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オバマ氏を再選 「変化」を求めなかった米国 市場も巻き戻し 一巡後は無風に

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「変化」を求めなかった米国、市場も巻き戻し一巡後は無風に
2012年 11月 7日 17:08 JST[東京 7日 ロイター]
 大統領選で現職のオバマ氏を再選した米国民は「変化」を求めず、議会選挙もねじれの図式が継続された。経済政策は現状維持の見通しであり、金融市場では共和党のロムニー候補の勝利に賭けた「ロムニー・トレード」が巻き戻されると、その後はほぽ凪(なぎ)状態となっている。
 新たな4年間を得たオバマ氏が「財政の崖」問題などにどのような変化をもたらすかが今後の最大の注目点だ。
<巻き戻しは「ノイズ」>
 4年前に「チェンジ」を掲げて当選したオバマ大統領。雇用環境は改善せず、格差問題も拡大する中で、失望感も漂っているが、今回の大統領選挙で米国民は政権交代を望まなかったという結果となった。議会選挙でも上院・民主党、下院・共和党というねじれの図式は変わらず、金融政策などへの姿勢も当面は現状維持となる見通しだ。
 「オバマ大統領に大きな失点がなかったほか、ロムニー氏が大統領になることで起きるであろう変化を米国民が望まなかったといえる。政策が不明確だったこともあり、共和党というよりもロムニー氏への支持率が高まらなかった」と、T&Dアセットマネジメントのチーフエコノミスト、神谷尚志氏は勝因を分析する。
 前日の米株市場では、ロムニー氏優勢との見方が一時的に広がったことから、オバマ大統領続投の場合に恩恵を受けるとされる米病院運営会社HCAホールディングスにプットスプレッド取引が行われるなど、ロムニー氏勝利に賭ける動きが一部でみられたという。だが、選挙の開票が進み、オバマ大統領優勢との見方が広がると、7日の東京市場では午後にかけて株安・債券高・ドル安・円高が進行。「ロムニー・トレード」と呼ばれる取引の巻き戻しが加速した。
 ただ、そうした取引も続かず、オバマ氏の勝利確実が伝わった後の東京市場はこう着状態となっている。一時80円を割り込んだドル/円は再び大台を回復し、日経平均の終値は2円高、円債先物も3銭高となった。市場では「オバマ氏勝利のメーンシナリオをすでに織り込んできたほか、政策は当面現状維持の見通しであり、マーケットは当面動きにくい。ロムニー・トレードの巻き戻しはノイズにすぎない」(大手証券トレーダー)との声が出ている。
 大統領選の結果が出たことで、市場の視点は「財政の崖」といった財政問題に移る。これまでは選挙のために、雇用など経済対策に力を入れる必要があったが、再選で4年間の時間を得たことになり、選挙を気にせず、じっくりと財政赤字問題に取り組むことになるとみられているためだ。また、合計6000億ドルの政府支出削減と減税措置失効が重なるいわゆる「財政の崖」への対応は喫緊の課題であり、オバマ大統領は来月にも財政再建計画を発表するとの予想もある。
 トヨタアセットマネジメントのチーフストラテジスト、濱崎優氏は「1期目のオバマ政権は2回もの大規模な財政出動を行って景気崩壊を防ぐといったことに追われ、リカバリーに精一杯だった。2期目からは強いリーダーシップのもと、本領を発揮すると予想している」と話す。
 ただ、大統領選と同時に行われた米議会選挙で、上下院で過半数の政党が異なる「ねじれ状態」が継続することになったため、政策実現への障害となる可能性もある。野村証券シニア・エコノミストの吉本元氏は「両党とも継続を主張しているが、減税継続に伴う代替財源をめぐっては、高所得者課税強化を主張する民主党と、オバマ大統領の医療保険改革の撤廃を主張する共和党で意見が隔たっている」と指摘。「減税継続や上限の引き上げの議論が期限まで決定されなかったり、財源の議論が先送りされて格下げ問題が発生したりするリスクに注意したい」と警戒する。
<日米政治、彼我の差が円高の背景か>
