中東情勢、米国の同盟国の間に生じた深刻な亀裂
JBpress 2013.08.28(水) Financial Times
(2013年8月27日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
中東では、事件や出来事が展開していくテンポが再び速くなっている。アラブの春が始まってから2年以上経った今も、中東情勢はまだ急激に変化する可能性があり、西側諸国の政府は変化についていくのに苦労している。
バラク・オバマ米大統領は先週、エジプトのムスリム同胞団に対する猛烈な弾圧について話し合う緊急会議を招集したが、結局、シリアでの化学兵器攻撃という、もっと大きな困難に直面する羽目になった。
■中東への関与を弱めようとしてきたオバマ政権に難題
どちらの出来事も早急に対応が必要な明らかな難問を米国政府に突きつけている。米国はエジプトへの援助を打ち切るべきなのか、そして米国はシリアに軍事攻撃を行うべきなのか、という難問だ。
バシャル・アル・アサド体制に対する軍事行動を支持する声は国際的に強まりつつある。英国、フランス、ドイツの3カ国はすべて、軍事報復への支持を明らかにしている。
米国がどう対応するかは、オバマ氏が自身の外交政策戦略にどの程度こだわるかによっても左右されるだろう。オバマ氏は、中東での米国の関与を弱めたいと考えている。そうすれば国内の改革に専念できるようになり、中国の台頭という問題にも対応でき、自分のゴルフスイングを完璧にすることにも取り組めるからだ。
オバマ氏は極力、中東での出来事に対処する際の負担を同盟国により多く担ってもらうという方針を好んでいた。
例えばリビアでの軍事作戦では、米国の支援が不可欠ではあったが、英国とフランスに主導権を取らせている。理想を言えば、中東での混乱については米国と馬が合うこの地域の同盟国と協力しながら対応したいとも思っているだろう。
■大きく割れる中東の5大プレーヤー
しかし、この戦略には大きな問題がある。米国の対中東政策は昔からイスラエル、サウジアラビア、エジプト、トルコ、湾岸諸国という重要な5大プレーヤーとの強力な関係を頼りにしたものだった。表面的には違いがあるものの、これら5者はすべて現状維持勢力だった。
だが、中東には昔ながらの「現状」がもはや存在しない。おまけに米国の古くからの同盟国たちも、今ではすべて異なる方向を向いている。そのためオバマ政権は、結束して混乱に対処しようという方向に話を進めることが極めて難しくなっていることに気づくだろう。また、米国の同盟国間における埋められない溝は、シリア問題よりもエジプト問題の方でより多く生じている。
もし米国政府がエジプトの反革命を支持したら、中東の昔からの友好国はそれを歓迎するグループとショックを受けるグループの2つに分かれるだろう。
サウジアラビアは、米国にとっては中東で最も古い同盟国であり、エジプトの軍事クーデターを中東で最も強く支持している国でもある。イスラエルも、おとなしくしてはいるが、カイロでの事態の展開には明らかに満足している。
しかし、トルコ政府はエジプトでの一連の出来事に立腹している。レジェップ・タイイップ・エルドアン首相は、オバマ氏が手塩にかけて育ててきた指導者だ。かつてオバマ政権の一員だったヴァリ・ナスル氏が先日出版した著作によれば、大統領は「エルドアン(氏)にたびたび電話をかけていた。大統領が彼と協議した回数は恐らく、世界のどの指導者とのそれよりも多いだろう」
ところが、そのエルドアン首相の行動が次第におかしくなりつつある。首相はどうやら、トルコの反政府デモの狙いはエジプト型の軍事クーデターを引き起こすことにあるのではないかという恐怖心を抱いているようだ。プレッシャーにさらされた首相は次第に奇妙な陰謀理論を振りかざすようになっており、先週には、エジプトのクーデターはイスラエルの差し金によるものだったと示唆していた。
オバマ大統領は、イスラエルとトルコの間に入って両者の舌戦を終わらせたつもりでいたが、この脆い友好関係はここに来て再び崩れつつある。
また、大量の資金を賢く使うことで中東での影響力を強めてきたカタールは、中東における米国の主力空軍基地を受け入れている国でもあるが、ムスリム同胞団のシンパでもあり、エジプト問題においてはイスラエルやサウジアラビアとは正反対の立場にある。
■シリアについては表面上、意見が合致しているが・・・
シリアについては、表面上は、地域の意見が比較的合致している。中東地域の米国の伝統的な友好国はすべて、アサド政権の退陣を望んでいる。
サウジとイスラエルは、アサド体制崩壊は両国が最も恐れている地域の競合国イランに大打撃になると考えている。カタールはシリア反体制派の強力な後ろ盾であり、トルコも反体制派を支援している。シリアに対するエジプトの新体制の姿勢はまだはっきりしていないが、アサド氏が明らかにカイロのクーデターに大喜びしていたことは示唆に富んでいる。
中東地域の米国の同盟国の大半は、米国がシリアの反体制派にもっと深く関与することを望んでいる。
イスラエルは、シリアでの化学兵器使用に関してオバマ政権が定めた「レッドライン(越えてはならない一線)」が著しく踏みにじられ、それでも対応が取られなければ、イランの核開発計画について米国が設定したレッドラインが信頼性を持たなくなると心配している。
だが、イスラエルはシリア反体制派運動の強力なジハード主義の要素についても懸念しており、そうした懸念は西側の諜報機関がイスラエル以上に強く表明している。
■オバマ大統領が抱く不安
オバマ氏に関して言えば、米国が中東その他の同盟国の要請に応じ、アサド氏との戦いに直接的、あるいは間接的に巻き込まれた場合、自分たちは戦いに参加せずに傍観する同盟国から声援を送られ、挙げ句、事態がうまくいかなくなり始めた時には米国が責められることになると危惧している。
この地域の不協和音は恐らく、銃撃音に向かって駆け寄るのではなく、中東から遠ざかろうとするオバマ氏の当初の本能を強めるだけだろう。しかし、出来事というものは時として独自のロジックを持つことがある。シリアに対する空爆の可能性がいよいよ高まるなか、オバマ大統領は不本意ながら中東にどんどん引きずり込まれることになりそうだ。 By Gideon Rachman
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