元少年実名掲載の本 販売中止認めず
NHKニュース5月23日 18時20分
山口県光市の母子殺害事件で死刑が確定した元少年が、自分の実名などが掲載された本を販売しないよう求めた裁判で、広島地方裁判所は「元少年は、出版当時成人になっていて、重大な損失を受けるおそれがあるとは言えない」などとして、販売中止は認めなかった一方で、顔写真を載せたことについては「必要性を見いだせない」と指摘して、著者などに合わせて66万円の支払いを命じました。
この裁判は、平成11年に山口県光市で起きた母子殺害事件を巡って、3年前に東京の出版社が出した本の中で実名を掲載されたことなどに対し、死刑が確定した元少年が、出版や販売の中止と賠償を求めたものです。
判決で広島地方裁判所の植屋伸一裁判長は、「残虐な事件で、社会に与えた影響が大きいことや、元少年が出版当時成人になっていて、実名の掲載を承諾していたことなどから、重大な損失を受けるおそれがあるとは言えない」などの理由で、出版や販売の中止は認めませんでした。
一方で、元少年の顔写真を載せたことについては、「承諾をとっておらず、顔写真を掲載しても本の内容の価値に変化が生じるものとも考えにくい。掲載する必要性を見いだせず、肖像権を侵害した」と判断したほか、知人から送られた手紙を写真で掲載したことについても、「公開しないと誓約書を交わしていた」と指摘して、著者と出版社の代表に、慰謝料など合わせて66万円を支払うよう命じました。
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光母子実名本、死刑囚の出版差し止め請求は棄却
山口県光市の母子殺害事件で、犯行当時18歳だった**死刑囚(31)(殺人罪などで死刑判決が確定)が、実名を記載された本の著者らを相手取り、少年法61条に違反し人格権も侵害されたとして出版差し止めと約1300万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が23日、広島地裁であった。
植屋伸一裁判長(森崎英二裁判長代読)は、プライバシー権を侵害したなどとして被告側に計66万円の支払いを命じた。出版差し止め請求は棄却された。
著者は増田美智子さん(31)(東京都)で、出版元は「インシデンツ」(東京都)。
これまで同死刑囚側は「出版を承諾しておらず、事前に内容を確認する約束があったのに守られなかった」と主張し、「話題作りのために、顔写真付きで実名記載した」などとプライバシー権や肖像権も侵害されたと訴えていた。
増田さん側は実名記載について、「(同死刑囚の)実像に迫るために必要」としたうえで、出版の承諾を得ており、事前確認の約束もなかったと反論していた。
本は、同死刑囚が広島高裁の差し戻し控訴審で死刑判決を受け、上告中だった2009年10月に出版。増田さんが拘置所内で面会した内容などを基に、実名や顔写真、知人への手紙を掲載し、約2万5000部が販売されたという。
同死刑囚側は発売直後、同地裁に出版差し止めを求めて仮処分申請。同地裁は「本は公益を図る目的であり、実名記載に同意していた」などと却下していた。
刑事裁判は、最高裁が今年2月に上告を棄却し、死刑判決が確定した。
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増田さん側が、虚偽の主張で名誉を傷つけられたとして同死刑囚らに約1600万円の損害賠償を求めた裁判の判決も23日に広島地裁であり、植屋裁判長は訴えを退けた。
(2012年5月23日13時48分 読売新聞) ※読売新聞の上記記事は死刑囚を実名で報じていましたが、来栖の一存で**と表記した。
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◆光市事件 実名本訴訟 元少年を証人尋問〈10月 広島拘置所内〉 2011-09-01 | 光市母子殺害事件
実名本訴訟で元少年を証人に
