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世界の中で日本がどう競争し生き残るか、という視点がエネルギー論議から欠落=最大の問題 田中伸男

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2013.08.28【オピニオン01】 田中伸男(前IEA事務局長/日本エネルギー経済研究所特別顧問)
日本のエネルギー安全保障を考える(上)
「原発を稼動させるリスクと稼動させないリスクの説明を」
 世界の中でどういう競争をしていくか、日本がどうやって生き残るか。そういう視点が現在の我が国のエネルギー論議にないのが最大の問題だと思います。福島事故後、ドイツは原子力発電所を2022年までに止めると決めました。ただし、古い原子炉をとりあえず8基止めましたが、他の9基は動いているわけです。かつ、稼働率は9割以上。ですから、電力供給面では困っていない。
 日本は事故後、定期検査に入った原子炉を全部止めてしまったわけですが、それと比べればメルケル首相は非常に賢い政治的選択をしたといえます。 その結果、現在も原発が動いていることに対して反対もない。ドイツの強みは、原発を半分以上動かしており、隣国と電力網がきちんと繋がっていますので、いざとなればフランスから原発による安い電力を買えるし、ポーランドやチェコなどとも連系しているわけですから、そこから石炭火力による電力も買える状況にある点です。
 そのおかげで再生可能エネルギーも使い易いし、欧州の大きな電力市場を活用して、天候による再エネ発電の変動の影響を緩和できる。欧州ではこれまで、市場拡大に向けて努力してきた成果として、エネルギーセキュリティー及び持続可能性が図られているわけです。福島事故があったから原発を止めます、で終わっているのではない。こうして、エネルギーの集団的安全保障に欧州は取り組んでおり、その上にドイツが上手く乗れていると理解するべきです。
*「原発なしで日本のエネルギー安全保障確保は不可能」
 ですから、日本も本当は同じように考えなくてはいけない。日本の場合、系統線の連系が国内で東西50ヘルツと60ヘルツの周波数帯に分れてしまっていますね。かつ隣国との繋がりが全くない。ロシア、韓国との系統もないというなか、日本が単独でエネルギー安全保障を確保するのは、そもそも至難のワザと認識しなければいけないわけです。こうした状況の中で、原発無しでセキュリティーを図るのは、ほとんど不可能に近い「自殺行為」だと私は考えています。
 世界全体の中で、自国の資源エネルギーの対外依存度がどうなっているのか。国内資源がないなりに他の国とどうやって連携するか、さらにエネルギーミックス、つまり色々なエネルギー資源を持つという多様性の確保を図っていかないと、とても生き延びられないといえるでしょう。
 確かに福島事故は大きな事故であり、それ故に国民が原発の安全について心配をするのは十分理解できますが、心配だけでエネルギー政策を決めてしまうと日本にとって将来非常に困ったことになる可能性も高い。福島事故で、原発には大きなリスクがあることが分かったのですが、原発を稼働させないリスクもこれまた非常に大きいのです。
*「ホルムズ海峡封鎖に日本政府は準備をしているか」
 私が国際エネルギー機関(IEA)の事務局長をしていて、最大の心配事だったのはホルムズ海峡封鎖の可能性でした。イランの核開発問題をめぐって、イランへの様々な制裁が行われていますが、その影響によってイランが何らかの形で暴発して戦闘行為がホルムズ海峡で起こる危険性がある。もっと大きな可能性があるのは敵対関係にあるイスラエルがイランの核関連施設を攻撃するという問題ですね。イランの新しい大統領が穏健なことを言っているので、その危機は遠のいたという見方もありますが、私は必ずしもそうは思いません。イランとして核開発を止めるつもりは毛頭無いわけですから、イスラエルがどこまで我慢するか。やはりイスラエルによるイラン空爆の可能性はある。今年の暮れにかけてその確率はまだまだ高いと考えています。
 日本の原発再稼働が遅れて、このままいくとどうも年内にはなかなか動きそうもない状態ですが、原発ゼロのままホルムズ海峡封鎖などということが起きたら、これはとんでもないリスクです。原油価格の急騰が起こるし、液化天然ガス(LNG)も中東、とりわけカタールやアラブ首長国連邦(UAE)にかなり依存していますから。私は、このリスクに日本政府は準備をしていないと思っています。