 オバマ大統領が再選を果たしたことで対ドルでの円高懸念は継続することになった。現在のFRB(米連邦準備理事会)の金融緩和路線が維持されるとの期待や、財政再建策への取り組み強化が進むことで、米金利に低下圧力がかかると予想されるためだ。「『財政の崖』をめぐる議論と12月米連邦公開市場委員会(FOMC)とで、今後、ドルに対する警戒感が強まっていきそうだ」(三井住友信託銀行マーケット・ストラテジストの瀬良礼子氏)という。
 ユーロ圏経済の厳しさが増しているほか、景気減速感が強まってきた日本にも追加金融緩和期待があり、対ユーロや対円でドル安が急激に進むとの予想は多くはない。ただ。米国自身も盤石ではないほか、日本においては政治的な不安定さもドル安・円高圧力の背景だという。
 為替ディーラーの経験が長い、ある大手邦銀のマーケット担当役員は過去の例を引き合いに出し、「日本の政治が安定する時期は円高に振れにくい。何をやってくるかわからないという警戒感が市場に広がるためだ」として、円高是正のためには国内政治の早期安定が不可欠との見方を示す。
 1985年のプラザ合意以降、基調としては円高が続いているものの、自民単独の橋本龍太郎内閣の96─98年、「郵政選挙」で大勝した第3次小泉純一郎内閣の05─06年などは円安傾向にあった。安倍晋三内閣までは小泉時代の余韻があったものの、その後の自民党内閣以降、民主党に政権が移ってからもほぼ一貫して円高基調が続いている。85年以降、日本は18人の首相が登場したが、米国では5人しか大統領に就任していない。
 大統領選を経てひとまずの政治安定を得た米国と、年内解散の可能性も徐々に小さくなり、依然として早期の政治安定が望めない日本。「多くの外国人投資家にとって、日本株に対する姿勢を積極化する最大の障害となってきたのは持続的な円高である」(ゴールドマン・サックス証券ストラテジスト、キャシー・松井氏の6日付リポート)とされる要因は今後もしばらく続く見通しだ。
(ロイターニュース 伊賀大記:編集 久保信博)
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『世界の変化を知らない日本人』日高義樹著 2011年5月31日第1刷 徳間書店

     

p147〜
 国家意識のない政治家は、国際社会では存続することが許されない。世界は国家と国家の関係によって成り立っている。
p150〜
 いずれにしても国民の命運を定める重大な仕事をする政権は、その責任の重さゆえに、簡単には手にすることができない。ところが日本の民主党政権は、ある意味では何の努力もしないまま政権を手にした。自民党政権が自壊してしまったからだ。
 自民党政権はあまりにも長い間権力の座にあったためにすっかり腐敗して、国民の信頼を失ってしまった。
p151〜
 自民党の崩壊は突然に起きた。まるでマスコミに煽られるように国民の大多数が自民党政権を見放し、民主党を選んだ。つまり、このどうしようもなく無責任な民主党政権を作ったのは、まぎれもなく日本国民なのである。
 これは日本の民主主義が他者から与えられたもので、自分たちの手で勝ち取ったものではないからである。日本の人々はいまだに民主主義に慣れていない。そのため政治に対する責任感がない。自分の持っている一票の重みが分かっていない。
 民主党政権が生まれたのは劇場型政治の結果であると言った人が大勢いた。国民が劇場の観客や芝居のファンのような気持ちで政府を選んだという意味だが、これは日本人の民主化が間違ったプロセスで行われたからである。
 日本の民主主義は、第2次大戦に日本が負けた後、占領軍であるマッカーサー司令部が日本国民を統治するために便宜的に与えたシステムである。政治家を選ぶ投票権を簡単に手にした日本の人々は本来、投票権というものが、骨身を削る苦労の末に手に入れるものだということをまったく知らない。
p152〜
 アメリカの政治を見ていると、民主主義による選挙とは、それぞれの人のモノの考え方と利益のせめぎあいである。つまり自らの利益を、政治的に確定するために投票を行う。
 アメリカという国は実にさまざまな人々で成り立っている。すでに地位を確立した途方もなく豊かな人々、自分の家を持つというアメリカン・ドリームを実現した人々、アメリカで生まれながら十分な教育も受けられず、その結果、何代にもわたって貧しいままの黒人、外国からやって来て、懸命に働いてようやく帰化が認められ選挙権を得た人々。
