池田信夫blog 2013年12月18日17:13
秘密保護法の本当の欠陥
空騒ぎもようやく終わったが、秘密保護法の欠陥は新聞記者が夜回りで情報が取りにくくなるといった下らない話ではなく、それだけでは機密を守る役に立たないことだ。
2010年に起こった三菱重工へのサイバー攻撃事件が時効になるらしい。これは中国の諜報機関がメールにウイルスを入れて三菱重工の社員に送り、情報を外部のサーバに流出させたとみられており、軍事機密が流出した可能性もある。
中国には1万人のサイバー攻撃部隊がいて、こういう不正アクセスやサーバに侵入するマルウェアの開発をしているという。このような中国の攻撃が、世界の諜報機関を悩ませている。国有企業であるHuaweiのルータやLenovoのPCなども、ハードウェアにbackdoorが埋め込まれている疑いが強いので、アメリカ連邦政府では全面禁止だ。
国防総省の高等計画局(DARPA)が最近、ゲームサイトの運営を始めて、いろいろな憶測を呼んでいる。このゲームで遊ぶと、その裏側で動いている別のプログラムをチェックできるのだという。サイバー攻撃に対する脆弱性を、あらゆる場合を想定してチェックするのは膨大な時間がかかるので、これを「クラウドソーシング」でやろうというのだ。
しかし秘密保護法の大部分は「特定秘密の取扱者」の規制とその適性評価にさかれている。それは古典的なHUMINTを想定しているので、サイバー攻撃には役に立たないのだ。スノーデンやウィキリークスのように表に出るのは一度きりだが、サイバー攻撃でサーバに穴があくと、そこから情報は漏れ続ける。
安倍首相もいうように、いま「特別管理秘密」に指定されている42万件の情報の9割は衛星写真(解像度が判明するため)で、残りは暗号や潜水艦の位置情報などの軍事機密。これはマスコミとは関係のない、安全保障の問題なのだ。
今の無防備な日本には、アメリカは戦略情報や軍事機密を出さない。だから国家公務員だけでなく、三菱重工のような防衛関連企業にも守秘義務を課してセキュリティを管理する秘密保護法は必要だが、不十分だ。新聞なんて終わった業界の既得権より、ハイテク諜報戦争の防護のほうがはるかに重要である。
◎上記事の著作権は[池田信夫blog]に帰属します
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
◇ 安倍晋三首相 特定秘密保護を語る/情報機関同士の情報提供には「サードパーティールール」があり… 2013-12-07 | 政治〈領土/防衛/安全保障/憲法/歴史認識〉
【単刀直言】安倍晋三首相 特定秘密保護を語る
産経ニュース 2013.12.7 12:00
*国民を、領土を、国益を守るための法律です
現在、秘密というと特別管理秘密と防衛秘密、それと日米相互防衛援助協定(MDA)秘密の3種類があるが、特別管理秘密は法律で決めたものではないんです。統一ルールもないし責任者も明確ではない。世界中、どこでもちゃんとしたルールがあるのに。
今回、国家安全保障会議(NSC)を作りました。そしてこのNSCで各国のNSCと情報交換をしながら国民を守るために正しく政策立案をしていく。
情報が保全されて初めて情報交換もできるし、突っ込んだ議論も可能になってくる。ところが今までは、そのための秘密保全が不十分であるのと同時に、秘密のルールがなかった。これをきっちり法律で定めていくことにしました。
*透明性はむしろ増す
公務員による情報漏洩(ろうえい)の危険性は格段に減るし、秘密の取り扱いの透明性はむしろ増すのです。そして、問題が長期間伏せられることがなくなっていく。なぜならば、秘密の管理に首相をはじめ複数の異なる立場の者が関与して、しかも一定期間ごとにチェックして毎年国会に報告していくことになるからです。
核持ち込みをめぐる日米の密約問題がありました。民主党政権時代に調査をした結果、いくつかの事実が明らかになった。日米同盟の重要性に鑑み、そうした密約をせざるをえなかった事情は理解します。問題は、それがいつまでも密約のままであり続けたことです。私が官房長官のときも第1次安倍政権時代もその説明を受けなかった。