 一番の準備は原発の再稼働を早めることであって、確かに新規制基準をしっかりと通過しないものは再稼働しない、という方針も理解できないことはない。それはそうですが、ドイツなどは基本的にストレステスト(耐性検査)を稼働させながらやっています。全てを止めてしまい、再稼働の条件を新基準への適合としているのは、日本以外には世界で一つもありません。より安全にしなければいけないのは全くその通りですが、安全性を向上させた原発は動かし、走りながらさらに安全性を高めていくという方向で動かないと、この大きなリスクに対応できないのではないかという気がします。
 2011年3月11日の東日本大震災。これは1000年に1度といわれていますが、イラン危機は1000年に1度よりもはるかに発生の可能性があるので、「想定外」といって逃げられない。想定をして対策をしておかないと、とんでもないことになる準備をするのは日本政府の重大な責任です。でも、どうも考えていないとしか思えない。
 外交を懸命にやることはいいですが、それは中長期の課題です。短期的に考えて、一体どういう事態が起きて、何を準備しておけばリスクを最小限にすることができるかについての発想をしておかないといけない。これが短期のまずリスクですね。
*「日本経済への中長期的なリスクと米国のシェール革命」
 それから原発のない中長期なリスク、これはすでに表れていますが、発電コストが非常に高くなるわけです。再生可能エネルギーを急いで導入するにしても、さらにLNGを買ってくるといったって、今後、コストは高くなりますから、それで日本経済が本当に原発なしでやっていけるかという問題です。
 このとき考えなければいけないのは、現在、エネルギーの世界で起こっているシェールガス、シェールオイルの革命、いわゆる「シェール革命」です。米国は幸いにもこの新しい技術開発によって、ガスはすでに世界一の産出国となり、原油もそのうちに世界一の産出国になる。そうなると、カナダと一緒にして考えると、米国はエネルギー分野の自立を完成できるわけです。米国の歴代大統領が昔から繰り返し、政治的宣言として言っていますが、それが本当に実現することになる。
 そうなると米国は非常に強い立場になります。ホルムズ海峡の問題にしても、中東からエネルギー資源を買わなくてもいいという状態になれば、イラン危機で困る国である中国や日本、インドだとかアジアの国々に対して「あなた方はどうするつもりか」と言ってくる可能性がある。米国の軍隊が中東から全ていなくなることはないとしても、そのコストを負担しろという議論が必ず出てきます。
 それから米国の産業競争力が安いガスのおかげで高まり、海外に出ていた化学産業などがどんどんアメリカに戻っていますし、安い電力を使って製造業が回帰しています。日本は、中国を意識した産業政策を行ってきましたが、今後は米国を意識した産業政策も考えないといけない。TPP(環太平洋パートナーシップ協定)で農産物がいっぱい入ってくると心配していますが、製造業の競争がむしろ激しくなってくる可能性も検討しておかなければならない。
 IEAの推計を見ても、今後、しばらくすると日本の電気料金は米国の2倍になります。そういう状況で我が国の産業、企業がずっと日本にいてくれますか。そう展望すると、中長期的な原発のないリスクは、産業の競争力を害するという意味で極めて大きいといえる。それも考えたうえで、将来の日本のエネルギー戦略を決めていかなければならない。原発のないリスクも決して小さくない。というよりも、非常に大きいととらえる視点を失ってはならないといえます。原発を持っているリスク、これは確かに安全の問題、放射能の問題などがあるので、それを含めてどのように考えるかについて将来の道筋を決めていかなければならないと思います。
*「グローバルな視点から見た日本の原子力技術の役割」
 もうひとつは、長期の原子力問題ですが、原発は経済的な電力供給手段といえますが、それ以外にもやはり原子力技術を持っているというのはいろいろな意味があります。地政学的な意味とか、その技術力を活用していろんな可能性が広がる。別に核兵器をつくる必要はありませんが。日本は原子力の平和利用に徹してきた国ですから、米国が心配しているのは日本が平和利用を継続し、かつ核不拡散において米国と協力しながら技術を保持するというところにあります。