光市母子殺害事件の被告の元少年(30)=死刑判決を受け上告中=を実名表記した単行本をめぐり、元少年が著者と出版会社代表に対し出版差し止めなどを求めた訴訟で、広島地裁は31日、元少年を証人尋問することを決めた。10月中に広島拘置所(広島市中区)で実施する。
地裁がこの日の弁論準備で決定した。元少年の代理人などによると、被告側は尋問場所について「公開の法廷でやるべきだ」と主張したが、地裁は警備上の理由から広島拘置所を選んだという。
元少年は1999年の事件で殺人や女性暴行致死などの罪に問われ、2008年に広島高裁の差し戻し控訴審で死刑判決を受けて上告した。来年1月23日に最高裁で弁論が開かれる予定。
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◆光市母子殺害事件 毎日新聞社の勝訴確定=実名本の著者(増田美智子氏)側の上告を棄却2011-06-09 | 光市母子殺害事件
山口・光の母子殺害:実名本訴訟 毎日新聞社の勝訴確定
山口県光市の母子殺害事件で、被告の元少年(30)=差し戻し控訴審で死刑、上告中=の実名を記した本の著者、増田美智子さん(30)ら2人が「社説で名誉を傷付けられた」として、毎日新聞社に賠償を求めた訴訟の上告審で、最高裁第3小法廷(岡部喜代子裁判長)は7日付で、著者側の上告を棄却する決定を出した。本社の勝訴とした2審判決(10年12月)が確定した。
増田さんらは「(取材した)当事者に知らせることなく出版しようとした」などの社説の記述は事実に反すると提訴。1審の東京地裁判決(10年6月)と東京高裁判決はいずれも前提事実に誤りはないと認定。「社会的に議論のある問題を取り上げ、出版倫理の観点から問題提起している」と社説の公益性を認めた。
◇毎日新聞社社長室広報担当の話
当社の主張が十分に認められた決定と受け止めています。
毎日新聞 2011年6月9日 東京朝刊
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◆光市母子殺害事件実名表記本「利益優先」「増刷行為=決定を待つのが出版倫理ではないか」2009-11-12 | 光市母子殺害事件
社説:光事件実名本 妥当な決定ではあるが
少年事件における出版・表現の自由はどこまで認められるのか。99年に起きた山口県光市の母子殺害事件をめぐり、当時18歳だった被告の元少年(28)を実名表記したルポルタージュ本につい、広島地裁が元少年側の出版差し止めの仮処分申し立てを却下する決定をした。
内容の一部に元少年に対するプライバシーの侵害行為はあるが、出版によって回復困難な損害を受けるとまでは認められない、というのが理由だ。検閲につながりかねない出版物の差し止めは、プライバシー侵害による損害の程度が極めて大きい場合に限定すべきだという従来の司法判断の延長線上の結論であり、妥当といえるのではないか。
元少年は昨年4月、広島高裁の差し戻し控訴審で死刑を言い渡され、上告中だ。今、全国で最も注目される少年事件の被告といっていい。本は元少年の実名(名字)から「■■君を殺して何になる」というタイトルが付けられている。書名自体が、少年時の罪で起訴された者の実名表記を禁じる少年法に違反するため、出版界に波紋を呼び、先月7日の発売時の書店の対応も分かれた。
著者はフリーのライターで、死刑判決以後、元少年と文通や面会を重ねたという。本は、そのやりとりや手紙の引用、元少年の父親や友人ら関係者への取材内容を中心に構成している。題名どおり元少年の死刑判決に懐疑的な内容だが、少年側の弁護団は反発した。原稿を事前に確認させる約束が守られず、内容も元少年の人格権を侵害すると主張した。
決定は、事前に原稿を見せる約束があったとはいえないと判断し、差し止め請求は退けた。だが、今回の出版については、表現の自由が守られたと楽観できないのも事実だ。
決定が「事前確認行為なく書籍を出版したことの是非はともかく」と結論に注釈を付けたように、当事者に知らせることなく出版しようとした行為は、いかにも不意打ち的だ。また、元少年側が先月5日に仮処分を申し立てた後、初版が売り切れると2万部増刷した行為も適切だろうか。決定を待つのがせめてもの出版倫理ではないか。
