原発ゼロ「変更余地残せ」 閣議決定回避 米が要求
中日新聞2012年9月22日 07時07分
野田内閣が「二〇三〇年代に原発稼働ゼロ」を目指す戦略の閣議決定の是非を判断する直前、米政府側が閣議決定を見送るよう要求していたことが二十一日、政府内部への取材で分かった。米高官は日本側による事前説明の場で「法律にしたり、閣議決定して政策をしばり、見直せなくなることを懸念する」と述べ、将来の内閣を含めて日本が原発稼働ゼロの戦略を変える余地を残すよう求めていた。
政府は「革新的エネルギー・環境(エネ環)戦略」の決定が大詰めを迎えた九月初め以降、在米日本大使館や、訪米した大串博志内閣府政務官、長島昭久首相補佐官らが戦略の内容説明を米側に繰り返した。
十四日の会談で、米高官の国家安全保障会議(NSC)のフロマン補佐官はエネ環戦略を閣議決定することを「懸念する」と表明。この時点では、大串氏は「エネ戦略は閣議決定したい」と説明したという。
さらに米側は「二〇三〇年代」という期限を設けた目標も問題視した。米民主党政権に強い影響力があるシンクタンク、新米国安全保障センター(CNAS)のクローニン上級顧問は十三日、「具体的な行程もなく、目標時期を示す政策は危うい」と指摘した。これに対して、長島氏は「目標の時期なしで原発を再稼働した場合、国民は政府が原発推進に突き進むと受け止めてしまう」との趣旨で、ゼロ目標を入れた内閣の立場を伝えていた。また交渉で米側は、核技術の衰退による安全保障上の懸念なども表明したという。
エネ環戦略は十四日に決めたが、野田内閣は米側の意向をくみ取り、「エネ環政策は、柔軟性を持って不断の検証と見直しを行いながら遂行する」という短い一文だけを閣議決定。「原発稼働ゼロ」を明記した戦略そのものの閣議決定は見送った。
大串、長島両氏は帰国後、官邸で野田佳彦首相に訪米内容を報告している。
政府関係者は「事前に米側に報告して『原発稼働ゼロ』決定への理解を求めようとしたが、米側は日本が原発や核燃サイクルから撤退し、安全保障上の協力関係が薄れることを恐れ、閣議決定の回避を要請したのではないか」と指摘している。
■「判断変えてない」大串政務官
原発ゼロをめぐる米国との協議について、大串博志内閣府政務官は二十一日、本紙の取材に対し「個別のやりとりの内容は申し上げられないが、米側からはさまざまな論点、課題の指摘があった。米側からの指摘で日本政府が判断を変えたということはない」と話した。
■骨抜き背景に米圧力
<解説> 「原発ゼロ」を求める多数の国民の声を無視し、日本政府が米国側の「原発ゼロ政策の固定化につながる閣議決定は回避せよ」との要求を受け、結果的に圧力に屈していた実態が明らかになった。「原発ゼロ」を掲げた新戦略を事実上、骨抜きにした野田内閣の判断は、国民を巻き込んだこれまでの議論を踏みにじる行為で到底、許されるものではない。
意見交換の中で米側は、日本の主権を尊重すると説明しながらも、米側の要求の根拠として「日本の核技術の衰退は、米国の原子力産業にも悪影響を与える」「再処理施設を稼働し続けたまま原発ゼロになるなら、プルトニウムが日本国内に蓄積され、軍事転用が可能な状況を生んでしまう」などと指摘。再三、米側の「国益」に反すると強調したという。
当初は、「原発稼働ゼロ」を求める国内世論を米側に説明していた野田内閣。しかし、米側は「政策をしばることなく、選挙で選ばれた人がいつでも政策を変えられる可能性を残すように」と揺さぶりを続けた。
放射能汚染の影響により現在でも十六万人の避難民が故郷に戻れず、風評被害は農業や漁業を衰退させた。多くの国民の切実な思いを置き去りに、閣議での決定という極めて重い判断を見送った理由について、政府は説明責任を果たす義務がある。(望月衣塑子)
=========================================
