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「日本を弟分に従え、アフリカでは新宗主国となり、アジアでもその覇権を握りたい中国」 姫田小夏

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China Report 中国は今 世界の覇者になりたい中国の虎視眈々
Diamond online 2013年5月10日 姫田小夏[ジャーナリスト]
 ゴールデンウィーク期間中、日本は首相のロシア・中東歴訪をはじめ、11閣僚が欧米や東南アジア、南米・中南米へと外遊し、“安倍外交”を展開した。関係悪化中の中国と韓国を外す形となったが、その中国の外交はどうか。少し前の事になるが、習近平国家主席の就任後初の外国訪問のときのことを振り返ってみたい。
 今年3月、中国の習近平国家主席がタンザニア、南アフリカ、コンゴのアフリカ3ヵ国を訪問したことは記憶に新しいところだ。中国はこの訪問で、タンザニアとは農業、エネルギー、インフラ建設、またコンゴとは経済特区建設のほか鉄道建設などをめぐる経済協力の合意に達した。
 2012年の中国・アフリカ間の貿易額は2000億ドル。09年以来、中国は欧州を超え、アフリカにとって最大の貿易パートナーになった。南アフリカではすでにハイテク技術を中心とした中国企業の直接投資が進んでおり、現地での雇用創出に貢献しているという。
■現地の内需拡大に貢献せず? 中国のアフリカ経済協力
 しかし、今回の訪問に対し、欧州メディアからはこんな声が上がった。
 「中国の新植民地主義だ」――。
 中国のアフリカに対する協力は、結局中国の設備と人材を投入するだけで、何ら内需拡大に貢献しないと見ているためだ。
“オール・バイ・チャイニーズ”――。中国政府の旗振りのもと、中国企業を現地に進出させ、設備も人も持ち込むやり方は、今回に限らず過去数年にわたって「新植民地主義ではないか」といった議論の的となっている。現地からも「地元のルールややり方を尊重しない」などの“中国流”を嫌う声は小さくない。
 その一方で、筆者には、この習近平氏が2011年10月に殺害されたアフリカ北部・リビアの元最高指導者・カダフィ大佐にも重なって見える。貧困にあえぐアフリカが望むものを次から次へと資金提供して与えたカダフィは、当時アフリカ54ヵ国の帝王となる野望を抱いていた。カダフィ亡き今、その代役となるのが、まさにこの中国に他ならない。
 ちなみに、カダフィ存命中にリビアが稼いだオイルマネーは、カダフィの鶴の一声でアフリカ大陸にばらまかれていた。
 南アフリカのアパルトヘイト撤廃に向けて、現地与党のアフリカ民族会議(※1)をサポートしたのもカダフィならば、アフリカ資本による通信衛星を計画したのも彼だった。アフリカ通貨基金(※2)を創設しようとしたのも彼であり、アフリカ連合(※3)を財政的に支えたのも彼だった。
 ちなみに、アフリカの人々は、カダフィの最終的な野望が「アフリカの帝王になる」という点で危険人物視はしていたものの、「なにも殺すことはなかった」という見解でほぼ一致している。
■アフリカから日本への「片思い」 ポスト・カダフィは習近平なのか?
