国民への説明責任も放棄!消費税増税に執念を燃やす財務省の「メディア圧力」の手口
現代ビジネス「ニュースの深層」2012年01月06日(金)長谷川 幸洋
野田佳彦首相がいよいよ消費税引き上げに前のめりだ。年頭の記者会見では、増税について「大義のあること」とまで語った。大義とは人として守るべき道義である。政治家・政党にとって最高の大義は選挙での公約以外にない。
いまや野田にとっては公約破りが大義になってしまった。「私は公約を間違ったので、いったん出直してきます」というならまだしも、政治家が国民への約束を破っておいて、それが大義などと開き直られたら、道義もへったくれもない。
まったく言葉が浮ついている。
民主党は崩壊プロセスに入った。当たり前である。2009年政権公約(マニフェスト)を裏切って増税を掲げた野田を代表に選んだところから、民主党は政党として辻褄が合わなくなっていたが、いよいよ具体的に増税に動き始めたところで、党自体が壊れていくのは理にかなっている。この動きはますます加速していくだろう。
それで増税は実現するのだろうか。
結論から先に言えば、増税法案が成立する見通しはまずない。仮に衆院で法案が可決したとしても、野党が過半数を握る参院では否決される。すると衆院で3分の2の多数をもって再議決するしか成立させる道はないが、それも現状では絶望的だ。
野党に加えて民主党内の反対派が徹底抗戦し、採決を強行すれば党の分裂が決定的になる。小沢一郎元代表のグループをはじめ反対派はそれぞれ新党結成あるいは既成の第三極党派などと合流していくだろう。
野田がいくら「ネバー・ギブアップ」などと力んでみても、できないものはできないのである。再議決を強行した場合、増税法案は可決できないうえ党は分裂するという野田にとって最悪の結果になる。そこで野田はどうするか。
3日付けの産経新聞によれば、野田は増税法案が成立しなかった場合、衆院解散・総選挙に踏み切る意向を指南役の元首相経験者に語ったという(http://sankei.jp.msn.com/politics/news/120103/plc12010309230005-n1.htm)。野田も法案成立が難しいのは分かっているのだ。
≪首相、消費税増税法案「不成立ならば解散」 首相経験者に意向
産経ニュース2012.1.3 09:22
野田佳彦首相が先月中旬、自らの指南役である首相経験者をひそかに首相公邸に招き、消費税増税関連法案が成立しなかった場合、衆院解散に踏み切る意向を伝えていたことが2日、分かった。複数の首相周辺が明らかにした。
首相は、消費税増税に向け「不退転の決意」を表明しており、3月に関連法案を閣議決定し、通常国会で成立を期す構えだが、衆参ねじれに加え、民主党に反対論が強く成立は困難な情勢。首相は解散権を振りかざすことで事態を打開したいようだが、早期解散にかじを切った自民、公明両党の協力を得るのは難しく、3月にも政権は重大な局面を迎える公算が大きい。
首相は首相経験者との会談で「首相の座に延々ととどまり続ける気は毛頭ない。ただ、消費税率の引き上げは任期中に必ず成し遂げたい」と強調。「もし不成立となった場合は総辞職をすることはない。衆院解散・総選挙で国民の信を問いたい」と語ったという。
これを聞いた首相経験者は「首相は本気だ。解散すれば民主党は分裂するかもしれないが、政界再編が進むならばそれでよい」と感じたという。
消費税増税をめぐり、政府は先月30日、消費税率を平成26年4月に8%、27年10月に10%と2段階で引き上げることを柱にした社会保障と税の一体改革大綱素案を決めた。
ただ、民主党内で小沢一郎元代表に近い勢力が「消費税増税はマニフェスト違反」と反発しており、強引に法案提出に踏み切れば離党者がさらに増え、採決で大量造反を招きかねない。
一方、首相は2日放送の政府広報ラジオ番組で「国民に負担をお願いする以上、政府だけのそろばん勘定だと思われぬように、きちっと説得をしないといけない」と強調。「行政改革もしないといけない。議員定数削減も不退転の決意でやる」と語った。≫
この記事は短いが、核心を突いている。これさえ読めば、長々と書かれたほかの政局解説記事など読む価値がないと言ってもいいほどだ。