 技術を持っていないとこれから中国にしてもインド、韓国、ロシアにしても、みんな原発を使うわけですから、安全にそれをやってもらうためには日本が高い技術を持ち、安全に配慮した形で対応してもらわなくてはいけない。プラントを輸出してあとは知らないよ、ということはありえないので、日本は技術をさらに高めつつ、それを兵器に転用しないようにきちんと監視していくことを米国と協力しながら進める、これが日本の責務だと思います。
 そういった意味でも、国際的にみて原子力分野における日本の国際貢献が大変、重要だという面がある。実は去年の今ごろ、米国のジョセフ・ナイ元国防次官補とリチャード・アーミテージ元国務副長官がCSIS(戦略国際問題研究所)で非常に厳しい対日レポートを出して、「原子力開発を止めてしまう日本は本当に一流国であることを辞めるのか」と主張しました。将来、日本の原子力を含めた技術開発に対する世界的な信頼を傷つけてしまうことにもなるので、日本は覚悟を決めて原子力開発を保持していく選択をしていかなければならないと考えます。
 これまで、日本では原発は安くて安全なエネルギー源とされてきた。リスクについて、一種のタブー視をして説明してこなかった。それは電力会社、経済産業省および政治の責任ですけれども。福島事故以降はきちんと説明をしないといけないことがはっきりしたので、逆に言えば原発がないリクスも十分に説明して、国民の理解を得て、覚悟を持って進める決断を迫られていると思います。原発を動かすための説明をしないのは楽なのですが、それをしないと先に進めなくなったということです。まだ政治にしても役所にしても、その部分を国民に十分説明していないし、判断も求めていないと思います。
 どうやってやるか、難しい対応だと思います。安全に対する信頼を裏切ったわけですから、すごく大変ですけれども、やはりグローバルな観点から考えて、覚悟を国民に求める必要があるのではないかと思います。
  略歴  田中伸男(たなか のぶお)
 1950年生まれ、神奈川県出身。東大経済学部卒。
 1973年、旧通商産業省(現経済産業省)入省。通商政策局総務課長、経済協力開発機構(OECD)科学技術産業局長などを経て、2007年9月、欧州出身者以外で初めて国際エネルギー機関(IEA、本部・パリ)の事務局長に就任。2011年8月に退任し、現在、日本エネルギー経済研究所特別顧問。著書に「『油断』への警鐘」(エネルギーフォーラム刊)。
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2013.09.03【オピニオン02】 田中伸男(前IEA事務局長/日本エネルギー経済研究所特別顧問)
日本のエネルギー安全保障を考える(下)
原発再稼動はアベノミクスの“第4の矢”である
 昨年9月、独立機関として発足した原子力規制委員会の対応に様々な意見が寄せられていますが、「独立」と「孤立」は全く違います。海外からも規制機関として独立はしていなければならないけれども、他人の言うことを聞かないというのはおかしいという批判が寄せられます。それは、是非改めていただき、色々な観点からの意見を聞くようにしてもらうべきだと思います。その上で、どう判断するかは、それはそれで独立した機関の仕事。安全性の観点から議論する場ですから、経済や外交、安全保障などといった安全性以外の問題まで広く考えて判断すべきだ、といっても正直言って難しいでしょう。
 そこは、政治の役割です。原発の再稼動を認めるにしても、誰が責任を持つかといえばそれは政治であり、政治が責任ある議論をしっかり行って、国民を説得する必要があります。全て規制委に丸投げして、そこが了承すればそれでいいというのでは責任放棄ではないでしょうか。
*「活断層問題への対応には無理がある」
 ただし、世界一厳しい基準を適用するという方針は、それはそれとしてわかりますが、いわゆる「活断層問題」についていえば、「(事業者に)活断層でないことを100%証明せよ」といっても、これは非常に難しい話です。科学的に考えても、理学の世界と工学の世界で随分と考え方が違うはずですし、工学的に可能なことをコストと相談しながら決めていくのが、モノを造るときの原則。科学的に活断層がないことを完全に証明しろというのは、そもそも最初から無理な話ではないかという気がします。確かに現在の基準では、活断層のあるところに原発は造れないのですが、高速道路や鉄道、橋、トンネルとか、いくらでも活断層をまたいで造られているわけなので、心配するとなると他にも山ほどあるはずです。