 こういった人々が自分の利益を守るために投票し、政府を作るのである。人々の投票によって政治は大きく変わり、オバマ大統領のようにアメリカ生まれかどうか分からないと疑われている政治家が大統領になることもある。
 アメリカ国民は、劇場の観客や俳優のファンではない。選挙というのは、人気投票では決してない。このため、選ばれる政治家は真剣に国のことを考える人々であり、国のために仕事を行う人でなければならない。
p153〜
 民主党の政治家が口にすることが無責任で、前に言ったことを平気で打ち消したり、嘘を言ったりするのは、投票した人々と同様、民主主義を理解していないからだろう。だから罪の意識がないのである。
 こういったやり方が現在の日本の政治で許されているのは、劇場型政治などという言葉を軽々と使う日本のマスコミの無責任さにも罪がある。日本のマスコミは、いまや芸能紙やスポーツ紙のようなつもりで政治を伝えている。
 外国の人々は簡単に前言を翻す民主党の政治家を軽蔑するだけでなく受け入れようとしていない。
 世界で共通しているのは、政治家の言葉はいったん出したら引っ込めることはできないということである。
p160〜
 くり返すが、民主党の政治家たちには国家意識もない。だから外国人に選挙権を与えようと考え、外国人から選挙資金を受け取っている。全米商工会議所のトム・ドナヒュー会長がこう言ったことがある。(略)
「外国人に選挙権を与えれば、日本が外国の利益に動かされる危険がある。民主党の政治家にはそれが分かっていないのか。おかしなことだ」
 このドナヒュー会長の言葉は世界の常識である。外国人から政治献金を受け取ることができないのは、国を守るための当然のしくみなのである。菅首相が外国人から献金を受けながら、返金してそのまま総理大臣の地位にとどまれること自体、世界の常識に反している。
 ちなみにアメリカでは、アメリカに帰化しただけではアメリカの大統領になることはできない。アメリカで生まれたアメリカ人でなければ、大統領に選ばれる資格はないのである。
 キッシンジャー博士もシュワルツネッガー前カリフォルニア州知事もアメリカ人以上にアメリカ的であり、アメリカのために働いている。だが大統領になることは出来ない。この原則は、国家が国家として存続するための最低限の原則である。理由のいかんを問わず外国人は国を動かしてはならないのである。
 民主党が政権をにぎっている現在、我々はこの問題について、じっくり考えてみる必要があるのではないか。この問題は単に外国人排斥とか、在日外国人に対する偏見といった面から考えてはならない。日本が国家として存続するための最低限の条件について考えなければならない。 *強調(太字・着色)、リンクは来栖
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[アメリカ大統領選]米日が凋落するオバマ再選/オバマ大統領続投=日本にとって国難といってもよい危機 2012-10-18 | 国際 
 [アメリカ大統領選] 米日が凋落するオバマ再選
PHPビジネスオンライン 衆知|PHP研究所 2012年10月18日 公開
日高義樹 (ハドソン研究所主席研究員)

『Voice』2012年11月号より 》
■いまの民主党は「見知らぬ人々の集団」
 2012年のアメリカ大統領選挙戦は、貧しい人々を背景にアメリカの社会体制を変えようとするオバマ大統領と、アメリカ本来の資本主義と伝統的な社会体制を守ろうとする共和党ロムニー候補が真正面から対立しているが、投票日まであと1カ月になっても両者の勢力が拮抗して、どちらが勝つか予測し難い状況になっている。だが、自分たちの生活だけしか考えないオバマ大統領の政治がこのあと4年続けば、アメリカは世界の指導者としての役割を完全に放棄することになる。その結果、日米安保条約のもとに日本の安全のすべてをアメリカに頼っている日本に、未曾有の困難がもたらされることは確かである。
 2012年9月、ノースカロライナ州シャーロットで開かれたアメリカ民主党大会のオバマ大統領の指名受諾演説は、私がこの40年来聞いてきたどの大統領の演説に比べても、品格がなかった。演説の中で幾度も対抗馬であるロムニー候補を名指しで非難し、共和党に投票することは「ワシントンのロビーストと、1000万ドルの小切手で選挙を買収しようとしている利益団体を選ぶことだ」といった露骨な表現を使った。オバマ大統領の演説には、どうにもならないアメリカの経済情勢と、2008年のときのようなオバマ熱がなくなっていることに対する焦りがよく表われていた。