なぜ実名を書かねばならなかったのか。著者は「少年の実像を知ってもらうのには欠かせない」と説明するが、十分な説得力があるだろうか。これまでの経緯をみると、利益優先との批判はやむを得ない側面もある。
決定は、元少年から著者への手紙や、中学時代の顔写真を掲載した点について、プライバシーを侵害すると認定した。今回の出版については、既に損害賠償を求める訴えが別に起こされている。そちらで十分な審理を尽くしてほしい。毎日新聞 2009年11月11日 東京朝刊
◆光母子殺害実名本「安易に一線越えた」作家ら疑問の声も2009-10-14 | 光市母子殺害事件
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◆光市母子殺害事件 実名本で元少年が提訴、出版差し止めなど求める2009-11-02 | 光市母子殺害事件
山口県光市の母子殺害事件の被告で当時18歳だった元少年(28)=死刑判決を受け上告中=を実名表記した本の販売をめぐり、元少年が著者の増田美智子氏(28)と出版元「インシデンツ」(東京都日野市)の寺沢有代表(42)を相手取り、出版差し止めと慰謝料など1100万円の損害賠償を求めて広島地裁に提訴したことが分かった。元少年は出版差し止めを求める仮処分申請を同地裁に申し立てているが決定は出ていない。
提訴は10月15日付。訴状などによると、増田氏らは元少年に対し、文書を発表する時は、原稿の内容などを事前に確認すると約束していたのに、守られなかったと指摘。さらに、出版された本は元少年の実名をタイトルに入れ、表紙にも大きくデザインするなどしており、少年の実名の出版物への掲載を禁じた少年法61条に反しているなどと主張している。
出版元側代理人の堀敏明弁護士は「まだ訴状を読んでいないが、これまで通り出版に違法性はないと主張していく」と話している。(朝日新聞2009年11月2日)
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〈来栖のつぶやき 2009/10/12〉
光市事件の元少年被告人の実名を記した(というよりタイトルにした)本が出版され---そのまえに弁護団が出版の差し止めを求めた---著者側は「被告人の了解は得た」と言い、弁護団は「被告人は了解していない」と主張。了解如何に係わらず、少年法に抵触する行為だ。売らんかな、の底意が見えている。これは先の草薙厚子氏の『ぼくはパパを殺すことにきめた』も同様である。醜悪な行為だ。
ところで、「虐待を受けて育った人は周囲の人の云うことに自分を合わせる、気に入られようとするものです」、ある人から、私はそのように聞かされた。ならば、光市事件被告人も、おそらくは増田氏の申し出に「否と云えなくて」「歓心を買いたくて」実名出版を了解したのではないか。
不幸な境遇に育った少年である。父親の虐待に怯え、母親とは共依存の間柄で、独立し(解放され)た自分の意見など持ち得なかった(人に合わせることしか知らない)。
彼の弁護人の安田好弘氏は、2006年6月19日の講演「光市最高裁判決と弁護人バッシング報道・・・裁判から疎外された被告人」で、次のように云う。
「私は、少年と今年の2月27日、広島拘置所で会いました。彼はたいへん幼かったというか、大人ずれしていないというか、25歳になろうという年齢でしたが、見た目では中学生あるいは高校生といっていいくらいの印象をうけました。容貌、相貌もそうでした」。
幼かった理由を
「18歳1ヵ月で逮捕され、そのまま独居房に隔離されて身柄拘束されているわけですから、成長の機会が完全に奪われたままであることも確かです」。
と云われる、が、これは少し違うかもしれない。虐待のなかでは、心も体も育たない。逮捕後に成長の機会が完全に奪われたのではないだろう。
生まれてきてよかったと思える日々、楽しい、嬉しいと感じる日々が元少年に幾日あっただろう。増田氏には、被告人の哀しみが一つもお分かりになっていないのではないか。わずか25回の接見では無理もないが。被告人の孤独な佇まいが、如何にも無残だ・・・。
◆光市事件