事故“犯人”が再稼働旗振り
中日新聞《 特報 》2012/3/3 Tue.
東京電力柏崎刈羽原発6号機(新潟県)が3月26日に止まったことで、国内商業用原発のうち、運転中は北海道電力泊原発3号機のみとなった。一方、野田政権は原子力安全委員会の確認作業を受け、関西電力大飯原発3、4号機(福井県)の再稼働を目指している。「政治判断」し、地元の合意を得て、ゴーサインを出す構えだ。だが、この方針は倫理面からも問題がある。(上田千秋、小坂井文彦)
国民の多くは疑問・・・でも利益団体の代弁が「政治判断」
■原子力ムラ人
「政治判断」するのは野田佳彦首相、藤村修官房長官、枝野幸男経済産業相、細野豪志原発事故担当相の四閣僚。そろって原子力については素人だが、安全性に加え、電力需要という経済的、社会的な観点とすりあわせて判断する見込みだ。
だが、そうした目先の利益に惑わされた結果として、福島原発事故があったのではないのか。政治家が安全性を検証せず、不十分な安全対策を看過してきたことも原因の一つだったはずだ。
「原発危機と『東大話法』」などの著書がある東京大東洋文化研究所の安冨歩教授は「“素人”である政治家たちに判断を委ねること自体は間違いではない」と話す。
「逆に自分の研究分野にだけ精通している専門家が、正しい判断を下せる保証もないからだ」
ただ、こう条件を付ける。「同じ素人である国民の多くが『大丈夫だろうか』と、再稼働に疑問を抱いている。ならば、国民つまり素人の代表である政治家の判断内容はおのずと明らかだ」
ところが、実際は逆の方向に進み、別の意図を引き受けているようにも見える。「結局、原発推進の特定の専門家や利益集団に振り回され、その代弁をすることがここでの『政治判断』の意味ではないのか」
原発を再稼働させたい関西電力がつくった安全評価(ストレステスト)を「妥当」と判断したのは経産省原子力安全・保安院。その作業手順を原子力安全委員会がチェックして、確認を済ませた。この間の流れだ。
この作業に携わった人物たちは、そろって福島原発事故の“犯人”ともいえる「原子力ムラ」の住人たちである。これで安全性を信頼しろ、というのは無理がある。本来、テストされるべきはこうしたムラの住人や閉鎖的な構造ではなかったのか。
■刑務所行きに
京都大原子炉実験所の小出裕章助教は「原発は絶対安全で事故は起こさないというお墨付きを与えてきた人間たちが、同じやり方で『安全です』と言ってる状態。福島原発事故は収束せず、膨大な被害が現在も進行しているのに」と憤る。
小出助教は安全評価について「もともと想定内の事柄に対して、安全だと言っているだけで、まったく意味がない」と断じる。「彼らは全員“犯罪者”。本来なら刑務所に入れないといけない。再稼働だけでなく、原子力発電のすべてをやめるべき状況なのに、どうしてこんなことが許されるのか私にはさっぱり分からない」と批判する。
■神話にすがる
福島原発事故の原因については、国会の事故調査委員会が六月に報告書をまとめる。原因が分からないのに、そもそも安全評価や対策などできようはずもない。
自民党の河野太郎衆院議員は「国会事故調設置は衆院と参院が全会一致で決めたもの。尊重されなければならない。そもそも事故原因が地震か、津波かもはっきりしていない。政府は報告書を待つべきだ」と話す。
河野議員は国会議員の大多数の意見は「再稼働ちょっと待て」だとみている。しかし「自民党にも民主党にも、電力利権に絡んでいる議員が党の上層部にいるため、再稼働を急ぐなという意見が抑え込まれている。再稼働派は裏に回って動いているが、そういう意思決定の仕組み自体が問題。特に野党である自民党は、表で分かる議論をしなければいけないのに」
関連の審議会委員の利益相反は放置され、政府から独立しない「原子力規制庁」設置が法案化されている。フクシマの反省はなく、事故の教訓を覆い隠す「安全神話」がよみがえりつつある。
合意範囲 半径10?圏に限定…でも京都府、滋賀県が反対
■狭い範囲既定
政府は従来、原発から半径10キロ圏を防災対策重点地域(EPZ)としていたが、昨年11月、緊急防護措置区域(UPZ)を新設。対策地域を30キロ圏に拡大した。
