週刊朝日記事 物忘れと認知症の違いは? 認知症の基礎知識
dot.(更新 2014/6/19 07:00)
認知症で行方不明になる人が全国で問題になる中、認知症の予防、地域で安心して暮らせるコミュニティーづくりが急ピッチで行われている。そもそも認知症とはどんな病気なのか。群馬大学大学院保健学研究科教授の山口晴保氏に聞いた。
Q1 認知症とはどのような病気ですか。
認知症は大脳がつかさどる認知機能が低下する病気です。認知機能とは、「見る・聞く・嗅ぐ・味わう・触る」などの五感を通して脳に入る情報から、自分の置かれている状況を認識したり、言葉を自由に操ったり、計算するなど知的機能を総称する概念です。この認知機能が低下して、人の手助けなしでは生活できないレベルにまで、生活力が失われる状態になることを「認知症」と言います。
Q2 自然な「物忘れ」と認知症の「物忘れ」はどこが違いますか。
認知症の症状の一つに「物忘れ」がありますが、誰でも加齢に伴い記憶力は少しずつ悪くなります。「具体的な内容を忘れる」のは、自然な物忘れ、「出来事そのものを忘れる」のは、アルツハイマー型認知症による記憶障害という違いで比較できます。例えば、冷蔵庫を開けて消費期限が切れたお肉が出てきたら、「1週間前に買っておいたのを忘れた」と気がつくのは自然な物忘れ。「誰が買ったのか」と、自分が買ったことを忘れていたらアルツハイマー型認知症の疑いがあります。
Q3 認知症と間違いやすい病気はありますか。
認知症と「うつ」は深い関係にあります。レビー小体型、脳血管性の認知症は、うつ的な症状が目立ちます。また、認知症の初期の段階、軽度認知障害(MCI)の段階で「うつ」の状態になると、アルツハイマー型は1.65倍、脳血管性認知症は2.52倍の確率でなりやすいことがわかっています。「うつ」状態では、脳の中にセロトニンという神経伝達物質が不足しているので、ジョギング、水泳、早歩きのようなリズミカルな運動を毎日30分ぐらい続けると、3カ月で脳内のセロトニンが増えてくるという調査結果もあります。
Q4 認知症になりやすい生活習慣、または遺伝はありますか。
アルツハイマー型認知症の多くは、70歳を超えて発症しますが、中には40〜50歳代と比較的若い段階で発症する方もいて、遺伝的な素因を持っている傾向があります。遺伝的なアルツハイマー病は「家族性アルツハイマー型認知症」と呼ばれています。しかし、遺伝性のアルツハイマー型はごく一部。65歳以下で発症する認知症は全体の1%です。また、認知症になりやすい生活習慣は、運動不足が挙げられます。内臓脂肪型肥満に、高血圧、高血糖、脂質異常症のうち、二つ以上を合併した状態を「メタボリック症候群」と言います。このメタボになると、アルツハイマー型の発症リスクが2倍以上に高まるという調査結果も出ています。メタボを防ぐには運動が最も効果的です。こまめに体を動かしましょう。
※週刊朝日 2014年6月27日号より抜粋
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自転車、ウオーキング、有酸素運動がアルツハイマー病に効果あり
dot. (更新 2013/12/20 15:06)
世界の認知症の患者数は今後、爆発的に増加し、2050年までに現在の約3倍に達する――。こんなセンセーショナルな内容が、認知症サミットに先駆け、国際アルツハイマー病協会から発表された。アルツハイマー病の原因物質は「β(ベータ)アミロイド」というタンパクだが、発症を予防する決め手はあるのか。
先制医療を成功させ、認知症を発症させなくするカギは、なんといっても治療薬の開発だ。現在使われているアルツハイマー病の薬は、いずれも進行を遅らせることが目的で、根本的に進行を食い止めることはできない。これに対し、開発が進む新薬は、アルツハイマー病の“元を断つ”ものだ。具体的には、脳の神経細胞にβアミロイドが蓄積するのを防ぐ、「抗βアミロイドタンパク療法」の開発が盛んだ。βアミロイドが作られるのを防ぐ薬や、溜まるのを防ぐ薬、βアミロイド自体を除去する薬などがある。
残念なことに、今のところいずれの臨床試験も成功にいたっていない。しかし、希望はある。
「新薬であるソラネズマブの試験は、認知症を発症した人の認知機能を改善するという目標を満たせませんでした。しかし、軽症のアルツハイマー病に限って改めて解析すると、わずかながらも認知機能低下のスピードを抑えていた可能性が浮上してきました。そこで、βアミロイドの蓄積が確認された、軽度認知障害(MCI)や早期の患者をターゲットにした臨床試験で再度挑戦、勝負をかけるようです」(東京大学大学院医学系研究科脳神経医学専攻・神経病理学分野教授の岩坪威医師)
こうした先端研究が実を結び、予防や早期治療が実現するまでには、少し時間がかかるだろう。では、現時点でできる「予防」としては、なにが効果的なのだろうか。
アルツハイマー病の予防に関する世界各国の大規模研究を分析した、筑波大学病院精神神経科教授の朝田隆医師によると、認知機能の低下に対し効果があると評価できるのは、「運動習慣」だけだという。朝田医師はこう語る。
「運動のなかでも、有酸素運動がとくに効果的です。サイクリング、やや速めに歩くウオーキング、なわとびなどを2週間に1回、30分以上することが目安になります。また、強制されてするのではなく、楽しんで行うレジャーアクティビティーがいいでしょう」
運動習慣は、健康な人が加齢によって認知機能が落ちるのを防ぐだけでなく、すでにMCIを発症している人の認知機能低下を軽減させる効果もある。MCIの高齢者170人を対象にしたオーストラリアの研究では、6カ月間運動した人は、しなかった人と比較して、3年後に認知機能の改善がみられたという。
※週刊朝日 2013年12月27日号
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