米 圧力で「骨抜き」 補佐官派遣しお伺い
東京新聞2012年9月15日 朝刊
政府は十四日、新たなエネルギー戦略を決めた。日本国民にとって将来の暮らしを大きく左右する重大な指針となるが、決定間際に野田佳彦首相が最も心を砕いたのは「原発ゼロ」に不快感を表明した米国の意向だ。長島昭久首相補佐官らを急きょ米国に派遣。お伺いを立てた末の骨抜き決着は、米への追随路線を極めたものといえ、今後の原発政策に疑問を抱かざるを得ない。(城島建治)
「未来の世代に対し責任を果たすためにも一歩ずつ国民の皆さんと一緒に始めていきたい」
首相は新戦略を決めたエネルギー・環境会議で「国民とともに」の姿勢をアピールした。だが、決定を前にした九月の動きを見る限り、首相が注視していたのは米側の動向であることは間違いない。ロシア・ウラジオストクでのクリントン米国務長官との会談を皮切りに「原発ゼロ」への懸念表明が相次いだためだ。
一九七九年のスリーマイル島の原発事故後、米国は原発新設を中断。米国の原子力産業は日本が技術、資金の両面で支えている。日本が原発ゼロを打ち出せば、日本の技術力低下は避けられず、日米両国は原発増設を進める中国に原子力市場で主導権を握られかねない、と米側は不安視している。
米側のけんまくに、政府は当初予定の十日決定を先送り。長島氏と大串博志内閣府政務官を慌てて米国に派遣する事態になった。中国、韓国との領土問題をめぐっては、冷静な対処を基本方針とする一方、時には強気な姿勢をみせるのとは、実に対照的だ。
沖縄県の米軍基地再編問題などで、野田政権の対米追随は顕著になっている。政府内からでさえ「今回は内政干渉だ」との声が出ている。
長島氏らは米国務省などの関係者と会談後、首相官邸に国際電話で状況を報告。「米側の反発が強い」(政府関係者)ことがあらためて分かったという。結局、新戦略には「日本の原子力政策は米国はじめ、諸外国との協力体制で行われている。諸外国と緊密に協議する」と明記され、米側へ配慮して後退した。
十四日夕のエネルギー・環境会議後、首相が真っ先に会ったのは長島氏ら二人。長島氏が「今後きちんと議論をしていこうということです」と米国との協議が実質先送りになったことを伝えると、首相は「お疲れさま」とねぎらった。
============================================
米紙、日本政府の原発ゼロに「温暖化へ犠牲」と懸念
日本経済新聞2012/9/18 9:43
【ワシントン=中山真】米紙ワシントン・ポストは17日付の紙面で「日本の原発ゼロの夢」と題した社説を掲載し、2030年代に原発稼働ゼロを目指す日本政府のエネルギー・環境戦略について「経済コストや地球温暖化への深刻な犠牲を伴う」などと懸念する見解を表明した。
同社説は昨年の福島第1原子力発電所事故によって多くの日本人が(原発事故による)土壌汚染や緊急避難への危機意識を持ったと説明。日本人が原発がない将来を夢見るのは理解できるとしながらも、代替エネルギーに関する日本政府の説明は「反原発活動家の主張を取り込んだ」実現性の低いものと批判した。
特に地球温暖化への取り組みには日本の原子力の設備やノウハウが安全性を維持できる限り「貴重な資産」となると強調。原発によって日本が温暖化ガスの排出量をより抑制できる点を指摘し、原発を稼働しておくことの重要性を強調した。
ただ、社説では今回の決定は単なる政治的なもので、民主党が次期衆院選での大敗を防ぐために強硬姿勢を示したとの見方があるとも指摘。「その場合、国民は政府によって踊らされただけということになるが、世界第3位の経済大国の電力供給に柔軟性が残るという利点もある」と締めくくった。
===================================
『なぜアメリカは日本に二発の原爆を落としたのか』日高義樹著《ハドソン研究所首席研究員》