野田は3月の年度末までに法案を成立させたい意向だが、先に言ったように、衆院を通過しても参院では否決される。したがって政局のヤマ場は3月中にも迎える。多少のズレがあっても、3月解散の可能性は相当高くなってきたとみる。そこで、いずれにせよ民主党は分裂するだろう。
わずかに残るのは、野田が勝負に出たとき、自民党の一部が増税法案に乗って、そこで一気に増税大連立を仕掛ける可能性だ。そうなれば自民党も割れるので、解散・総選挙前に政界再編が起きる。そのうえで解散・総選挙というシナリオだ。ただ落ち目の野田政権と心中してもいいというほど、度胸のある自民党議員は多くないだろう。
どうしてこういう展開になってしまったか。それは野田だけの責任ではない。民主党政権が初心の「脱官僚・政治主導」を忘れ、政策展開の順番を間違ったからだ。
たとえば、民主党は09年マニフェストで年金の一元化を掲げていた。税と社会保障の共通番号制導入や社会保険庁(現・日本年金機構)と国税庁を一体化して歳入庁の創設も掲げていた。国会議員の定数削減、国家公務員総人件費の2割削減も約束していた。
こうした公約をぜんぶ先送り・後回しにしたうえで「4年間は上げない」と約束していた消費税を先に引き上げるというのだから、国民の支持が集まらないのは当然だ。本来なら、約束をぜんぶ仕上げたうえで、それでも足りないなら「国民の負担をお願いするしか方法がありません」という順番でなければならない。
政治の核心は政策展開の順番である。手順だ。難しい話ではない。
民主党の政治家もそれくらいは分かっているはずなのに、できなかったのはなぜか。これも簡単な話である。官僚に手足を絡めとられてしまったからだ。
すると増税法案が成立しない原因は民主党政権を背後から動かしてきた霞が関、とりわけ財務省に責任があるという話になる。真の戦犯は財務省である。
財務省は本当に消費税を引き上げたければ、まず先頭に立って霞が関の身を切る姿勢を示さねばならなかった。ところが実際にやってきたのは、公務員制度や独立行政法人の統廃合など、あらゆる改革に抵抗する総司令部の役割だった。国税庁を財務省から切り離す歳入庁創設など絶対に認めない。そういう立場である。
せめて国民に対する説明くらい、誠意をもって懇切丁寧にやってきたかといえば、それすらしていない。それどころか元官僚の古賀茂明によれば、香川俊介官房長は某テレビ局幹部に電話して「古賀を出演させているような局にうちの(安住淳)大臣は出せない」と圧力をかけたという(『週刊現代』1月7、14日号)。
この話は私も古賀本人から聞いた。
税金で仕事をしている財務省の幹部が増税反対の論陣を張る識者の言論活動を理由に「大臣を出演させない」などというのは、国民に対する説明責任を放棄しているだけでなく、もっと悪質な言論弾圧と言っていい。
似たような、だがもっとつまらない話は私自身にもあった。
財務省は毎年、年末の予算編成がまとまった後、マスコミ各社の論説委員と経済部長を集めて予算内容の説明会を開く。「論説委員経済部長懇談会」(通称・論説懇)だ。新聞の社説を執筆している私は当然、昨年末も開かれると考えて、事前に広報室に開催日を問い合わせた。「開催が決まれば連絡します」という返事だったが結局、私に連絡はないまま無視されてしまった。論説懇自体は年末に開かれている。
その後、私は広報室長に電話して確かめてみた。
「私が招かれなかったのは、私が増税に反対しているためか」(長谷川)
「いや、そういう訳ではありません。単なる事務的ミスと思います」(広報室長)
古賀の出演を理由に官房長がテレビ局幹部に圧力をかけるくらいだから、私を説明会に招かないくらい当たり前なのだろう。「相手にするのは御用マスコミだけ」という感覚である。財務省もこの程度に成り下がってしまったのだ。
竹下登内閣が1988年に消費税を初めて導入したとき、担当の主税局税制第二課長だった薄井信明(後に国税庁長官)は自らテレビ番組に出演し、増税の意義を説明した。現役官僚しかも直接の政策責任者がテレビに出るのは異例だったが、重い荷物を自ら背負って国民に説明する姿を示したのだ。
それにひきかえである。香川官房長は「大臣を出さない」などと言う前に、自らスタジオで喋ってみたらどうか。政策の説明などいらない。それは政治家の仕事だ。古賀が指摘した「年収2200万円の財務事務次官が格安の官舎に住みながら、増税を訴えている」問題について、きちんと説明すべきだ。