 原発については、十分な安全を考えなければならないのはわかりますが、あまり細かい基準を仕様中心で決めていくと、それを守れば安全だ、という「規制の罠」みたいな話にはまる可能性があり、いままでそういう傾向があったと指摘されていますね。仕様にこだわるあまり、実効性に目が向かない危惧があります。ある一定のターゲットとする安全レベルを達成する道は色々な方法があると思うので、それはむしろ事業者サイドに任せて、どういった形で実現していくのか、それぞれが置かれた場所や経験、創意工夫で判断していったほうが、より合理的な規制につながる。これがアメリカ型といわれる規制で、そうした点を日本も学ばなければいけないのではないですか。あまり個別の問題に入り込んで、大切な視点を見落としては元も子もない。
 この点では海外にも疑問を抱いている人たちがいます。私も米国のマンスフィールド財団がやっているグループの会合に参加したのですが、世界の専門家の話を聞いてみると、「日本の新しい規制機関がどのように判断するかは世界全体に大きな影響を及ぼすので慎重に考えて欲しい」という声が多く寄せられました。世界一厳しい基準はわかりますが、世界の常識とあまりにもかけ離れた対応になると他国と問題を起こす可能性が無きにしもあらず。どうすれば工学的に最も安全か、世界にいろんなルールがあるわけですから、それを参考にしながら一番いいものを作ったらいいのでは。ただ闇雲に厳しくすればいいということでは必ずしもないでしょう。
*「電気料金再値上げの可能性あり、政治的判断こそ欠かせない」
 さらに、新規制基準の通過を再稼働の条件にするというのは、本当はおかしい。もう新しい基準ができてしまいましたから、今ごろ言ってもしょうがないのですが、再稼動の話というのは本来なら新基準ができるまではもとの安全基準で判断して、再稼働は再稼働として進めていくべきだった。それをしないで放置しておいて、新しいルール、全てそれ待ちとしていたのは、行政の怠慢だと思います。
 それについて行政を相手に訴訟を起こさなかった電力会社の無策でもある。そうした訴訟などでもっとはっきりさせるべきだったという気もします。ですから、日本はいつから超法規的なことをする国になってしまったのか。リーガルマインドで動かすべきものは動かす、止めるべきものは止めるっていうふうにしなかったのか。はっきりしたルールがあるところでは、そのルールに従うべきだったという気がします。
 いずれにしても、安全の問題について配慮することは当然必要なのでしょうが、さらに時間をかけて、いろんな方々の議論を聞いた上で具体的、合理的に決めていく時間的余裕はないと感じます。このまま日本の原発を再稼働しないでいると年間4兆円ものコストが余計にかかり、さらに電気料金を大幅引き上げせざるを得ない。かつ、メンテナンスのために1兆円を超えるお金がかかるといわれており、とてもじゃないけどアベノミクスで金融、財政を懸命に刺激し、成長戦略を実行しても、日本経済が回らないと思います。ですから、私は原発の再稼働は「第4の矢」ではないかという気がしていて、この矢を一緒に射らないと成長戦略と言っても、みんな産油国、産ガス国に国富を垂れ流すことになりませんか、といいたいですね。そのぐらい真剣に再稼働の問題を政治家は考えるべきだと思います。
 それをやらないでみんな規制委に丸投げするのは危ない。そこまで規制委に考えろと言っても無理です。これは政治がきちんと判断すべき問題。動かす、止めるという両方のリスクを見ながら、止めておくことによる大きなリスクを考えながら進めないといけないのではないですか。
*「地球儀的に見た日本の原子力技術の貢献を考えよ」
 世界の動きに目を向けたときに、日本、米国など先進国の立場とは別に、経済成長による国民生活の向上を目指そうと、新興国、発展途上国、さらに言えば貧しく、現在は電気もない生活を余儀なくされているアフリカの一部の国々などの事情も無視できない。今後の世界人口増加といった問題も考慮した場合、国際的なエネルギー戦略、同時に地球環境問題への対応が求められています。
