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オバマ政権は防衛誓約を果たすのか〜日米同盟ウオッチ三十余年の末の疑念 ワシントン・古森義久

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「国際激流と日本」 米国の曖昧な態度にふつふつと湧いてくる疑念 尖閣防衛の意思を明言しない米国に頼っていていいのか
JBpress2013.08.14(水)古森 義久
 米国のオバマ政権は日本の尖閣諸島を本当に防衛するのか。
 この疑問がますます深まってしまう。
 その疑問はオバマ政権の日米同盟に対する基本的な態度への懐疑にもつながっている。
 中国は8月に入って、尖閣海域の日本の領海への侵犯をますます強めてきた。このままだと尖閣諸島の日本の主権はおろか施政権までが崩れかねない。外国の艦艇が無断でいつでも侵入してくる海域の施政権を主張することは、このままでは至難となりそうなのだ。
 だが日本の年来の同盟国、米国のオバマ政権は、尖閣の有事に日本を防衛するという方針を決して言明しない。日米安保条約の適用対象になるという婉曲な表現に留まるのみである。
*日本の国家安全保障には日米同盟堅持がベストの方策
 オバマ政権のすっきりしない態度の背景には、国際的リーダーシップの発揮や同盟諸国との価値観の共有、そして安定や抑止の基礎となる軍事力そのものを忌避するというオバマ大統領の傾向が明らかに影を広げている。
 アラブ世界での米国の後退や対テロ闘争での弱腰を見ると、年来の2国間同盟を堅持するという米国の基本姿勢にさえも懐疑を覚えさせられるのである。
 私はオバマ政権に対するこの種の懐疑や疑問をまとめて、『いつまでもアメリカが守ってくれると思うなよ』(幻冬舎新書)という本を上梓した。本のタイトルこそ、ややセンセーショナルではあるが、オバマ政権の対日防衛誓約の履行に様々な不信を覚えさせられる理由を多角的に説明した。
 私がジャーナリストとして、あるいは、ときには研究者として、日米両国間の安全保障関係を考察するようになって、もう30年以上となる。その間、私自身は、日本の安全保障にとって日米同盟の堅持こそが最も現実的で賢明な選択肢だと判断してきた。
 周知のように、日本との同盟関係を保ち、日本が第三国からの軍事力での攻撃や威嚇を受けた場合、米国が日本への実際の軍事支援を明確にするという米国の政策は、長年、超党派のコンセンサスに支えられてきた。東西冷戦中に日本へのソ連の軍事脅威が現実だった時代も、米国は核抑止も含めて、日本の防衛を誓い、いざという際にはその責務を実行する意思と能力をも明示してきた。
 ソ連共産主義体制が崩壊した後も、米国は中国や北朝鮮の軍事脅威に対し、日本への軍事支援を、核拡大抑止をも含めて明確にしてきた。有事には、実際にその支援を履行するという意気込みが感じられた。だから日本の国家安全保障には、米国の軍事力を取り込んだ日米同盟堅持こそがベストの方策だと私自身も考えてきた。この基本はいまも変わらない。
*互いにメリットを享受してきた日米同盟
 ところがオバマ政権は、どうもその安全保障政策の基本が米国の歴代政権とは異なるのである。
 日本を守るために中国と戦争をする覚悟までがあるのか。覚悟があってこそ中国の侵略を事前に抑止できると言えよう。だがいま米国にその覚悟があるかというと、どうしても疑問を呈さざるを得ない。特に2期目に入ってから、オバマ政権の姿勢には「同盟国を守る」という断固さが欠けるようになってきた。
 この変化はたとえ微妙にしても、日本にとっては致命的な重みを持つ。日本は戦後の長い年月、一貫して、自国の防衛を米国の力に委ねてきたからだ。
 日本は憲法9条で自国には軍事力を禁じ(憲法上、自衛隊は軍事力とは異なる)、自国の防衛にさえも自縄自縛の制約をいろいろ課してきた。軍事力をちらつかせる他国の威嚇にはただ屈服するだけ、という消極平和主義のメカニズムを選んだのが戦後の日本なのだ。
 ただし、それでは自国は守れず、自国民の生命も安全も守れない。その大きな空洞を米国の軍事力に頼ってきた。その取り決めが日米安保条約であり、日米同盟だった。
 こうした米国全面依存は日本にとっての利点も多々あった。また、米国にとっても、日本から依存されることが米国の利益や政策に合致した。アジアへの関与や駐留を保つ限り、日本と同盟を結び、日本国内の基地を米軍が自由に使えるという取り決めは便利だった。ただしその大前提には、日本が第三国から攻撃された場合、米国人が血を流してでも戦うという覚悟を同盟上の誓約として掲げていた。