 カダフィ殺害からはや1年半。今回の習主席のアフリカ歴訪に「カダフィ亡き後を継ぐ実質的な支配者は、中国になるのだろうか?」――筆者はそんな質問を、マリ共和国在住で中国問題に詳しいA教授に尋ねた。すると次のような回答が送られてきた。
 「アフリカは、これからの積極的な経済政策を行わなければならない段階において資金を必要とするが、今の欧州経済は弱体化し、どこも自国のことで手一杯。もはや欧州に期待することができない状況下、これに代わるのが中国だ。中国は短期間において、アフリカを経済支配するだろう。我々も、“他の国”がアフリカに注目しないのであれば、中国にすがるしかないと思っている」
 彼が言う“他の国”とは、日本を示唆している。外資投資を必要としているアフリカのラブコールは、実は日本に向けられて発信されている。欧米は旧宗主国であり、中国は資源目当てだとすると、残るパートナーは日本しかない、と認識するためだ。
 しかし、当の日本は、「アフリカは遠い」「政情が不安定」「汚職もひどい」などの理由をつけ、結局アクションを起こさない。その結果、市場は中国の手中に陥ちる。アフリカ人識者らは「それは当然の結果だ」と受け止めている。
■アフリカの官僚を“洗脳”する中国
 その一方で、A教授は中国がアフリカに対して抱く野望と現実の取引における危険性に対して、警戒を緩めてはいない。だが、国民全体の教育水準は低く、アフリカでは中国の野望を十分に分析することができる人材が育っていないのが現状だ。A教授は「国民は文字を読めず、官僚は問題意識が低い」と嘆く。
 教育の不足は国民のみならず、官僚もまた同じだ。官僚に相応しい人材は著しく欠如しており、そのアフリカの“官僚の人材育成”に手を出しているのも、実は中国なのである。
 アフリカでは毎年350人の各国の官僚が、中国での研修のために出国する。滞在期間は3週間から2ヵ月。往復の航空運賃、宿泊費に加え、一日80元(約1280円、1元=約16円)の生活費まで、すべて中国側が負担する。研修プログラムは中国語や中国の文化に始まり、工業からIT、環境を含む産業や経済、政治など多岐にわたる。
 「ひとたび中国でトレーニングを受ければ、彼らはすっかり中国に魅了されてしまう。ある意味“洗脳”されて帰国する」と、A教授は打ち明ける。
 アフリカでは今、このように「親中官僚」が毎年輩出され続けているのだ。
 しかし、いまどきこんなことができる国など、中国をおいて他はないだろう。中国はアフリカ支配の地歩を着実に踏み固めつつある。
■「歴史問題」という便利な対日カード
 日本では大きく報道されなかったが、去る4月6日から3日間、海南島で「ボアオ・アジアフォーラム」(理事長は福田康夫元首相)が開催された。
 これは、ダボス会議のアジア版を目指し、中国政府の全面支援により2002年から毎年開催されている国際会議であり、各国首脳や大企業経営者、学者、NGO代表などの人材が集い、アジアや世界の経済動向、金融政策、経済投資、国際協力、環境問題などに関する討論が行われる。
 開催期間中、中国のテレビは、ホスト役の習近平氏が各国の代表を迎え入れる映像をひっきりなしに放映していた。
 日本の代表も招かれ、習近平氏と握手を交わすシーンが報道されたが、フロアの中央でドンと構える習近平氏に向かって、十数メートル離れた距離に立たされた日本の代表がトコトコと歩み寄る姿は、なんとなく“中華思想に基づくご機嫌伺いの朝貢貿易”を彷彿とさせた。
 こうしたシーンを見るにつけ、果たして日本はいま、こうした大規模会議の主催国になれるのか、果たして日本は再びアジアのリーダーとなれるのか、そんなことをつくづく考えさせられる。
 さて、翻って日中問題においてはどうか。最近、中国のある政治学者B氏と食事をする機会があったのだが、氏との会話は、日中関係の修復はそう簡単ではないことを改めて理解させるものだった。
 というのも、中国は尖閣諸島の国有化問題を、歴史問題にまで絡め、これを争点にしてしまっているからだ。
 確かに、昨年9月の反日デモ以降、日中間の摩擦の火の粉は「国有化」を起点に、政治、外交、経済、歴史と、あらゆる方向に飛び火した。とりわけ歴史問題に言及することで、しばらく表面化することがなかった国民の反日感情を再び焚きつける形となった。
 「この中国国民の憤りに対する決着をつけるならば、日本は侵略を認め、ドイツがポーランド・ワルシャワで行ったような『跪いての謝罪』でしか、中国人の溜飲を下げる方法はない」とB氏は言うが、これはB氏に限らず、今多くの中国人が共通して心中に抱く感情のようである。
 また、B氏からはこんな発言も飛び出した。
 「経済的にも衰退した日本は、中国の弟分になることを認めたほうがいい」――。
 裏を返せば、衰退する日本経済の足元を見透かしているということだ。
 確かに、日本の「国民1人当たりGDPの世界ランキング」は上位に食い込んでいた2000年から低下し、11年には18位(※4)に落ちた。「世界GDPに占める日本のシェア」も1990年の14.3%から、10年には5.82%(※4)に縮小した。IMD(国際経営開発研究所)が発表した「国際競争力順位」によれば、90年に1位の座を占めた日本は、08年は22位にまで転落した。
