読売新聞>岩手
企画・連載
決戦へ〜衆院選展望〜
野田第3次改造内閣や民主、自民両党の新執行部が本格的に始動し、与野党攻防の焦点は衆院解散に移った。 年内か、年明けか。先行きが見通せない中、次期衆院選の出馬予定者は決戦に向け走り出した。選挙区の「今」を伝える。
--------------------------------------------------
<4区>「小沢王国」それでも不動
「留守ばかりして、迷惑をおかけしています」
ひと頃の残暑も和らいだ9月23日昼、奥州市の寺院に墓参した新党「国民の生活が第一」代表の小沢一郎は、約30人の支援者に、地元に戻る機会が少ないことをわびた。
実は最近、小沢の帰省回数が増えている。9月は2日に市内で開かれた後援会の会合に出席しており、年に数回という例年の頻度を考えれば、月2回の地元入りは珍しいことだ。
墓参りの日、長年支持固めを担ってきた後援会水沢連合会長の小野寺伝は、「できるだけ(選挙区に)来てくれた方がいい」と安心した表情を浮かべた。
「小沢さんから気持ちが離れた人がかなりいるのは、紛れもない事実だ」
同市選出の民主党県議の佐々木努がそう指摘するように、分裂前の同党県議23人のうち、小沢に歩調を合わせたのは10人にとどまった。佐々木は7月、「人間として尊敬できない」と小沢を批判し、党への残留を決めた。佐々木が地盤とする同市前沢区の小沢後援会の会長は辞任し、今も空席が続いている。
かつて小沢事務所と蜜月関係とされた建設業界でも、「昔ほど恩恵はない」(市内の建設会社役員)と冷めた声が漏れる。小沢の資質を告発した妻の手紙の写しが6月に出回った影響を見る向きもある。
ただ、これだけ懸念材料があるにもかかわらず、小沢の当選を危ぶむムードは薄い。「生活」県議の郷右近浩は「国難の時こそ小沢先生の力が必要だ。選挙に向けては淡々と万全を期すのみ」と受け流している。
中選挙区時代から、県南地域は14期43年にわたり小沢を選んできた。「多くの有権者が、ある種の惰性で小沢さんの名前を書くのは仕方がない」。非小沢系の県議はため息をつく。
自民党は公募した新人の藤原崇を擁立する。27日朝、北上市の交差点で一人マイクを握った藤原は、雇用問題や震災復興に時間を割いたが、「自分は自分だから」と、10分間の演説で小沢には触れなかった。
東京からの落下傘候補で、実質的な活動はここ半年程ということもあり、「若さを売りに浮動票を狙う」(陣営幹部)。後援会の発足も急ぎたい考えだ。
共産党新人の高橋綱記は、旧花巻市議の経験を生かして支持固めを図る。
一方、4区が空白区となった民主党。小沢に対抗馬を擁立する構えだが、人選は進んでいない。県連代表代行の渡辺幸貫は厳しい現状を率直に語った。
「ファイトはあるが、目星がつかない。戦ってくれる人が、いないんだ」
(敬称略、おわり)
(この企画は、山田正敏、鈴木希、伊藤大輔、安田信介が担当しました)
(2012年10月6日 読売新聞)
-------------------------------------------
<3区>被災地は復興を誰に託す
9月30日夕、東京に向かう新幹線の車中にいた民主党現職の黄川田徹の携帯電話が鳴った。藤村官房長官からだった。
「復興担当の副大臣をお願いしたい」
藤村の打診に、黄川田は「党代表選では(野田首相を支えず)鹿野(道彦前農相)さんを推したが、復興はやらなければならない」と応諾した。
副大臣就任を受け、事務所は「公務で忙しくなるから」と、平日の予定のキャンセルに追われている。陣営幹部は「被災地で祝福の言葉をかけられた」と、選挙に向けた手応えを語った。
陸前高田市出身の黄川田は、震災の津波で両親と妻、長男を亡くした。黄川田が自ら家族の被災を口にすることは少ないが、「選挙では一種の『同情票』が集まるだろう」と分析する向きもある。