2012年07月25日1刷発行 PHP研究所
第4部 なぜ福島原発事故の処理は世界で評判が悪いのか
p245〜
日本の人々は、日本が世界唯一の核爆弾による被害者である事実に甘えている。そのことをはっきりさせたのが、4月初めの『ニューヨーク・タイムズ』の論説で、日本が原子力発電をやめると決めたことに対して「地球温暖化の問題を考えれば、賢明ではない」と日本の態度を批判するものだった。
全米商工会議所やエネルギー省の私の知り合いも、エネルギーの将来については可能性を大きく残すべきで、福島原発事故があったからといって、原発をすべてやめるのは行き過ぎであるという見方をしている。
日本にはもともと、原爆を投下されたことから核エネルギーに対する恐れが強い。原子力発電についても用心深いほうが正しいと信じて、福島原発を契機にやめてしまうことについて、世界で称賛されると思った人が多いようである。だが世界の専門家は、福島原発事故のあと日本が行うべきは「いかに原子力発電を、より安全にするか」という努力であると考えている。今度の失敗をもとに、さらに安全な仕組みを考えて世界に提示してほしいと思っている。
p246〜
世界の人々は広島と長崎に投下された原爆を原点として、核エネルギーの危険性を十分に理解している。だが原子力発電が世界の現実になっている現在、地下資源のない日本が、資源のある国々と同じように、簡単に核エネルギーを捨て去ることについて、世界の人々は決して日本を尊敬してはいない。
世界中専門家が、福島原発の処理にあたって日本政府が秘密主義をとったことを厳しく批判したが、原発停止についても、日本が専制国家のように国民的な議論をすることもなく決めたことに驚いている。
東北地方太平洋沖地震と大津波によって事故が起きたとき、アメリカの友人たちは、日本に同情的だった。だが、現在は批判に変わり、日本の後ろ向きの姿勢に失望して世界の経済人が日本を見放そうとしているが、日本の人々は注意を払おうとしない。
原爆の被害者である日本人はもともと、核の問題については自分たちだけに通用する理屈と行動を押し通してきているが、本人はそのことに気がついていない。(略)
p247〜
こういった同情的な見方が静かにではあるが徐々に変わり、日本に対する不信の念がワシントンでは強まってきた。その最大の原因は、アメリカのマスコミだった。現地にいた新聞記者たちは、日本政府や東電が詳しい情報をまったく提供しないと伝え、「日本政府や関係者は大丈夫だ、大丈夫だと言うばかりだ」と厳しく非難した。
p249〜
アメリカでは、原発事故は戦争と同じ扱いである。したがって、中心になるのは軍隊である。警察や消防は補助的な存在で、軍隊が事故現場を取り仕切り、先頭に立って地域と住民の安全を確保する。ところが、我が国には軍隊がない。自衛隊は自衛隊に過ぎず、世界の常識で言う軍隊としての行動をとれなかった。もともと、そうした体制もできていなかった。(略)
福島原発の事故で最も致命的だったのは、「原発は安全である」という宣伝のもとで、政府も地域の人々も事故が起きた場合の訓練を行っていなかったことである。つまり、備えがまったくなかった。
p250〜
私はアメリカの原子力発電所をいくつか取材したが、「原発は安全である」と宣伝する一方で、定期的に事故に備える訓練を行っている。すでに触れたが、使用済みの核燃料が大量に保管されているワシントン州のハンフォードでは、毎週金曜日の午後に、地域の人々を含めて訓練が実施される。(略)
このことを東京電力の関係者に言ったところ、次のように反論された。
「訓練をしなければならないというと、ただちに原発反対の声につながってしまうのです」 *強調(太字・着色)、リンクは来栖
--------------------------------