<福島原発>「天災ではない」佐藤栄佐久・前知事
毎日新聞 4月4日(月)12時11分配信
福島県知事在職中に、国の原子力政策に疑問を投げかけていた佐藤栄佐久氏(71)に、東京電力福島第1原子力発電所の事故について聞いた。佐藤氏は「深刻な事態は国の原子力政策が招いたもので、天災によるものではない」と強調した。【岩佐淳士、松本惇】
−−未曽有の事故に、東京電力は「想定外の事態」と繰り返した。
◆私でさえ安全と思っていた。経済産業省は「二重三重のチェックをしている」「自然災害による事故も絶対あり得ない」と言っていた。国がそれだけ言えば、地域社会が信用するのは当然だった。
−−88〜06年の知事在任時、福島第1、第2原発で事故やトラブル隠しが発覚。安全管理に疑問を唱えていた。
◆原子力政策は、国会議員や福島のような立地県もタッチできない。政策の基本を定める長期計画策定会議のメンバーの大半は電力関係者の「味方」。政策を実際につくるのは経産省の官僚だ。彼らにとって、良いのか悪いのかは別問題で、一度方針を決めると後戻りしない体質だ。
−−原子力安全・保安院の経産省からの分離が検討されている。
◆分離しないといけない。02〜06年に原発トラブルなどに絡んだ内部告発が、県に21通も寄せられた。保安院に情報提供しても対応もせずに東電へ情報が流されると、告発者は恐れていた。原発の運転を前提に安全面をチェックしろと指示してきたと指摘されるのも、保安院が経産省の一組織だからだ。
−−第1原発敷地内からは、微量のプルトニウムも検出された。
◆3号機で使用中のプルトニウム・ウラン混合酸化物(MOX)燃料から出た可能性もある。プルサーマルは、専門家から安全性に懸念の声もあったが、国は推進してきた。
−−多くの住民が原発関連の仕事に従事してきた現実もある。
◆原発のない町に帰っても働く場もないという問題は確かにある。ただ、第1原発がある双葉町を見てほしい。原発ができて永久に栄えると思っていたが、すぐに2機増設してほしいという話が出た。財政上の優遇もあったが、09年には自主的な財政運営が制限される「早期健全化団体」に転落した。原発立地の損得を、冷静に考えるべきだと思う。
−−東電は、第1原発1〜4号機の廃炉を表明した。5、6号機や第2原発はどう扱うべきか。
◆第2原発を再稼働させるべきかどうか、まだ自分の中で整理ができていない。原発は1カ所の立地点で1兆円の投資となる。原発の扱いは、エネルギー政策の根幹にかかわる問題だから。
【略歴】さとう・えいさく 日本青年会議所副会頭などを経て83年参院議員、88年に福島県知事。5期目途中の06年県発注工事を巡る汚職事件が表面化し、同10月に収賄容疑で逮捕された。無罪主張しているが1審、2審では有罪判決が出て、上告中。02年の東京電力の原発トラブル隠し問題では、原発立地県の知事として、プルサーマル計画への「事前了解」を白紙撤回した。
◆福島第1原発と佐藤栄佐久氏◆
71年3月 福島第1原発1号機が営業運転開始
88年9月 佐藤栄佐久氏が福島県知事に初当選
98年11月 県と地元2町が福島第1原発3号機でのプルサーマル計画受け入れを表明
02年8月 東京電力の原発トラブル隠し発覚
9月 佐藤氏がプルサーマル計画への事前了解を白紙撤回
03年12月 福島、新潟、福井の3県知事が原子力安全・保安院の経済産業省からの分離を国に要請
06年9月 県発注工事を巡る談合事件で実弟らが逮捕された道義的責任を取り、知事を辞職
10月 佐藤氏が県発注工事を巡る収賄容疑で逮捕される
10年8月 福島県がプルサーマル計画受け入れ表明
10月 福島第1原発3号機でプルサーマル発電による営業運転を開始
11年3月 東日本大震災発生
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