 こうした地球儀的な視点で考えると、安くて安定的で温室効果ガスを出さないエネルギー源を、これから途上国中心に大量に使っていかなくてはいけない。もちろん化石燃料も使うのですが、石炭はかなりの埋蔵量がありますがCO2を多く出すので問題があり、原油価格は今後、かなり高くなっていくでしょう。ガスは使い勝手がいいですが、これだってずっとあるわけではありません。将来のことを考えると、できるだけ化石燃料依存度を下げていかなければならない。
 一つは、再生可能エネルギーですね。これは技術開発が進んでいますが、まだまだコストがかかります。これを上手く使って途上国でやるときには、大きな電源としてではなくて、むしろ分散型の小型電源として再エネを活用するべきです。そうすると送電網が小さくて済みますから。これが一つの答えです。
 ただし、産業をこれから伸ばさなくてはいけない新興国、発展途上国、特に東南アジアとか中国、インドでは大きなエネルギー源が必要となるので、その場合には原発が使われていくでしょう。そういう地域で原発を活用するときに、安全に使ってもらわなければいけません。その要請に対する日本の貢献ですね。福島事故を経て、それでも日本から原発を買いたいというベトナムとかトルコ、リトアニアなどがあります。そういう国が存在することは、日本の技術の安全性とか、運用能力などに対する評価があるわけで、貢献する方法としては現在の軽水炉利用も当然あり得ると思いますね。
*「新しい技術にも積極的に目を向けて」
 さらに一歩進んだエネルギー源として、軽水炉の使用済み燃料はゴミではなくて燃料でもあるわけですから、プルトニウムとか燃えなかったウランを取り出して、燃料にする高速炉の世界がある。この次世代型原子炉の世界を、日本はリーダーの1国として開発を進めるべきだと思います。米国のようにしばらくは、シェールガス、シェールオイル、石炭もあるので、40〜50年間程度は使用済み燃料を保管しておけばいいと考える人たちもいますが、そうじゃない国もある。つまり、もっと早く使用済み燃料を有効活用したいと考えている国もあります。中国やインドはそういう発想ですね。
 「プルトニウムエコノミー」という言葉がありますが、そちらに向かって走っているわけです。日本とか欧州、韓国もそうですが、これらの国は軽水炉で燃やしたために、使用済み燃料を持っていて、よく言われる原発批判ですけど、放置したら「トイレ無きマンション」になってしまう。これを解決する方法として、やはり使用済み燃料の再処理と高速炉の開発・利用は、どうしても原子力を利用するには必要な技術です。
 日本もこの核燃料サイクル路線を進めてきた。青森県・六ヶ所村の再処理工場は今年5月にガラス固化試験を完了し技術開発に成功しましたが、高速増殖原型炉「もんじゅ」(福井県敦賀市)は上手くいっていないですね。従ってこれに変わるか、これを補完する新しい燃料サイクルメカニズムが必要だと思います。その答えはある程度あります。技術開発を進めた米国でインテグラル・ファースト・リアクター(IFR)と呼ばれます。統合型高速炉といって、再処理と原子炉が同じ施設の中にあるメカニズム。そうするとプルトニウムが外に出てきませんから、処理した燃料を運ぶ必要がないのでテロ対策上も非常に強い。
 米国のアルゴンヌ国立研究所で開発され、1960年代に使われた原子炉で、その後も研究が続いています。どうして続いているかというと、使用済み燃料の処理のための技術としてこれがいいと考えられていて、スリーマイル島原発事故(1979年)で溶けた核燃料もこの技術を使って処理しているそうです。従って、福島事故の処理もこの技術を使えば対応可能といえます。
*「新たなパラダイムも含め、前進する道を政治決断するとき」
 かつ燃やし方が高速炉なので、今、軽水炉ではものの1%しか燃えるものを燃やせていませんが、残りの99%も燃やせるので、ほぼ無尽蔵なエネルギー源を手に入れられる。ナトリウムを使う高速炉ですから、「もんじゅ」と似たタイプですし、「もんじゅ」もその実験用として使える。燃料は酸化物燃料ではなくて金属燃料なので少し違いますが、金属燃料とナトリウムの熱伝導率の関係で非常に安全な原子炉だといわれ、全電源が失われても自動的に止まるそうです。
 もう一つの特徴は、使用済み燃料から燃えるものはみんな使ってしまうので、高レベル放射性廃棄物が非常に処理し易くなる。放射能が早く無くなっていくということで、今の軽水炉の使用済み燃料及びそこから出てくる高レベル廃棄物はその処理をして、天然ウラン並みに放射能が下がるのに10万年かかると言われていますが、この原子炉でやると300年とされています。300年となると、地層処分というよりはむしろ管理していてもそれなりに影響が無くなっていくレベルに入っていきますので、現在の核燃料サイクル路線とは違うパラダイムですが、それを補完するためには非常にいい技術だと思います。