 しかし、米国歴代政権のこうした対日同盟政策が、2期目を迎えたオバマ政権では揺らいできたように見える。希薄になったとも言えようか。明確な防衛誓約が曖昧になってしまったようなのだ。
*尖閣防衛の意思を明言しない米国
 尖閣諸島を巡る日本と中国の対立に対するオバマ政権の態度が、その曖昧さの実例である。
 オバマ政権の高官たちは、ジョン・ケリー国務長官でもチャック・ヘーゲル国防長官でも、「尖閣諸島は日米安保条約の適用の範囲内にある」と繰り返す。この言明を普通に解釈すれば、日本の施政権下にある領域への外部からの武力攻撃に対しては米国も日本と共同で対処の行動を取るという日米安保条約の第5条の適用を指すことになる。「共同の対処」が実際の軍事支援を意味する、というわけだ。日本政府の公式の解釈もこの路線である。
 だが、オバマ政権の当局者たちは、中国の尖閣への軍事威圧の行動や日本領海への侵入がいくら激しくなってきても、「有事には尖閣を防衛する」という具体的な言葉は決して口にしない。有事の尖閣防衛の意思を明言しないのである。「米軍も尖閣を防衛する」という言明は皆無なのだ。
 ヘーゲル国防長官やケリー国務長官は、尖閣について「現状を変えようとする行動や、いかなる力による一方的な行為にも反対」という言葉は語る。「尖閣の主権や施政権を巡る問題は平和的、外交的、国際法に沿った方法で」とも強調する。そしてオバマ政権はなによりも、尖閣諸島の領有権については「立場を取らない」とする。つまりは中立である。
 施政権についても、日本と中国がともに自制をして、平和的な手段で、という中立の趣旨を繰り返す。しかし、米国が尖閣諸島の施政権に対してまで中立や曖昧な態度を取ることは、米国自身の過去の行動にも、日米同盟の規定にも反することになる。
 そもそも尖閣の施政権は、米国が1972年に沖縄とともに日本に公式に返還したのである。そしてその施政権が日本側にあることをオバマ政権を含めて歴代の米国政権が無条件で認めてきたのだ。
 ところが、いまやその施政権を軍事力で脅かす中国の行動を、オバマ政権はまったく批判しない。中国は軍艦や戦闘機を動員して、尖閣周辺の日本の領海や領空に頻繁に侵入してくる。オバマ政権が反対する「力による一方的な行為」が、連日、米軍の目前で展開されているのだ。だがオバマ政権は中国のその非を指摘しない。中国の国名さえ挙げず、単に、日中両国を並列に並べて、「ともに抑制を」と呼びかけるだけなのである。
*日中両国を同等に扱う米国は同盟国なのか?
 オバマ政権に近い民主党支持の日本研究者シーラ・スミス氏は尖閣問題について、いまの日中対立の原因は2012年9月の日本側の尖閣国有化だとして、日中両方のナショナリズムが対立をあおるという趣旨の論文をこのほど発表した。
 しかし現実には今回の対立の原因は、2010年9月の中国漁船の日本領海侵犯と日本側の海上保安庁巡視船への体当たりである。さらにその背景には中国政府が1992年の「領海法」で尖閣の領有権を一方的に宣言した経緯がある。
 「日中両方のナショナリズム」などと軽く述べるが、そもそも日本側の扇情的なナショナリズムの現象がどこにあるというのか。日本の企業や商店を破壊する、中国政府公認の大規模な暴力的なナショナリズムは、日本では皆無なのである。それなのに日中両国を同等に扱うのだから、同盟国としての米国は一体どこへ消えたのかと問いたくなる。
 以前、本コラム(「『米軍は尖閣を守るな』という本音」2013年4月10日)で、これまたオバマ政権に近い米側の中国海洋戦略の専門家、マイケル・マクデビット元提督が、「尖閣にたとえ中国からの軍事攻撃があっても、米国は尖閣防衛のためには中国軍との戦闘に入るべきではない」と衝撃的な証言をしたことを伝えた。
 オバマ政権が日米同盟の防衛誓約を完全に果たすのかどうかについては、さらに多数の例証が大きな疑問を提起している。私はそれらの事例を自書『いつまでもアメリカが守ってくれると思うなよ』の中で詳述した。前述のように日米同盟ウオッチ三十余年の末に初めて米国側の防衛誓約への基本的な疑問を覚えるに至ったことを、日本のできるだけの多くの人たちに提起して、論議を求めたいと願う次第である。
 ことは日本の国家と国民の安全保障なのだ。その重要性はいくら繰り返しても十分ではないだろう。
 *上記事の著作権は[JBpress]に帰属します
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『帝国の終焉 「スーパーパワー」でなくなった同盟国・アメリカ』日高義樹著 2012/2/13第1刷発行 2012-10-02 | 読書 
  (関連部分のみ抜粋)
p152〜