 「オバマ大統領と彼の周りの人々は、アメリカ民主党を乗っ取った、見知らぬ人々だ。オバマ大統領を中心とする現在の民主党は、ルーズベルトの民主党でもなく、トルーマンの民主党でもなく、ケネディの民主党でもない。まったく見知らぬ人々の集団である」
 アメリカのマスコミの中で、数少ないオバマ批判派の『ウォール・ストリート・ジャーナル』の論説委員がこう述べているが、オバマ大統領の民主党は、アメリカをヨーロッパ的な社会主義体制に導こうとしている人々の集団になっている。
 アメリカ政府は生活保護の一部としてフードスタンプと呼ばれる食料クーポンを支給しているが、オバマ政権になってからその発行数が増え続けて、いまや4600万人、国民の19%がフードスタンプで日々の食事をまかなっている。その中心は、アフロアメリカンと呼ばれる黒人と、メキシコをはじめ中南米から移住してきたヒスパニック系の人々である。
 1920年代の大恐慌の際には、食料を買えない人々は食器をもって、大きなスープ釜の前や、スープキッチンと呼ばれる配給所の前に長い列をつくった。現在はクーポンだけでなく、キャッシュカードになっているフードスタンプまである。酒やタバコ以外の食料ならカードの限度額までなんでも買えるだけでなく、フードスタンプ専用のスーパーもできている。このように、政府に食べさせてもらっている人々が、オバマ大統領を先頭にアメリカ国内で、戦闘的な政治グループをつくっているのである。
 こうした状況に対して、ほとんどがリベラル派のアメリカのマスコミは、まるでオバマ陣営の一員であるかのようにオバマ大統領の主張を一方的に支持し、オバマ大統領を再選させようと全力を挙げている。私が長いあいだ親しくしている共和党の政治家で、ブッシュ政権の商務次官補だったトム・デュスターバーグ博士がこう言った。
 「アメリカの大統領は再選されて2期目になると、やりたい放題をやる。政治的にきわめて危険なことが起きる可能性がある。オバマ大統領の、攻撃的でしかも党派性の強い政治が2期目になると、アメリカを滅ぼす危険がある」
 デュスターバーグ博士と同じ考えの人は多く、とくに共和党の右寄りであるチェイニー前副大統領とクエール元副大統領のグループは、共和党の現職の首脳たちと協力して、オバマ政権と戦う体制を敷いた。その中心が、ブッシュ前大統領の特別顧問だったカール・ローブ氏で、アメリカの保守的な財界からふんだんな資金を集め、テレビの選挙コマーシャルでオバマ大統領を攻撃する一方、フロリダをはじめ、オバマ大統領が2008年にわずかの差で勝った州を取り返すために戦っている。
■育ちも仕事も信条も対照的な2人
 2012年5月、共和党のミット・ロムニー大統領候補は、フロリダで開かれた政治資金集めの会合で、こう述べた。
「アメリカの47%の人は税金を払っていない。オバマ大統領は政府依存の社会をつくろうとしている。私の任務は、こうした自分の生活に責任をもとうとしない人々の心配をすることではない」
 このロムニー候補の発言は隠しカメラで撮影され、4カ月たった9月17日に革新雑誌『マザージョーンズ』のウェブサイトに流されたことから、一般マスコミが飛びついて大騒ぎになった。だがロムニー候補は、遊説先のカリフォルニアのコスタメサで、この発言に対する批判にこう答えた。
 「私の発言を謝罪するつもりも訂正するつもりもない。私が指摘した人々は、政府を小さくしようという私のメッセージには耳を傾けない。そうした人々のことを心配する暇はない」
 ロムニー候補は成功したビジネスマンで、アメリカの資本主義体制を立て直すことを重要な政治テーマにしている。ロムニー候補を支援しているのは、アメリカ中小企業を組織する全米商工会議所や、大企業を代表するビジネスラウンドテーブル、それに石油業界である。全米商工会議所のトム・ドナヒュー会長はこう言っている。
 「オバマ大統領は、資本主義と企業活動を信用せず、政府の力ですべてを行なおうとしている。経済援助と引き換えに、政府による規制を増やしている」
