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「原発は疫病神」原発発祥の地の村長が脱原発に転じた理由 : 村上達也

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村上達也:原発発祥の地の村長が脱原発に転じた理由
2012年9月6日 ビデオニュース・ドットコム
 日本の原発発祥の地、茨城県東海村の村長が「原発は疫病神」と脱原発を声高に唱えている。日本で最も古くから原子力関連産業の恩恵を受け、村の予算の3分の1、雇用の3分の1を原子力産業から得ている東海村が、である。
 東海村の村上達也村長は、日本で唯一、脱原発を公言する原発立地自治体の長だ。政府に対して村内にある東海第二原発の廃炉を要求するほか、「脱原発をめざす首長会議」の呼びかけ人として、政府に対して脱原発政策の推進を強く求めている。
 しかし、村上氏の脱原発路線は福島第一原発の事故に始まったわけではなかった。村長就任2年が過ぎた1999年、村上氏はJCO臨界事故を経験した。2人の犠牲者と600人を超える被曝者を出すというこの事故の際、村上氏は政府や県からの命令を待っていては手遅れになると判断し、原子力災害では初めて半径350m以内の住民を避難させた。
 この事故以降、村上氏は原発、とりわけ原子力ムラのあり方に不信感を抱くようになっていった。そして2011年3月11日の東日本大震災で、東海村の原発は間一髪で難を逃れた。地震により原子炉は自動停止したが、福島第一と同様に外部電源をすべて喪失。2日後に復旧するまでは、いつ福島の二の舞になってもおかしくない危険な状態が続いたという。
 しかも、こうした危機的な状況は、地震から12日後の3月23日まで、村上村長へは報告されなかった。「報告を受けた時は東海村もあと少しで福島の二の舞になったと、背筋が凍る思いだった」と村長は当時を振り返る。村上氏が「日本には原発を保有する資格も能力もない」との結論に到達した瞬間だった。
 村上氏はJCO事故の後、原発の安全神話や監督機関の機能不全など、今となっては言い古された感のある原子力ムラの問題点を繰り返し指摘してきた。しかし、何ら改善されることがないまま3.11に至り、その後の政府の対応を見ても、事故への対応や情報の公開、住民の保護など政府も原子力村も何も変わっていないことが明らかになったと村上氏は言う。
 東海村の脱原発の道のりは決して平坦ではない。村の財政や雇用の原発依存度は高く、東海第一原発の廃炉作業も、使用済み核燃料の行き場がないために、廃炉作業も中断を余儀なくされている。当初予定していた18年の期間も大幅に超える見通しだという。
 村上氏は、原発に依存しない村づくりを進めると同時に、村内にある原子力の研究機関で脱原発のための研究を進め、脱原発自治体の新しい成功モデルを作りたいと抱負を語る。
 原発発祥の地の長ながら脱原発の実現に奔走する村上氏に、ジャーナリストの神保哲生と哲学者の萱野稔人が東海村の今とこれからを聞いた。
■原発依存は、地元産業を吹き飛ばす「暴風」だ
神保: 東海村の基本データを確認しましょう。人口は37,878人。一般会計予算が166億円で、そのうち原子力関連歳入割合が約3分の1=55億円です。就労者の内訳を見ると、全就労者数18,784人のうち、原子力関連就労者が約6000人。関連就労者の家族も含めると、約1/3が原子力に関係しています。
 そんななかで、村長が4期目にして脱原発となると、多くの方が驚いたことでしょう。苦情はあまり届いていないということでしたが、3期目までと4期目以降の政治的ポジションが変わったことに対して、村民の反応はいかがでしたか?
村上: 私どもを支援してきた方々は、原子力関連の仕事に就いている方であっても、「経済発展で自分たちの生活を豊かにしよう」というより、「地方分権のなかで、自分たちが努力していい街づくりをしていこう」という思いに共鳴してくださっていると思います。東日本大震災と福島原発事故に遭遇して、社会全体で、生活の価値観が変わりました。それはつまり、経済成長・発展を追求することに限界を感じた、ということが大きかったのでしょう。また、一言で原子力関連産業といっても、すべてが原発に関連したものではありません。脱原発が自分たちの将来に直結する、という人ばかりではないのです。
神保: また村上さんは、原発のすべてを批判しているのではなく、「商業原発はもう成り立たない」という立場でもあります。
村上: エネルギーとしての原子力、いわゆる福島型の原発中心の街づくりに将来はないと考えます。福島県双葉町の商店街入り口に、「原子力は明るい未来のエネルギー」という看板がありましたが、今では人っ子ひとりいない。これは、原発に依存した地域発展が一時的なものであることを表しています。原発は地域にとって疫病神であり、貧乏神になる。この日本社会において原発は時代遅れだと、割り切って考えています。
神保: 原発に関して、一般的には「原発は嫌だけど、助成金などで地域が恩恵を受けることができる」と考えられているように思います。事実、原発の立地自治体で再稼働の議論が進んだ際に、最終的に稼働に賛成するケースが多いようです。村上さんは、原発が立地自治体に何をもたらすとお考えですか?