  中国はアメリカに対抗するため、大陸間弾道弾や核兵器の開発に力を入れている。すでに55発から65発の大陸間弾道弾による態勢を確立している。この大陸間弾道弾のなかには、固形燃料で地上での移動が可能な長距離ミサイルや、液体燃料を使う中距離ミサイルなどがある。
  中国は潜水艦から発射するミサイルの開発も終わっている。これは中国の核戦略の対象がアメリカであることを示しているが、日本を攻撃できる射程3,000キロのミサイルの開発にも力を入れている。日本が中国の核ミサイルの照準になっていることに、十分注意する必要がある。
  中国がアメリカに対抗できる核戦略を持ち、アメリカの核抑止力が日本を守るために発動されるかどうか分からなくなっている以上、日本も核兵器を持つ必要がある。「日本が平和主義でいれば核の恫喝を受けない」という考えは、世界の現実を知らない者の世迷い言に過ぎない。
  すでに述べたように、中国は、民主主義や自由主義、国際主義といった西欧の考え方を受け入れることを拒み、独自の論理とアメリカに対抗する軍事力によって世界を相手にしようとしている。第2次大戦以降続いてきた平和主義の構想がいまや役に立たないことは明らかである。日本を取り巻く情勢が世界で最も危険で過酷なものになっているのは、中国が全く新しい論理と軍事力に基づく体制をつくって、世界の秩序を変えようとしているからである。
p153〜
 第2部 アメリカはなぜ日本を守ってきたか
 外務省をはじめ日本の外交関係者や政治家たちは、冷戦が終わったあともこれまで通り「古いアメリカ」としか付き合っていない。アメリカが大きく変わり、日本に対する安全保障政策も変化したために、アメリカの旧日本担当者と話しても意味がないことに気づいていないようである。
p156〜
  話を元に戻すと、ワシントンの情勢が大きく変わり、アメリカの政治が中国やヨーロッパを向いている時に、日本の指導者や専門家は依然として、昔から日本を取り巻いてきたワシントンの二流どころの下級官僚に取り込まれている。
  2011年の秋、日本の若手政治家たちがワシントンへやってきた時、私がメンバーになっているケンウッドゴルフ場でその一人と顔を合わせた。若い政治家は私に挨拶すると「マイケル・グリーンさんに会いに来ました」と言った。マイケル・グリーン氏は、民主党系の若い官僚としてホワイトハウスに入り、ブッシュ政権では日本専門家がいなかったために、民主党員でありながら、そのままホワイトハウスで日本問題を担当した人物だが、わざわざ日本から会いに来るほどワシントンで影響力を持っているわけではない。
  コンドリーザ・ライス前国務長官が、国家安全保障担当補佐官としてホワイトハウスで活躍していた頃、グリーン氏が日本問題を取り扱っていたのは事実である。だがライス補佐官はロシア専門家で日本にほとんど関心がなく、グリーン氏は会議の運営を手伝う端役の仕事しか与えられなかった。それでも日本から見ると、ホワイトハウスにおける最高の日本担当者である。ブッシュ政権下では、このほかにも数人の日本専門家がホワイトハウスにいたが、日本の政治家たちが考えるほどの権力も立場も与えられていたわけではない。こうしたギャップがいまも尾を引いている。(略)
 オバマ政権下のホワイトハウスには、日本専門家はいない。ドニロン国家安全保障担当補佐官の下で中国系のアメリカ人が中国問題と一緒に日本問題を取り扱っているが、彼らにとってはむろん中国問題が最も重要で、日本はそのついでに過ぎない。日本の若い政治家がワシントンへやってきて、日本担当者に会おうと考えても、グリーン氏レベルの人物にしかたどり着けないのは当然である。
  この問題を私が取り上げたのは、グリーン氏クラスの日本専門家は、評論家としては日本問題について意見を持っているとしても、オバマ政権の対日政策とは全く関わりがないことをはっきりさせるためである。現在の緊迫した東シナ海の情勢のもとで、アメリカがどのような戦略を立て、日本との軍事関係をどう構築しようとしているか、彼らには知るすべがない。
p161〜
 第3部 誰も日本のことなど気にしない
 アメリカは莫大な財政赤字を抱えて、日本を守ることができなくなった。もちろんアメリカ政府が正式にそう発言しているわけではない。だが2009年にオバマ政権が成立し、アメリカの財政がうまく立て直せないと分かり始めた頃から、アメリカの指導者が私に「日本が核兵器を持っても構わない」と言い始めた。
  これまで「日本に核兵器を持たせない」というのが、アメリカの日米安全保障政策の基本だった。「日本はアメリカが守る。だから核兵器を持つ必要がない」とアメリカは言い続けてきた。だがアメリカは日本を守ることができなくなり、守るつもりもなくなった。
