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少年死刑判決 二審の役割果たしたか 「石巻3人殺傷事件」 仙台高裁 控訴棄却

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少年死刑判決 二審の役割果たしたか(2月1日)
 北海道新聞 社説 2014/02/01Sat.
 死刑は、犯罪の性質や動機、結果の重大性、犯人の年齢、前科などを総合的に検討し、やむを得ない場合に選択する究極の刑罰だ。
 しかも、被告は犯行時、更生可能性が十分考慮されるべき未成年だった。一審判決をチェックする役割を控訴審は果たしたのか。疑問がどうにも拭えない。
 宮城県石巻市の3人殺傷事件で殺人罪などに問われた元少年(22)の控訴審で仙台高裁は少年事件の裁判員裁判で初めて死刑とした一審判決を支持、弁護側の控訴を棄却した。
 被告は2010年2月、元交際相手の少女宅で少女の姉と友人女性を刺殺し、少女を連れ去った。居合わせた男性にも重傷を負わせた。
 判決は、犯行が周到とはいえないものの、刺殺時の強固な殺意を認定し、18歳7カ月の年齢などを考慮しても死刑回避の余地はないとした。
 被害者の遺族らの悲しみや無念を思うと心が痛む。一方で死刑以外の選択肢は本当にないのか、遺族らは癒やされるのかと割り切れない。
 少年犯罪の多くは心の未熟さや成育環境などが影響し、適切な矯正で立ち直れる。今回の判決も、被告に前科がなく、更生の可能性もないとはいえないことや反省や悔悟の念を表していることを認めている。
 更生を主眼とする少年法の理念が尊重されたとは到底言い難い。
 過去の事例とのバランスを保てるのかとの疑念もわく。
 これまでの死刑求刑事件で犠牲者2人の殺人事件(強盗殺人を除く)の一審判決は死刑と無期懲役が半々で、無期の多くは、犯行が周到ではないか、計画性が低いケースだ。
 看過できないのは山口県光市の母子殺害事件に関する06年の最高裁判決の影響だ。元少年の被告=死刑確定=を無期懲役とした二審広島高裁判決を破棄し、審理を差し戻した。
 殺害が計画的でなかったことや犯行時18歳1カ月の年齢など被告に有利に働く要素を軽視し、従来の死刑判断の枠組みから逸脱したとの批判が法律学者や弁護士から出ている。
 最高裁は1983年の判決で死刑判断の「永山基準」を示した。この判例は変更されておらず、06年最高裁判決は一般化すべきではない。
 少年事件を中心に厳罰を求める声は根強い。だが、死刑は他の刑罰とは質的に異なる。その判断基準を変容させる流れに危惧の念を抱く。
 死刑をめぐる国際潮流は廃止や執行停止で、日本は国連機関から廃止検討を求められている。なのに制度を維持するなら適用は例外中の例外とする考え方を変えてはならない。
 有権者の誰もが裁判員として重い判断を迫られる可能性がある。死刑の在り方について論議を深めたい。
 ◎上記事の著作権は[北海道新聞]に帰属します
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石巻・3人殺傷控訴審 あす判決 「少年死刑」どう評価
 河北新報 2014年01月30日木曜日
 宮城県石巻市の3人殺傷事件で殺人などの罪に問われ、一審仙台地裁の裁判員裁判で死刑判決を受けた元解体工の男の被告(22)=事件当時(18)=の控訴審で、仙台高裁は31日、判決を言い渡す。少年事件の裁判員裁判で全国初の死刑を選択した一審を高裁がどう評価するのか、注目される。
 2010年11月の一審判決によると、10年2月10日朝、共犯の男(21)=事件当時(17)、殺人・殺人未遂のほう助罪で不定期刑=と石巻市の民家で、交際女性(22)の姉南部美沙さん=同(20)=と友人大森実可子さん=同(18)=の2人を刺殺。南部さんの知人男性(24)に大けがをさせ、交際女性を連れ去るなどした。
 控訴審の主な争点は表の通り。弁護側は共犯の男から殺害の計画性を否定する証言を得て、精神鑑定に基づき「意識障害を起こすほどの衝動的な犯行だった」と主張した。検察側は「交際女性を被告から引き離そうとする人を全員殺害しようとした計画的な犯行だ」などと反論した。