 他方、“大国”になった今においても、中国には過去から引きずるコンプレックスというものが存在する。「日本人はいつも中国人を見下している」という被害者意識がそれらしいのだが、「いつか晴らしたい屈辱」なのだという。
 日中関係、これは回復するものではなく、「逆転させるもの」だということが、B氏の発言から伝わってくるのだ。
 とはいえ、今の中国には戦争はできない。なぜならば、「もし戦争をすれば、世界が中国を脅威と見るからだ」(同)。確かに、世界の覇者たらんとする中国にとって、各国が“どん引き”してしまっては、かえってマイナスだ。“世界の嫌われ者”となることを極度に嫌がる中国は、そこは良好なイメージを保つべく、日本との関係改善も穏便に遂行したい思惑が伺える。
 いつの間にか、日本に迫られているのは「戦後の総決算」になってしまった。昨年秋の反日デモ当時に下された経済制裁のみならば、互恵互利でなんとか乗り切れる可能性もあったかもしれない。しかし、さんざん日本から技術を吸収しキャッチアップした今、中国にとって日本から引き出せる魅力的なカードは、もはや尽きてしまっている。
 残るは「戦後の総決算」、そして最後のゴールは「立場の逆転」というわけか。確かに、中国外交部のスポークスマンの毎日の雄叫びも「釣魚島は中国の固有の領土」から「日本は侵略を認めよ」に変わってきている。
 日本を弟分に従え、アフリカでは新宗主国となり、アジアでもその覇権を握りたい中国。大国として君臨せんとする中国の、世界史を変えようとせんがための野望と挑戦……。そこにいよいよ、日本では“憲法9条” の改正論議が絡もうとしている。事態はますます複雑化しそうだ。
 ※1 The National Congress of Africa、略称ANC。ネルソン・マンデラ氏が1991〜97年まで議長、94〜99年まで南ア大統領を務めた。
 ※2 African Monetary Fund、略称AMF。
 ※3 African Union、略称AU。
 ※4 IMF「The Global Competitiveness Report 2011-2012」による。
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【風を読む】「アフリカは中国との愛から目を覚まさなければならない」 2013-03-26 | 国際/中国/アジア 
 【風を読む】「アフリカは中国との愛から目を覚まさなければならない」 論説副委員長・西田令一 
 zakzak2013.03.26
 習近平中国国家主席の初外遊の出ばなをくじくように、歴訪先のアフリカから中国に対し異議申し立ての狼煙(のろし)が上がった。
 3月12日付英紙フィナンシャル・タイムズ(アジア版)に載った、ナイジェリアのラミド・サヌシ中央銀行総裁の寄稿は容赦ない。
 「(原油の対中輸出により)莫大な資源を費やして国内製造すべき消費財を中国から輸入する」自国の現状を嘆きつつ、中国のアフリカ進出のやり方を糾弾している。
 アフリカ広域でインフラを建設して「自国から持ち込んだ機材と労働力を使い技術を現地に移転しない」と指摘し、その手法を「新型帝国主義」「アフリカの非工業化と低開発の元凶」と断罪している。
 興味深いのは歴史がのぞくくだりである。寄稿者は、父親が1970年代の駐中国大使当時に毛沢東を崇拝し、後に外務次官となり中国の影響を受けて政策を立案したとし、アフリカでは「愛中の姿勢は極めて一般的だ」と述懐している。
 だから、見出しもずばり、「アフリカは中国との愛から目を覚まさなければならない」である。
 同紙はさらに、この寄稿を「(中国に対する)見解を変えるアフリカ高官が増えていることの反映」と位置付けて、1面トップ記事で紹介する異例の紙面作りをした。
 親中派の中国専門家デービッド・シャンボー米ジョージ・ワシントン大教授も、3月18日付米紙ニューヨーク・タイムズへの寄稿で、中国に関する否定的な見方が世界各地で広がっているとし、「関係が概して肯定的であり続けたアフリカでも過去3年で中国のイメージは悪化している」と論じているほどだ。
 そういえば、中国が世界中に人を送り込み資源漁(あさ)りしている実態を、アフリカを手始めに現地から伝えた「巨竜むさぼる」を産経新聞が通年で連載して、3年になる。
 「愛中」幻想から覚めつつある目にようやく、「巨竜」という正体が見えだしたということか。
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国家主席就任直後の習近平がロシアの次にアフリカ諸国の歴訪を選んだわけ 2013-03-26 | 国際/中国/アジア 

軋む世界 米中 新たな火種 【?】南スーダン/資源・安保で覇権争い
 中日新聞2011/07/26Tue.