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『アメリカの新・中国戦略を知らない日本人』日高義樹著 PHP研究所 2013年2月27日第1版第1刷発行 2013-02-28 | 読書 
  (関連部分のみ抜粋)
p53〜
第2章 アメリカは尖閣で戦う
p54〜
第1部 オバマ大統領は石原前都知事に敗れた
 石原前都知事がアメリカの新聞に「尖閣列島を守ろう」という大きな広告を出したとき、彼はこう述べた。
 「尖閣列島が中国に占領されれば、船舶の自由航行が阻害される」
p55〜
  これを読んだアメリカ海軍の首脳が私に電話をかけてきて、こう言った。
 「石原知事の行動は、戦略的に見て素晴らしいものだ。新聞広告も強い説得力があった」
  アメリカ海軍の首脳は総じて言えば石原前都知事に同情的である。表立っては言わないものの、心の中で拍手している。(略)
 オバマ政権は、基本的には親中国政権である。(略)『ニューヨーク・タイムズ』などのジャーナリストたち、学者たちは、ビジネス一筋の日本をあまり快くは思っていない。しかも歴史的に日本が侵略国家であったという認識を持っているため、侵略された中国や朝鮮に同情的である。
p57〜
  尖閣列島についてもこれまでオバマ政権は基本的に日本を助けるつもりはなく、事態をうやむやに処理しようと日本側に圧力を加えた。だが2012年の選挙の結果、50%政権になってしまったオバマ政権の政治力は低下している。対中国政策も変わらざるを得なくなるだろう。
p58〜
  尖閣列島とは何か。いまや尖閣列島は日本と中国の争いの象徴である。だがこの争いは、ある意味では国際社会における日常茶飯事とも言うべき、兵器なき戦いに過ぎない。この戦いを演出した石原前都知事は、日本とアメリカ、そして中国の3つの国の関係があまりにも欺瞞に満ちており、当然あるべき姿になっていないことを正すために尖閣列島を持ち出したのだと思う。
  日本では民主党政権が登場して以来、日本とアメリカと中国の3つが協力して世界を動かすという、いわゆる3本柱説が盛んに言われるようになった。この愚かしい説がどこから出てきたかの詮索は別として、民主党政権が成立した当初、民主党の小沢一郎元幹事長が中国と話し合ったあとにワシントンを訪問するなどといったことから推察して、国際情勢に疎い民主党政治家が先走りして3本柱説を言い出したとしてもおかしくはない。
p59〜
  だが、この説を主張する人々が理解していないのは、ワシントンには大きく言って中国に対する3つの違った姿勢をもつグループが存在していることである。
  1つは、民主党の左寄りのリベラルなグループや『ニューヨーク・タイムズ』で、いまの中国と協力して国際社会を動かしていこうというグループである。
  もう1つは、中国が資本主義化を進めて経済的に豊かになれば、やがて民主主義制度に移行し、平和勢力として優れたアメリカの同盟国になるだろうと考える人々である。このグループは、キッシンジャー・グループと重なるが、すでに述べたように、現在のオバマ政権にはキッシンジャー・グループの人々が大勢いる。
  3つ目のグループは、独裁的な中国の共産主義体制を滅ぼさなければならないと考えているブッシュ前大統領のグループである。その中核は、共産主義を悪魔だと主張してソビエトを滅ぼすことに全力を挙げたレーガン大統領を信奉するグループで、「レーガン・リパブリカン」と呼ばれている。
  以上の3つのグループは中国に対する姿勢がそれぞれ違っているが、現実問題としてはっきりしているのは、中国がアジアにおいて帝国主義的な領土への野心を明確にしていることである。南シナ海や東シナ海だけでなく、中国は各地で領土拡大の動きを見せている。
p60〜
  中国はここ数年、資源があると見られる南シナ海のベトナムやフィリピン、マレーシアなどの島々を奪おうとしてきたが、いまや日本の尖閣列島、さらには沖縄も狙っている。2012年12月、中国は国連の大陸棚限界委員会に対して、「中国の大陸棚は沖縄トラフに及ぶ」という申請を提出した。
  広大な中国は、14にのぼる国と国境を接しているが、国境を越えての侵略を恐れている国は多数ある。なかでもベトナムは1979年、北部ベトナムに対して行われた中国軍による攻撃の記憶が生々しく残っているせいか、私がハノイで会ったベトナム政府の首脳たちは、アメリカよりも中国が怖いと訴えていた。(略)
p61〜
  アジア各国は中国の軍事力増強を警戒し、領土的野心に対抗して動き始めているが、アメリカに国の安全を頼りっぱなしにして半世紀以上を過ごしてきた日本は、自国の安全を守るための体制を積極的にとろうとしてこなかった。こういった情勢に火をつけたのが、石原前都知事の尖閣列島買い入れ発言だったのである。