だが、藤村官房長官は3月16日、「再稼働と防災の30?は内容的に全然違う案件だ。再稼働とは連動していない」と説明。再稼働への合意を得る「地元」の範囲を半径10?圏の地方自治体に限定する考えを示唆した。今月2日になって「数値的、機械的に判断できるものでなく最終的にはそれぞれの地域に即して政府が判断する」と軌道修正したが、当初は、電源立地地域対策交付金などの恩恵を受ける地域だけに絞り込もうとしていた。
佐藤栄佐久・前福島県知事は「私の住む郡山市は福島第一原発から50?も離れているが、場所によっては放射線量が高いまま。事故で影響が及ぶとみる地域を拡大したら、再稼働の意見を尋ねて当たり前。政府のやることはちぐはぐだ」。
「政府はとにかく早く再稼働したいだけ」と、「地元」概念の範囲拡大による反対意見の続出を警戒しているとみる。
対象外となりそうな周辺自治体の反発が急速に強まったため枝野経産相も2日、大飯原発3、4号機の再稼働には、京都府の山田啓二知事と滋賀県の嘉田由紀子知事の「二人の理解を得られなければ、地元の一定の理解を得たことにはならない」との見解を示すに至った。
■忘れるな福島
昨年暮れの野田首相による事故収束宣言。再稼働を進めたい政府にとって、宣言は不可欠だったといえる。事故の収束なしに「再稼働」とは言えないからだ。
しかし、現実には事故は収束せず、被害者の救済、賠償もまだまだこれからだ。その時点で、同等の事故が起きる可能性がゼロとは言えない再稼働に走っている。
福島県富岡町の遠藤勝也町長は「原因が分かっていない段階で、再稼働を言い出すのは理解に苦しむ。また同じことが繰り返される」と語る。同町は全域が警戒区域にあり、全住民が村外に避難を強いられた。帰還のめどはたっていない。
除染に賠償、町民の雇用確保…。問題は山積みのままだ。遠藤町長は「国はやらなければいけないことを何もやっていない」と怒りを込める。
「日本中に原発がある以上、どこでも福島と同じことが起きうる。それを忘れてはいけない」
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■大飯原発再稼働問題 嘉田知事「“理解”ではなく“同意”必要」
MBS NEWS 2012年04月04日(水) 12時34分
福井県の大飯原発の再稼働をめぐって枝野経済産業大臣が3日夜、「滋賀県と京都府の理解は必要だが、同意ではない」と述べたことについて、嘉田知事は「同意が前提」だと反発しています。
原子力安全委員会が「再稼働」へのお墨付きを与えた関西電力の大飯原発3号機と4号機。
最終的な判断を委ねられた政府は、福井だけでなく隣接する滋賀県や京都府の意向も踏まえるとしています。
しかし3日の閣僚会議で枝野大臣が、滋賀と京都への「理解が前提だが同意ではない」と発言、滋賀県の嘉田知事は反発しています。
「地元として同意は求めていきたい。国会の(福島)事故調査結果を待たずに政治的判断をするのは、国民の理解も得にくい」(滋賀県 嘉田由起子知事)
京都府の山田知事も再稼動に反対の意向を示しています。(04/04 12:06)
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◆あれから一年、早くも復活する原発「安全神話」 / 再稼動が他党や経済界との取引材料に 2012-03-16 | 地震/原発
PRESIDENT Online 2012年3月15日(木) 藤野光太郎
「3.11福島原発事故」から1年。相変わらず原子炉内部では頻繁に異常が発生し、現場作業も遅々として進んでいない。事故収束にはほど遠い情況だ。
国内各地の空間線量測定値は事故後、一様に上がっており、陸海空に拡散する放射性物質は今も汚染地域・海域を広げつつある。また、汚染された「食」は、政府が画策した“底上げ規制値”以下という手掛かりだけを頼りに全国で流通している。もはや、汚染地域は福島とその周辺だけではない。日本全国が“事故現場”となってしまったのだ。
福島県の定時降下物測定値を昨年3月まで遡ると、事故直後に降り注いだ大量の放射性核種は昨秋までにいったん落ち着いていたにも関わらず、今年1月には400ベクレル超、2月も350ベクレルという高い数値が検出されている。いずれも放射性セシウム134と同137が中心だ。日常生活でセシウム被曝が恒常化してしまったということである。