 米国のエネルギー省もこれを進めようとしてきたのですが、今のところ高速炉路線を採っていないので、取敢えず凍結されていますが。今これをやりたがっているのは韓国です。韓国も使用済み燃料が溜まっている状態なので、米韓原子力協定を改定して、この再処理をやらせろ、日本が再処理をやっているのにどうして我々には認めないのだという議論を米韓でしていますね。これは地政学的に難しい決断なので、まだイエスが出ていませんが、韓国はどうしてもやろうとしている。
 米国が原子力のパートナーとして、もし日本が原発から撤退すると韓国と組む可能性があります。その時アジアの地政学的バランスは大きく変わってしまうでしょう。私は、日本が韓国とも協力して米国と共同で新しい高速炉の開発をやったらいいじゃないかと考えています。こうした原子力開発、新しい科学の世界は極めて大きな夢のある技術なので、そこに人材を積極的に集めていくべきです。
 本来なら、そういうところまで議論を進めていかなければならないのですが、現在の日本は本質的な取り組みの前で止まっている。もっと将来に向けて、いっぱいやること、日本が考えるべきことはあるので、そういう議論をしなければいけないと痛感しています。日本が福島事故後どうやって立直るかについては、世界中から注目されているわけです。なのに、前段階で、ぐるぐる同じところを回っているだけ。これでは展望は開けない。世界で起きている状況を良く認識し、日本がどういう対応をすると、日本のエネルギー安全保障に役立ち、エネルギー分野で世界に貢献できるかを真剣に考えるべきではないかと思います。安倍政権が3年間は安定運営できるなら、なおさらのこと、今こそこういった議論を前進していくべきではないでしょうか。
 ◎上記事の著作権は[日本エネルギー会議]に帰属します *強調(太字・着色)は来栖 
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『アメリカの新・中国戦略を知らない日本人』日高義樹著 PHP研究所 2013年2月27日第1版第1刷発行 2013-02-28 | 本/(演劇) 
  (抜粋)
p113〜
  日本が輸入している石油のほとんどは、ペルシャ湾からインド洋を経由してマラッカ海峡を通り、東シナ海を経て日本に運ばれてくる。このルートを防衛するための司令部を横須賀に集中することは、当然といえば当然である。
p168〜
第5部 アメリカは中東石油を必要としない
 アメリカが中東の石油を必要としなくなる。これはまさに歴史的な出来事と言える。その理由はいくつかあるが、最大の理由は、これからアメリカの石油の産出高が増えること、やがてアメリカがサウジアラビアを超える最大の石油産出国になろうとしていることである。
  第2の理由は、周辺の国々のメキシコ、カナダ、コロンビア、ベネズエラが産出する石油が増え、アメリカ国内の産出高の不足を補えるようになっていることである。
  第3の理由は、すでに述べたように天然ガスと原子力発電によるエネルギーの産出が増え、エネルギーの自給体制が確立しようとしているからだ。
p169〜
  中東の石油にまず手を出したアメリカの政治家は、フランクリン・ルーズベルト大統領だった。ルーズベルトはイギリスのチャーチルに対して、「イランをイギリスに与える代わりにサウジアラビアをアメリカのものにする」と主張し、話し合いをつけた。
  第2次世界大戦後はイランを牛耳るイギリスと、サウジアラビアを手にしたアメリカが中心となって、ソビエトとの冷戦が戦われた。その冷戦が終わったあとは、中東がアルカイダを含むイスラムの反米勢力との戦いの場となった。
p170〜
  ロシアはエジプトに触手を伸ばした。エジプトの人々は、ヨーロッパと並んで近代化を図ろうとした矢先、イギリスに騙され、植民地化されてしまったのに腹を立てていたが、第2次大戦では再びアメリカ、イギリス連合軍の手中に落ちてしまった。
  エジプトの青年将校たちがその後革命を行い、ソビエトとの同盟体制を強化したが、アメリカが入り込み、ソビエトを追っ払った。やがてイランが人民革命に成功し、パキスタンは独自の核兵器をつくり、アメリカによるイラク戦争、アフガニスタン戦争が始まり、現在に至っている。