  東シナ海に浮かぶ小さな島々に過ぎない尖閣列島は、アメリカのオバマ政権が触れたくないと思ってきた問題を白日の下にさらしてしまった。いまオバマ政権の閣僚や官僚たちは、尖閣列島問題がこれ以上拡大したり、さらに悪化して火がついたりすることを恐れ、話し合いで問題を収めてしまおうと全力を挙げている。
  しかし、オバマ政権はもはや、この問題をこれまでのようにうやむやのうちに片づけることはできなくなっている。中国の帝国主義的な侵略という事実は、誰の目にも明らかになっているからだ。しかも50%政権として政治力を失ったオバマ政権は、中国に対して厳しい姿勢を取るグループの存在を無視できなくなっている。
  いまわが国がとるべき道は、「尖閣列島の実効支配を行っているのは日本である」という事実を強化することである。
p62〜
  石原前都知事が主張しているように、漁場をつくったり、台風避難施設をつくったりすることも有効な方法だと思われる。
  日本が積極的に動き出せば、中国側は当然のことに、『人民日報』や北京放送を通じて批判攻撃を強め、金にあかせて世界中に訴えるだろうが、それは北京政府の宣伝であるとして日本政府もアメリカ政府も聞き流さねばならない。
  中国が軍事行動に出た場合には、アメリカはいやおうなく軍事的対応を迫られる。いままでのような、うやむやな姿勢は許されない。日本にとって幸運なことは、親中国政策をとるオバマ大統領が再選されたものの、アメリカの主流である白人グループの信頼を大きく失ったことだ。
  尖閣列島の問題は、石原前都知事が予想した通りの方向に動いている。これは国際社会の現実から見れば当たり前のことだが、日本国民のなかには、そうした国際社会の現実と新しい情勢について理解できない人も多い。
p63〜
第2部 アメリカ国防総省には尖閣防衛の秘密計画がある
 2012年大統領選挙の直前、共和党のロムニー候補が当選した時には国防長官になると見られていた前国防次官のエリック・イーデルマン博士に、ハドソン研究所で会った。
  イーデルマン前国防次官はフィンランド大使やトルコ大使などを歴任したあと、2005年から2009年1月まで、ブッシュ政権のもとで対中国戦略とアジア戦略の政策決定に携わってきた。
  共和党のロムニー候補にきわめて近く、ロムニー陣営の安全保障政策についての重要なアドバイザーを務め、共和党と民主党が協力してつくっているアメリカ議会の「ディフェンス・カウンシル」と呼ばれる重要な防衛政策決定機関の責任者の1人でもある。ディフェンス・カウンシルの最高責任者は共和党がシュレジンジャー元国防長官、民主党がパネッタ前国防長官で、アメリカの防衛政策の最高決定機関である。
  アメリカの防衛政策で最も重要な問題は、いまや「アメリカの国益のために、どこまで戦争を遂行するべきか」である。これまでのような、アメリカの力に任せてどこまでも、といったような無制限な軍事戦略に歯止めをかけようというものである。
p64〜
  シュレジンジャー元国防長官やキッシンジャー博士なども私に、「アメリカの若者の血を流す価値のある戦いであるかを見極め、決定する必要がある」と、くり返し述べている。このため日本では、「尖閣列島という小さな島をめぐるいざこざに、アメリカは介入できないのではないか」という考え方が強くなっている。
  日本の評論家たちのなかには、どのような根拠からか、「アメリカは尖閣列島を守らない」と断言する者までいるが、尖閣列島をめぐる紛争を、東シナ海の自由航行と安全を阻害すると考えれば、アメリカは自国の国益を守るために必ず介入してくる。だが日本もまた、日本の担うべき、つまり、分担すべき軍事的責任があることを認識し、戦いを起こさないための努力が必要になる。
  アメリカは日本のために尖閣列島問題に介入しない、尖閣列島防衛を助けないという考え方は、はっきり言って間違っている。最も重要なのは、中国に侵略的な戦争を起こさせないために努力するとともに、戦端が開かれた場合の日本のとるべき軍事行動について、アメリカ側と十分話し合うことである。
  重ねて強調したいが、アメリカが尖閣列島を守らないというのはきわめて無責任な発言である。その発言の前に、日本がどのような責任をとるかを問わねばならない。
  「日本が果たすべき責任の分担を話し合うことが最も大切だ」
p65〜
  イーデルマン前国防次官はこう述べたうえで、私にこう言った。
  「アメリカ国防総省には、尖閣列島有事の際の緊急計画がすでにある」
  東シナ海の小さな島々、尖閣列島はまざれもなく日本の実効支配が行われている日本の領土である。日本政府が管理監督し、海上保安庁の艦艇が警戒している。そこに中国が領土権を主張して攻めかけてくれば、不法行為であることは明白だ。もっともアメリカは、領土権については問わない姿勢をとっている。