 「中国の方々から毎日、油田開発のオファーがありますよ」。今月9日、アフリカ54番目の国として誕生した南スーダン。建国の興奮冷めやらぬ中、南部政府の高官は、本紙の取材に、既に中国側の熱烈な営業攻勢を受けていると明かした。
 北部スーダンの3倍に上る油田を抱え独立した南部。道路や水道、電気などインフラ整備への支援の申し出が、中国側から続々と届く。「全てわれわれから石油開発(参入)への協力を取り付けるためだ」と、意図を高官は見透かす。
 舗装道路の総延長がわずか60キロ、電気や水道も未発達という国で、中国の存在感は際立つ。地元の記者によると、首都ジュバは中国系ホテルが10軒余に急増。「政府役人の大半の家は、中国企業が特別価格で建設したという話だ」と記者は声を潜めた。
 中東の衛星放送アルジャジーラなどによると、分離前のスーダンは、1983年から20年余に及ぶ南北内戦が続き、米石油大手シェブロンが撤退。国際テロ組織アルカイダの指導者ウサマ・ビンラディン容疑者(今年5月に米国が殺害)が91年からスーダンを拠点にしたのを受け、米国は93年、スーダンをテロ支援国家に指定し、経済制裁を科す。欧米勢と入れ替わるように進出したのが中国国営石油会社だった。
 「走出去(ソーチューチー・海外に出よう」。中国政府は今世紀に入って、自国企業に海外進出を一段と促す。国策と一体の企業はリスクや政治問題を度外視し、実利優先んで事業を拡大するのが強み。日量約50万バレルとされる南北スーダンの石油生産の3分の2が、中国向けとされた。
 2005年、南北和平合意が実現し、黒人キリスト教徒の多い南部でアラブ系イスラム教徒中心の北部からの独立の機運が高まると、中国は北部ばかりか南部の有力者へも接近を開始する。
 南スーダンの当局者によると、09年、南部の幹部候補らが多数、北京へ招かれ、研修を受けた。「その大半は、今や新政府の指導的立場。中国は親中派を育てようとしたのだろう」
 この資源豊かな新国家で、覇権争いに名乗りを上げたもう一つの大国が、米国だ。
 南北和平合意の後、スーダンにインフラ整備や食糧支援など60億?(約4千8百億円)もの資金を投入。「アメとムチ」と言われる見返りと圧力の両面で、北部バシル政権を揺さぶり、南部分離を認めさせた。
 南スーダンは、アフリカ北部イスラム圏と中部キリスト教圏との境にあり、地政学的に重要な位置を占める。中東・アフリカのイスラム圏を中心に「対テロ戦争」にあえぐ米国にとって、この地域で親米国家を獲得する意味は、安全保障上も大きい。
 9日の独立式典に駆けつけた米国のライス国連大使は「独立は、与えられたのではない。あなた方が勝ち取ったのだ」と持ち上げてみせた。だが、米外交の勝利ともいえる。
 長い内戦を経て、悲願の新国家樹立に沸き返る南スーダン。グローバル経済と対テロ戦争での勝利をもくろむ大国の思惑が、激しくぶつかる最前線となりつつある。(カイロ・今村実)
    ■  ■
 23日の東南アジア諸国連合(ASEAN)地域フォーラム(ARF)でも、焦点の南シナ海領有問題をめぐり米中両国は歩み寄りの姿勢を示さなかった。激しさを増す資源争奪や情報戦など、世界各地での2大国の新たな火種を探った。

軋む世界 米中 新たな火種【?】欧州 中国、国債購入 武器に
中日新聞2011/07/27Wed.
