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インド薄型TV最前線 韓国勢サムスン、LGの牙城崩したソニー

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裏読みWAVE インド薄型TV最前線 韓国勢の牙城崩したソニー
編集委員 小林明 2013/8/30 6:30日本経済新聞
 12億人以上の人口を抱え、消費をけん引する富裕層や中間層も飛躍的に膨らみつつあるインド。経済発展に伴い庶民の生活水準は着実に上昇し、目下、薄型テレビの市場シェア争奪戦が過熱している。
■サムスン、LG、ソニーの「3強」が首位争い
 インドの薄型テレビ市場で「3強」と呼ばれているのが、サムスン電子やLG電子に加えて、韓国勢と激しい首位争いを繰り広げているソニー。もともと韓国勢の牙城だったインド市場をソニーが切り崩すことに成功し、3強が抜きつ抜かれつの仁義なき戦いを続けている。
 では店頭での実売価格はそれぞれいくらで、どの程度の値引きをしているのか?
 インドの消費者はどんな商品を求めており、店員はどんな売り方をしているのか?
 実際に家電売り場に足を運び、白熱する薄型テレビ市場の最前線を追跡してみることにした。
 まず液晶とプラズマを合わせた薄型テレビのインド市場でのシェア動向をつかんでおこう。
 折れ線グラフは3社の市場シェアを四半期ごとに追いかけた米調査会社NPDディスプレイサーチの統計(台数ベース)である。
■薄型テレビの主戦場は40〜42インチと32インチ
 インド市場では、もともとサムスン電子とLG電子の韓国勢がブラウン管テレビを通じて消費者に深く浸透し、薄型テレビ市場でも両社が強固な足場を築いていた(インドではブラウン管テレビがまだ相当数使われている)。だが、近年の大きな市場の変化は、高機能モデルで充実した品ぞろえを持っているソニーが中間層への売り込みも強化し、韓国勢の首位争いに割って入ったこと。
 販売店網、サービス網の整備に加え、クリケットのスター選手や人気女優を起用した大々的な広告戦略も奏功し、ソニーが市場シェアを急速に拡大。直近では韓国勢がやや盛り返しているものの、三つどもえの激しい首位攻防戦を繰り広げている。この3強が市場全体の半分以上のシェアを握っている状況だ。
 業界関係者によると、薄型テレビでシェア争いの激しい製品は40〜42インチと32インチ。
 40〜42インチは1台目として、32インチは寝室や子ども部屋などに置く2台目として、消費者が買うケースが多いそうだ(もちろん金銭的な余裕がない消費者は32インチ以下のモデルを1台目として購入する)。このため各社の品ぞろえも充実しており、消費者への売り込みに力を入れる主戦場になっている。
■ソニーを頂点にしたピラミッド状の価格体系
 インドの家電流通の仕組みは「全国規模の家電量販店、地域ごとに強い販売網を持つ家電量販店のほか、さらに各社の専売店や複数ブランドを扱う零細の家電専門店などが様々に入り交じる複雑な構造」(ソニーインディア)だという。
 筆者が滞在しているのはインド最大の経済都市ムンバイ。外国人として零細店の実態を調査するには言語などのハンディがあるため、全国に展開する家電量販店「クロマ」、地域の家電量販店「ビジェイ・セールス」、ソニーの専売店など実売価格が把握しやすいムンバイ市内の計5カ所で実地調査することにした。
 早速、各店舗のテレビ売り場に出向いてみる。
 どの店も薄型テレビは携帯電話、パソコンなどとともによく目立つ場所に展示しているのが分かる。品ぞろえが手厚いのはやはり40〜42インチと32インチ。店員が客に勧めるモデルも40〜42インチか32インチのどちらかが多いようだ。
 5カ所で各機種の実売価格を調ベてみて驚いた。
 3社の売れ筋商品の実売価格が、示し合わせたかのようにすべて同じなのだ。1ルピー(約1.4円)の違いすらない。
 たとえば3D機能付きの40〜42インチモデル。
 ソニーでは「KDL42W800A」(42インチ)、サムスンでは「40F6400」(40インチ)、LGでは「42LA6200」(42インチ)が売り場で競合しているが、メーカーの希望小売価格(MRP)はそれぞれ8万2900ルピー、8万1500ルピー、7万9000ルピー。そこから割り引いた実売価格は7万9900ルピー、7万7500ルピー、7万5000ルピー。希望小売価格からの値引き率は4〜5%程度で実売価格はどの店もまったく同じだった。