黄川田にも不安材料はある。3区内の自治体の多くは、中選挙区時代に新党「国民の生活が第一」代表の小沢一郎が地盤としていた旧岩手2区に含まれる。黄川田の後援会は、小沢の支持基盤を母体としているのだ。「生活」は対抗馬の擁立を検討中で、黄川田周辺は「得票が減るのは覚悟している」と、小沢側の出方をうかがう。
「一関の経済発展が沿岸の復興につながる」
こう訴えて一関市内での活動に注力するのが、自民党新人の橋本英教だ。
橋本は大船渡市の実家が津波で流された。震災直後からボランティアに汗を流し、昨年の県議選では、親しい候補の応援で仮設住宅の支持者回りに集中した。現在は有権者の4割が住む一関市に照準を合わせている。
次期衆院選は3度目の国政挑戦だが、黄川田と小沢系候補の対立を見越し、「自民党の支持層をしっかり固めれば勝てる」と自信ものぞかせている。
10月1日午後、一関市内の道路沿いにポスター20枚を貼って歩いた橋本は、通行人に「小沢さんのところが分裂してる今がチャンスです」と頭を下げた。
一方、共産党新人の菊池幸夫は、経済や外交政策で持論を展開している。
誰に復興を託すのか。選択の時が近づいている。(敬称略)
(2012年10月5日 読売新聞)
-------------------------------------------
<2区>背水の「どぶ板」VS強気の現職
たった10人の聴衆を前に、声を振り絞った。
「民主党の公約は、全く実現不可能な絵空事と言っても過言ではない」
小雨のぱらつく9月29日午後、自民党前議員の鈴木俊一は宮古市の路上に立ち、15分間の演説の多くを民主党批判に費やした。
実父・鈴木善幸元首相のブランドを背景に6期連続で守ってきた議席を、鈴木は2009年衆院選で失った。初の浪人生活で、鈴木は支持者回りや山間集落への街宣など、「どぶ板」(周辺)に徹している。この日は、市内の地元商店や農家の物産展で、100枚余りの名刺を配り歩いた。
民主党の低迷で、「有権者の反応は3年前よりはるかにいい」と語る鈴木だが、気がかりもある。自民党本部には「2回連続の落選候補は原則公認しない」との内規があるためだ。
「自分の政治生命のすべてを懸けた選挙だ」
鈴木はそう公言し、自らを奮い立たせている。
翌30日夕。新党「国民の生活が第一」現職の畑浩治が久慈市で開いた国政報告会は、達増知事ら950人の支援者で埋まった。
「久慈で一番大きな、このホールでやるのが夢でした」。09年に鈴木を破った畑は会場を見渡し、表情を緩めた。「勢いのあるイメージが重要」と、年内に1000人規模の集会を3〜4回計画している。
畑は、改正消費税法に反対して民主党を離れた。支持者から「与党にいてこそ議員の使命を果たせる」と心配されたが、陣営幹部は「選挙の得票に影響はない」と強気だ。畑は復興予算の編成など現職の実績をアピールしつつ、反増税を争点とする作戦を描いている。
一方、鈴木と畑の双方がやり玉に挙げる民主党は、候補擁立に苦しんでいる。
「具体的な名前は挙げられないのが実態だ」
27日の県連の記者会見で、擁立状況を問われた幹事長の大宮惇幸はため息をついた。党本部の方針は原則擁立だが、県連内には「実際に立てても自民党を利するだけだ」(幹部)と、消極的な意見もある。
党本部は最近、空白区の総支部設立を急ぐよう県連に指示を出した。だが、県北18市町村にまたがる2区内のどこに設置するのかさえ、決まっていない。(敬称略)
(2012年10月4日 読売新聞)
-------------------------------------------
<1区>「見えない敵」に思惑交錯
