山田正彦前農水大臣「強引に進めれば野田政権は行き詰まる。私がTPP参加と消費税増税に断固反対する理由」
現代ビジネス 2012年03月10日(土)永田町ディープスロート
■TPPについてアメリカ国内の感想
山田: アメリカ政府はTPPを是非推進しようという立場。アメリカ国民は政府の思惑と逆でNAFTA、FTAやTPPといった自由貿易には反対意見が多い。2010年9月のNBCニュースとウオールストリート・ジャーナルの世論調査によれば69%のアメリカ人はFTAなどの自由貿易に反対だという。アメリカはこれまでにFTAを推進してきた経緯がある。特にカナダ、メキシコ間で行われたNAFTAでは労働組合の試算によると100万人の雇用が失われた。別のデーターによればFTA全体による雇用喪失は500万人に及ぶそうだ。
その理由としてアメリカの大企業は「アメリカ国内の工場を閉鎖し、労働力の安いメキシコなどに工場を移すからだ。それがいやなら給料を半分にしてくれ」というのでアメリカの労働者は渋々それを飲んだ。
ところが儲け優先の経営者は彼らを裏切りメキシコへ工場を移すのを止めなかった。
一方、大企業受け入れのメキシコはどうなったか。NAFTAをやれば儲かるというので協定に参加した。トウモロコシを一つ取ってみるとアメリカとの自由貿易でトウモロコシの国内価格は上がるしサトウキビの価格も上がっていく。
そのからくりはこうだ。アメリカは遺伝子組み換えのトウモロコシ。これには膨大な補助金をもらって作っている訳だから、補助金付きのアメリカ産トウモロコシに価格競争で勝てるわけがない。それによってメキシコのトウモロコシは壊滅状態になって行った。サトウキビも同じ。
結局、農業で生計が成り立たなくなった人々が密入国などでドンドンアメリカへ流入する。メキシコ人の給料は安い。経営者は安いメキシコ人を雇うことになり、必然的にアメリカ人失業者が大量に増えていったというわけだ。
アメリカには日本の連合と同じような労働総同盟というのがある。そこの統計によるとNAFTA締結以前より賃金は引き下がっている。それでも物価は下がらないことから貧困層が増えた。今ワシントンで「1%の金持ちが我々99%を搾取している」という若者達がテントを張りながらデモをやっている。カナダも同じようなもの。自由貿易はアメリカに利益をもたらさなかったというのが53%。利益をもたらしたというのはたったの17%でしかない。NAFTAをやった事で国民の利益にはほど遠いし、いいことはなかったようだ。
テア・リー全国労働総同盟会長補佐が言う。
「米国にとって、自由貿易は大企業、多国籍企業の利益にはつながったが、雇用の面では失業が大幅に増えて、かつての倍近い失業者を生じさせた。現在では米国民にとって富裕層と貧困層との格差を広げただけに終わっている。TPPが締結されて、ベトナム、マレーシアなどからの安い労働力が米国に流入してきて、さらに格差社会が進むのではないかと私達は心配している」
「何で日本がこんなTPPに参加したいのか理解できない、分からない」という。
自由貿易協定というのは大企業のため、多国籍企業のため。彼ら一握りの人が大儲けしただけということが分かってきた。
これがアメリカ人の意識なんだ。そんな国内事情を意識したのかオバマ大統領はTPPに関することをアメリカ国民に対してあまり話をしていないのだ。
今年はアメリカ大統領選挙の年。国会議員の地元ではTPPに賛成、反対など利害の絡む問題が多い。そのため有権者を刺激しないようにとTPPという微妙な問題は避けて通る傾向にあるようだ。 日本では「アメリカ大統領選挙があるのでTPPはオバマ大統領を助けるものだ」という報道があるが、実態は全く違う物だと分かった。だからオバマ大統領はアメリカ国内でも国民的議論を進めてない。
国民を刺激したくないオバマ政権とは逆にアメリカの金融・医薬品・食肉業界などは推進強硬派。大手アメリカの輸出企業、カーギル、モンサント、タイソンなど食肉農産物輸出業者は大乗り気だ。つまり、ウオール街関係者がますます儲かるようにしようということかも知れない。
だがしかし、オバマ大統領の支持母体である民主党議員や労働総同盟はTPPに冷ややか。ピーターズという民主党下院議員は同志14名を集めオバマ大統領に「TPPに反対する誓願」を提出している。このうち13名は民主党議員、1名は共和党議員だ。
TPP賛成派だと思われたリード上院農水委員長はあに図らんや「反対だ」というのでびっくり。下院の院内総務もFTAに反対してきたしTPPについてはこれから検討すると言うが、おそらく彼は反対なんじゃないかと思う。今回の調査で会えなかったけれど30名くらいの酪農関係議員は「TPP反対署名」を集めているのだ。アメリカの議会はTPPなどの自由貿易に懐疑的な印象を持った。
