原発停止の影響に苦しむドイツ
JBpress 2012.03.28(水) 2012年3月27日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
ドイツの原子力発電の段階的廃止の第一線にいる人々は、電気が消えないようにするために日々苦労していると話す。
国内にある原子力発電所の半分が閉鎖されてから1年半。政府は今後10年間で進める再生可能資源による電力への転換は、予定通りに進んでいると主張する。だが、多くの専門家は、実際やってみると移行は難しいと言う。
■冬は何とか乗り切ったが・・・
「冬は何とか乗り切った」。ドイツに4つある地域高圧送電網の1つを運営するオランダ企業テネットで、北部コントロールセンターの責任者を務めるフォルカー・ヴァインライヒ氏はこう話す。
「だが我々は幸運だったし、今はもう、できることの限界に近づいている」
ハノーバー郊外にある何の変哲もない低層ビルに拠点を構えるヴァインライヒ氏と同僚たちは2011年に、北海とアルプス山脈を結ぶテネットのケーブルの電圧を維持したり、障害を回避したりするために、合計1024回も出動しなければならなかった。この出動回数は前年実績の4倍近くに上った。
長期的な目標は今も、20ギガワット(GW)の原発の発電能力を代替する持続的な電源を探すことだが、喫緊の問題はドイツの送電線の脆弱性であることが明らかになった。
■急な需要に対応できない送電網、あわや停電の危機
エネルギーに関する倫理委員会のメンバーとしてアンゲラ・メルケル首相に助言を与えてきたユルゲン・ハンブレヒト氏は言う。「寒波は乗り切ったものの、大きなダメージを被った。我々にはまだ非常に野心的な目標があるが、どこを見ても、計画の実行、具体的な行動が足りない」
昨年3月の日本の原発事故の直後に、ドイツの原発17基のうち8基が停止されて以来、ドイツの送電線は急な需要に対応するのに腐心してきた。2月初旬には、あわや停電が起きそうになった。
閉鎖された原発の大半はドイツ南部にあったため、シュトゥットガルトとミュンヘン周辺の工業中心地は前例のない量の電力を北部の石炭・ガス火力発電所や風力タービンから調達し始めるようになった。
ところが高圧送電網は、このような北部から南部への供給急増に対応できるようには設計されていなかった。
昨年夏にドイツ政府が(当初目標の2036年ではなく)2022年までに原子力発電を段階的に廃止する計画をまとめると、テネットやアンプリオン、50ヘルツ、EnBWといった送電事業者は、ハンブルクとシュトゥットガルトが弱点になると判断した。
特に、工場の電力需要に加え、家庭の暖房と料理の電力需要が生じる冬場の夜には需給が逼迫する。
■欧州各地で「計画停電」の恐れも
2月初旬には、全国規模の停電に対する各社の懸念が欧州レベルにまで膨らんだ。フランスでの価格上昇を受け、折しも寒波がロシアからの天然ガス供給を滞らせた時に、エネルギー商社がドイツの電力を大量に輸出したためだ。
従来であれば、送電網を運営する事業者は、原発事業者に発電量を増やすよう要請していた。だが、総計20GWのうち8GW分の設備が閉鎖された今、これは選択肢にはならなかった。結局、各社は約10日間にわたり、ドイツ南西部とオーストリアにある古い予備のガス火力発電所を利用した。
「我々にはもう、危機時に対策を講じる余地を与えてくれる予備設備がない」とヴァインライヒ氏は言う。「もし大規模な発電所を失っていたらどうなるか?」 そうなれば、欧州全土の特定地域で電気を消す「計画停電」を余儀なくされるという。
南部でのガス火力発電所の増設や北部から電力を運ぶ追加の送電線の敷設をはじめとした解決策には異論がないものの、計画が実行されるかどうかは疑問が残る。
投資家はガス火力発電所を建設したがらない。再生可能エネルギーが法律で優遇されていることから、ガス火力発電所は風力発電を補完するためにたまにしか稼働しないかもしれないからだ。
追加の送電網敷設(政府機関によると、そのコストは電力料金を8%押し上げる可能性がある)は、計画段階で滞っている。
政府は、予備のガス火力発電所を建設するインセンティブを検討していると言う。また、今夏には包括的な送電網計画を明らかにすると約束しており、長期的に電力価格は上昇しないと話している。
だが、ハンブレヒト氏は、計画実行のスピードとユーザーにかかるコストについて心配している。欧州最大の工業国には「信頼でき、クリーンで手頃なエネルギー供給」が必要だと同氏は言う。
■再生可能エネルギーへの転換は政治的に実行可能か?
送電網の問題は、最後に残った原発9基が閉鎖し始める2015年までに解決する必要がある。送電線や発電所を計画して建設するには、まだ6〜7年の歳月がかかるとハンブレヒト氏。これを2〜3年に短縮するためには、ドイツには、進捗状況を監視し、次の対策を特定し、実行させる「コントロール・調整センター」が必要だという。
ハンブレヒト氏は、送電線敷設に対する地元の反対に触れ、「エネルギー転換は今なお実行可能ではあるが、政治的に実行可能かどうかは分からない」と指摘。もっと大胆に計画を実行していかなければ、ドイツは一部原発の運転を2022年以降も継続するしかないかもしれないと警鐘を鳴らしている。 By Gerrit Wiesmann
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◆脱原発 ドイツ/原発と核兵器は同じ技術 原発を使用しているのは戦争状態と同じ/トイレのないマンション 2012-03-27 | 地震/原発
・メルケルを敗北させた「3.11」の衝撃 脱原発!ドイツの成算なき挑戦【1】
2012年 3月26日(月)プレジデント編集部 渡邉 崇=文
・原子力発電の使用は常に戦争状態と同じ 脱原発!ドイツの成算なき挑戦【2】
2012年 3月27日(火)プレジデント編集部 渡邉 崇=文
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原発停止の影響に苦しむドイツ/ 一部原発の運転を2022年以降も継続するしかないかもしれない
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