 控訴審による一審の事実誤認の審査について、最高裁は12年2月、「一審を見直すには論理的な整合性や一般常識に照らして不合理な点を具体的に挙げる必要がある」との趣旨の見解を示した。裁判員裁判を含む一審の事実認定を原則尊重するよう求めた。
 仙台高裁は、家裁調査官が被告の生育歴などを調べた少年調査票を証拠採用しなかった。殺意に関する供述の変遷を分析した専門家の意見書も採用せず、最高裁の見解にのっとったとみられる。
 裁判員裁判の死刑判決が控訴審で破棄されたのは13年6、10月の東京高裁の2件。ともに死亡被害者は1人で、先例と比較して死刑を回避した。
 一橋大大学院法学研究科の葛野尋之教授(刑事法)は「誤った死刑は最大の人権侵害。裁判員裁判の判決でも誤りがあれば、司法はためらいなく破棄すべきだ」と語る。
 少年犯罪被害当事者の会の武るり子代表は「遺族は一つでも新たな事実を知りたい。裁判員裁判に配慮して証拠を調べないのでは真相が分からず、予防策は生まれない」と高裁の対応を疑問視する。
◎「審理十分か」議論続く
 石巻市の3人殺傷事件で、一審仙台地裁の裁判員裁判判決には「市民感覚が反映された」との意見がある一方、「少年法の理念が置き去りにされる」との指摘がある。少年への死刑適用の可否や審理の進め方をめぐって議論が続いている。
 少年の死刑適用が争われた主な事件は表の通り。最高裁司法研修所の報告書によると、石巻の事件と同じく死亡被害者が2人の殺人事件では1980〜2009年度、死刑31件、無期懲役34件と判断が分かれる。
 一審判決は最高裁が83年に示した永山基準に沿って死刑を検討。光市母子殺害事件の第1次上告審判決に基づき、事件当時18歳7カ月という年齢は「犯行の残虐さや結果の重大性に照らし、死刑を回避すべき決定的事情とはいえない」と結論付けた。
 永山基準について、司法研修所の報告書は「死刑判断で考慮すべき要素を指摘しているだけで、基準とは言い難い」と解説している。
 一審判決における光市事件判決の位置付けに関しても「死刑を言い渡しやすくした新しい判例であるかのように扱ったのは誤りだ」との異論が法曹関係者から出ている。
 少年法は少年の更生に重点を置く。刑事事件でも医学や心理学などの知見に基づき、時間をかけて背景を解明する「科学主義」をとる。家裁が取り扱った少年調査票などの「社会記録」を積極的に取り調べることが求められる。
 一審の裁判員裁判は、少年調査票と少年鑑別所の鑑別結果通知書のごく一部だけを証拠として採用し、「被告の更生可能性は著しく低い」と認定した。裁判員経験者は「命を奪った重い罪は年齢を問わず、大人と同じ形で判断すべきだ」と発言し、波紋を呼んだ。
 一審後、全国の少年事件の裁判員裁判では社会記録の全てを証拠採用する動きがみられる。
 永山則夫元死刑囚に関する著書があるジャーナリスト堀川恵子氏は「永山基準は一般事件の死刑の基準として使われてきたが、少年事件にはより慎重な適用がなされるべきだった」と強調。「あらためて少年法の精神に基づき、更生可能性を徹底して探る審理が必要だ」と高裁判決を注視する。

[永山基準] 連続4人射殺事件で犯行時19歳だった永山則夫元死刑囚の第1次上告審判決(1983年)で最高裁が示した死刑適用基準。(1)犯罪の性質(2)動機(3)殺害方法の残虐性(4)結果の重大性、特に殺害された被害者数(5)遺族の被害感情(6)社会的影響(7)犯行時の年齢(8)前科(9)犯行後の情状−を考慮、責任が極めて重大で極刑がやむを得ないと認められる場合は死刑選択が許されるとした。

[光市母子殺害事件] 1999年、当時18歳1カ月の少年が山口県光市の男性宅に乱暴目的で押し入り、妻と長女を殺害するなどした。少年法は18歳未満の犯行に死刑を科さないと定めているが、最高裁は第1次上告審判決(2006年)で「18歳になって間もないことは死刑回避の決定的事情とはいえない」と二審の無期懲役判決を破棄。差し戻し上告審判決(12年)で死刑が確定した。現在、再審請求中。

 ◎上記事の著作権は[河北新報]に帰属します )