 ベルリンの首相府で6月28日、ドイツのメルケル首相と中国の温家宝首相が共同記者会見に臨んだ。その場へ次々に登場した両国の閣僚や企業トップが延々30分も、2項目に及ぶ協定書類に署名し、固い握手を交わした。大型商談成立を報道陣にアピールする晴れ舞台だった。
 中国から楊潔ち外相ら過去最多の13閣僚が参加した初の独中合同閣僚会合。経済協力の合意は幅広く、主要企業の大型ビジネスも並んだ。
 中国が欧州航空機大手エアバスの旅客機A32062機を購入▽独自動車大手フォルクスワーゲン(VW)は中国に新工場を建設し、電気自動車でも協力を推進▽独総合電機大手シーメンスと中国国家発展改革委員会は中国での環境対策の技術開発で提携ーなど、総額百6億ユーロ(約1兆2千億円)にも上る商談となった。
 欧州諸国には、中国の巨大市場への期待感とともに、人権問題への懸念も根強い。しかし、中国が、温首相歴訪直前の6月22日、拘束していた芸術家、艾未未(がい みみ)氏を保釈するなど、懸念に配慮するポーズを見せると、ドイツは「法治国家としてのあるべき姿に意見の相違がある」(メルケル首相)と認めつつ、実利優先でビジネスを進める姿勢を前面に出した。
 温首相も「今後5年間で両国間の貿易額を倍増させ2千億ユーロにする」と意気込んだ。
 中国資本のドイツ進出は著しい。
 今年に入ってパソコンメーカーなど7社を買収。独大衆紙ビルトは「中国の侵略」の見出しで報じ、国内の不安を伝えた。「中国は産業スパイから企業買収へと戦術転換した」とする識者の意見を紹介した上で、大型商談成立にも「笑顔の裏に何があるか」と警戒心を隠さない。
 実際、中国は目に見えないものをも買おうとしている。温首相は記者会見で、ギリシャに端を発したユーロ圏諸国の国債買い入れを表明。危機にもかかわらずユーロの対ドル相場は1月の1・28?から直近の1・44?へ値上がり。要因の1つが、ユーロ諸国の国債などの中国による購入だ。
 中国はこれまで、自国の輸出が有利になるように人民元を売り、ドルを買う為替介入を続け、対米輸出の価格競争力を保ってきた。手元にたまったドルで米国債を大量に買っているが、財政問題抱える米国と道連れになる危険も膨らんだ。
 ドルに代わる唯一の投資先が現状ではユーロ。欧州からは感謝もされる。中国がドルからユーロへ振り向ける資金の割合を増やせば、米国の金利やドル相場が悪影響を受ける恐れがあり、中国にとって米国を揺さぶる手段ともなる。
 ユーロ危機の下、欧州と米国の足元を見透かしたような中国のしたたかな経済戦術が、欧州への接近をいっそう加速させている。(ベルリン・弓削雅人、ロンドン・松井学)

軋む世界 米中 新たな火種 【?】中央アジア/経済力背景に中国化
中日新聞2011/07/28Thu.