  明治政府は発足後まもなく尖閣列島の存在に気づき、現地調査を行って無人島であること、中国の支配が及んでいないことを確かめたうえ、日清戦争に勝ったあとの1895年、下関条約で正式に日本のものとした。この歴史的事実から見ても、尖閣列島はまぎれもなく日本のものである。
  ところが中国は東シナ海にある資源が注目されるようになると、突如として尖閣列島、中国名の釣魚島は中国のものだと言い始めただけでなく、中世の頃から中国の領土だったと主張するようになった。日本政府が尖閣列島を買い取り、国有地にする方針を打ち出してからは、軍事行動も辞さないという構えを見せている。
  すでに述べたように、日本では「尖閣列島をめぐって紛争が起きてもアメリカは助けてくれない」という説が流布されているが、つい先頃まで同問題の責任者であったイーデルマン前国防次官とのインタビューの模様をお伝えしたい。
――――――――――――――――――――――――
石原慎太郎著『新・堕落論』 新潮選書 2011/7/20発行 2012-07-25 | 読書 
  (関連部分のみ抜粋)
p79〜
  しかしその間中国の潜水艦は沖縄の島々の間の海峡を無断で通過するという侵犯を敢えて行い、日本側はそれに抗議するだけにとどまる不祥事がつづき、日本側は、本来なら警告の爆雷投下ぐらいはすべきだろうに放置してきました。これがもし日本の潜水艦が中国なり北朝鮮、いや韓国の領海にしても無断で押し入ったなら当然撃沈されるされるでしょう。それが「国防」というものだ。国防のためにすべきことを行わない国家にとっては、領土も領海も存在しないに等しい。
  この尖閣問題はさらに今後過熱化され、日本、アメリカ、中国三者の関わりを占う鍵となるに違いない。要はアメリカは本気で日米安保を発動してまで協力して尖閣を守るかどうか。守るまい、守れはしまい。
 p81〜
  尖閣諸島への中国の侵犯に見られる露骨な覇権主義が、チベットやモンゴルと同様、まぎれもなく、この国に及ぼうとしているのに最低限必要な措置としての自衛隊の現地駐留も行わずに、ただアメリカ高官の「尖閣は守ってやる」という言葉だけを信じて無為のままにいるこんな国に、実は日米安保条約は適応されえないということは、安保条約の第5条を読めばわかることなのに。後述するが、アメリカが日米安保にのっとって日本を守る義務は、日本の行政権が及ぶ所に軍事紛争が起こった時に限られているのです。
  つまりあそこでいくら保安庁の船に中国の漁船と称してはいるが、あの衝突の(略)アメリカはそれを軍事衝突とはみないでしょう。ましてその後ろにいるのが中国としたら、アメリカの今後の利害得失を踏まえて本気のコミットメントは控えるに決まっている。
   安保条約への誤解
  ちなみに現時点ならば、核兵器に関しては別ですが日本が独自に保有する通常兵器での戦力は中国を上回っています。(p81〜)F-152百機による航空集団はアメリカ空軍に次ぐ世界第2の戦闘能力があり、その訓練時間量は中国の寄せ集め機種での実力に勝っているし、制海権に関しても関しても保有する一次に7発のミサイルを発射し得る6隻のイージス艦を旗艦とする6艦隊は中国の現有勢力に十分対抗し得る。予定のイージス艦10隻保有が達成されれば日本独自で制海権を優に獲得し得る。ということを、政府は国民に知らしめた上で尖閣問題に堂々と対処したらいいのです。
  もともと尖閣諸島に関する日中間の紛争についてアメリカは極めて冷淡で、中国や台湾がこれら島々の領有権について沖縄返還後横槍を入れてきていたので、日本はハーグの国際司法裁判所に提訴しようとアメリカに協力を申し入れたのに、アメリカは、確かに尖閣を含めて沖縄の行政権を正式に日本に返還したが、沖縄がいずれの国の領土かということに関して我々は責任を持たないと通告してきています。
  さらに、かつて香港の活動家と称する、実は一部軍人が政府の意向に沿って民間船を使って尖閣に上陸し中国の国旗を掲げたことがありましたが、一方同時に沖縄本島ではアメリカ海兵隊の黒人兵3人が小学校5年生の女の子を強姦し県民が激怒する事件が重ねて起こりました。
 p83〜
  その時アメリカの有力紙の記者がモンデール駐日大使に、尖閣の紛争がこれ以上拡大したら、アメリカ軍は安保条約にのっとって出動する可能性があるかと質したら、大使は言下にNOと答えた。
  しかし不思議なことに日本のメディアはこれに言及せず、私一人が担当していたコラムに尖閣の紛争に関してアメリカの姿勢がそうしたものなら安保条約の意味はあり得ないと非難し、それがアメリカ議会にも伝わり当時野党だった共和党の政策スタッフがそれを受け、議員たちも動いてモンデール大使は5日後に更迭されました。