  そうしたなかでサウジアラビアの石油帝国の位置は揺るがなかったが、油田そのものが古くなっている。日産100万バレルという巨大な油田を有するものの、サウジアラビア全体で1日1300万バレル以上を掘り出すことは不可能になっている。
  世界経済の拡大とともに石油産出国の立場が強くなり、OPECの操作で石油危機が起き、アメリカをはじめ世界が中東の石油カルテルに振り回されてきたが、その状況が終わろうとしている。しかし中国やインド、日本が依然として中東の石油を必要としているため、アメリカの中東離れによって、さらに複雑な国際情勢が描き出されようとしている。
  はっきりしているのは、中東の石油を必要としなくなった結果、世界の軍事的安定の要になっているアメリカが、中東から軍事力を引き揚げようとしていることだ。
p171〜
  アメリカは2014年、アフガニスタンから戦闘部隊をほぼ全て引き揚げることにしている。すでにイラクからは戦闘部隊を引き揚げており、このまま事態が進めば、中東におけるアメリカの軍事的支配が終わってしまう。
p172〜
  アメリカは、優れた衛星システムと長距離攻撃能力、世界規模の通信体制を保持している。アメリカが強大な軍事力を維持する世界的な軍事大国であることに変わりはない。
p173〜
  だが中東からアメリカ軍が全て引き揚げるということは、地政学的な大変化をもたらす。
  アメリカ軍の撤退によって中東に力の真空状態がつくられれば、中国、日本、そしてヨーロッパの国々は独自の軍事力で中東における国家利益を追求しなくてはならなくなる。別の言葉でいえば、中東に混乱が起き、戦争の危険が強まる。
  日本は、中東で石油を獲得し、安全に持ち帰るための能力を持つ必要が出てくる。この能力というのは、アメリカの専門家がよく使う言葉であるが、軍事力と政治力である。簡単に軍事力と政治力というが、軍事力だけを取り上げてみても容易ならざる犠牲と経済力を必要とする。
  中東で石油を自由に買い求め、安全に運んでくるための軍事力を検討する場合、現在の世界では核兵器を除外することはできない。あらゆる先進国は、自国の利益のために軍事力を強化している。核戦争を引き起こさない範囲で自国の利益を守ろうとすれば、軍事力行使の極限として核兵器が必要になる。先進国が核兵器を保有しているのはそのためである。
  韓国や台湾、それにベトナム、シンガポールといった東南アジアの国々が、いわゆる世界の一流のプレーヤーと見なされないのは、軍事力行使の枠組みになる核兵器を保持していないからだ。日本は日米安保条約のもと、アメリカの核兵器に頼っている。
p174〜
  東南アジアの国々と立場は違うが、いまやその立場は不明確になりつつある。
  中国についても同じ原則が当てはまる。中国は軍事力を背景に、アメリカの力がなくなった中東で政治力を行使することが容易になる。いま世界でアメリカを除き、ロシア、インド、パキスタン、イランそしてヨーロッパの国々も中国とは軍事的に太刀打ちできなくなっている。
  中国が中東で好き勝手をやるようになり、石油を独占して日本やインドなどに損害を与えるようになった場合、日本はインド洋からマラッカ海峡、南シナ海から東シナ海を抜けて日本へ至るシーレーンを自らの軍事力で安全にしなければならない。この際、欠かせなくなってくるのが、やはりアメリカの協力であり、アメリカの決意なのである。(略)
 中東には、石油の問題だけでなく、核兵器を持とうとしているイランの問題がある。イランのアフマディネジャド大統領はユダヤ人国家イスラエルの存在を認めておらず、核兵器で壊滅させるという脅しをかけている。宗教的に対立するサウジアラビアに対しても軍事対決を迫る構えを崩していない。
p175〜
  石油大国サウジアラビアとイスラエルは世界経済を大きく動かしている。この両国がイスラム勢力によって消滅させられるようなことがあれば、第2次大戦以来、比較的安定して続いてきた世界は大混乱に陥る。
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集団的自衛権「機雷掃海」能力=抑止力 / ホルムズ海峡〜マラッカ海峡 南シナ海 死活的に重要なシーレーン 2014-06-18 | 政治〈領土/防衛/安全保障/憲法/歴史認識〉  
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