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裁判員裁判で死刑判決を受けた少年事件「石巻3人殺傷事件」 仙台高裁 控訴棄却 死刑言渡し 2014-01-31 | 死刑/重刑/生命犯 問題 
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裁判員裁判で少年事件初の死刑判決「石巻3人殺傷事件」〜控訴審初公判 仙台高裁(飯渕進裁判長) 2011-11-01 | 死刑/重刑/生命犯 問題 
少年事件:石巻3人殺傷事件/名古屋アベック殺人事件:更生可能性の鍵は社会の側に 2010-11-24 | 被害者参加・裁判員裁判
石巻3人殺傷 少年事件「死刑判決」 賛否/短い評議、制度に課題/処罰感情/裁判員の負担/更生 2010-11-27 | 被害者参加・裁判員裁判
石巻3人殺傷:死刑判決=厳罰を維持し、死刑も活用しようとし続けているわが国自体の『残虐さ』 2010-11-26 | 被害者参加・裁判員裁判
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光市事件 平成24年2月20日 最高裁 判決全文/毎日新聞・中日新聞 匿名報道/森達也「リアル共同幻想論」 2012-02-20 | 光市母子殺害事件 

 最高裁判例 平成20(あ)1136 殺人,強姦致死,窃盗被告事件   平成24年02月20日 最高裁判所第一小法廷 判決 棄却 広島高等裁判所
主 文
 本件上告を棄却する。
理 由
 弁護人安田好弘ほかの上告趣意は,憲法違反,判例違反をいう点を含め,実質は単なる法令違反,事実誤認,量刑不当の主張であって,刑訴法405条の上告理由に当たらない。
 なお,所論に鑑み記録を調査しても,刑訴法411条を適用すべきものとは認められない。
 付言すると,本件は,犯行時18歳の少年であった被告人が,(1) 山口県光市内のアパートの一室において,当時23歳の主婦(以下「被害者」という。)を強姦しようと企て,同女の背後から抱き付くなどの暴行を加えたが,激しく抵抗されたため,同女を殺害した上で姦淫の目的を遂げようと決意し,その頸部を両手で強く絞め付けて,同女を窒息死させて殺害した上,強いて同女を姦淫した殺人,強姦致死,(2) 同所において,当時生後11か月の被害者の長女(以下「被害児」という。)が激しく泣き続けたため,(1)の犯行が発覚することを恐れ,同児の殺害を決意し,同児を床にたたき付けるなどした上,同児の首に所携のひもを巻いて絞め付け,同児を窒息死させて殺害した殺人,(3) さらに,同所において,現金等が在中する被害者の財布1個を窃取した窃盗からなる事案である。
 (1),(2)の各犯行は,被害者を殺害して姦淫し,その犯行の発覚を免れるために被害児をも殺害したのであって,各犯行の罪質は甚だ悪質であり,動機及び経緯に酌量すべき点は全く認められない。強姦及び殺人の強固な犯意の下で,何ら落ち度のない被害者らの尊厳を踏みにじり,生命を奪い去った犯行は,冷酷,残虐にして非人間的な所業であるといわざるを得ず,その結果も極めて重大である。被告人は,被害者らを殺害した後,被害者らの死体を押し入れに隠すなどして犯行の発覚を遅らせようとしたばかりか,被害者の財布を盗み取って(3)の犯行に及ぶなど,殺人及び姦淫後の情状も芳しくない。遺族の被害感情はしゅん烈を極めている。被告人は,原審公判においては,本件各犯行の故意や殺害態様等について不合理な弁解を述べており,真摯な反省の情をうかがうことはできない。平穏で幸せな生活を送っていた家庭の母子が,白昼,自宅で惨殺された事件として社会に大きな衝撃を与えた点も軽視できない。
 以上のような諸事情に照らすと,被告人が犯行時少年であったこと,被害者らの殺害を当初から計画していたものではないこと,被告人には前科がなく,更生の可能性もないとはいえないこと,遺族に対し謝罪文と窃盗被害の弁償金等を送付したことなどの被告人のために酌むべき事情を十分考慮しても,被告人の刑事責任は余りにも重大であり,原判決の死刑の科刑は,当裁判所も是認せざるを得ない。
