Quantcast
Channel: 午後のアダージォ
Viewing all articles
Browse latest Browse all 10100

鹿児島・川内 九州電力は「原発の影響はない」と言うが/温排水による海水温上昇/塩素の垂れ流し/磯焼け

$
0
0

<新日本 原発 紀行> 鹿児島・川内
2011年5月21日中日新聞【特報】
 福島の原発事故は、南西に千二百キロも離れた日本最南端の原発、九州電力川内原発を抱える鹿児島県をも揺るがせている。事故の風評被害により、同県を訪れる外国人観光客は激減。そうした影響からか、保守系が強い県議会の改選で、反原発を掲げる革新系新人が当選するという「番狂わせ」が起きた。さらに川内原発(同県薩摩川内市)の3号機増設は凍結が決まった。このうねりは本物なのか。(鈴木伸幸)

最南端でも風評被害 外国人観光客激減 ブリ輸出 ストップ
 緑が目にまぶしい、広いフェアウエー。見上げれば抜けるような青空が広がる。南国情緒あふれる九州の名門「かごしま空港36カントリークラブ」(同県霧島市)。ここにも、東日本大震災が襲った三月十一日から異変が起きていた。
 「一年間で一万二千人もいた韓国人客がゼロになった。キャンセルが相次いで壊滅状態」と金永出(キムヨンチュル)国際部長は顔をしかめた。「福島からの距離、コースで測定した放射線量に変化がないことを示しても、来てもらえない」
 養殖ブリで知られる同県長島町も風評被害にさらされた。韓国、台湾への輸出が止まった。東町漁協の海江田美治常務は「海外では福島と鹿児島を区別してくれない。『日本は日本』という感覚。それを再認識した」と話した。
 震災は、その翌日に全線開通した鹿児島中央と博多を結ぶ九州新幹線にも水を差した。「記念式典は注目されず、自粛ムードで、観光客は予想以下」と鹿児島市内の観光業者は首を振った。
 福島の事故で安全神話は崩壊。そして、地元への風評被害も後押しとなって、川内原発の反対運動には弾みがついた。
 「鹿児島は保守的。問題意識はあっても、お上相手に声を上げてくれない。でも、福島の事故後は、応援の声を掛けられるようになった」
 川内原発建設反対連絡協議会の鳥原良子会長(62)はそう語る。
 「反対運動の参加者が高齢化する中、若い人が入ってきてくれた。それがうれしかった」
 九電は九州最大の企業だ。関連事業や取引先を含めれば、地域経済への影響力は大きく、盾突くことはタブーだった。
 そんな“怪物”を相手に「九電と原発」など原発を批判する書籍を出版してきた「南方新社」(鹿児島市)の向原祥隆社長(54)も「問い合わせが殺到している。こんな経験はなく、手応えを感じる」と笑顔を見せた。
 その向原社長がここ数年、最も気掛かりなのが、川内原発の周辺海域での環境変化だ。
 「原発が出す温排水の量は、九州南部で最大の川内川の流量に匹敵する。その影響で海水温が上がっている。原発周辺の砂浜には、イルカやサメなどの死骸が打ち上げられるようになった」*画像≪砂浜に打ち上げられた体長約80?のサメ。砂浜の向こう側に川内原発がある。=薩摩川内市で≫
 最初に死骸の急増に気付いたのは、薩摩川内市委託のウミガメ観察員、中野行男さん(53)だ。 「五年ほど前から、ほぼ毎日、原発周辺の浜辺を歩いている。そのころから大型魚類の死骸漂着はあったが、数が増えてきたので、二〇〇九年にサメを数えたら二十九匹。他の海岸ではそんな話を聞かない。何らかの警告ではないのか」

「問題なし」一辺倒 増幅する九電への不信 3号機 事実上の凍結
 温排水については原子力安全協定で「取水口と放水口における海水の温度差は、七度以下とする」と定められている。
 ところが、取水口と放水口までの距離はわずか二百メートル。取水口の海水温が上がる「温排水の再循環」が再三、指摘されている。九電は「深層取水方式を採用している」と主張するが「深層」といっても四メートルの深さ。干潮時には二メートルしかない。
 温排水が影響する海域を「放水口から二キロ内外」とする九電の主張も疑問視されている。九電の調査記録を見直すと、南に潮が流れる「下げ潮」時には、温水域が南側に大きく膨らみ、逆に「上げ潮」時には北側に大きく膨らむ。その膨らみは五キロにも及んでいる。
 温排水の問題は温度だけではない。海水は原子炉の冷却パイプ内を流れる。そのパイプの内側にフジツボなどが付かないように大量の塩素が混ぜられる。それも放水口から垂れ流されている。
 因果関係は不明だが、原発から五キロ以上も離れた海域で海藻が枯れる「磯焼け」が深刻化。漁獲高が全盛時の約五分の一に減った漁協もある。
 漁業補償を受けていない、原発から二キロ以上離れたある漁協の組合長は「九電は『原発の影響はない』というので、信じてきたのだが…。私たちが声を上げても『法的根拠がない』と言われてしまう」と打ち明けた。
 九電のこうした「問題なし」一辺倒の姿勢は、最近に始まったことではない。
 鹿児島大学の橋爪健郎元助手は「かつて原発建設時の掘削調査で、サンプルすり替え事件というのがあった。加えて、建設時は『ない』としていた周辺の活断層も、その後、存在を認めた。一九九七年に川内で震度5強の地震があったが、その時に原発で記録された観測データをいったんは出すとしながら、後に『欠落していた』とした。信用できない」と憤る。
 蓄積していた九電に対する住民の不信感は、今回の福島の原発事故で一気に噴き出した。
 先月十日投開票の鹿児島県議選。川内原発の3号機増設の是非が争点となったが、薩摩川内市区(定数三)で保守系三人の「指定席」の一角を、増設反対を訴えた社民推薦の遠嶋春日児(とおじまはるひこ)氏が奪った。
 地元紙の世論調査でも、ほぼ七割が増設に反対した。鹿児島県もこうした世論を無視できずに、3号機の増設計画は事実上の凍結となった。
 ただ、伊藤祐一郎知事は既に表明した「増設への同意」は変えない意向だ。3号機の建設費は五千四百億円とされ、その経済的恩恵は大きく、賛成派は現在、嵐が過ぎ去るのを待っているようにも見える。
 当選した遠嶋県議も「私が当選した一方で、原発反対を訴えた現職の仲間が落選した。選挙期間中の反応がよかった割には、票は伸びなかった。増設凍結から一歩先に進みたいが、県民の真意はどこまであるのか」と、思いあぐねる。
 前出の中野さんも「昔は、川内からは出稼ぎする人が多かった。親戚や同級生にも九電に世話になっている人も多く、(反対が定着するのは)そう簡単ではない」と複雑な心境を吐露する。
 だが、橋爪氏はそうした弱腰を一喝する。「福島の事故は『想定外』とされているが、自然災害の想定は無理。私たちが持つ災害の記録はたかだか数百年で、万年単位の災害は想定できない。今回は脱原発に向けての最後のチャンス。それとも、川内原発で事故がなければ分からないのか」


Viewing all articles
Browse latest Browse all 10100

Trending Articles