村上: 原発は権力と金の暴風であり、地方にもともとあった産業をいっぺんに吹き飛ばしてしまいます。例えば、貧しいながらも酪農や漁業、加工業などを中心として、みんなでいい地域社会を作っていた場所に、原発がやってくるとどうなるか。二束三文の土地が巨額で買われ、関連事業で仕事も増える。それが、日本人が高度成長期に願ったことであり、「地域が受ける原発の恩恵」という意味だと思いますが、裏を返
すと、原発を除くと何も残らない社会構造ができてしまうのです。
 私が中学2年生だった1956年に、原子力研究所が東海村に来るという話になりました。日本中どこでも農村部が貧しかった時代で、東海村も例外ではなかった。そんなときに、20世紀の先端的な科学がやって来るという。それは眩しく、未来が輝いていると感じたものです。しかしながら、東海村は工業集積地域に挟まれ、もともと過疎地ではない。つまり、原子力だけに頼って発展してきたのではない、という特徴があります。だからこそ、村民も私の発言や行動を冷静に見ることができている面もあると思います。
神保: 過疎地でないからこそ、事故が起これば被害も甚大になる。村上さんは、東海村での原発再稼働を明確に否定しています。
村上: 福島第一原発の事故では、周囲30km、50kmにわたる甚大な被害が出ています。避難した16万人だけでなく、大変な人口が被害に遭っており、この回復のためには100年は要すると思います。東海村の10km圏内には福島第一原発に比べて10倍ほどの人が住んでおり、事故が起これば避難も賠償もできない。
 原発は安全・安心だ、日本は原発に関して世界一優秀なのだと自惚れてきましたが、3.11を経験した今、日本人の浅はかな精神を示していただけだということがわかりました。私は国の原子力政策に関して、絶対的な不信感を持っています。
萱野: まずは再稼働をしない、ということですが、福島の原発事故において、4号機は稼働しておらず、点検中でした。それにもかかわらず、あれだけの事故を起こしたことを考えると、単に「稼働させない」ということでは、リスクを取り除くことにならないと思います。最終的には廃炉という方向で考えているのでしょうか。
村上: 私も廃炉を訴えています。4号機で一番問題だったのは使用済み燃料であり、福島第一原発4号機の「1500体」と比較して、東海第二発電所の燃料プールは「2000体」という数字。再稼働をしなくても、安全対策は急務だと考えます。六ヶ所再処理工場に持ち出したところで、核燃料サイクルがうまくいくのかは大いに疑問ですし、原発の各サイトで、安全な使用済み核燃料の保管に取り組まなければならないでしょ
う。
神保: 廃炉を実現しようとしたときに、何がハードルになりますか?
村上: 東海第二発電所は10年前から18年計画で廃炉作業を進めていますが、まだ作業が完了する目処が立っていません。外周部分は解体し、これから炉心部分に入るのですが、これが非常に難しい。福島の場合は、廃炉に30年かかると言われています。
 また、廃炉を進めても廃棄物の行き場がない現状も、大きなハードルです。
神保: 今年、事故から26年が経過したチェルノブイリに行ってきたのですが、3号機では放射能の飛散を防ぐことで精一杯で、核燃料が取り出せていない。福島に至っては、燃料がどこにあるのかすらわからない状態で、発見するまでに何年かかるか、という話です。
出演者プロフィール
*村上 達也(むらかみ・たつや)東海村村長
 1943年茨城県生まれ。66年一橋大学社会学部卒業。同年常陽銀行入行。融資業務部副部長、ひたちなか支店長などを経て、97年東海村村長に初当選。現在4期目。元全国原子力発電所所在市町村協議会副会長。現・脱原発首長会議呼びかけ人。
*萱野 稔人(かやの・としひと)津田塾大学国際関係学科准教授
 パリ第十大学大学院哲学科博士課程修了。哲学博士。東京大学21世紀COE「共生のための国際哲学交流センター」研究員、東京外国語大学非常勤講師を経て、現職。著書に『国家とはなにか』、『暴力はいけないことだと誰もがいうけれど』など。
*神保 哲生(じんぼう・てつお)ビデオニュース・ドットコム代表/ビデオジャーナリスト
 コロンビア大学ジャーナリズム大学院修了。AP通信記者を経て93年に独立。99年11月、『ビデオニュース・ドットコム』を設立。著書に『民主党が約束する99の政策で日本はどう変わるか?』、『ビデオジャーナリズム─カメラを持って世界に飛び出そう』、『ツバル−温暖化に沈む国』、『地雷リポート』など。専門は地球環境問題と国際政治。
※各媒体に掲載された記事を原文のまま掲載しています。


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