 よって,刑訴法414条,396条により,裁判官宮川光治の反対意見があるほか,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。なお,裁判官金築誠志の補足意見がある。
 裁判官金築誠志の補足意見は,次のとおりである。
 私は,多数意見に賛成するものであるが,宮川裁判官の反対意見に鑑み,若干の意見を付加しておくこととしたい。
 反対意見の結論は,再度,量刑事情を検討して量刑判断を行う必要があるから,その点の審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すことが相当というものである。
 そこで,原審における審理経過をみてみると,被告人が,第1次上告審に至り従前の供述を翻して,犯行の態様,故意等につき新たな供述(以下「新供述」という。)を始めたため,原審においては,12回にわたって公判が開かれ,多数の書証,証人等が取り調べられたほか,詳細な被告人質問が実施された。弁護人の請求にかかる証拠で却下されたものもあるが,重要な証拠であるにもかかわらず却下したのは不当であるとして異議が申し立てられたものはない。取り調べた証拠の立証趣旨は,犯行態様,故意等のいわゆる罪体に関するものが多いが,そうした証拠の中にも,同時に,反対意見が問題とする犯行時の被告人の精神的成熟度をみる上でも重要な意味を持つものが少なくない。特に被告人の生育歴,生育環境と被告人の精神的発達度,犯行時の心理状態等については,弁護人の請求によりB作成の犯罪心理鑑定報告書及びC作成の精神鑑定書が取り調べられ,各作成者の証人尋問も行われている。また,第1審及び差戻し前の控訴審においては,当時は被告人が起訴事実をほぼ全面的に認めていたため,主として量刑事情に焦点を当てた審理が行われ,少年調査記録中の鑑別結果通知書及び少年調査票も取り調べられている。
 もっとも,上記犯罪心理鑑定報告書が提示する「母胎回帰ストーリー」を,原判決は排斥している。「母胎回帰ストーリー」は,被告人は母子一体の世界を希求する気持ちが大きかったところ,被害児を抱く被害者の中に母親類似の愛着的心情を投影し,甘えを受け入れて欲しいという感情から抱き付いたのが犯行の発端であり,被害者を殺害後に姦淫したのも自分を母親の胎内に回帰させる母子一体化の実現であるなどとするものであるが,この見解は,被告人の新供述を前提としている。しかし,新供述が基本的な部分において信用できないものであることは,原判決が詳細,適切に検討しているとおりであって,反対意見においても,被告人の弁解は不合理であり,「母胎回帰ストーリー」は採用できないとされている。また,C鑑定書も,犯行の動機,経緯について,被告人の新供述を前提として考察を加えている。したがって,母親の自殺,父親の暴力等が被告人の人格形成に大きな影響を与えたことは,被告人のために酌むべき事情であるが,上記鑑定書等によって直接これを犯行の動機等に結び付けることは,相当ではない。
 原判決は,生育環境に上記のような同情すべきものがあったこと,知能水準は中程度であって知的能力には問題がないが精神的成熟度は低いことを認定した上,独り善がりな自己中心性が強いことや,衝動の統制力が低いことなど,被告人の人格や精神の未熟が本件犯行の背景にあることは否定し難いとしつつ,本件犯行の罪質,動機,態様,結果に鑑みると,これらの点は量刑上十分考慮すべき事情ではあるものの,被告人が犯行時18歳になって間もない少年であったことと合わせて十分斟酌しても,死刑の選択を回避するに足りる特に酌量すべき事情であるとまではいえないと判断している。原審は,被告人の人格形成上の問題,精神的成熟度について,審理することを怠ってはいないし,判決においてこれを等閑視しているわけでもないのである。