ある財務官僚が語った「世の中を悪くしたのは主計局。重い荷物を背負ってきたのは主税局」という言葉を思い出す。香川も主計局エリートである。(文中敬称略)
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◆財務省による大新聞、テレビを巻き込んだ増税路線 露骨な世論工作/小沢氏「消費増税」改めて批判2012-01-18 | 政治/検察/裁判/小沢一郎/メディア
〈前段 略〉
「反増税派を番組に出すのは勇気いる」とTVディレクター証言
ポストセブン2012.01.18 07:00
野田佳彦・首相が年頭会見で消費税増税を「ネバー・ネバー・ネバー・ネバー・ギブアップ」と語るなど、露骨な増税路線が敷かれ始めた。財務省による大新聞、テレビを巻き込んだ世論工作も活発化している。メディアに対しても元経産省官僚の古賀茂明氏ら反増税派言論人の露出をやめさせるべく圧力をかけている。
反増税派きっての論客、元財務官僚の高橋洋一・嘉悦大学教授も標的にされた一人だ。財務省内では「高橋はブラックリストの筆頭」(同省有力OB)とされ、高橋氏も、「最近、対談の企画や討論番組への出演依頼の後、『今回はご遠慮させていただきたい』とキャンセルされるケースが何度かあった」と語る。
たとえテレビ出演が実現しても、重要な発言がカットされる現実に直面した。
昨年末、高橋氏は民放テレビの討論番組で増税派の財務省OB議員らと「国家経済破綻」をテーマに議論を戦わせたが、オンエアを見て驚いた。
「収録で私が増税派の人たちに『では何年後に財政破綻すると思うか』と尋ねると、『3年』だという。しかし、実は、市場では日本国債のリスクをはかるCDS金利(※)は1.3%と低い。
世界の金融のプロは日本の財政状況は数十年に1回の低い確率でしか破綻しないと見ている。ギリシャのCDS金利は60%以上だから全く評価が違うわけです。もし、本当に日本が短期間で財政破綻するというなら、政府が自らCDSを買えば大儲けできる。そのことを指摘すると彼らは誰も反論できなかった。
また、震災復興などの財源は増税ではなく、国債の日銀引き受けで十分できる。私が小泉・安倍政権で官邸にいた時は実際にそうやったと指摘して増税論を論破したが、その議論はほとんどカットされていました」(高橋氏)
その裏には何があるか。民放テレビのあるディレクターが明かす。
「高橋氏や古賀氏を番組に出すのは勇気がいる。財務省に睨まれて『あの発言の根拠は何か』と抗議が来るからだ。局の上層部はそれが怖いから、せっかく出演してもらっても収録後に発言やデータをチェックし、財務省の心証が悪くなりそうな部分はカットして自主規制する傾向にある」
言論機関の自殺である。
※CDS/クレジット・デフォルト・スワップの略。国債や社債、貸付債権などの信用リスクを対象としたデリバティブ商品のこと。デフォルト(債務不履行)の可能性が高いほど金利が上がる。
※週刊ポスト2012年1月27日号
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◆公務員制度改革はかくて骨抜きにされた われらは敵だらけの中でいかに戦ったか/古賀茂明vs高橋洋一(前篇)2011-07-22 | 政治
Diamond online 2011年7月22日 【特別対談】古賀茂明vs高橋洋一(前篇)
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◆かくて民主党政権は官僚の手に落ちた このままでは安易な増税路線に突き進む/古賀茂明vs高橋洋一(後篇)2011-07-30 | 政治
◆財務省の天皇 勝栄二郎事務次官と香川俊介官房長には逆らえない /野田政権は直勝内閣/メディア工作部隊2011-10-02 | 政治
朝日、読売を国税狙い撃ち「財務省には逆らえない」と幹部談
NEWS ポストセブン 10月2日(日)7時5分配信
財務省の強さ――それは国家の予算を握っていることだけでなく、情報収集力と組織の結束の強さこそ、官僚主導政治を根付かせてきた秘密だろう。財務官僚たちの影響下にあるのは民主党政権だけではない。彼らは政・官・司・財・報に幅広く支配の手を伸ばしている。
