狙いは沖縄か?中国が新型ミサイル配備を開始
JB PRESS 2011.03.30(Wed) 阿部 純一
3月11日の東日本大震災と、その後の福島第一原発の事故で日本はまさに危機的状況下にある。原発から200キロメートル以上離れた首都圏でさえも、放射線量の情報に一喜一憂するありさまであり、まさにパニック寸前の状況と言っても過言ではない。
特に原発事故の影響は、放射能汚染にせよ電力供給不足にせよ、そう簡単に収束するような性質のものではない。それだけに今後の展開は予断を許さず、こうした状況が数カ月は続くとすれば、そのストレスは大変なものになる。
大震災以前、日本のマスコミの関心は中東・北アフリカの「ジャスミン革命」に向けられていた。大震災後も、情勢は動いている。ついにリビアでは、英仏米による軍事行動が発動され、カダフィ政権も最期を迎えようとしている。
しかし、バーレーンやシリアでは事態の不安定化が収まらず、さらに事態が広域化する懸念は拭えない。もし政情不安がペルシャ湾岸諸国に及べば、わが国はおろか、韓国、中国のエネルギー供給にも影響が出てくることは避けられない。まさに日本の安全保障にとって、内外から危機が迫っている。
こうしたスケールの大きな事態が急展開している中で、本来ならばもっと注目されてもよいニュースが小さく扱われてしまうのは、仕方がないとはいえ、残念である。
まさにサプライズだった中国の新型ミサイル配備
3月16日、台湾を代表する情報機関である国家安全局の蔡得勝局長が、台湾の立法院(国会に相当)の外交・国防委員会で国民党立法委員の質問に対して答弁し、中国が新型の「東風16」短距離弾道ミサイルを台湾に向けて配備し始めたことを明らかにした。
台湾の報道によれば、この東風16は射程800〜1000キロメートルで、従来配備されてきた「東風11」(射程300キロメートル)や「東風15」(射程600キロメートル)の派生型ではなく、まったくの新型で、破壊力も東風11、15を上回るという。
この突然の東風16の登場は、まさにサプライズである。中国軍事ウォッチャーで事前にこの情報を持っていた者はいないはずだ。
しかし、冷静に考えれば、東風16は東風15の射程と中距離弾道ミサイル・東風21の射程(約2000キロメートル)の隙間を埋めるものとして開発されたことは察しがつく。
東風16を「サプライズ」としたのは、それなりの理由がある。
繰り返しになるが、まず単純に東風16の開発についてほとんど情報がなかったということがある。2009年の軍事パレードには当然出てきていない。
中国はすでに短距離弾道ミサイルは大量に保有しており、中国本土から約200キロメートルしか離れていない台湾をターゲットにする限りにおいて、その射程から東風11、東風15で十分なはずである。新型の短距離弾道ミサイルを開発する必要性があるとは考えられなかった。
本当の狙いは台湾ではない?
では、なぜ中国は、より射程距離の長い東風16を開発したのか。考えられる理由は2つある。
1つは、より内陸部から台湾を攻撃する能力を持つことである。飛翔するミサイル弾頭は、飛距離が長くなればより落下スピードを増す。弾頭の落下スピードが速ければ速いほどミサイルの迎撃は難しくなる。
つまり、台湾が配備しようとしている「パトリオットPAC-3」でも迎撃が困難な状況をつくることである。いわば台湾の機先を制する意味を持つ。
もう1つは、東風16は台湾向けに開発されたのではなく、本当の狙いはおそらく沖縄だろうということである。
東風15でも、福建省の東部から発射すれば宮古島までカバーする。しかし、在日米軍が集中する沖縄本島には届かない。東風16の射程距離があれば、沖縄本島をターゲットに収めることができる。
蔡得勝局長は立法院での答弁の中で、東風16の性能や射程距離から見ても、台湾のみを対象としたものとは考えられない、という見方を示していた。沖縄が新たなミサイルのターゲットとなると想定すれば、合点がいく話である。
なぜ沖縄なのか。
中国が進めている「接近阻止(Anti-Access)」戦略については、これまで何度も触れてきたので繰り返さないが、中国がすでに配備を開始したとされる対艦弾道ミサイル「東風21D」によって米海軍空母の台湾への接近を阻止できるとしても、米軍には沖縄という「不沈空母」がある。
具体的に言えば、嘉手納空軍基地と普天間の海兵隊飛行場がそれに当たる。台湾海峡有事の際に、この両基地を叩く能力を確保することによって、沖縄の米軍のパワープロジェクションを阻止することが中国にとって重要になるからだ。
今や日本本土も中国ミサイルの脅威にさらされている