 反対意見は,精神的成熟度が少なくとも18歳を相当程度下回っていることが証拠上認められるような場合は,第1次上告審判決(最高裁平成14年(あ)第730号同18年6月20日第三小法廷判決・裁判集刑事289号383頁)がいう「死刑の選択を回避するに足りる特に酌量すべき事情」が存在するとみることが相当であるとし,原審はこの観点からの審理・検討が不十分であるとするものである。しかし,精神的成熟度が18歳を相当程度下回っているかどうかを判断するためには,18歳程度の精神的成熟度とは,どのような精神的能力をどの程度備えていなければならないか,どのような要件を満たすものでなければならないかを明らかにした上で,それとの乖離の程度を判定しなければならないが,人の精神的能力,作用は極めて多方面にわたり,それぞれの発達度は個人個人で偏りが避けられないものであるのに,果たして,そのような判断を可能にする客観的基準や信頼し得る調査の方法があるのであろうか。少年法51条1項が死刑適用の可否につき定めるところは18歳未満か以上かという形式的基準であり,精神的成熟度及び可塑性の要件を求めていないことは,反対意見にもあるとおりであり,少年法のその他の規定で年齢が要件となっているものの中にも,実質的な精神的成熟度を問題にしている規定は存在しない。本件の第1次上告審判決はもちろん,いわゆる永山事件の最高裁判決(最高裁昭和56年(あ)第1505号同58年7月8日第二小法廷判決・刑集37巻6号609頁)も,精神的成熟度が18歳未満の少年と同視し得るかどうかを判別して,死刑適用の可否を判断すべきことを求めているものとは解されない。
 精神的成熟度は,いわゆる犯情と一般情状とを総合して量刑判断を行う際の,一般情状に属する要素として位置付けられるべきものであり,そのような観点から量刑に関する審理・判断を行った原審に,審理不尽の違法があるとすることはできないと考える。
 裁判官宮川光治の反対意見は,次のとおりである。
1 私も,多数意見と同じく,被告人の本件行為は,(1) 被害者に対する殺人,強姦致死,(2) 被害児に対する殺人,そして,(3) 窃盗にそれぞれ該当すると考える。被告人の弁解は不合理であり,遺族がしゅん烈な被害感情を抱いていることは深く理解できる。被告人の刑事責任は誠に重い。私が多数意見と意見を異にするのは,次の点である。被告人は犯行時18歳に達した少年であるが,その年齢の少年に比して,精神的・道徳的成熟度が相当程度に低く,幼いというべき状態であったことをうかがわせる証拠が本件記録上少なからず存在する。精神的成熟度が18歳に達した少年としては相当程度に低いという事実が認定できるのであれば,そのことは,本件第1次上告審判決(最高裁平成14年(あ)第730号同18年6月20日第三小法廷判決・裁判集刑事289号383頁)がいう「死刑の選択を回避するに足りる特に酌量すべき事情」に該当し得るものと考える。また,精神的成熟度が相当程度低いという事実が認定できるのであれば,強姦の計画性を含め本件行為の犯情等の様相が変わる可能性がある。以下,詳述する。
2 いわゆる永山事件の差戻し前控訴審は,被告人が劣悪な生育環境であったことをとらえ,「犯行当時19歳であったとはいえ,精神的な成熟度においては実質的に18歳未満の少年と同視し得る状況にあったとさえ認められるのである」として,これを量刑判断の一事情として1審の死刑判決を破棄し,無期懲役を言い渡した(東京高裁昭和54年(う)第1933号同56年8月21日判決・東高時報32巻8号46頁)。これに対し,最高裁は,犯行時19歳3か月ないし19歳9か月の年長少年であった「被告人の精神的成熟度が18歳未満の少年と同視しうることなどの証拠上明らかではない事実を前提として本件に少年法51条の精神を及ぼすべきであるとする原判断は首肯し難い」として,破棄し差し戻した(最高裁昭和56年(あ)第1505号同58年7月8日第二小法廷判決・刑集37巻6号609頁)。この最高裁判決は,被告人の精神的成熟度が18歳未満の少年と同視し得ることが証拠上明らかな場合に少年法51条の精神を及ぼすことができるかどうかについては,これを否定してはいない。