 「ロシアか中国か。(ロシアの)メドベージェフ大統領が踏み絵を迫った」
 6月14日、中央アジア・ウズベキスタンの首都タシケント。メドベージェフ大統領とウズベクのカリモフ大統領の4時間に及んだ会談を、ロシア外交筋はこう分析する。
 表向きのテーマは「中東民主化」。自国への波及を恐れるカリモフ大統領に対し、メドベージェフ大統領がカリモフ氏の独裁体制への支持と引き換えに「親ロ反米路線」の堅持を求めた、との見方が一般的だ。が、同筋によると、メドベージェフ大統領が重視したのは、翌15日のタジキスタンでの上海協力機構(SCO)首脳会議で、新規加盟規約の採択に同意させることだったという。
 SCOは、もともとロシアと中国が、米国と対峙する新たな世界軸を目指して2001年6月、中央アジアの旧ソ連4か国とともに創設。05年の首脳会議では、中央アジアの駐留米軍に早期撤退を求める共同宣言を出し、実際にウズベクの米軍基地を閉鎖に追い込むなど、対米牽制では一定の成果を挙げてきた。
 しかし、経済力を背景に、豊富な地下資源への巨額投資など中央アジアに対する影響力を拡大する中国は、ロシアにとって米国以上ともいえる脅威に変貌。ロシアは、中国を抑えるため、友好国でSCO準加盟国のインドの正式加盟をもくろんでいた。
 加盟規約は、運営分担金など加盟の具体的条件を定め、SCO拡大の法的基盤となる。
 既に事務レベルで草案が完成。ロシアは、採択を目指し、根回しに奔走した。
 だが、首脳会議では各国首脳がSCO拡大を検討するとの覚書に署名したものの、具体的加盟条件については継続審議とされた。ロシア外交筋や専門家らによると、中国が規約の内容に原則的に賛成しながらも「SCOは開かれた組織として発展する」との拡大路線明示の表現に反発したためという。
 現在、モンゴル、インド、パキスタン、イランが準加盟国。今後数年内の正式加盟は困難とみられるが、機構として拡大路線を明確にした場合、いずれは「対テロ戦」をめぐって米国と対立を深めるパキスタンなどの加盟も具体的日程に上り、対米摩擦が生じる。財政赤字に苦しむオバマ米政権がブッシュ前政権と違って中央アジアに対する消極姿勢を続ける隙に、安全保障面での無用な米中対立を避けつつ、経済領域で一気に影響力を拡大しようとする中国の思惑が浮かび上がる。
 中国の胡錦濤国家主席は首脳会談で、SCO加盟国に対する総額百20億?(約9千5百億円)の低利融資を表明。もくろみの外れたろしあとは対照的にSCOの盟主としての存在感を示した。
 ロシア科学アカデミーの研究者ルジャーニン氏も「もはや経済面ではSCOにおける中国の主導権は揺るがない」といっそうの“中国化”を予測する。ロシアのみならず、米国にとっても憂慮の種に違いない。(モスクワ・酒井和人)

軋む世界 米中 新たな火種 【?】サイバー空間/「諜報活動」に包囲網
中日新聞2011/07/30Sat.
 今年3月、米防衛関連企業のコンピューターに外部から何者かが侵入、国防関連情報を含む2万4千件のファイルが盗み出された。
 「やったのは外国の諜報機関だと考えている。背後には国家権力がいる。だが、あえてそれが誰なのかは言わないことにする」
 コンピューターネットワーク上の仮想空間を「サイバー空間」と呼ぶ。今月14日、その空間における米国の新たな防衛戦略を発表したウィリアム・リン国防副長官はさりげなく重大な事実を打ち明けた。
 中国のことを指しているのは、誰の目にも明らかだった。
 今年6月。外部からの大規模なサイバー攻撃を受けたインターネット検索大手グーグルは「攻撃の起点は中国山東省済南市」と発表した。
 同市は人民解放軍の重要拠点。昨年、グーグルが検索サービスに対する事前検閲の撤廃をめぐって中国政府と対立した際も「同市からとみられるサイバー攻撃を受けた」と主張していた。
 中国側は否定しているが、今回の攻撃ではグーグル提供のメールサービスを利用する米政府高官らの私信が標的とされており、中国の諜報活動の一環である疑いは深まるばかりだ。
 2008年、米国防総省のコンピューターシステムは外部からの本格的なサイバー攻撃に初めてさらされた。危機感を深めた米国は昨年2月、「4年ごとの国防戦略見直し(QDR)」でサイバー戦略の必要性を明記。昨年5月には、東部メリーランド州の陸軍基地内に「サイバー司令部」を設置した。
 これに遅れること約1年、中国国防省は人民解放軍の広州軍区に「ネット藍軍」を創設。「ハッカー部隊では」との懸念が世界に広がったが、中国はネット攻撃に対する防御態勢固めと説明した。
 サイバー空間でしのぎを削る2大国だが、現実には、サイバー戦での米国の攻撃力は他の追随を許さない。
 米軍はコンピューター7百万台を擁し、1万5千以上の軍用ネットワークを運用。ハイテク兵器を一瞬で無力化するコンピューターウィルスなど「サイバー兵器」も、1991年の湾岸戦争当時にイラク軍事システムを標的にして使用したとされるうえ、最近のイラン核開発施設を狙った作戦でも実証済みといわれる。
 さらに、「アングロ・サクソン諸国」と呼ばれ、互いに親密な英国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドとの間で軍事通信傍受網「エシュロン」を秘密裏に運営してきたと指摘される。
 日本もまた、サイバー空間での米国の安全保障体制に組み込まれつつある。リン国防副長官は、サイバー戦略発表の記者会見で「日本とはとりわけ協調を進めたい。すでにその手だては打っている」と明言した。
 サイバー攻撃に対し軍事報復の可能性をちらつかせ、中国を激しく牽制する一方で、欧州や日本とのサイバー同盟の強化を進める米国。冷戦時代の旧ソ連封じ込めを想起させる、「中国封じ込め」が着々と進んでいる。(ワシントン・久留信一)

軋む世界 米中 新たな火種 【?】南シナ海 問題先送り 中国は軍拡

   

中日新聞2011/07/31Sun.