冷戦時代、中国にとって沖縄の米軍は大きな脅威であった。米軍は沖縄に、1954年から日本に施政権が返還された72年まで、核兵器を大量に配備して中国を威嚇していた。また、同時に台湾にも小規模ながら核搭載の「マタドール」巡航ミサイルも配備し、75年頃まで対中抑止力として運用してきた。
これに対し、なすすべがなかった中国は、この時期、懸命に国産の弾道ミサイル開発に取り組んでいた。64年に最初の核実験に成功し、66年には「東風2」準中距離弾道ミサイル、71年には「東風3」中距離弾道ミサイルの配備を開始し、米国に対抗できるようになった。
時代は変化し、米軍は依然としてこの地域に前方展開を続けてはいるが、現在は沖縄にも台湾にも、さらに韓国にも米軍の核兵器は存在していない。
形勢は逆転し、今や中国のミサイル戦力の脅威に、台湾、沖縄、そして韓国や日本本土がさらされている。
これまで米国は、中国の通常弾頭型中距離弾道ミサイル「東風21C」と「東海10」空中発射巡航ミサイルを主たる脅威と見なしてきた。東風21Cは約2000キロメートルの射程を持ち、東海10の射程は1500〜2000キロメートルとされ、その射程の中に韓国、日本の全土が収まる。
つまり、在韓米軍基地、在日米軍基地がことごとく中国のミサイルの射程内にあることを意味する。
量産可能な「東風16」を大量配備か
そこに東風16が中国の戦列に新たに加わることになる。沖縄にはすでにパトリオットPAC-3が配備されてはいるが、今後、東風16の増強次第では手に負えなくなるだろう。
すでに中国は、台湾に向けて東風11、15など1400基以上のミサイルを配備し、台湾のミサイル迎撃能力をはるかに超えた「飽和攻撃」が可能な態勢を敷いている。
中国が同様なことを沖縄にも仕掛けてくることをわれわれとしては想定しておくべきだろう。
まだ東風16の詳細が分からないので断定的なことは言えないが、中国はコスト面で大量配備が難しいと思われる東風21Cと比べ、量産が可能なミサイルとして東風16を開発した可能性が高い。
そうだとすれば、中国の東風16ミサイルに込めた戦略的意図は米軍を沖縄から追い出し、この地域の軍事的主導権を握ることにある。
中国が着実に「接近阻止」戦略の実効性を高めてきていることに警戒しなければならない。
〈筆者プロフィール〉
阿部 純一 Junichi Abe
霞山会 主席研究員、事務局次長。1952年埼玉県生まれ。上智大学外国語学部卒、同大学院国際関係論専攻博士前期課程修了。シカゴ大学、北京大学留学を経て、2006年から現職。専門は中国軍事・外交、東アジア安全保障。著書に『中国軍の本当の実力』(ビジネス社)『中国と東アジアの安全保障』(明徳出版)など。
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◆中国の漁業監視船、再び尖閣へ 中国は国内法で尖閣諸島や西沙・南沙島を中国領土だと主張2011-01-28 | 政治〈国防/安全保障/領土〉
田母神俊雄著『田母神国軍』
p29〜
▲尖閣諸島が中国に乗っ取られる 中国の謀略は始まっている
尖閣諸島をめぐっての中国の動きは活発化しています。
2004年3月、中国人の活動家7人が魚釣島に上陸し、沖縄県警が逮捕。
2008年12月には中国の海洋調査船2隻が、約9時間にわたって領海侵犯。
2010年4月、中国海軍の艦艇10隻が沖縄本島と宮古島の間の公海を南下し、中国艦の艦載ヘリが監視中の海上自衛隊の護衛艦に、2度も異常接近。
そして2010年9月7日、尖閣諸島の久場島から北北西約12キロメートルの日本領海内で、監視中だった海上保安庁の巡視船が、違法操業をしていた中国のトロール漁船に衝突されるという事件が起きました。
p30〜
中国は1992年にこっそりと制定した「領海法」という国内法で、尖閣諸島や西沙・南沙諸島を中国領土だと主張しており、中国国内に「尖閣諸島は中国の領土」という共通の認識をもたせることにはすでに成功したと言えます。
▲最初は中国政府の工作だとわからない
では、日本の領土である尖閣諸島が、実際に中国に占領されてしまうきっかけにはどのようなものがあるか。「漁船」衝突事件とは、別のやり口を考えてみます。
中国は、まずは漁船などを使って、中国人を島に上陸させることから始めると考えるのが妥当です。
もちろんそのとき、中国政府は一応、自国民の違法行為に対して、「遺憾である」という立場を取るはずです。公式に「遺憾」とは言わないまでも、「上陸はするなと押さえていたけれど、彼らが勝手に上陸してしまった」というような言い訳をするでしょう。