  丁度その頃、アメリカでは中国本土からの指令で動くチャイナロビイストのクリントン政権への莫大な献金が問題化しスキャンダル化しかかっていたが、それとモンデールの発言との関連性ははたしてあったのかどうか。(略)
 p84〜
  さて、尖閣諸島の安保による防衛に関してのモンデールの発言ですが、実はこの発言には、というよりも安保条約そのものにはある大切な伏線があるのです。はたして彼がそれを熟知して発言したのかどうかはわからないが。
  彼だけではなしに、政治家も含めて日本人の多くは、安保条約なるものの内容をろくに知らずに、アメリカはことが起こればいつでも日本を守ることになっていると思っているが、それはとんでもない思い込み、というよりも危ない勘違いです。
  「各締約国は、日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全をあぶなくするものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続きに従って共通の危険に対処するように行動することを宣言する。
  前記の武力攻撃およびその結果として執ったすべての措置は、国際連合憲章第51条の規定に従って直ちに国際連合安全保障理事会に報告しなければならない。その措置は、安全保障理事会が国際の平和及び安全を回復し及び維持するために必要な措置を執ったときは、終止しなければならない」(日米安保条約第5条)
 p85〜
  ここで規定されている日本領土への侵犯を受けての紛争とは、あくまで軍事による紛争です。尖閣でのもろもろの衝突事件は日米安保の対象になり得ないというアメリカの逃げ口上は条約上成り立ってしまう。
  だからヒラリー国務長官がいくらアメリカは日本の尖閣を守ってやると大見得を切っても、その後彼女の子分のクローリー国務次官補が圧力をかけてきて日本の政府にああした措置をとらせてきたのです。
  日米安保に関するもう一つの大きな不安要素については、ほとんどの日本人が知らずにいます。
  それはアメリカのれっきとした法律、「戦争権限法」だ。これは戦争に関する大統領の権限を強く拘束制限する法律です。大統領はその権限を行使して新しい戦争を始めることは出来るが、それはあくまで剥こう60日限りのことで、その戦争のなりゆき次第で議会は60日を過ぎると行われている戦争に反対しそれを停止させることもできるのです。
  しかしこれは彼等白人同士の結束で出来ているNATOが行う戦争には該当され得ない。
――――――――――――――――――――――――
『防衛省と外務省 歪んだ二つのインテリジェンス組織』 福山隆著 幻冬舎新書 2013年5月30日第1刷発行 2013-07-28 | 読書 
  (関連部分のみ抜粋)
p147〜
 米中情報戦に利用された尖閣諸島問題
 また、この中で「日中韓」という東アジアの情勢に触れていることもきわめて重要な意味を持っています。後ほど詳しく述べますが、今後、アメリカの軍事戦略における最大のテーマが「対中国」であることは言うまでもありません。
 他国を自らの支配下に置こうとするとき、アメリカの戦略は「ディバイド・アンド・ルール」が基本です。これは、かつての西欧列強が植民地を支配した時のやり方にほかなりません。植民地の民族を分断し、お互いに争わせることによって、宗主国への抵抗を和らげ、統治しやすくする。ディバイド・アンド・ルール戦略に照らし、東アジア地域で日本・中国・韓国が諍いを起すことは、アメリカにとって歓迎すべきことなのです。
 したがって、先ほどの第3次アーミテージ・レポートも、額面通りに読むわけにはいきません。「日米韓の強い同盟関係が重要」などといっていますが、本心では、日韓が永遠に対立することがアメリカの国益になると思っているはずです。「日本は韓国との歴史問題に正面から取り組むべきだ」というのも、懸案が解消して日韓が親密になることを願っているのではなく、この問題がさらにこじれることを期待しているに違いありません。
p148〜
 対中国も同じです。アメリカとしては、いまのところ中国とのあいだで本格的な衝突は起したくありません。そのため、日本と中国が諍いを起すように煽る一方で、水面下では中国と出来合いのレースをするのではないでしょうか。
 そんなアメリカの思惑が見え隠れしたのが、2012年4月に始まった「尖閣諸島購入問題」だったと私は見ています。当時の石原慎太郎東京都知事が「東京都は尖閣諸島を買うことにした」と宣言したことに端を発し、紆余曲折を経て最終的には国が地主から買い上げることになり、それを契機に、日中関係は緊張が高まりつつあります。
