安倍すり寄り外交が負の連鎖を呼ぶ
田中 良紹 | ジャーナリスト
2014年11月10日 19時49分
およそ3年ぶりに日中首脳会談が実現した。野田民主党政権が尖閣諸島の国有化を宣言した事に始まる日中の衝突は、この会談によってようやく「関係改善の第一歩を踏み出した」かのようである。
隣国の首脳同士が話し合う事も出来ないという異常事態は、一日も早く改善される事が望ましく、その意味では喜ばしい事には違いない。しかし会談にこぎつけるまでの経緯を見ると手放しで喜ぶ訳にもいかない。安倍政権のすり寄り外交が世界中から足元を見られる結果を生みだしているように見える。
日中の衝突は民主党政権時代に作りだされた。2010年に中国の漁船が違法操業を取り締まろうとした海上保安庁の巡視船に衝突し、船長が公務執行妨害罪で逮捕された。それまでの自民党時代には違法行為をした中国人を追い出す事はしても日本の国内法で逮捕した事はない。中国は猛反発して報復的な対応、すなわち中国にいる日本人の逮捕とレアアースの対日輸出禁止措置を取った。
続いて2012年に石原慎太郎東京都知事が何故かアメリカのシンクタンクで尖閣諸島を東京都が購入する計画を打ち上げる。それまで日中間には尖閣問題を棚上げにするという暗黙の了解があり、無人島の現状を変更しないできたが、石原氏の計画はそれを覆すものである。そのため野田政権は尖閣を国有化する事で現状維持を図ろうとしたが、これが中国の反日運動を盛り上げ、中国公船の領海侵犯が常態化した。
尖閣周辺が一触即発の危機に陥る中、日本は「戦後レジームからの脱却」を掲げ、中国や韓国の歴史認識と真っ向から対決する安倍自民党に政権交代した。それが中国、韓国との首脳会談の途絶を生む。それは東アジアを不安定化させると同時に、安倍政権のアメリカ一辺倒すり寄り外交を促進させた。
冷戦後に世界を一極支配しようとしたアメリカは、しかし中東で軍事的な泥沼に陥り、経済はリーマン・ショックで破綻した。一極支配どころか軍事的な肩代わりと経済再生の協力を「なんでも言う事を聞く」日本に求めざるを得なくなる。すり寄り外交の安倍政権はアメリカにとって好都合であった。
日中の衝突を奇貨としてアメリカは日本に新型兵器を買わせ、集団的自衛権の行使を認めさせ、米軍の指揮下で自衛隊を利用できる道を拓く。また金融緩和によって格差を拡大させながら経済成長を図るアメリカのやり方を日本に導入させ、マネーゲーム資本主義に日本を取り込んでその富の収奪を狙う。
アメリカを頼るしかない安倍政権はアメリカの要求に易々と従う。しかしアメリカが日本の味方かといえば決してそうではない。アメリカは「なんでも言う事を聞く国」など全く評価しない。自分に刃向ってくる敵は叩くが、叩いてもなお刃向ってくる敵は評価する。それがアメリカである。
昔、アメリカが日本叩きをしていた頃、挑戦者としての日本にアメリカは一目置いていた。しかし日本が敵でなくなれば日本を無視する。アメリカは現在台頭する中国を叩いているが、それは敵としての中国を評価している証拠でもある。そして評価する国とは手を組むことがあり得る。それを分かっているから中国はアメリカに手を組もうと働きかける。
そしてアメリカは安倍総理の歴史認識を問題視している。敗戦国には戦争の反省をきっちりさせなければならないと考えている。そのアメリカは日本に戦争の肩代わりは要求するが、日本の戦争にアメリカが巻き込まれたくはない。
だからアメリカは安倍政権に日中首脳会談の実現を働きかけてきた。そのため福田元総理をはじめ何人もが北京詣でを行った。足元を見た中国は、尖閣だけでなく小笠原にまで漁船と称する大船団を差し向け、自力で排除する力のない日本が中国政府に取り締まりを頼むよう仕向けてきた。
そして日中首脳会談は安倍総理が北京入りした後もぎりぎりまで決まらなかった。その対応はあのオバマ大統領が国賓で来日した時とよく似ている。あの時もアメリカ側はスケジュールを最後まで決めなかった。すり寄って来る者には最後までじらせて優位に立たせない。当たり前の話である。
また中国は日中首脳会談の前に韓国との自由貿易協定締結を発表し、日中韓の貿易交渉では中韓が協力する姿勢を見せた。さらに中国はロシアと戦後70周年にあたる来年、日本を敵とした記念行事を共催する事で合意した。歴史認識の異なる安倍総理を念頭に、プーチン大統領にすり寄る安倍総理への牽制である。
そしてこの時期に北朝鮮は拘束していたアメリカ人2名を解放した。裏で中国の働きかけがあったという。オバマ大統領は国家情報長官を北朝鮮に差し向け、金正恩第一書記に書簡を託した。国家情報長官はCIAなどアメリカの諜報機関すべてを統括する極めて重要な人物である。その人物が訪朝した事、そして中国がアメリカ人の解放を助けた事は注目に値する。
これで何かがすぐ変わるという事ではないが、こうした交渉事の一つ一つが世界の動きを変える要素になる。これらの動きを見る時、拉致問題で北朝鮮に足元を見られた日本外交が世界の動きの埒外に置かれているような気がしてくる。何が日本の国益か、それを長いスパンで考え、強い者にすり寄るのではなく、敵をどれだけ利用するかという戦略的思考に立たないと、日本外交は負の連鎖に陥るのではないかと思ってしまう。
<筆者プロフィール>
田中 良紹
ジャーナリスト 「1969年TBS入社。ドキュメンタリー・ディレクターや放送記者としてロッキード事件、日米摩擦、自民党などを取材。89年 米国の政治専門テレビ局C-SPANの配給権を取得し(株)シー・ネットを設立。日本に米国議会情報を紹介しながら国会の映像公開を提案。98年からCS放送で「国会TV」を放送。07年退職し現在はブログを執筆しながら政治塾を主宰」
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