“電力アウトバーン”の建設がカギ 脱原発!ドイツの成算なき挑戦【3】
2012年3月28日プレジデント編集部(水) 著者 渡邉 崇
ここで一度、ドイツの原発状況を説明しておくと、現存する原発は17基だが、2011年3月に7基を停止したため、現在稼働中の原発は9基(1基はもともと技術的な問題で停止ずみ)。政府の発表では、全発電量に占める原発の割合は、17基で約23%、9基で約15%である。
それらは、(1)風力発電、(2)バイオマス、(3)太陽光発電、(4)蓄電池(電気自動車の普及を含む)などだが、ドイツらしい一面もある。それはエネルギーをつくり出すだけでは不十分で、エネルギーの効率的な使用と同時に節約を推進する必要があると考えている点だ。そしてそのカギを握るのが、「パッシブハウス」と呼ばれる省エネ住宅、建築物である。
このように「再生可能エネルギー」は、ドイツのエネルギー政策を担うが、将来それらがすべての全電力に占める割合は、20年に35%、50年に80%と政府は見込んでいる。ちなみに11年は、すでに20%に達したと推測される。
また熱エネルギーの利用も重要視している。熱エネルギーを含むすべてのエネルギーにおいて、再生可能エネルギーの割合は、50年には60%を見込む。さらに地球環境を守るうえで、CO2の排出量の削減も必須の課題だが、これは90年比で20年までに40%減、50年には80〜95%減と予測している。これらの目標値は、我々日本人にとって非常に高いもので驚くべき数字だが、ドイツ政府の目標は、常に野心的なものだ。
自国で生産可能なエネルギーについても注目したい。日本国内で消費するエネルギーは、原則国内で生み出されたものを使っている。
電力の「ベースロード」は褐炭と石炭で全体の4割以上を占める。(出典:ドイツ連邦経済技術省の資料を基に編集部で作成)それに対して、電力の自由化が進む欧州では、各国が電力網(グリッド)でつながっていて、不足する電力は購入できる仕組みなのだ。そのため、ドイツは原発停止当時は、フランスやチェコなどからの輸入電力でまかなったが、「今回、隣国から電力を購入したのは、そのときの電力価格が安かったからで、7基の原発停止分の電力を輸入せずとも、国内の電力をまかなえたのではないか」(地元ジャーナリスト)との指摘もある。そうなると、原発分である23%分のエネルギーがなくても、ドイツにはそんなに大きな経済的なダメージはなかったことになる。
そもそもドイツは石炭資源が豊富な国で、長らく余剰電力を他国に「輸出」し続けてきた。電力のベースロード(ある期間における最低の、変動することのない稼働状態のこと)の多くを石炭と褐炭(純度の低い石炭)が占めるため、資源の輸入が減っても、国内の石炭で、ある程度まかなうことが可能なのだ。ここに、エネルギーのほとんどを輸入に頼らざるをえない日本と大きな違いがある。
石炭を燃やせば当然、CO2が発生するわけで、地球環境を守るうえでも、CO2を発生させない「再生可能エネルギー」の普及を急ぐ必要がある。そのためドイツでは再生可能エネルギーの補助金に、約1兆3000億円を出して普及を促進する政策を採っている。しかしながら、再生可能エネルギーの普及に熱心なドイツにとって「ボトルネック」の問題がある。それは、国内の送電網が未整備なため、それらをいかに充実させ、拡充させるかに頭を悩ませているのだ。
ドイツには、アウトバーンと呼ばれる自動車専用の高速道路が存在するが、電力網も自動車道路のように張り巡らしたいと考えている。
「国内の南北に“電力アウトバーン”を敷設し、エネルギーの安定供給をはかる必要がありますが、住民の反発などで建設は進んでいません」(ヨッヘン・ホーマン氏)
ドイツは世界第3位の風力発電大国で、風力発電の多くは、強い風が期待できる北部などを中心に建設されている。しかし、電力を大量に消費する地域は、ダイムラーやBMWなど世界的な製造業の拠点がある南部地域に集中していて、原発の密集地域でもあるため、このままでは電力が足りなくなる恐れもある。だから北から南への4500キロに及ぶ“電力アウトバーン”の建設が不可欠なのだ。
しかしながら、現状は甘くない。電磁波などの影響を懸念してか、送電線の建設に地元住民の反発が根強いのだ。ドイツ政府は法律を改正し、早急な送電線の拡充に道を開こうとしているが、送電線の拡充こそが、再生可能エネルギーが普及につながるかどうかのカギとなる。
※すべて雑誌掲載当時 PRESIDENT 2012年3月5日号
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「発送電分離」先進国ドイツの現状は 脱原発!ドイツの成算なき挑戦【4】
2012年 3月29日 (木)
エネルギー政策で、発電コストは、避けて通れない問題だが、日本と同様に原発のコストは“一番安い”とされてきた。しかしながら、「原発コストと他エネルギーのコストを比較する議論ではなく、むしろ9割以上の国民の原発に対する嫌悪感で“反対”と決まったのです」(ドイツ最大の経済紙、ハンデルスブラットのフィン・マイヤー記者)
再生可能エネルギーを推進する立場の民間団体は、エネルギーコストをどのように捉えているのか。
「原子力発電コスト1kWhあたり約1.5円というのが、一応オフィシャルな数字です。ただし、原子力発電所を純粋に稼働しただけの数字で、原発事故に対する保険や予備費、広告宣伝費、環境に及ぼす害など他の要素は全く考慮されていません。私たちは、実際にはもっと高い数字と見積もっています。ちなみに褐炭のそれは、約1.5円、石炭は約4円、天然ガスは約5〜6円、風力発電は約9円です」(ドイツ再生可能エネルギー協会、ハイコ・シュシップナー政治部部長)
ちなみに、日本においては、原発事故が起きる前の政府の見積もりで、1kWhあたりのエネルギーコストは以下のようだった。原子力は5〜6円(事故後は8円)、石炭・天然ガス・火力は、5〜7円、太陽光は、37〜46円。特に原発コストは、国によってさまざまな算出法があるため、“政治的な数字”であるが、各国とも「コストの安さ」を原発建設と普及の錦の旗にしてきた経緯がある。
しかしながら、「3.11」の惨状を目の当たりにした多くのドイツ国民は、コスト論議などを吹き飛ばす勢いで、長年蓄積させてきた強烈な“原発アレルギー”を再び一挙に噴出させたのだ。
またドイツは、幼稚園から初等、中等、高等教育にいたるまで「環境」に関する教育が徹底していて、EU諸国の中でも環境意識の高い国民として知られている。
「すでに幼児期から環境に関する体験授業が数多くあり、環境に対してよいものなら、お金を払う文化です」(00年からドイツに5年駐在した大手商社マン)
よいものには、お金を払うのが当然という文化のため、自然に優しく持続可能な再生可能エネルギーのコストにも理解があるのだ。「供給会社で異なりますが、12年度は1kWhあたり約22〜26円で、そのうち約3.6円が再生可能エネルギーの振興費に充てられます」(シュシップナー氏)
また、現在日本でも議論の対象となっている電力事業者の発電・送電・配電分離(発送電分離)についてもドイツは先進国だ。ドイツでも日本と同様に約10年前までは、電力会社の発電・送電・配電は一体だった。しかしながら、規制緩和の流れを受け、電力会社の地域独占の形態が議論の対象にのぼり、電力の「発送電分離」を決めたのだ。
今では国民が自由に発電事業体、送電事業体を選ぶ仕組みに変わった。
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