 あれは日本と中国の外交問題であって、アメリカは関係ないのではないか―そう思う人も多いでしょう。しかし私は、石原氏があの宣言をアメリカのワシントンで行ったことが気になります。本人にはその自覚がないままに、米中の情報戦の中で「パペット(操り人形)」として踊らされていた可能性があるのです。
 もちろん、これは明確な根拠に基づく話ではありません。しかし、インテリジェンスの世界に身を置く人間は、あらゆる人のあらゆる発言を疑い、「裏」に何かある可能性を考えるのを常としています。もし「性善説」と「性悪説」のどちらかを選ばなければいけないのであれば、性悪説を取らざるを得ないのです。
 また、この世界には「英雄には気をつけろ」という格言めいた言葉もあります。大衆的な人気の高い人物が目立つ発言をしたときは、その背後に大きな陰謀が隠れている可能性がある。何らかの意図でマスコミや世論を沸騰させたい陣営が、謀略によってそれを、「言わせている」ことがしばしばあるのです。
p151〜
 それはともかく、太平洋越しに覇権を争う米中にとって、尖閣諸島は地政学的にたいへん重要な意味を持っています。不動産としての「所有権」と国家の「領有権」は別物ですから、国内的には地主が民間人であろうが東京都であろうが、日本にとってはさほど大きな問題ではありません。しかし中国にとっては、「民有」から「都有」を経て「国有」になることは、中国がこの海域で狙っていることを前に進めるためには好都合でした。中国にとって尖閣諸島は、第1列島線を突破し太平洋に進出する際の重要な“軍事的要衝”です。したがって、何か隙があれば一気に情勢を動かそうと鵜の目鷹の目で狙っていた。その格好のきっかけを与えたのが、石原発言でした。
 石原氏の発言をアメリカが誘導したのかどうか、誘導したとすればどのようにやったのか、いずれも確たることはいえません。しかし石原氏ほどの大物政治家になれば、その周辺ではアメリカや中国の情報関係者――より端的な言葉を使うなら「スパイ」――が蠢いているのは間違いないと私は見ています。石原氏に対して影響力を持つ人物が、外国の意向を受けて何かを吹き込んだり、けしかけたりすることも十分に考えられます。また、日常的に電話やメールはすべて盗聴・監視されているものと思います。
p152〜
 いつまでも日本をコントロール可能な国に
 いずれにしろ、陰謀は外から「見えない」からこそ陰謀なのですから、そのプロセスについては想像の域を出ません。しかし結果的に当事者以外に「得」をした者がいるのであれば、その第3者による陰謀があった可能性が疑うのがインテリジェンスの基本です。
 そして、石原氏の尖閣購入発言によって、アメリカは間違いなく「得」をしました。発言に反発した中国が日本への敵意を剥きだしにした結果、日本がアジアで孤立し、アメリカの懐に逃げ込まざるを得ない情勢が作られたからです。
p154〜
 米国の凋落と中国の台頭
 何度も繰り返しますが、石原発言の背後に外国の陰謀があったかどうかはわかりません。しかしアメリカや中国に、それを実行するだけのインテリジェンス能力があることはたしかです。そして現在、米中両国は太平洋をはさんでお互いの動向を探り合っている。この両大国にはさまれている日本は、好むと好まざるとにかかわらず、その覇権争いに巻き込まれています。地政学上、これは避けることができません。
p156〜
 アメリカの軍事費は世界全体の軍事支出の40〜50%にも達していますが、アメリカの実質経済規模は世界経済の20%程度にすぎません。明らかに、国力を超える軍事力を抱えています。もはや「仮想敵国」である中国に国債を買ってもらわなければ財政破綻してしまう状態ですから、軍事予算の削減は避けられません。事実、オバマ大統領は2012年1月に、今後10年間で国防予算を最低でも4500億?(日本円で44兆円)も削減すると発表しました。
 一方の中国は、改革開放政策によって目覚ましい経済成長を続けており、2010年にはGDPで日本を抜いて世界第2位の経済大国にまでなっています。(略)遅くとも2050年あたりにはGDPベースで中国がアメリカを逆転し、世界1の経済大国になると予想されます。
 この経済力が軍事力の拡大に直結することは、いうまでもありません。これまでも中国は凄まじい勢いで軍拡を行ってきました。過去20年間の国民予算は、2010年度の7・5%を除いて、常に二桁の伸び率となっています。このまま経済成長が続けば、中国の軍事力はますます強大化するでしょう。
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