エネルギー確保 中東安定化 積極的平和主義…「機雷掃海」譲れぬ安倍首相
産経ニュース 2014.6.18 00:16
安倍晋三首相が並々ならぬ意欲を示す集団的自衛権の行使としての戦闘下でのシーレーン(海上交通路)の機雷掃海。中東情勢が悪化するたびに不安定化するペルシャ湾・ホルムズ海峡での活動は日本にとって欠かすことができないと首相は判断している。ただ、集団的自衛権の行使対象を朝鮮半島有事など日本周辺に限定したい公明党との歩み寄りはまだ道半ばだ。
17日の「安全保障法制整備に関する与党協議会」で自公両党は機雷掃海をめぐり真っ向から対立した。
山本順三参院自民党幹事長代理「国民も機雷除去はやっていいと思っている」
北側一雄公明党副代表「戦闘下の機雷掃海は武力行使だ。そうだろ政府!」
山本氏が報道各社の世論調査データをもとに理解を求めようとすると、北側氏は食ってかかった。
首相がホルムズ海峡の機雷掃海にこだわるのは、就任1年半での外遊先からも読み取れる。
首相は昨年4月〜今年1月にかけて、ペルシャ湾沿岸の湾岸協力会議(GCC)加盟6カ国を全て訪問し、安全保障対話の強化を打ち出した。ペルシャ湾の入り口となるホルムズ海峡は、日本の輸入原油のうち85%が通過するシーレーンの要衝だ。首相はホルムズ海峡が機雷で封鎖されれば、「経済的なパニックが起き、日本は決定的に被害を受ける」と指摘する。首相の経済政策「アベノミクス」を成功させるためにも安定したエネルギー供給が不可欠となる。
集団的自衛権の行使が可能になれば、「世界の中の日本」として中東の安定化に向け、積極的な関与もできる。高い掃海能力をもつ海上自衛隊は、先の大戦中に米軍が日本周辺海域に敷設した機雷を処理してきたほか、1991年の湾岸戦争後、ペルシャ湾での掃海任務にも就き、硫黄島などで実際の機雷を用いた訓練も常時行っている。
海自掃海艇部隊は装備や技術面で米軍や英軍に匹敵するとされるが、日本が集団的自衛権を行使しない現状では、機雷除去は戦闘行為停止後の「遺棄機雷」の除去に限定されている。
政府関係者は「国際的に海自の活動要請があるにもかかわらず、集団的自衛権の行使が認められないため、その要請に応えられないでいる」と指摘しており、首相が掲げる「積極的平和主義」にも逆行する。
与党協議会で集団的自衛権の行使対象を大幅に限定させたい公明党は今のところ譲る気配を見せていないが、首相の意を受ける自民党の高村正彦副総裁は公明党側にこう念を押した。
「ここは(首相の)意志は固いですよ」
◎上記事の著作権は[産経新聞]に帰属します
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
【主張】集団的自衛権 機雷除去は日本の国益だ
産経ニュース 2014.6.18 03:09
集団的自衛権をめぐる与党協議は、政府が行使容認の閣議決定原案を提示し、大詰めの段階を迎えているが、自衛隊の活動範囲をめぐる自公両党間の立場の違いがより際立ってきた。
象徴するのは、海上交通路(シーレーン)に敷設された機雷を除去する掃海活動に、公明党が強い難色を示している点だ。
ペルシャ湾のホルムズ海峡の近隣で有事が発生した際に、機雷掃海を集団的自衛権に基づき実行することは、日本の平和と繁栄を守るために必要だ。だが、公明党は自衛隊の活動を日本周辺にとどめるなど、行使容認の範囲を極力限定したい意向だ。
日米同盟を強化し、日本の国益と安全を守るために何が必要かが与党協議に問われている。真に意味のある合意づくりへ、ぎりぎりまで調整を続けてほしい。
ホルムズ海峡は世界の原油の3〜4割が運ばれるタンカー銀座だ。日本の輸入原油の大半もここを通る。機雷で封鎖されれば世界経済への影響は重大なだけに、国際的な掃海活動が行われることになるだろう。掃海能力が高く、年3千隻超の関係船舶が航行する日本に参加要請が来ることは当然考えておくべきだ。