 ロムニー陣営のカール・ローブ氏は、「オバマ政権は政府の借金で経済援助を増やそうとしているが、借金でまかなわれる経済活動はしょせん失敗に終わる」と述べ、オバマ大統領を次のように批判している。
 「資本主義を信用しないオバマ大統領は、1920年代の大恐慌の際、やはり資本主義を信用せず、社会主義政策による公共投資に頼ろうとしたフーバー大統領と同じである。オバマ大統領の政策はやがてアメリカを壊滅させる」
 ロムニー候補は、オバマ大統領の政府主導の経済政策に反対し、アメリカ本来の資本主義によって経済を立て直すべきであると主張している。
 ロムニー候補がモルモン教徒であることはよく知られているが、19歳のときに宣教活動に従事してフランスで2年半を過ごし、そのあとハーバード大学で法律とビジネスの2つの学位を取得した。ビジネス界に入ってからは、いくつかの企業を立ち上げて成功させ、政治家としてはマサチューセッツ州知事時代、短期間で財政赤字をなくした。2002年のソルトレイク冬季オリンピックを大会委員長として大成功させた業績もある。
 モルモン教は19世紀に創設された新興宗教で、一夫多妻制度をとっていたこともあり、異端視された。モルモン教徒たちが全米を放浪し、各地で諍〈いさか〉いを起こした時代もあったが、現在ではキリスト教の一派として認められ、信徒には著名人も多い。古い友人のロビーストが私にこう言ったことがある。
 「ようやくモルモンの大統領候補が出たのか。本当に大統領になれるかどうか楽しみだ」
 オバマ大統領とロムニー候補はあらゆる点で対照的である。オバマ大統領はハワイアンヒッピーの母親をもち、父親はケニア人のイスラム教徒、母親が再婚した相手もインドネシアのイスラム教徒である。ほとんど家庭というものを経験しないまま成長したオバマ大統領は、ハーバード大学を出たあとコミュニティーのボランティアを経て政治家になり、アメリカ社会の犠牲者の代表として貧しい人々を結集し、ホワイトハウスに入ってアメリカを社会主義化しようとしている。選挙スローガンは「チェンジ」から「前進」に変わった。
 一方、ロムニー候補は、父親がミシガン州の知事を務め、母親も当時としては珍しく上院議員に立候補したこともあるという環境に育った。豊かではあるが、モルモン教の掟〈おきて〉にしたがって酒、タバコはむろん、コカ・コーラも嗜〈たしな〉まない規律と道徳律の厳しい家庭で子供時代を送った。アメリカの伝統的な社会体制と資本主義の回復を標榜し、選挙スローガンは「アメリカを信じる」である。
 2012年の大統領選挙はこのようにオバマとロムニーという、育ちも仕事も信条もまったく対照的な2人が対立し戦っているのである。
■ロムニー大統領で経済回復はできるか
 2012年の大統領選挙について私は、本格的な選挙戦が始まる前から、共和党のロムニー候補に勝ち目があるとみていた。アメリカの状況があまりにもひどく、オバマ大統領の4年間の政治がまったくの失敗に終わったことは明白だった。そうしたアメリカの現状は選挙の1カ月前になってもまったく変わっていない。
 アメリカ人の仕事はまったく増えていない。オバマ大統領が登場したときの失業率は7.9%だった。オバマ大統領は仕事を大きく増やすと約束したが、現在も8.2%の失業率が続いている。この4年間、正規の仕事が見つからなかった人は2000万人以上にのぼる。
 オバマ大統領は一貫して共和党に対して高圧的な姿勢をとり続けているが、2009年1月、7870億ドルの経済救済法案が通らなければ大不況がやってくると脅し、ウォール街とデトロイトに公的資金を注ぎ込むとともに、紙切れになってしまった住宅債券を政府資金で買い続けた。負債を減らして身軽になったGMやクライスラーは生き返るはずだったが、GMが生産した新車のボルトはまったく売れないままディーラーのショールームに並び、オバマ政権は救済法で買い取ったGM株が値上がりせず、手放せないでいる。
 住宅の値段も依然として上がっていない。連邦準備制度理事会のバーナンキ議長は、期限を決めずに1カ月に400億ドルずつ住宅債券を買い続けると発表したが、住宅市場は回復せず、依然として1000万戸の住宅が売れ残っている。ウォール街の救済はうまくいったようにみえるが、結局は経営者が莫大な退職金を手にして逃げてしまい、アメリカの人々にモラルハザードの痛みを残しただけになってしまった。