TPPに関し日本政府は積極的に動いているようだが、アメリカはあまり動いてない。「TPPに入りたかったら入れてやろう」というのがアメリカの態度。ところがアメリカ議会関係者によると、逆に日本政府がアメリカに対し「TPP交渉に参加させて欲しい」といって来ていると言うんだなあ・・・。
マランチェス通商代表に会った。彼は「入るか入らないかは日本が決めることだ」と「日本が入るのは当たり前だ」というような態度で言った。
そこで私は、
「日本の国会議員で過半数を超える365名がTPPに慎重もしくは反対しているし、なかでも与党議員は200名以上が反対している。この状況で行くと多分、国会でTPP協定が批准されることはないだろう」と強い調子で言うと、「ええ!」と驚き、がっくりした様子だったよ。
自動車業界は日本に参加してほしくないと言うことのようだった。アメリカの狙いは知的所有権なのだと思う。医薬品業界は知的財産権としても特許期間を長くしたい。当然、後発医薬品業界であるジェネリック薬品業界は反対の立場。医薬品は知的所有権だからジェネリック医薬品業界として膨大な特許料を払わなければならない事になる。
また、米国は薬の調合にまで新たに特許料を要求しているとの情報もある。これは日本にとっても大打撃になりそうだ。特許には基本特許というのがあって、日本はこれまで基本特許を元に応用技術を駆使して様々な製品を作り出してきた。これはWTOでも認められているし日本でも基本特許権をクリアして輸出が伸びてきた経緯がある。
アメリカの狙いは知的財産・特許権の保護だから、アメリカの方式になると例えばAという基本特許に対しAダッシュ、A2ダッシュなどという改良、加工したものも基本特許権に含まれることになる。
これだと日本応用技術による技術革新は大きな打撃を受けることになるだろう。これこそアメリカの狙いなんだ。
アメリカはまた貿易障壁になるものを廃止しろという。アメリカの自動車業界はアメリカにない軽自動車とかエコカーを止めろと言ってきている。
また、革新的技術や先進的技術などの低燃費技術はアメリカにないから仕様書などを公開しろというのだ。これらはアメリカにとって自由な競争にならないという理由からだ。日本のこれらの技術は日本の知的所有権の範疇。にもかかわらず、アメリカは自分らにない技術を公開しろという。こんな矛盾を何とも思わず、自分らに有利にするため無理難題を押しつけてくるのだ。
アメリカの要求はこれだけにとどまらず自動車のディラー制度のことも閉鎖的制度だと言っていた。日本車はアメリカ国内で150万台売れているのに、アメリカ車は日本で年間8,000台しか売れてない。あんなに大きくてガソリンを食うアメリカ車が売れないのは当たり前だろう。それでも日本人の感性を無視して、アメリカ車が売れないのは日本市場が閉鎖的でありディラー制度に問題があるからだという。
「そんなことを言うなら、ヨーロッパ車は何で売れているんだ」というと黙っていた。アメリカ側はその他、日本の安全対策は過剰すぎる。「車検制度も止めろ!」など言いたい放題だった。
昨年、スッタモンダしたあげく批准された米韓FTAで韓国はアメリカ車をミニマムアクセスとして米国の各自動車メーカーごとに毎年25,000台ずつ購入しなければならなくなった。ビックスリーで年間75,000台の計算だ。しかも、アメリカ同様左ハンドルで仕様基準はアメリカ仕様。アメリカはこれを日本にも導入しようとしている。
日本がTPPに参加しても日本人はあまりアメリカ車を買わないだろうからその分、政府が公用車として導入せざるを得なくなる、それ故、日本の公用車はアメリカ車へとドンドン変わる日が来るかもしれない。
せっかく、政府はエコカー普及の原動力として公用車をエコカーにすることによって日本の車は今日、エコカー全盛時代を迎えた。その政府がアメリカの圧力でガソリンを食いつぶし、二酸化炭素をまき散らすアメリカ車になることは時代の逆行だろう。
TPPは米韓FTAと同等、もしくはそれ以上の協定にするとUSTRは言っていた。米韓FTAを見ると明らかにアメリカ有利の不平等条約だ。これでは韓国人が怒るのも無理ない。日本政府は米韓FTAをもう一度よく勉強し、協定内容をしっかり検討すべきだ。
「TPP参加は日米安全保障の一環。だから日本はTPPに参加すべきだ」という意見もある。
だが、アメリカの貿易量は日米間より米中間の方が多い。アメリカにとって中国は最大のお客。TPPはブロック経済圏のようなものだから日本がTPPに参加すれば中国はEUと結んでアメリカから物を買わなくなるかも知れない。中国はアメリカ国債を1兆ドル持つ最大のお客さん。アメリカにとってあまり中国を無視することが出来ない現実もある。米中関係は表で対立しているような感じだが、裏ではうまいことやっているんだ。
