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Channel: 午後のアダージォ
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暴力装置と言われても 何としてでも国民を守りたいという技術者・関係各人の命がけの働き

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 国難の克服を日本再生につなげよ
 櫻井よしこ 『週刊新潮』2011年3月24日号 日本ルネッサンス第453回
 形容する言葉もない凄まじい災害を、どう受けとめればよいのか。考えられる限りの全面戦争でさえもこれほどの被害をもたらすことはないだろう。日本国民、古里の自然、日本の誇る技術に抗い難い力で襲いかかった3月11日の巨大地震。それは予想を遥かに超える津波と重なり、海岸沿いの町々を呑みこみ、或いは炎で焼き尽くした。暮しは破壊され、万単位の人々が犠牲になった。
 阪神淡路大震災を雄々しく乗り越えた日本人に再び突きつけられたこの苦難を、私たちは、日本人本来の気概と、決して諦めることのない忍耐と努力とによって、必ず、乗り越えていくだろう。しかし、私たちはこの東日本大震災を克服する過程を、いまやあらゆる意味で脆弱になり果てた日本国の立て直しにつなげなければならない。日本国を襲った国難と、国難克服のプロセスについてありとあらゆる側面から考え、国家の再生を果たさなければならない。
 巨大地震、津波、火災を生き延び、再会した人々の喜びの一方で、安否不明者への懸念は限りない。日本中が行方不明の人々の無事を祈り励まし合う中、世界の国々が日本援助に立ち上がった。
 オバマ大統領は「米国は深刻な試練に直面する日本国民を支援する用意ができている」と語り、ゲーツ国防長官は、「日本の全ての要望に応えよ」との指示を出し、空母「ロナルド・レーガン」を13日までに仙台市沖に派遣した。海上自衛隊と米海軍は共同で被災地への援助物資の補給を開始した。米海軍はまた、駆逐艦5隻と巡洋艦1隻を青森県から福島県沖に展開し、捜索、救難活動に当たっている。米国が動員した兵は少なくとも5,000人に上るとみられる。
 韓国、台湾、インド、他のアジア諸国もEU諸国も、驚くほど多数の国々が迅速に救援隊を派遣した。
 中国も外交及び軍事上の摩擦を超えて手を差しのべ、レスキュー隊員7名と医師1人を含む15名を派遣した。新華社はこの派遣を、中国が四川大地震に見舞われたとき、わが国が送った救援隊60人への「恩返し」として報じた。
暴力装置と言われても
 こうしてみると、同盟国としての米国の援助の手厚さが実感される。民主党首脳部が掲げる日米中正三角形論はここでは全く通用しない。
 自衛隊は陸自と海自を中心に、外国の救援隊以前に救出活動にとりかかっている。心ない民主党首脳に暴力装置だと言われても、事業仕分けで隊員数や予算を削られても、自衛隊が忍耐強く、責務を果たすことに変わりはない。
 菅直人首相は民主党が貶め続ける自衛隊員を3万人、5万人、10万人単位で被災地に送り込む。首相の心中に、自衛隊への感謝の念や危険な現場で必死の救援活動に携わる自衛隊員への労りの気持ちはあるのかと問わずにいられない。
 菅首相は、国民へのメッセージを連日、テレビカメラの前で語り続ける。心意気やよし。しかし、質問も受けずにさっと退場する一方的発言は一体何なのだろうか。12日の会見では「私も全身全霊、まさに命がけでこの仕事に取り組むことをお約束をして、私からの国民の皆様へのお願いとさせていただきます」とうっすらと涙目になりながら語った。が、文字どおり命がけなのは、まず被災地の人々だ。その人々を救おうとする自衛隊、或いは警察、消防隊、医師、地方自治体の職員らである。
 念入りに推敲されたメッセージを伝えることも大事だが、それだけでは首相の「命がけ」は伝わってこない。首相が語りかける国民は、実にしっかりした立派な人々である。その国民の目を、首相は真摯に怖れ、謙虚になってほしい。「国民」、「国家」、「命がけ」という言葉に真実性を吹き込んでほしいと願う。
 夥しい犠牲と被害の真っ只中にありながら、被災した国民は礼節を忘れない。自衛隊に救出されたお年寄りが「すみません、お世話になります」と丁寧に挨拶していた。食糧や水を求める人々はきちんと列に並ぶ。避難所に退避した人々も、目に見えない原発から放出された放射性物質の脅威に直面する人々も整然と行動する。物を盗んだり争ったりする人々は皆無に近い。こうした被災者の様子を、普段は日本を辛辣に批判する欧米メディアが驚嘆して報道した。12日付のウォール・ストリート・ジャーナル紙は「不屈の日本」として社説を掲げ、「日本の国民が最大級の地震に立派に耐えたことは素晴らしい」と国民を讃え、「この地震で自国を守った日本の力は近代国家の実績として見落としてはならない」と書いた。
 なぜ日本人はこんなに冷静に、他者への配慮にあふれた行動をとれるのかと外国メディアは問うが、「それは私たちが日本人だから」と答えるしかない。
日本国の真の再生
 だがこの数年、日本の国力は顕著に衰える一方だった。自民党政権末期の自己決定も出来ない日本は、民主党政権になって更に迷走し、漂流した。このままではわが国は沈没すると多くの人が思い始めた。民主党の抱える問題も次々に噴出し、国民が菅首相を見限り始めたとき、日本を襲ったのが巨大地震と津波だった。
 だからこそ、私たちはこの天災の克服を単なる菅政権の息の吹き返しにとどめてはならない。日本人らしさの復活や自衛隊の正しい位置づけも含めて、戦後日本の間違いを正し、日本国の真の再生につなげたいと思う。
 そう考えるとき、東京電力福島第一原子力発電所の事故の顛末が重要なメッセージを含んでいると思えてならない。周知のように東電福島原発の1号機から3号機まで、全てが最悪の事態に陥った。12日には1号機の、14日には3号機の建屋が爆発した。14日午後現在、2号機は爆発こそ起こしていないが、事態は極めて深刻だ。
 爆発すればチェルノブイリのように最悪の事態になる原子炉格納容器を守ろうと、東電は最大限の努力を継続中だ。チェルノブイリでは原子炉圧力容器が破壊され、全体が爆発して高濃度の放射能で凄まじい被害をまき起こした。それを避けるために、1号機、3号機に海水を注入し、炉心を冷却中だ。14日には2号機にも海水注入が始まった。
 原子炉の冷却に失敗したこと自体、東電のミスである。また状況は依然最悪であり続けている。しかし、予想をはるかに超えた津波に襲われ、それでも、万一、辛うじて原子炉爆発を回避出来るとしたら、それは技術力に加えて、何としてでも国民を守りたいという技術者及び関係各人の文字どおり命がけの努力の結果であろう。楽観は禁物だが、そうした誠心誠意の働きに徹する日本なら、未来はあると私は感ずるのだ。 ◆原発を私は「許容していた」。 原発を許容したのは、自分であり国民それ自体なのだという洞察2011-03-26 | 地震/原発
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