徹底した反腐敗運動、習主席の真意はどこに?
2014.12.10(水)Financial Times
(2014年12月9日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
中国の国営メディアは周永康氏の失脚を称賛し、これを「中国の特色ある社会主義法治」と、習近平国家主席が2年前に政権を握ってから最重要課題として推進してきた反腐敗運動の勝利だと形容している。
周永康氏は、1949年の中華人民共和国建国以降に正式な汚職容疑をかけられる人物の中では最も上位の共産党幹部となる。
中国の公安機関(裁判所、裁判官、警察、秘密警察を包含する機関)のトップとして恐れられていた周氏は、国家機密の漏洩、収賄および姦淫の罪を犯したとされている。これらの「規律違反」を理由に共産党の党籍も剥奪されており、今後はかつて自身が支配していた裁判所で刑事訴訟に直面することになる。
反腐敗運動では、これまでに25万人を超える共産党員が逮捕されたり処分を受けたりしている。ここには閣僚級かそれ以上の地位にある人物もざっと50人含まれている。
■クリーンな政府の永続的なモデルか、ただの政治権力闘争の兵器か
しかし、これが一党独裁国家におけるクリーンな政府の永続的なモデルなのか、それとも今回の反腐敗運動は結局のところ政治権力闘争の兵器にすぎないのではないか、という疑問が残る。
権力闘争の兵器にすぎないという見方を裏付ける裁判が先月、中国南部の都市・広州で始まった。
この事件では、政治運動家の郭飛雄氏と孫徳勝氏が、中国の政治指導者たちに個人資産の公開を求める小規模な街頭デモを行った後、「群衆を集め公共の秩序を乱した」との容疑をかけられた。同じ要求をしたほかの活動家十数人は、同様な罪で複数年の懲役刑をすでに言い渡されている。
自らの政治的地位を脅かす恐れのある人物を反腐敗運動を使ってパージし、自らに忠実な人物をその後釜に据えるというのは、中国では昔からある伝統的なやり方だ。胡錦濤氏や江沢民氏、小平氏といった習近平氏の前任者たちも、全員この手法を用いていた。
しかし今回のパージは、これまでのどのパージよりも踏み込んだ徹底的なものであり、期間も長い。そのため中国国内には、ライバルを抹殺する政治戦術というよりは構造改革だと結論づける向きもある。
■急減する高級品の売り上げ
党内には恐怖心が渦巻いており、習近平氏が政権を取る前に見られた権力のささいな濫用はすっかり影をひそめているとの声は、共産党のどのレベルの党員からも聞こえてくる。この現象を最も如実に示しているのが、高級品の売れ行きの急減だ。高級品を手がける企業は、外資系と国内系の別を問わず打撃を被っている。
例えば、口にするとヒリヒリする茅台酒(マオタイ酒)。公式の晩餐会で飲まれたり、共産党幹部にちょっとした袖の下を渡すときに好んで使われたりする蒸留酒だが、その価格は反腐敗運動が始まってから60%下落している。
また、高級ブランド品メーカーのLVMHモエヘネシー・ルイヴィトンは10月、最高級のコニャックやハンドバッグ、腕時計の売上高が落ち込んだ一因に、中国の反腐敗運動と財政緊縮策を挙げていた。
西側の観測筋、特に財界人の間では、習近平氏は大々的な経済改革を実行するために、反腐敗運動を利用して自らの権力を強化しているとの見方が広まっている。
確かに、経済が混乱すれば共産党支配が揺らぎかねないことを、習近平氏は明らかに認識している。そして、そういう事態にならないように中国の経済成長モデルを調整する準備をしている。
しかし、経済改革のために権力を強化するのではなく、習氏と共産党の権力強化に役立つ手段として限定的な経済改革を行っているというのが本当である可能性の方が、はるかに高いように思われる。
■一党独裁国家の弱点
「総じて言えば、彼らは神経質になっていて、自信がない。一党独裁国家が(世界の)トレンドから見れば例外であることを、彼らは承知している」。香港バプティスト大学行政・国際関係学部のジャン・ピエール・カベスタン学部長はこう指摘する。
「一党独裁国家の弱点の1つは、チェック・アンド・バランスの仕組みがないことだ・・・周永康がかなりの数の罪を免れてきたことは明白だ。あんなものはコントロールできない」
先週発表されたトランスペアレンシー・インターナショナルの「腐敗認識指数」の結果は、反腐敗運動がまだ望まれた成果を出していないことを示唆している。中国は2013年に80番目に汚職の少ない国(調査対象は全175カ国・地域)だったが、今年は100番目に順位を落とした。
この腐敗認識の劇的な悪化は、パージを盛んに強調する国営メディアの執拗な見出しが原因かもしれない。だが、反腐敗運動が実行された選別的で不透明なやり方と、この運動は本質的には習氏個人の権限を強化することを狙った政治運動だという、なかなか消えない疑念を反映している可能性もある。
■腐敗はなくならず、むしろ賄賂が高額に?
アナリストらは、汚職疑惑で個人名を特定された数百人の党関係者のうち、中国で「太子党」と呼ばれる党幹部の子供は1人もいないと指摘する。汚職に関与していることを認める人たちでさえ、最新の取り組みはうまくいっていないと話している。
北京に本拠を構える裕福な不動産デベロッパーで、匿名を条件としたある人物は本紙(英フィナンシャル・タイムズ)に、反腐敗運動のせいで不正を働く党関係者に賄賂を贈るコストが高くなったため、逆に商売の打撃になったと語った。
「私が相手にしている党関係者数人が、今ではリスクが高くなったため、割増金額にする必要があると言ってきた」と、この人物は話している。
By Jamil Anderlini in Beijing
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