「中国を取るか、アメリカを取るか」という議論は不毛な議論でしかない。アメリカも日本を手放すわけにはいかないし、中国も日本抜きには成り立たない。政府や民主党執行部がいう安全保障問題は問題のすり替えであり、全く的外れのごまかしなのだ。安全保障を言うなら米軍基地、普天間基地移転問題や海兵隊のグアム移転など他に大きな問題はいっぱいある。
だから、日本がTPPへ参加しなくても何らの問題が起こるわけがない。
政府試算によるとTPPによって10年間でGDPは2.7兆円多くなる。1年間に換算すると2700億円増。
ところが、財務省が渋々出してきた試算によればTPPによって輸入関税率がゼロになると歳入減は年間7,800億円だという。GDPの数パーセントが歳入・税金分だから行って来いで、TPP参加による国の税収は年間7千数百億円も減収ということになる。野田総理には景気低迷で歳入が減っているとき、さらにTPPによる歳入減で国家財政がもっと悪化するというのが分からないのだろうか。
日本にとってTPP参加に経済的メリットは全くないと言っていい。
■野田政権「社会保障と税に一体改革」問題
山田: 今、総理はムキになって「消費税率引き上げをしたい」と言っている。だが、こんなデフレで日本の景気が悪いときに消費増税の論議をすること自体おかしい。これでは国民全体も消費を手控え、それがまた景気を冷やすことになる。こんな時はむしろ財政出動するべきだ。財務省は日本の借金が1,000兆円あるという。
しかし、政府の持っている資産は650兆円あり、独立行政法人などを含めると780兆円もの資産がある。アメリカの国債も100兆円弱も持っている。
「孫や子に付けを残すな」と孫や子のことを心配するなら、福島第一原発の水素爆発対応はどうだったのか。水素爆発が予想されたとき放射性物質の飛散予測は当時のSPEEDIでも分かっていた。それを国民にも知らせず放射性物質が最も多く流れる飯?村などに避難させ、多くの住民を被爆させてしまった。
甲状腺被害を受けやすい子供達にヨウ素も飲ませず、ただ「安全だ、心配ない」というだけの政府。後年、どれだけの甲状腺ガンが発生するかも分からない不安の中にいる。こんな政府に「孫や子に付けを残すな」といえるのか。ただ、財務省の言いなりになって消費税を上げろというのはお門違いというもの。
国にある財産をドンドン減らし、公務員の給与も減らし、年間12兆円もの補助を出している不要な独立法人・公益法人を減らす。
そしてそれでも足りないという時になって初めて「消費税率引き上げ」を考えるべきであって、今すぐ消費税率を10%にする必要は全くない。
政府がTPPや消費税問題で強引にやってくれば、日本の国益を守るため勝負する時があるかも知れない。
〈プロフィール〉
山田正彦
1942年生まれ。弁護士。地元・五島列島で牛400頭、豚8000頭を飼育する畜産業を営む。その後、衆議院選挙に挑み4度目の正直で当選。現在5回生。民主党では経験を生かして農水畑を歩む。BSEに関する法案作りに関与。農水副大臣、農水大臣時代は宮崎を中心に発生した口蹄疫問題では宮崎現地に乗り込んで陣頭指揮に当たった。今年正月明けの1月8日から12日までアメリカTPP調査団長としてワシントンを中心に議会、業界団体と面談。アメリカにおけるTPPへの取り組み状況を調査した。現在、野田総理が恐れる「TPPを慎重に考える会」会長。
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〈前段 略〉
ベテラン勢では、山田正彦元農水相は「反TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)」の急先鋒として知られ、山岡賢次前国家公安委員長は「閣僚時代のマイナスイメージが強く、選挙があれば生き残りは厳しい」(首相周辺)とされる。
中堅では、すでに離党した松木謙公衆院議員(新党大地・真民主)とともに「小沢側近四天王」といわれた樋高剛、岡島一正両衆院議員と、佐藤公治参院議員の3人が名前を連ね、小沢氏の政策ブレーンである中塚一宏衆院議員もいる。
若手では、転倒・転落事故にあった三宅雪子衆院議員や、岡本英子衆院議員、谷亮子参院議員ら小沢ガールズが健在だ。
くしくも、21人といえばAKB48の選抜メンバーと同数だが、「他に50人ほどいる」(ベテラン秘書)との見方も。小沢親衛隊は玉砕へと進むのか、AKBのように大ブレークできるのか。
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