1991年の湾岸戦争時、イラクがペルシャ湾に機雷を敷設した際、集団的自衛権の行使ができない日本は、停戦発効後に掃海部隊を派遣した。停戦前から掃海に従事した米英などに比べ、高い評価を得られなかった経緯もある。
今の中東情勢から「機雷敷設の可能性は低い」として、集団的自衛権から外すよう求める意見もあるが、事が起きた際の影響の大きさを考え、中長期的なリスクに備えておかねばならない。
守るべきシーレーンは中東に限らない。インド洋からマラッカ海峡、南シナ海を経て日本近海まで、日本にとって死活的に重要なシーレーンが通っている。掃海能力を発揮できると示しておくことが抑止力にもなる。
公明党は、閣議決定原案で「国民の生命、自由および幸福追求の権利が根底から覆されるおそれがある」という行使容認の条件から、「おそれ」を外して一層限定的なものにしたいという。
政府や自衛隊の手足を縛れば平和的になるとの発想だろうか。事態が起きてからあわてても遅い、という発想へ転換すべきだ。
◎上記事の著作権は[産経新聞]に帰属します
◎画像は、ブログ「いつも☆ひまわり」より転載させていただきました。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
◇ 『アメリカの新・中国戦略を知らない日本人』日高義樹著 PHP研究所 2013年2月27日第1版第1刷発行 2013-02-28 | 本/(演劇)
(抜粋)
p113〜
日本が輸入している石油のほとんどは、ペルシャ湾からインド洋を経由してマラッカ海峡を通り、東シナ海を経て日本に運ばれてくる。このルートを防衛するための司令部を横須賀に集中することは、当然といえば当然である。
p168〜
第5部 アメリカは中東石油を必要としない
アメリカが中東の石油を必要としなくなる。これはまさに歴史的な出来事と言える。その理由はいくつかあるが、最大の理由は、これからアメリカの石油の産出高が増えること、やがてアメリカがサウジアラビアを超える最大の石油産出国になろうとしていることである。
第2の理由は、周辺の国々のメキシコ、カナダ、コロンビア、ベネズエラが産出する石油が増え、アメリカ国内の産出高の不足を補えるようになっていることである。
第3の理由は、すでに述べたように天然ガスと原子力発電によるエネルギーの産出が増え、エネルギーの自給体制が確立しようとしているからだ。
p169〜
中東の石油にまず手を出したアメリカの政治家は、フランクリン・ルーズベルト大統領だった。ルーズベルトはイギリスのチャーチルに対して、「イランをイギリスに与える代わりにサウジアラビアをアメリカのものにする」と主張し、話し合いをつけた。
第2次世界大戦後はイランを牛耳るイギリスと、サウジアラビアを手にしたアメリカが中心となって、ソビエトとの冷戦が戦われた。その冷戦が終わったあとは、中東がアルカイダを含むイスラムの反米勢力との戦いの場となった。
p170〜
ロシアはエジプトに触手を伸ばした。エジプトの人々は、ヨーロッパと並んで近代化を図ろうとした矢先、イギリスに騙され、植民地化されてしまったのに腹を立てていたが、第2次大戦では再びアメリカ、イギリス連合軍の手中に落ちてしまった。
エジプトの青年将校たちがその後革命を行い、ソビエトとの同盟体制を強化したが、アメリカが入り込み、ソビエトを追っ払った。やがてイランが人民革命に成功し、パキスタンは独自の核兵器をつくり、アメリカによるイラク戦争、アフガニスタン戦争が始まり、現在に至っている。
そうしたなかでサウジアラビアの石油帝国の位置は揺るがなかったが、油田そのものが古くなっている。日産100万バレルという巨大な油田を有するものの、サウジアラビア全体で1日1300万バレル以上を掘り出すことは不可能になっている。