 経済だけをみても、アメリカは4年前に比べてまったくよくなっていない。1980年の大統領選挙の際、共和党のレーガン候補はただひと言、「4年前に比べて暮らしはよくなりましたか」と言ってカーター大統領を負かした。ロムニー候補にとっては、そのときよりも戦いやすい情勢になっているはずである。ところが、すでに述べたようにアメリカのマスコミは、生活保護やフードスタンプをもらっている人々をアメリカ社会の犠牲者だと考え、オバマ大統領の再選を支援し、大きな政府による社会主義的な政策を続けさせようとしている。
 アメリカのマスコミは、選挙戦の取材にあたって、アメリカの将来にとって最も重要な問題を採り上げようとしていない。失業率が下がらないこと、工業生産力が落ちていること、アメリカの世界的な権威が損なわれていることなどについて、挑戦者であるロムニー候補の主張を伝えようとはせず、ロムニー候補のビジネスのあら探しをしたり、失言を採り上げたりして選挙戦を矮小化している。
 いまから40年以上も前のことになるが、共和党のニクソン大統領候補はベトナム戦争のあと始末という、ケネディとジョンソンが残した大問題とインフレのなかで、大統領に立候補した。このときニクソンは、オバマ大統領とは異なり、前任の民主党政権を非難するのではなく、アメリカが直面する問題を正面から採り上げ、政策の論議を中心として選挙戦を戦った。
 ニクソンは、ラジオ放送ではあったが10月13日から27日まで、教育問題から社会福祉問題、そしてベトナム戦争をふくめた外交問題などに対する自らの政策を有権者に訴え続けた。このときの民主党候補はアメリカのマスコミに好かれていたリベラルのハンフリーだったが、マスコミはえこひいきすることなく、ニクソンの主張も公平に報道した。「世界のスーパーパワーであるアメリカの指導者を選ぶ」という矜持をもっていたからである。いまのアメリカのマスコミからは、そうした矜持が失われている。
 私はいまもロムニー大統領が出現する可能性があると思っている。だが現実には、アメリカのマスコミの偏った報道もあって、人気支持率でいえばオバマ大統領がロムニー候補を圧倒している。じつはこの状況は、アメリカ政治の変化をよく示しているのである。
 ニクソン、レーガンのころは、保守勢力が50%近かったが、いまや40%を割ろうとしている。ロムニー候補は、民主党、共和党のどちらにも属していない、インディペンデントと呼ばれる有権者の票を取らなければ勝てない。
 シャーロットでの民主党大会でオバマ大統領は共和党を悪者扱いし、「われわれに加われば将来がある」といった戦闘的で単純な演説を行なったが、その後の世論調査や専門家の反応を見ていると、インディペンデントに語りかけていなかったことは明らかである。
 では、ロムニー候補がインディペンデントの心をつかむことに成功し当選すれば、彼の主張するように、アメリカ経済が回復するかといえば、状況はそれほど楽観できない。今度の選挙で、アメリカ下院では少し数が減るが、共和党が再び多数を占めることは確実である。一方、上院も共和党が過半数を占める。つまり共和党が上下両院で多数派になることは間違いないと予想されている。
 だが上院では、予算を通す際に議事妨害、いわゆるフィルバスターを許さない60票、そして修正案を通させない54票を、どちらの党も確保できず、予算をめぐるアメリカ議会の手詰まりが続くと思われる。その結果、アメリカが深刻な財政危機に陥り、経済がさらに悪化する見通しは依然として強い。
■回教徒が仕掛けた再度の「9・11」
 オバマ大統領が再選されてもロムニー大統領になっても、経済問題が一挙に解決する見通しはないが、オバマ大統領が再選された場合、アメリカが深刻な国際問題をかかえることになるのは確かである。
 2012年9月11日、リビアのベンガジでアメリカ領事館が襲撃され、大使と大使館職員、それに大使館の護衛の合わせて四人のアメリカ人が殺害された。現地の報道を見るかぎり、アメリカ領事館に対する襲撃は周到に準備されたもので、ロケットをはじめ特殊な兵器が使われているが、オバマ大統領は領事館に対する襲撃を「アメリカで流された予言者モハメッドを揶揄するビデオに対する抗議行動」という説をとり、事件を小さなものにしようとしている。