■値引き率は4〜5%、「3強」の価格差は3〜4%
 32インチだと3社の価格が比較できる競合モデルはソニーが「KDL32W600A」、サムスンが「32F5100」、LGが「32LN5400」。希望小売価格はそれぞれ3万9900ルピー、3万7900ルピー、3万7000ルピー。そこから割り引いた実売価格は3万7900ルピー、3万6500ルピー、3万5000ルピー。希望小売価格からの値引き率は4〜5%程度。やはり実売価格はどの店もまったく同じだ。
 「ブランド力はソニーが最強。薄型テレビの各機種でソニーを頂点にしたピラミッド状の価格体系が形成されている。3強の中で品質なら客はソニーかサムスンを選ぶし、安さならLGを選ぶだろうね。この価格体系は全国どこでもそれほど変わらないはずだよ」。家電量販店「ビジェイ・セールス」のテレビ売り場担当のブペンドラさんはこう話す。
 3社の価格差はほとんどの機種で3〜4%程度。
 もちろん一時的な安売りキャンペーンや個別の対面販売での値引き、ネット通販業者の安売りなどがまったくないわけではないが、家電量販店の売り場ではブランド力を背景に「価格差の秩序」が形成されているようだ。 これらの実売価格は店同士の競争の結果の均衡価格とも言えるが、「インドでは小売業の力がまだ弱いので、3強を中心に家電メーカーがかなり価格支配力を握っている」(ブペンドラさん)という事情もあるらしい。
■ソニーが探り当てた「インド画質」とは?
 韓国勢の牙城を崩すため、ソニーが様々な戦略を打ち出したのは2004年前後からだという。
 国内支店を増設する一方、営業マンやアフターサービス体制なども拡充し、売上高の6%を広告費に投入するなど積極的な販促キャンペーンを展開。さらに100人以上の消費者モニターを対象に徹底的に聞き取り調査することで「インド人視聴者は鮮やかな色がより鮮やかに見える画質を好む」という傾向を探り当てた。
 社内ではこれを「インド画質」と呼んでおり、「マレーシアで生産したインド向けの薄型テレビを出荷段階で特別に鮮やかな色がより鮮やかに見えるように初期設定している」(ソニーインディア)という。実際に売り場で競合モデルを見比べてみると、確かにソニー製品の画質はより鮮明で色味が鮮やかに映っている印象を受ける。こうしたきめ細かな戦略が実を結び、四半期ベースで市場シェア首位に立つ状況にまでに追い上げてきたわけだ。
 昨年のインドの薄型テレビ商戦では、ソニーが「画質」、サムスンがインターネット接続機能を備えた「スマートテレビ」、LGが「3D機能」を目玉に販売戦略を展開。それぞれシェア拡大に知恵を絞っている。
 ただ「ほかの日本勢や欧州勢に加えて、『ビデオコン』などインドの家電ブランドも3強を激しく追い上げている。ブラウン管テレビからの将来の買い替え需要なども見据えると、現状のシェア争いに新たな変化が起きる可能性があるかもしれない」。家電量販店「クロマ」のエルフィンストーン店長のカジェさんはこう見る。
■2025年までに「中間層」「高所得層」が4倍に増加
 最後にインドの消費人口構成と主な耐久消費財の普及率を見ておこう。なぜメーカー各社がインド市場に熱い視線を送るのか、その理由がよく分かるからだ。
 インドの国立応用経済研究所(NCAER)や米マッキンゼーの資料などによると、世帯年収が20万〜100万ルピーの「中間層」は、2009年の3120万世帯から15年には1.9倍の6050万世帯、25年には4.1倍の1億2800万世帯に大きく増加する見通し(1世帯平均人数は5人)。世帯年収100万ルピー以上の「高所得層」も同時期に240万世帯から1.4倍の330万世帯、4倍の950万世帯に増えると予想されている。
 一方、インドの耐久消費財の普及率(英ユーロモニター・インターナショナル調べ)は中国と比べてもまだ低水準。将来、飛躍的に伸びる余地があると見られている。たとえばカラーテレビの普及率は中国が96.6%なのに対し、インドは63.6%。特に都市部よりも地方部での普及率が低くとどまっており、今後、経済成長が続けば膨大な需要が生まれるのは間違いない。
 こうした消費層の将来の購買意欲は計り知れない。メーカー各社にとって、潜在成長力の大きなインドは、世界でも有数の魅力的な巨大市場なのだ。(画像・図は略=来栖)
 *上記事の著作権は[日本経済新聞]に帰属します


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