化学兵器 拡散リスクも 英国防政策研究者に聞く
シリア政権への警告目的 攻撃は3日程度か
中日新聞 【核心】 2013/8/30 Fri.
シリアでの化学兵器使用疑惑をめぐり、安全保障問題の研究機関として知られる英王立防衛安全保障研究所(RUSI、本部ロンドン)の国防政策研究の責任者マルコム・チャルマーズ氏に、あり得る英米仏の軍事介入の狙いなどを聞いた。(ロンドン・石川保典)
*マルコム・チャルマーズ氏
英王立防衛安全保障研究所(RUSI)国防政策研究室代表。英議会の国家安全保障戦略委員会特別顧問。ブレア政権時代にはストロー外相の特別顧問を務めた。英ケンブリッジ大卒。
---考えられる軍事介入のシナリオは。
「化学兵器の使用は、得られる利益よりも犠牲が大きいことをアサド政権に知らしめることが必要であり、あまりに限定された攻撃ではその効果は期待できない。ただ、シリア軍の防空能力を削いだ後のさらなる攻撃拡大は選択肢にないとみられ、巡航ミサイルで三日間ほど攻撃して終えるだろう」
---攻撃対象は。
「地上部隊や司令本部、防衛省、通信施設などの他、空軍基地も含まれると推測される。化学兵器の貯蔵施設は、ガスが漏れ出して国民に被害を及ぼす恐れがあるので、対象外だ」
---介入に伴うリスクは。
「アサド政権やイランが周辺国に(ミサイルを撃ち込むなど)報復する可能性は否定できない。ただ、イスラエルに攻撃すれば、互いの報復がエスカレートし、欧米も大規模な介入を迫られ(長期化す)る事態になる。自分の政権を転覆させる規模の攻撃ではないとアサド大統領が判断すれば、報復しないかもしれない」
化学兵器が流出する恐れは。
「攻撃で貯蔵施設の防御が弱まれば、反体制派に入り交じる(国際テロ対策)アルカイダ系の武力勢力が入手する可能性があり、極めて危険だ。欧米は、化学兵器をアサド政権に保有させつつ二度と使用させないようにするという、自己矛盾に直面している」
---介入は反体制派に有利に働くか。
「間違いなくそうなるだろう。政権崩壊まで追い詰める攻撃は行わないと思うが、事態は予測できない」
---国連決議のない軍事介入は正当化できるのか。
「国際社会の秩序に及ぼす損害を考慮しても、何も行動しないことによるダメージの方が大きいと判断し、行動を選択するのだと思う」
ダマスカス緊張 食糧確保、脱出も
米英両国などが近くシリア攻撃に踏み切るとの観測が広がる中、衛星テレビで情報を得ているシリアの首都ダマスカスの市民は深刻に受け止め、食料の買いだめや脱出準備を進めている。
「コメ、砂糖、豆。数日前から売り上げは25%増えた」。ダマスカス旧市街の市場。食料店主ナシーブ・アブラスさん(84)は複雑な表情を見せた。
内戦前のような賑わいはないというが、四〇度近い暑さを考えればかなりの人手だ。「米国に攻撃されたらどうなるか、誰もわからない。みんな子どもことが心配。できる備えをしているんだ」とアブラスさん。
白スカーフに黒コート姿の主婦アマルさん(34)は「怖いし、今から緊張している」と率直だ。「いざとなったら地方に逃げるかもしれないと話している。子ども五人の服はいつでも持ち出せるようカバンに入れているわ」
攻撃は軍事施設などに対する限定的なものと予想される。しかし、これを機に反体制武装勢力が攻撃に転じて内戦が一層激化するという懸念が、市民の間で強い。
貴金属店を営むマルワン・シャニーサさん(35)は「攻撃は短期間らしいから政権の命運に問題ないだろうが、その後が心配だ」という。「私はキリスト教徒だが、イスラム教徒の反体制派が攻め込んできてもここを動かない。生まれ育ったダマスカスで死ぬ覚悟はある」と話した。
(ダマスカス・共同)
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英下院 軍事行動の是非問う提案否決
NHK NEWS WEB 8月30日 8時53分
シリアで化学兵器が使われたとされる問題への対応を巡って、イギリス議会は、軍事行動の是非を問うことを盛り込んだ政府の提案を否決し、地元のメディアは、イギリスがアメリカ主導の軍事行動に加わることは事実上なくなったと伝えています。
イギリスでは29日、シリア問題への対応を巡って緊急に議会が招集されました。
この中でイギリス政府は、シリアに対するイギリスの軍事行動について、議会に根強い反対があることを受けて、国連の調査団の調査結果を待ち、安全保障理事会での議論も踏まえたうえで、議会下院で是非を採決するという提案を行いました。
この提案について、議会下院は29日夜遅く採決を行い、反対多数で否決しました。
与党の中からも反対や棄権に回った議員がいたとみられています。
これを受けて、キャメロン首相は「イギリス議会が軍事行動を望んでいないことがはっきりした。政府はその意向に沿って行動する」と述べました。
イギリスの公共放送BBCは、これにより、アメリカ主導のシリアへの軍事行動にイギリスが加わることは事実上なくなったと伝えています。
イギリスでは、2003年に始まったイラク戦争に、アメリカが存在を主張していた大量破壊兵器の確たる証拠がないまま参戦したという見方が根強く、世論調査でも軍事行動への反対が賛成を大きく上回っています。
*上記事の著作権は[NHK NEWS WEB]に帰属します
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◇ 米介入か シリア緊迫 化学兵器使用疑惑 オバマ大統領 決断重く 中日〈東京〉新聞 【核心】 2013/08/28 2013-08-28 | 国際
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