世界経済の拡大とともに石油産出国の立場が強くなり、OPECの操作で石油危機が起き、アメリカをはじめ世界が中東の石油カルテルに振り回されてきたが、その状況が終わろうとしている。しかし中国やインド、日本が依然として中東の石油を必要としているため、アメリカの中東離れによって、さらに複雑な国際情勢が描き出されようとしている。
はっきりしているのは、中東の石油を必要としなくなった結果、世界の軍事的安定の要になっているアメリカが、中東から軍事力を引き揚げようとしていることだ。
p171〜
アメリカは2014年、アフガニスタンから戦闘部隊をほぼ全て引き揚げることにしている。すでにイラクからは戦闘部隊を引き揚げており、このまま事態が進めば、中東におけるアメリカの軍事的支配が終わってしまう。
p172〜
アメリカは、優れた衛星システムと長距離攻撃能力、世界規模の通信体制を保持している。アメリカが強大な軍事力を維持する世界的な軍事大国であることに変わりはない。
p173〜
だが中東からアメリカ軍が全て引き揚げるということは、地政学的な大変化をもたらす。
アメリカ軍の撤退によって中東に力の真空状態がつくられれば、中国、日本、そしてヨーロッパの国々は独自の軍事力で中東における国家利益を追求しなくてはならなくなる。別の言葉でいえば、中東に混乱が起き、戦争の危険が強まる。
日本は、中東で石油を獲得し、安全に持ち帰るための能力を持つ必要が出てくる。この能力というのは、アメリカの専門家がよく使う言葉であるが、軍事力と政治力である。簡単に軍事力と政治力というが、軍事力だけを取り上げてみても容易ならざる犠牲と経済力を必要とする。
中東で石油を自由に買い求め、安全に運んでくるための軍事力を検討する場合、現在の世界では核兵器を除外することはできない。あらゆる先進国は、自国の利益のために軍事力を強化している。核戦争を引き起こさない範囲で自国の利益を守ろうとすれば、軍事力行使の極限として核兵器が必要になる。先進国が核兵器を保有しているのはそのためである。
韓国や台湾、それにベトナム、シンガポールといった東南アジアの国々が、いわゆる世界の一流のプレーヤーと見なされないのは、軍事力行使の枠組みになる核兵器を保持していないからだ。日本は日米安保条約のもと、アメリカの核兵器に頼っている。
p174〜
東南アジアの国々と立場は違うが、いまやその立場は不明確になりつつある。
中国についても同じ原則が当てはまる。中国は軍事力を背景に、アメリカの力がなくなった中東で政治力を行使することが容易になる。いま世界でアメリカを除き、ロシア、インド、パキスタン、イランそしてヨーロッパの国々も中国とは軍事的に太刀打ちできなくなっている。
中国が中東で好き勝手をやるようになり、石油を独占して日本やインドなどに損害を与えるようになった場合、日本はインド洋からマラッカ海峡、南シナ海から東シナ海を抜けて日本へ至るシーレーンを自らの軍事力で安全にしなければならない。この際、欠かせなくなってくるのが、やはりアメリカの協力であり、アメリカの決意なのである。(略)
中東には、石油の問題だけでなく、核兵器を持とうとしているイランの問題がある。イランのアフマディネジャド大統領はユダヤ人国家イスラエルの存在を認めておらず、核兵器で壊滅させるという脅しをかけている。宗教的に対立するサウジアラビアに対しても軍事対決を迫る構えを崩していない。
p175〜
石油大国サウジアラビアとイスラエルは世界経済を大きく動かしている。この両国がイスラム勢力によって消滅させられるようなことがあれば、第2次大戦以来、比較的安定して続いてきた世界は大混乱に陥る。
.....................