と同時に、原子炉内部の異常が続いている。2月には2号機圧力容器温度計の値が急上昇。東電は「計器の故障」と説明したが、その後もたびたび異常な温度上昇が続く。3月に入っても圧力容器底部で温度計の1つが異常な数値を示した。これに対して東電は、驚くべきことに「計器故障の可能性があるため監視対象から外した」と発表した。
危険を監視するために設置した計器が異常温度を報知すれば、まずは状態を確認する。異常な環境だからこそ計器が故障し続けているかもしれず、実は温度が異常で計器は正常である可能性も高いからだ。これを不明にしたまま納得できる説明もせず「監視対象から外す」との発表に、多くの国民が不審を抱いた。
つまり、事故後1年が経過した今もなお、国民は政府や東電に対して、情報隠蔽やデータ改竄を続けているのではないかとの疑惑を払拭できずにいるということだ。事故責任を問われるべき東電幹部や関係官僚は誰一人として断罪されず、被害者の生活をズタズタにしておきながら補償を渋る東電と金融機関は国庫で救済され、財源には国民の新たな税金が充てられる。危険は広がる一方だ。事態は好転せず、問題は何も解決していない。
■再稼動が他党や経済界との取引材料に
それどころか、すでに崩壊したはずの「神話」が今、政府と電力会社、原発関連企業、そして、御用学者や御用メディアを通じて再び甦りつつある。「安全は、技術革新と基本設計、制度改革で取り戻せる」「化石燃料の高騰を考えれば、原発のコストはそれほど高くはない」「温暖化防止を考えれば、エネルギーミックスとして原発がやはり必須だ」「原発を止めたら経済が成り立たない」――。
事故から「1年が過ぎた」のではなく、事故が「2年目に入った」のだ。喉元を過ぎてもいないのに、熱さを忘れたフリをするのか。
しかし、事故が勃発したら取り返しがつかないのが原発である。日本のような地震列島で完璧な安全対策は不可能だ。復旧や補償に要する途方もない財政出動は、原発に経済合理性がないことを明示している。CO2による地球温暖化説にも根強い異論がある。そもそも、世界のCO2排出量の大半を占める米中両国が温暖化防止にはそっぽを向いており、日本の努力は無駄だと分かっているからこそ、民主党政権も削減ルールから離脱しようとしているのだ。原発を放棄すれば経済が破綻するから再稼働が必要という理屈は、国民に「悲惨な事故のことなど早く忘れてしまえ」と言うに等しい。
ところが、最近になって急にこうした理屈を背景にした物言いが、政権中枢から出始めている。
国内54基中、稼働中の原発数基が4月末までに定期検査で停止すれば、日本の原発は瞬間的に「全停止」となる。その後の「再稼働」について、政権の顔ともいえる面々が「やる方向」であることをちらちらと洩らし始めたのだ。
2月24日、事故直後の官房長官として福島県民をミスリードした枝野幸男経産相が、BS番組で「今の電力需給状況では稼働させていただく必要がある」と述べ、再稼働がなければ電気料金は「5%とか10%とか15%とかいうレベルで上がる」と発言。3月に入って早々、今度は細野豪志環境省兼原発事故担当相も「安全性が確保できたものについて再稼働は必要だと思う」と発言(4日付、産経新聞)。その前日には、野田佳彦首相が「再稼働を政治判断した時には、政府が地元自治体を説得する」との意向を海外メディアに明言した。
「今、水面下で政界再編の駆け引きが進行中です。再稼働は他党や経済界との取引材料です」(野党議員秘書)。
事実であれば、とんでもない話だ。
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◆「もんじゅ」運営 原子力機構 関連団体に「会費」/天下り先や自民党大島理森副総裁ら国会議員団体にも 2012-03-26 | 地震/原発
もんじゅ運営 原子力機構 関連団体に「会費」8619万円
中日新聞2012年3月25日朝刊 1面
10年度文科省天下り先も
高速増殖原型炉「もんじゅ」(福井県敦賀市)を運営する独立行政法人「日本原子力研究開発機構」(茨城県東海村)が、2010年度、原子力関連の公益法人など81団体に「会費」名目で8619万円を支出していたことが本紙の取材で分かった。1口10万円の年会費に対して3千万円以上も支払っていた団体もあり、会費を隠れ蓑にして運営費を下支えしていた可能性もある。支出額が百万円を超える11団体のうち少なくとも7団体は文科省や経産省OBが役員を務めている。
