「福島」後 村長の苦悩 核燃基地六ケ所村
中日新聞 《特 報》 2012/3/7 Wed.
東京電力福島第一原発事故をきっかけに、核燃料サイクル政策の見直し論議が起きている。核燃施設に頼ってきた青森県六ケ所村にとって、政策の行方は存亡に関わる。「核燃政策を堅持して」と訴える古川健治村長(77)は、一方で「政策を修正せざるを得ないことは分かっている」とも。このままでは核廃棄物の最終処分地になりかねない。村長の苦悩は深い。(小倉貞俊)
■再処理事業 計画に暗雲
「核燃料サイクルへの風当たりは厳しくなっているが、いまさら中止にされては困る。事業の核になる再処理工場は99%まで完成していて、あと一歩なんだ」。村役場2階の村長室。現在3期目の古川村長は、ぼくとつな口調に熱を込めながら、こう語りだした。
原発から排出される使用済み核燃料を再処理して再利用する核燃料サイクル事業。その中核施設が、再処理工場だ。電力九社などが出資している日本原燃が、同村で10月の完成を目指して建設中だ。ところが2月上旬、最終試験を前に技術的な不具合が判明。試験再開は3月にずれこむ見通しで、10月の完成は事実上、困難とみられている。
実は工場の当初の完成予定は1997年12月だった。その後、立て続けにトラブルが発生し、延期した回数は18回にも上る。古川村長は「目標時期には固執せず、慎重、確実に取り組んでほしい。今度こそ成功させなければ、再処理事業そのものが社会的な理解を得られない」といら立ちを見せる。
再処理で製造するプルトニウムとウランの混合酸化物燃料(MOX燃料)を利用し、新たなエネルギーを生み出す高速増殖炉もんじゅ(福井県敦賀市)の実用化もめどはまったく立っていない。その上、再処理工場の本格稼働も始まらないとなれば、核燃料サイクルの見直し論議はますます強まる。
核燃料サイクル政策をめぐっては、内閣府の原子力委員会が協議。今月23日には同委の下にある小委員会が、今後20〜30年では、使用済み核燃料をMOX燃料に加工して原発で利用するプルサーマルと、再処理せず地下に埋設する直接処分の2つの技術が実用可能だとする検討案をまとめた。経済的には直接処分が最も有利だとした。今後、政府のエネルギー・環境会議で議論されていくことになる。
「原発事故を踏まえれば『減原発』の流れはやむを得ないとは思う。ただ、これからも原発の稼働年数が数十年単位で残っているからには、今すぐゼロにはできないだろう。核燃料サイクルの修正も若干はあるだろうが、ただちに影響するような内容にはならないはずだ」
古川村長が悲壮感すら漂わせて訴える背景には、核燃施設とは不可分の関係になった村の歴史がある。もとは原野で、夏には東からの「ヤマセ」と呼ばれる風でたびたび冷害に見舞われてきた。「基幹産業がなく『出稼ぎの村』ともいわれ、除雪費用すらままならない貧しさ」(古川村長)だった。
■撤退なら 行政機能しない
高度経済成長期の1970年代初め、ここに石油コンビナート建設を目指す国家プロジェクト「むつ小川原開発」が動きだすも、石油危機などで頓挫。84年に電力会社でつくる電気事業連合会が核燃料サイクル施設の立地協力を要請し、県と村は85年、受け入れを受諾した。
一方で、村は巨額の核燃マネーを手にした。施設建設が始まった88年度から2010年度までに受け取った電源交付金は計300億円。日本原燃から村に入る固定資産税は10年度だけで57億円と、村予算の半分近くを占める。
風力発電所や科学技術関連施設なども誘致してきたが、古川村長は「核燃施設が撤退すれば、教育福祉や医療など社会生活全般に関わる予算に影響し、大打撃だ。村の行政が成り立たない」と危機感をにじませる。
■最終処分地選定も難航 核のごみ 3000?保管
もうひとつの不安が、最終処理の問題だ。日本原燃が各地の原発から受け入れた“核のごみ”である使用済み核燃料は「一時貯蔵」の名目で3千トン超が保管されている。このほかに、原発から出る廃液などの高レベル放射性廃棄物もフランスなどで再処理された後、貯蔵されている。
古川村長は「村と青森県とは、大臣が代わるたびに『青森県を最終処分場にしない』と確約を交わしてきた。この方向は変わらないはずだ」と話す。しかし、最終処分地の選定は難航している。「このまま核燃料サイクルも進まなければ、村が事実上の最終処分場になりかねない」との心配は、拭い切れていない。
最後に古川村長は、部屋の壁に掛けられた歴代村長の写真を見上げながら、こうつぶやいた。「村民は数十年にわたる苦難の歴史を乗り越え、国の政策に協力してきた。その信頼を損ねれば、村の存亡に関わるということだけは分かってほしい」
■町二分した「反核燃」は衰退
国のエネルギー政策に翻弄される六ケ所村。村長選のたびに核燃料サイクル事業の行方などをめぐって賛成・反対の両派に分かれ、激戦を繰り広げてきた。(中略)
2002年、収賄疑惑の渦中にいた橋本村長が自殺。7月の選挙は、村議会が教育長だった古川健治氏の支持で一本化。古川氏が初当選した。
06年と10年の村長選は、古川村長と反核燃派の女性候補の一騎打ち。いずれも大差で古川村長が勝利している。
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