政権交代をはさんだこの数年、財務省が最も力を入れてきたのが「第4の権力」であるメディアへの工作だった。
財務省が本格的に増税に向けたメディア工作をスタートさせたのは、「消費税増税なしで財政再建できるとは考えられないし、安心できる社会保障制度も成り立たない」と消費税増税路線を鮮明にした福田康夫首相の頃とされ、世論工作の司令塔を長く務めてきたのが「財務省の天皇」の異名を持つ事務方トップの勝栄二郎・事務次官の直系とされる香川俊介・官房長だ。
若手官僚を中心に組織された100人規模の政界工作部隊は、香川氏の指令ひとつでメディア工作部隊にも変身する。それをバックアップするメディア対策専門部隊もある。
東京・竹橋の大手新聞社の本社に近いエスニック料理店は、財務官僚がベテラン記者や編集幹部、評論家などと勉強会を開く際によく使う店の一つだ。常連というベテラン記者の話である。
「飲食費はワリカン。財務官僚の守備範囲は財政政策だけではない。バックグラウンド・ブリーフィングといって、例えば『エリート教育について取材したいと考えている』といえば、調査課などから関連資料やデータを一式取り寄せた上で、霞が関での議論や問題点を非常にわかりやすく説明してくれる。ブレーンストーミングですね」
それを自分でやるのが記者の本来の仕事のはずで、昔は、資料一式役所が用意した記事は「もらい記事」と呼ばれて恥とされた。だが、政策が嫌いな政治部記者や、不勉強で専門知識がない経済部記者は、財務官僚のサービスを有り難がって役所に頼りきりになる。
メディア工作部隊の幹部には、キャリア官僚ながら玄人はだしの「手品」を演じる課長クラスや「腹話術」を得意芸とする審議官クラスもいて、記者たちを絡め取る。そして会合のたびに記者たちに、「野田さんはああ見えて政策にはかなり詳しいね」とささやくことで、大メディアに「政策通の政治家」と報じさせる。これぞ正真正銘の腹話術だ。
だが、大メディアが増税必要論を一斉に報じるようになったのは、個々の記者への工作だけが理由ではない。財務省の報道機関工作の有力な武器となったのが、国税の税務調査である。
朝日新聞は2009年2月に東京国税局の税務調査で京都総局のカラ出張による架空経費の計上など約5億1800万円の申告漏れを指摘され、東京、大阪、西部、名古屋の4本社編集局長と京都総局長を処分した。同年5月には、読売新聞東京本社も東京国税局の税務査察で推定2億7000万円の申告漏れを指摘されている。その前には日テレ、フジテレビ、NHKも申告漏れを指摘された。
時系列でいえば、税務調査の後、読売は丹呉泰健・前財務事務次官を社外監査役に迎え、朝日も「増税礼賛」の論調を強めていく。
有力紙の論説委員は、「メディアは常に税務当局に狙われている。経営上も財務省に逆らえない」と本音を明かす。※週刊ポスト2011年10月7日号
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<片山虎之助氏>野田政権は「直勝内閣」 財務省主導を批判
毎日新聞 9月29日(木)20時3分配信
「野田内閣は『直勝内閣』と言われている」。29日の参院予算委員会で、たちあがれ日本の片山虎之助氏が、「財務省主導」との指摘を受けがちな野田佳彦首相の政治姿勢を皮肉った。
「勝」とは財務省の勝栄二郎事務次官。82年に田中角栄元首相の強い影響下で誕生した中曽根内閣が「直角内閣」と呼ばれたことをもじったものだ。片山氏は「人事も増税も財務省、事務次官主導だ」と首相を批判した。
これに対し野田首相は「国民に負担をお願いする場面はあると思うが、特定の省の特定の誰かに洗脳されたわけではない」と反論。増税は自らの問題意識であるとの認識を強調した。【笈田直樹】
◆「増税」「宿舎建設」官僚のやりたい放題を許していいのか/勝栄二郎は小沢一郎を抑えつけ、好き放題やった2011-09-29 | 政治
◆小沢一郎を落ち目と見切った登石裁判長/財務省首領 勝栄二郎が、内閣に「大増税」へと舵を切らせている2011-09-30 | 政治/検察/メディア/小沢一郎
◆野田政権「ノーサイド政治」の本質は「霞が関におんぶにだっこ」 「政策」にノーサイドなどありえない2011-09-02 | 政治
現代ビジネス2011年09月02日(金)長谷川 幸洋