特定秘密保護法によって、しっかり全体を把握していくことになります。首相は国民に選ばれた議員であり、議員の中から選ばれた行政府の長です。その責任で、秘密指定を解除すべきものは当然解除の判断をしていくことができる。つまり、新しい法律で同じ問題が起こりえなくなる。
*NSCで情報を交換
1月のアルジェリア人質事件でも、日本自体が情報を収集するのはなかなか難しかった。あのときは、キャメロン英首相と話し、さまざまな情報提供をしてもらいましたが、NSCがあれば英国のNSCと政策対話を行い、情報提供を受けることも可能になってきます。それも当然、秘密の保全が前提となる。
もちろん、北朝鮮や中国についても日本が中に入って情報を収集するのはなかなか難しい。
先般、中国が尖閣諸島(沖縄県石垣市)を含む東シナ海上空に防空識別圏を設定しました。相手の地上レーダーはどれだけの高度でどの範囲をカバーしているのか。また、相手の戦闘機の搭載しているレーダーの有効な探知距離、ミサイルの射程、命中精度、誘導する電波の周波数などは非常に重要な情報です。
相手がどこまで接近すると危険かや、ミサイルを回避するための研究などに関連してくる。こうした情報を持つ国からの情報提供がより円滑になり、情報交換がより強化されていくことは間違いありません。この法律は国民を、日本の領土・領海・領空を、そして国益を守るためのものです。
情報機関同士の情報提供には、第三者にはこの情報を渡さないという「サードパーティールール」があり、これは情報の世界では常識です。だから、それが守られないのであれば多くの情報は入ってこない。
*秘密増えることない
メディアの報道では、知る権利が根こそぎ奪われるといった悲劇的な見出しもあった。でも、今も特別管理秘密があって防衛秘密があって、MDA秘密がある。これが増えるということはまずありません。
今も特別管理秘密が42万件あると説明すると、「そんなにたくさん首相が見られるわけない」と言われましたが、うち9割は衛星写真なんです。これは解像度そのものが相手に知られるわけにはいかない秘密ですから。写真を一枚一枚チェックするわけではない。
そしてほかに、たくさんの暗号がある。古いものも含めて暗号そのものが全部秘密です。そうなると、残りはかなり少なくなる。
つまり、知る権利の保障は法律ができた後も今と全く変わらない。今までと違うのは、国会議員にも初めて明確な守秘義務と罰則がかかることです。これは大きな変化といっていい。
*戦争と結びつける癖
メディアや野党が戦争と結びつけるのは、昭和35年の日米安全保障条約改定時もそうだったし、平成4年の国連平和維持活動(PKO)法案審議のときもそうで、いつもなんですね。
第1次安倍政権で防衛庁を「省」に昇格させたときもでしたが、心配するような変化が起こったのかと言いたい。例えばPKO法案のとき、菅直人元首相は発言席にしがみついて国会衛視に排除された。肉体的に抵抗を試みたのだけれど、彼は首相時代に自衛隊のPKO派遣を容認している。
22年の中国漁船衝突事件で衝突映像を流した元海上保安官、一色正春氏について当時の毎日新聞は「国家公務員が政権の方針と国会の判断に公然と異を唱えた『倒閣運動』」と激しく非難し、朝日新聞は「政府や国会の意思に反することであり、許されない」と書いている。現在の姿勢とのダブルスタンダード(二重基準)には唖然とします。
*菅政権の致命的ミス
問題は、誰がどのようなルールで秘密を決めるかであり、衝突映像はそもそも秘密にすべきものではなかった。日本の国益のためにはむしろ、国際社会に示さなければならなかった。(菅政権は)全く誤った、致命的な判断ミスをした。
秘密に指定したのは菅首相なのか仙谷由人官房長官(当時)なのか分からない。ジャーナリズムはむしろ、そういう点を追及すべきだと思います。今後は、秘密を指定する基準が決まるから、こうしたことはもう起こらなくなります。
どこかは言えませんが、ある国の情報機関のトップは、NSCができて秘密保護の法律ができることによって、日本への情報提供はよりスムーズにいくとはっきり言っていましたね。(夕刊フジ 矢野将史、杉本康士)
◎上記事の著作権は[産経新聞]に帰属します *リンクは来栖
..........
↧
秘密保護法の本当の欠陥 古典的なHUMINTを想定しているので、サイバー攻撃には役に立たない 池田信夫
↧