 領有権争いが続く南シナ海南沙(英語名スプラトリー)諸島で、フィリピンが実効支配するパグアサ島など9つの島や環礁を管轄しているパラワン州カラヤン町。ビトオノン町長は5月下旬、漁民から、中国船が同諸島の浅瀬に建築資材を運び込み、建造物を建設しようとしているのを目撃した、と連絡を受けた。すぐにフィリピン軍に報告するよう漁民に指示した。
 「建造物ができれば人民解放軍が駐留し、漁民が近くを航行できなくなる。容認できない」と町長は言う。
 1995年に南沙諸島のミスチーフ環礁に中国が軍事拠点を設置して以来、中国船による監視活動が活発化。航行を妨害されたり、警告射撃を受ける漁船が増えた。フィリピン外務省は、今年2月以降、中国から少なくとも7件の「攻撃的侵入」を受けたとする。
 これに対し、今月20日には、パグアサ島にフィリピンの国会議員5人が上陸し、自国領であるあることをアピール。ロザリオ外相も中国批判の発言を繰り返す。フィリピン側の強硬姿勢の背景には、合同軍事演習の実施や武器供与の約束など、米国がフィリピン支援に対し軍事支援を深めている事情がある。
 しかし、21日にインドネシア・バリ島ヌサドゥアで開かれた中国と東南アジア諸国連合(ASEAN)との外相会議は、問題の平和的解決を目指す2002年の「行動宣言」の実効性を高める指針に合意したものの、解決への具体策を盛り込めなかった。「中国は現状を維持した」とフィリピン外交筋。問題の先送りに中国が成功したとの認識だった。
 昨年7月のベトナム・ハノイでのASEAN地域フォーラム(APF)で、クリントン米国務長官は、世界の商業海運の5割が通航する南シナ海の自由航行は「米国の国益」と述べ、関与を本格化。参加各国が同調し、「中国包囲網」が形成された。
 その流れを教訓とした中国は今回、新たな経済支援を前面に掲げ、先手を打った。4月に温家宝首相がASEAN議長国のインドネシアを訪問し、百億?(約8千億円)規模の経済協力で合意。フィリピン、ベトナムとも個別に会談を行い、ASEAN側と具体策のない指針での合意にこぎつけた。中国の楊潔箎(ようけっち)外相は「中国とASEANで(領有問題を)解決できることを示すものだ」と述べ、米国の関与は不要との姿勢を強調した。ASEAN外交筋は中国の思惑を「時間を稼げばそれだけ自国に有利に働くと考えているのだろう」と指摘する。
 中国国防省は27日、空母計画について初めて公式に確認。大連での改修中の旧ソ連製空母「ワリャク」が近く就航し、南シナ海を管轄する人民解放軍「南海艦隊」に配属される見通しのほか、国産空母の建造も本格化したもようだ。中国はさらに、米空母の接近を阻止できる対艦弾道ミサイルの配備を始めたとの情報もある。
 巨額の財政赤字を抱え、国防費削減を迫られる米国は、世界第2位の経済力をバックに軍備拡張を進める中国の動きにいっそう神経をとがらせている。
(ヌサドゥアで、古田秀陽)=おわり
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