは、学者や研究者に取れるようなものではないんです。責任は国民の選挙で選ばれた政治家が取るべきです。
井本 安倍首相は原発事故の処理について「国が前面に出る」と言いましたが、そう言っただけで後はほとんど何もしていません。どうすべきでしょう。
*安倍内閣の責任においてすべきこと
安念 不透明な「空気」を解消すべく、「原発は法律どおり稼働できます」と社会に向かって表明すべきでしょう。批判が起こっても、法的には何の問題もないと、総理自ら堂々と説明すればいい。同時に「規制委員会は基準に基づき審査をしてください」と言う。これを貫けば名宰相として歴史に名を残すことになるでしょう。
 安倍総理は今、集団的自衛権の解釈問題で奮闘していますが、エネルギー政策も防衛力強化と同様、重要な安全保障問題です。
 その点、民主党政権の野田佳彦首相(当時)は立派でした。反原発の空気が民主党内にも強い中で、自身の判断で2012年7月に大飯原発を再稼働させた。昨年9月に定期検査に入りましたが、その後稼働していないのは安倍首相ら現内閣の責任ですよ。
井本 支持率が下がるのではないか、などと恐れていてはなりませんね。
安念 原発はもちろん危険性がありますから、脱原発が1つの選択肢であること自体は否定しません。誰だって、原発がなくて済むならそれに越したことはありませんからね。
 でも、石炭などの火力発電では大気汚染が広がって肺がんの危険が高まるし、地球温暖化も促す。化石燃料の輸入が増え、国富の流出を広げることにもなる。そうした点を比較してエネルギー政策を決め、粘り強く訴えていけば理解されるはずです。空気主権にむしばまれた原発行政を、法治によって正常化してもらいたいですね。
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安念 潤司(あんねん・じゅんじ)氏
 1979年3月東大法学部卒、北海道大学法学部助教授、成蹊大学法学部教授などを経て、2007年12月から中央大学法科大学院教授。経済産業省の「電気料金審査専門小委員会」委員長

 ◎上記事の著作権は[JBpress]に帰属します 


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