本当は中国政府が仕掛けているとしても、そんなことはおくびにも出しません。
中国という国は、何をするにしても、最初は誰がやったかわからないような形で仕掛けてきます。(略)
無断で日本領土である島に上陸されたのですから、日本は当然、上陸した中国人を強制的に排除しようとします。2004年のケースでも、沖縄県警が入管難民法違反の現行犯で上陸した中国人活動家7人を逮捕しています。
ここで忘れてはならないことは、漁船で中国人が上陸するというのは、すでに大きな乗っ取り戦略の1つだということです。
おそらく、上陸行動自体も段階的に行われるでしょう。まずは、漁船で島に近づいてきますが、海保の巡視船に注意されて、ひとまずあきらめて帰ります。
しかし、また少し時間をあけて、様子を見ながらもう1度近づいてくる。それを3、4回繰り返して、5回目ぐらいになるといよいよ上陸してくる。
上陸が始まってからも、中国は段階的に進めてくるでしょう。
p32〜
日本側は最初、警察当局が入管難民法違反の容疑で上陸した中国人たちを逮捕します。あるいは、最初は中国人のほうが無条件で撤退するかもしれません。しかし、2度目の上陸では、確実に逮捕者が出ます。
そして3度目の上陸では、より多くの中国人がやって来て、逮捕者も増えます。
それを何度か繰り返す中で、中国は漁民の中に兵士を紛れ込ませてくると考えられます。
すると、強制的に排除しようとする警察と、中国人たちとの間で小競り合いが起きるようになります。この小競り合いも何度か繰り返されるでしょう。
小競り合いが3日、あるいは1週間近くも続くようになってくると、中国が国を挙げて「中国人を保護しなければいけない」と乗り出してくるはずです。
▲危機に自衛隊が出動できない
では、このような事態に、日本政府と自衛隊に何ができるか見てみましょう。
2010年9月に防衛省がまとめた平成22年度防衛白書の「武装工作員などへの対処の基本的な考え方」という項目の中では、武装した工作員が日本国内で不法行為に及んだときに、第一義的に対処するのは警察機関だという考え方を示しています。
そして、警察機関が武装工作員への対応をとっているとき、自衛隊の任務は「状況の把握」であり、「自衛隊施設の警備強化」であり、「警察官の輸送」であるとしています。自衛隊員が警察を支援するわけです。
これが、とても馬鹿げたことであるのは子供でもわかると思います。諸外国とはまったく反対の構図で、何もしないと言っているのと同じです。
中国人が漁船で上陸してきた初期の段階なら、まだ、警察当局や海保庁で対応できるかもしれません。しかし、その人数が増え、中には兵士も混ざり、さらには最終的に「自国民を守る」という御旗の元に中国の軍艦がやってくるまでには、そう時間はかかりません。
「日本の領土に上陸しても、とくに武力行使されるわけでもないし、悪くて警察に捕まる程度か」という認識を中国に持たせれば、彼らは軽い気持ちで軍艦を出します。
問題は、中国人が漁船で上陸した初期の段階で、なぜ、自衛隊が出動できないのかということです。
p34〜
この段階で、日本政府が武力攻撃事態対処法に基づいて、防衛出動ができるかといえば、おそらくできません。つまり、自衛隊は動けない。日中関係を悪くしたくないと考える人たちから、「防衛出動を発令すると、中国を刺激してよろしくない」といういつものセリフが出て、そうこうしているうちにうやむやに終わってしまうのがオチです。
おそらく、中国の正規軍が侵攻してくるという事態にでもならない限り、日本政府は武力攻撃事態として認定しないでしょう。
では、諸外国ではこのような事態にどう対処しているのか。
そもそも諸外国では、まず防衛出動が発令されることはありません。防衛出動というものは、ただ軍に対して命令を与えるだけのものですが、他国ではエリアの担当司令官に、その対応が任されています。
例えば、あるエリアが他国から攻撃を受けた場合、当然、そのエリアの防衛を担当している司令官が対応することになります。有事の際には、司令官の判断で対応するというのが、普通の国のあり方です。事は突発的に起るものですから、もたもたしていたのでは時すでに遅し、ということになります。
日本でも国内の事件の場合は、警察の判断によって警察が対応しますが、本来、防衛に関してもそれと同じで、警察のかわりに軍が柔軟に対応するべきです。
p35〜
防衛出動が発令されるという異常な体制をとっているのは、日本だけです。日本の場合は、これが発令されなければ、自衛隊は動けないということです。
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