「イスラム国」の“首都”は今
NHK NEWS WEB WEB特集 2014年10月23日19時15分
別府正一郎支局長
イラクとシリアにまたがる地域を支配し、「国」を名乗る強大なイスラム過激派組織「イスラム国」。
アメリカなどが、イラクに加えてシリアにも空爆を拡大してから23日で1か月になりました。
その「イスラム国」が“首都”と呼んでいるシリア北部の都市ラッカ。
そこでは、今、何が起きているのか。
脱出してきた住民の証言や撮影した映像からは、過激派の勢いが依然衰えず、むしろ支配を強めている実態が浮かび上がってきました。
ドバイ支局の別府正一郎支局長が報告します。
命懸けの証言
謎に包まれた「イスラム国」の支配の実態を知ろうと、私たちはトルコ南部でラッカから脱出してきたばかりの住民たちに話を聞きました。
メディアの取材を受けていることが分かれば、自分だけでなく、ラッカに残る家族に危害が及ぶ危険があるとして、どの人も顔は撮影しないことになりました。
インタビューのあと、放送の際には声を変えてほしいと繰り返し頼む人もいました。
人々の恐怖がいかに大きいかを感じました。
ある女性の証言です。
「『イスラム国』は私に黒いベールの着用を強要した。男性と出歩くとすぐ拘束された。女性の生活を取り巻く状況は一変してしまった」。
宗教に基づく統治
街の様子を映した映像で目につくのは、ほぼすべての商店のシャッターに付けられた「イスラム国・公共サービス局」という丸い印です。
商店主たちは、税金や電気代と称して、毎月、日本円で3000円ほどを納めさせられていて、この丸い印は「イスラム国」に「納税」したことを示すものだということです。
「イスラム国」が独自に行政を進めていることがうかがえます。
しかし、その実態は近代的な国家とはかけ離れたものです。
この組織が町に掲げた看板には、「世俗国家は神に反する」と記されています。
世俗的な法律を否定し、極端な宗教の解釈に基づく支配を行っています。
“恐怖”と“脳”が支配する街
しかも、その支配に抵抗する者には過酷な弾圧が行われています。
街の広場の映像には、「イスラム国」の黒い旗がいくつも立っているのが見えます。
広場は公開の処刑場になり、意に沿わない人たちが殺害されているといいます。
その様子を何度も目撃したという24歳の男性の証言です。
「処刑に加えて、生きたまま3日間、はりつけにされ、さらされた人もいる。そうした光景は恐ろしく、次は自分の番になるのではないかと思うと恐ろしくなった」。
さらに、「イスラム国」が住民たちの心も巧妙にコントロールしようとしていることもうかがえます。
「イスラム国」が街に設置した巨大なモニターでは、毎晩、戦闘の様子や殺害した政府軍の兵士の映像などを流し、組織の力を誇示しています。
集まった人たちの中には、子どもたちの姿も目立ちます。
「イスラム国」は、子どもの心をつかむため、食べ物だけでなく金も与えているということで、成長した子どもを新たに戦闘員にしようともくろんでいるようです。
シリア空爆の効果は・・
アメリカのオバマ大統領が、「イスラム国」の壊滅を目指すとして、アメリカ軍を主体に中東のいくつかの国も加わってシリアで空爆を続けています。
しかし、住民が先週、ひそかに撮影したラッカの街の映像では、車から降りる戦闘員の姿や、バイクの後ろに乗る戦闘員の姿が映っています。
このうちの1人は自動小銃を持っています。
戦闘員たちは、依然、わがもの顔で行き交っているのです。
21歳の男性の証言です。
「空爆が始まってから、戦闘員たちは人々が暮らすアパートに紛れ込むようになっただけだ。『イスラム国』は、依然、街を完全に支配している」。
組織を弱体化できるのか?
取材を進めるうちに「イスラム国」の27歳の元戦闘員から話を聞くことができました。
ことし7月に、上官と仲たがいして組織を離れ、トルコに逃れてきたということです。
ラッカで行われている残虐な処刑についての証言です。
「戦闘員には、軍事訓練を通じて過激な思想が刷り込まれている。『処刑をすれば神に近づける』と教え込まれた。ときには、上官から『神に近づくための褒美だ』として、10人の処刑を任されることもあった」。
私が、「空爆によって組織は弱体化されると思うか」と尋ねると、「戦闘員が住民に紛れ込むなか、軍事拠点だけを狙った空爆で組織を壊滅することはできない」と、この元戦闘員は断言しました。
そして、この元戦闘員は次のように話しました。
「戦闘員たちのただ1つの夢は戦場で殉教することだ.『イスラム国』の結成当初なら空爆で潰せたかもしれないが、今は地上戦しかない。それでも2、3年はかかる」。
「命を落とすことが本望だ」という過激な思想に染まった「イスラム国」の戦闘員たち。
空爆の効果も依然見えないなか、その支配を着実に広げているのが現状です。
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