 襲撃のやり方や使われた兵器からみて、ベンガジのアメリカ領事館に対する攻撃はデモなどという生易しいものではない。再度の「9・11」だったとも言われているように、回教徒がアメリカに対して仕掛けた戦争そのものだった。だがオバマ大統領は、あくまでも抗議デモとして話を片づけようとしている。
 ベンガジでアメリカ領事館が攻撃されたのと同じころ、アフガニスタンにおけるアメリカ軍最大の基地バストンにタリバンが攻撃を仕掛けた。タリバンは十数カ所から侵入し、滑走路に並んでいた10機近くのハリヤー戦闘爆撃機を破壊し、アメリカ兵やアフガニスタン兵に損害を与えた。滑走路の上で破壊されたハリヤーは、私もアメリカ第七艦隊の取材で撮影したことがある。いま日本で問題になっているオスプレイと同じようにジェットエンジンの角度をかえて垂直離着陸できる航空機で、1機当たり2000万〜3000万ドルもする高価な兵器である。しかも、現在は製造されていない。その貴重な兵器がアフガニスタンの基地で破壊されたのだ。
 こうしたタリバンの大規模で大胆な攻撃は、アフガニスタンの情勢が末期的症状になっていることを示している。アメリカ兵がアフガニスタンの兵士や警察官に殺害されたのとは比べ物にならないほどの大事件だったが、オバマ大統領をはじめホワイトハウスは、口を閉ざしたままである。
 ずいぶんと昔のことになるが1967年6月、南ベトナムにあったアメリカ軍最大の基地ダナンがロケットで攻撃されベトコンに侵入された。ちょうど私は18度線近くで海兵隊の戦闘を取材するためにサイゴンからきていたが、北ベトナム側の周到な攻撃に目を見張った。しかし、それはアメリカのベトナムにおける凋落の始まりだった。あっというまに猛烈な北ベトナムの攻撃が始まり、アメリカ軍はベトナムから追い出されてしまった。
 ベンガジのアメリカ領事館に対する攻撃は、アメリカに対する回教徒の本格的な戦闘開始の行動だったが、アメリカの国際的な威信を考えないオバマ政権は、これをたんなる暴動として捉えているだけである。バストンの軍事的大事件についても、消極的な対応をしかみせていない。こうしたオバマ政権の弱腰の外交がこの先4年続くことになれば、アメリカの世界における地位は完全に凋落する。アメリカの軍事力にすべてを頼っている日本がさらにみじめな立場に置かれることになるのは、誰の目にも明らかだ。
 2012年のアメリカ大統領選挙戦はあくまでも、アメリカの国内政治である。日本からはるか遠く離れたところで行なわれている。だがアメリカ国民が、オバマ大統領を続投させることを決めれば、日本にはまさに国難といってもよい危機がやってくる。
*日高義樹(ひだか・よしき)
ハドソン研究所首席研究員
1935年、名古屋市生まれ。東京大学英文科卒。1959年、NHKに入局。ワシントン特派員をかわきりに、ニューヨーク支局長、ワシントン支局長を歴任。その後NHKエンタープライズ・アメリカ代表を経て、理事待遇アメリカ総局長。審議委員を最後に、1992年退職。その後、ハーバード大学タウプマン・センター諮問委員、ハドソン研究所首席研究員として、日米開係の将来に関する調査・研究の責任者を務める。「ワシントンの日高義樹です」(テレビ東京系)でも活躍中。
主な著書に『世界の変化を知らない日本人』『アメリカの歴史的危機で円・ドルはどうなる』(以上、徳間書店)『私の第七艦隊』(集英社インターナショナル)『資源世界大戦が始まった』(ダイヤモンド社)『いまアメリカで起きている本当のこと』『帝国の終焉』(以上、PHP研究所)など。
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『帝国の終焉』(「スーパーパワー」でなくなった同盟国・アメリカ)日高義樹著 2012年2月13日第1版第1刷発行 PHP研究所

      

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『なぜアメリカは日本に二発の原爆を落としたのか』日高義樹著《ハドソン研究所首席研究員》
2012年07月25日1刷発行 PHP研究所

       

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