原子力委員会 コソコソ何をしている
中日新聞 社説 2012年5月27日
内閣府の原子力委員会が核燃料サイクル推進派を集めて勉強会を開き、報告書の原案に手を加えていた。「原子力ムラ」の暗躍そのものだ。こんな組織は完全に解体し、ゼロから出直すべきだ。
あれほど悲惨な事故を起こしながら、性懲りもなく、まだ舞台裏でコソコソやっていたのか。まったくあきれ返る事態である。
問題の勉強会には、電力十社でつくる電気事業連合会や高速増殖原型炉もんじゅを運営する日本原子力研究開発機構など推進派の面々が勢ぞろいしていた。そこで小委員会に提出する報告の原案を配り、使用済み核燃料の再処理方法について議論した。
その結果、報告の記述が地中廃棄のデメリットを強調する一方、プルトニウムを取り出す現行の再処理と廃棄の併存案に有利なように書き改められたという。
二十回以上も開かれた勉強会には、近藤駿介原子力委員長のほか鈴木達治郎委員長代理、内閣府や経済産業省・資源エネルギー庁、文部科学省の官僚も参加していた。会場は東京・霞が関の合同庁舎会議室である。
ようするに原子力委員会は本来の委員会とは別に同時並行で、国民の目が届かないようにして推進派だけを集めた「裏会合」を開き、推進派に都合がいい報告内容を下書きしていたのである。
政府は「報告書が書き換えられたことはない」などと釈明しているが、そんな話をだれが信用するだろうか。委員会のメンバーではない推進派の関係者に原案が配られたという事実だけで、原子力委員会の中立・透明性が著しく阻害されたのはあきらかである。
原子力委員会は事務局に電力会社や関係メーカーの社員が出向している。もともと推進派有利に委員会を運営できる仕組みになっていただけでなく、原子力ムラの面々は白昼堂々、裏会合を開いて大復活を目指していたのだ。原発事故の反省など、どこ吹く風といった感じだったのだろう。
こんなありさまで国の原子力政策や原発再稼働に理解を求めようとしても、とうてい無理だ。細野豪志原発事故担当相は電力会社社員の事務局出向を見直す考えを示したが、そんな小手先の対応で済む話ではない。
まず近藤原子力委員長はじめ関係者を更迭すべきだ。そのうえで原子力委員会の組織を抜本的に見直す必要がある。業界との癒着が明白な組織がどんな報告をしようと国民は信用しない。
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中日春秋
2012年5月27日
中国の古典に由来する<瓜田(かでん)に履(くつ)を納(い)れず、李下(りか)に冠を正さず>という戒めは、万人向けとは言えない気がする▼ウリ畑で靴が脱げたら履き直すし、スモモの木の下にいて頭の冠がずれたら直すのが普通だ。それを「するな」というのは、無論、その仕草がウリやスモモを盗んでいると見なされかねないから▼問題は、人にどう見えるかで、盗む気のあるなしは関係ない。いささか被害妄想的でもあるこの金言の前提は、他者に疑念は持たれたくないとの恐れを持っていることで、それがない向きには響きようがない▼最近、国の原子力委員会が核燃料サイクルの今後に関する報告書原案を、日本原燃など推進側だけを集めた勉強会で事前に見せていたことが分かった。報告書案は結果的にサイクル推進に有利な表現に直された▼また、原子力委の事務局に電力会社や原発メーカーなどからここ五年で延べ二十人もの出向者が来ていたことも判明。ほかにも国や地方の原発関連の委員会などで委員を務める学者が原発業界から寄付を受けていたケースなどが次々明らかになっている▼この種問題への答えは、いつも、声にも人にもカネにも「影響されていない」としれっとしたもの。いまだ国策を担ってきた驕(おご)りの中なのか、原発ムラは国民に疑われることなど少しも恐れていない風だ。履だ冠だと言っても、馬耳東風である。
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原子力ムラの面々は、核燃料サイクル推進派を集め裏会合を開いて・・・原発事故の反省など、どこ吹く風
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