■批判受け12年度95%減
原子力機構の運営費の大半は国の交付金で、税金の一部が原発を推進する天下り団体に流れていた。原子力機構は「不透明な支出があった」と認め、12年度から支出総額を95%減の364万円に大幅カットすると近く正式発表する。
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もんじゅ独法不透明支出 議員所属の団体にも 5年で1200万円
中日新聞2012年3月25日朝刊35面
高速増殖原型炉「もんじゅ」(福井県敦賀市)を運営する独立行政法人「日本原子力研究開発機構」(茨城県東海村)が、自民党を中心とする国会議員六人が役員を務める社団法人「原子燃料政策研究会」(東京都千代田区)に対し、「会費」として二〇一一年度までの五年間で千二百万円を支払っていたことが分かった。原発反対派は「核燃料サイクル事業の推進に政治力を利用していた」と批判している。
関係者によると、原子力機構は、前身の動力炉・核燃料開発事業団から原燃研究会の会員。一口一万二千円の年会費に対して二百口分、計二百四十万円を少なくとも〇七年度から毎年、支払っていた。
原燃研究会の会員は他に沖縄を除く電力九社や三菱重工業、東芝などの原子炉メーカー、竹中工務店などの大手ゼネコンを含む三十社と個人十七人。一〇年度は原子力機構の二百四十万円を含め三千六百四十万円の会費収入があったという。
原燃研究会は一九九二年、自民、旧社会党の国会議員らが原子力の平和利用や核燃料サイクルの推進などを目的に発足。機関誌「Plutonium(プルトニウム)」の発行のほか、〇四年に設立した超党派の国会議員でつくる「資源エネルギー長期政策議員研究会」(会長・甘利明元経済産業相、会員・百五人)に情報や資料の提供を行うなど活動を支援している。
公表資料によると、会長、副会長、理事は計十一人で、すべて無給の非常勤。会長は学識経験者だが、副会長の津島雄二元衆院議員をはじめ現・元衆参議員九人が役員に名を連ねる。
現職議員は六人で、自民党の大島理森副総裁、江渡聡徳、木村太郎の両副幹事長ら。三人はいずれも六ケ所村再処理工場など核燃施設のある青森県選出の衆院議員。民主党エネルギープロジェクトチーム座長の大畠章宏元経産相も一〇年九月の大臣就任まで理事を務めていた。
機構から多額の会費を受け取っていたことについて、研究会の担当者は本紙の取材に「会の趣旨に賛同していただいた」と話した。
理事を務める大島副総裁は「事務に関することは分からない」と文書で回答。大畠元経産相も事務所を通じて「純粋なエネルギー研究会だと認識し、参加してきた。大臣就任を機に現在は退会している」とコメントした。
機構は、所管する文部科学省OBの再就職先を含む八十の公益法人に「会費」として一〇年に約八千六百万円を支出していたが、批判を受け、一二年度は九割超削減して約三百六十万円とする方針を今月表明。原燃研究会についても退会し、支出をゼロにする方針。
日本原子力研究開発機構
原子力に関する研究や技術開発を目的とした独立行政法人。2005年10月に日本原子力研究所と核燃料サイクル開発機構が統合して発足した。理事9人のうち3人が原発を推進する文部科学省と経済産業省の元幹部。福島第一原発事故を受け、政府は夏までに、もんじゅを含めた核燃料サイクルの是非を決める方針。
「原発ムラ」の象徴
原子力資料情報室の伴英幸共同代表の話
原燃研究会は原発の族議員と経済界が結び付く「原発ムラ」の象徴のようだ。原子力機構は寄付のような会費を支払うことで、原子力政策を有利に進めたい狙いがあるのだろう。国会審議で議員が特別な配慮をするなど影響が懸念される。そもそも原子力機構の予算は国が決めており、その一部が国会議員が役員の団体に流れること自体がおかしい。
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◆大飯原発再稼働 手続き先行 / 再稼働の是非を政治家に委ねたのでは拙速感は否めない 2012-03-16 | 地震/原発