野田首相の圧勝に終わった民主党代表選から2日後の9月23日夕。同党現職の階猛の支援者の元に、1枚のファクスが届いた。
〈今回の代表選は、毎年首相が代わるのはおかしいという、実力と関係ない理由で勝敗が左右された〉
送信元は階事務所。階は代表選で、国民の人気の高い細野豪志(現政調会長)の擁立を画策し、失敗した。その動きは、「細野さん頼みで衆院選を戦う(ことを目指した)と見られた」と階自身も振り返る。
事実、党に対する逆風の中、細野とのパイプは武器になる。17日に矢巾町の街頭演説に来た細野は、傍らの階を「相棒」と称し、聴衆に笑顔を振りまいた。
階はそれでも、同じ日の演説で弱気をのぞかせた。「私の選択は、得策ではなかったかもしれない」。政治の師である新党「国民の生活が第一」代表の小沢一郎と決別し、民主党にとどまった「選択」のことだ。
「裏切り者は全力で潰す。小沢さんは本気だ」
小沢周辺は、階への対抗馬擁立を明言する小沢の心中を、そう解説する。
「刺客」として取り沙汰されているのが、小沢と共に民主党を離れた達増知事だ。達増は再選された昨年の知事選で、1区の3市町で得票率約65%と大差をつけた。知事になる前は階の前任の衆院議員を4期途中まで務めており、後援会幹部は「階の支持基盤を分断するには適役だ」と指摘する。
ただ、震災の復興途上での知事辞職は批判を招く恐れもあり、今のところ達増自身も出馬を否定している。1区内から選出された民主党県議4人は、階と同様、党に残っており、「集票力は陰っている」(中堅県議)との見方もある。
落下傘候補として小沢に近い女性国会議員も挙がるなど、臆測が飛び交う情報戦の様相を呈している。
「20年間、自民党は万歳をしていません」
自民党新人の高橋比奈子は18日夜、盛岡市内での決起大会で党の苦境をあけすけに語った。1993年の小沢の離党後、同党は1区で小沢系候補に連敗している。
だが、高橋の言葉の裏には「今度こそ勝てるかもしれない」という期待感もちらつく。民主と「生活」の対立で非自民票が割れ、当選ラインが下がると見ているのだ。自民県連幹部は「『生活』候補は、強ければ強いほどいい」と漏らす。
一方、社民党新人の伊沢昌弘は脱原発、共産党新人の八幡志乃は社会保障の充実を訴え、街頭演説などの活動を展開している。
小沢は一体、誰を擁立するのか――。「見えない敵」を前に、それぞれの思惑が交錯している。(敬称略)
(2012年10月3日 読売新聞)
-----------------------------------------
朝日新聞>岩手
総選挙いわて
2012年10月06日
知事と階氏、争奪戦
http://mytown.asahi.com/iwate/news.php?k_id=03000811210060001
---------------------------------------
〈来栖の独白〉
弊ブログエント[「政治流転」東北の1区攻防が激変 次期衆院選の展望/岩手では「小沢王国」の消長も焦点2012-10-09]に参考さんから戴いた紹介記事(URL)を上記に転写しました。讀賣の岩手版など、ご紹介でもない限り、御目にかかれません。参考さんに深謝します。
来たるべき選挙は、まさに死闘という様相を呈すのではないかと思っています。小沢一郎さんの心中は私などにはうかがい知る術もありませんが、階さん(1区)、黄川田さん(3区)・・・、思うだけで胸が痛みます。
=====================================
◆ 「政治流転」東北の1区攻防が激変 次期衆院選の展望/岩手では「小沢王国」の消長も焦点 2012-10-09 | 政治/検察/裁判/小沢一郎/メディア
↧
衆院選展望 岩手 「小沢王国」それでも不動 被災地は復興を誰に託す 背水のどぶ板VS強気の現職
↧