本件第1次上告審判決は,被告人の生育環境について,「実母が被告人の中学時代に自殺したり,その後実父が年若い外国人女性と再婚して本件の約3か月前には異母弟が生まれるなど,不遇ないし不安定な面があったことは否定することができないが,高校教育も受けることができ,特に劣悪であったとまでは認めることができない」とした上,「結局のところ,本件において,しん酌するに値する事情といえるのは,被告人が犯行当時18歳になって間もない少年であり,その可塑性から,改善更生の可能性が否定されていないということに帰着する」が,そのことは,「相応の考慮を払うべき事情ではあるが,死刑を回避すべき決定的な事情であるとまではいえ」ないとしている。第1次上告審判決は,被告人の生育環境が特に劣悪であったとまでは認められないとし,被告人が18歳になって間もないということでは死刑を回避する決定的事情とはなり得ないといっているのであり,被告人の精神的成熟度が18歳未満の少年と同視し得る状態であったことが証拠上認められる場合に,それが,「死刑の選択を回避するに足りる特に酌量すべき事情」に該当するということを,否定してはいない。
3 もっとも,原判決が指摘しているとおり,少年法51条1項は,死刑適用の可否につき18歳未満か以上かという形式的基準を設けているのであり,精神的成熟度及び可塑性の要件を求めていないのであるから,精神的成熟度が不十分であるからといって少年法51条1項を準用し死刑の選択を回避すべきであるということには直ちにならない。しかしながら,「少年司法運営に関する国連最低基準規則(北京ルールズ)」(1985年)は,少年保護の基本理念に基づいて,「死刑は,少年が行ったどのような犯罪に対しても,これを科してはならない」としているのであり(17条2項。「少年」とは,各国の法制度の下で犯罪のゆえに成人とは異なる仕方で扱われることのある児童もしくは青少年である。2条2項(a)),留保的表現がなく,およそ,少年について死刑の選択は許さないという考えが明瞭である。18歳以上の少年に死刑を認める少年法51条1項は,この趣旨に合わない。もっとも,上記北京ルールズは,国連総会で採択された決議にすぎず,法的拘束力はない。北京ルールズ自らも「この規則の実施は,各加盟国の経済的,社会的・文化的条件に応じて進められなければならない」(1条5項)としている。我が国は,指導理念としてこれを尊重し,実現に向けて努力すべきものであり,少なくとも,少年法51条1項は死刑をできる限り回避する方向で適用されなければならないと思われる。また,刑法41条は14歳未満の者の行為は罰しないとしており,16歳未満の者は故意の犯罪行為により被害者を死亡させた場合であっても家庭裁判所から検察官へ原則送致はされない(少年法20条2項)。これらの背景には,行為規範の内在化が特に進んでいない年少少年の行為については,刑法的に非難することは相当でなく,刑罰による改善効果も威嚇効果(犯罪防止効果)も期待できないという考えがあると思われる。
 以上を総合して考えると,精神的成熟度が少なくとも18歳を相当程度下回っていることが証拠上認められるような場合は,死刑判断を回避するに足りる特に酌量すべき事情が存在するとみることが相当である。
4 少年刑事事件の審理においては,「少年,保護者又は関係人の行状,経歴,素質,環境等について,医学,心理学,教育学,社会学その他の専門的智識特に少年鑑別所の鑑別の結果を活用」するよう努めることが要請されている(少年法50条,9条,刑訴規則277条)。この専門科学的解明の要請は,本件のように死刑を適用するかどうかが争点となっている事件では,特に強く働くものといわなければならない。本件では,少年調査記録のうち鑑別結果通知書(1審甲218号証)と少年調査票(1審甲219号証)が取り調べられている。鑑別結果通知書の総合所見は,被告人の「内面の未熟さが顕著である」とし,自殺した「母親と父親からの見捨てられ感は強烈」であるとしている。少年調査票の家庭裁判所調査官3名の意見は,小学校入学前後から激しくなった両親の諍い,父親の暴力,被告人の被虐意識,中学1年時の母親の自殺等が被告人の精神形成に影響を与えたことを示している。父親の暴力は,1審,第1次控訴審,第1次上告審では取り上げられていないが,12歳時における母親の自殺とともにこの事実が被告人の幼少年期において与えた影響をどう評価するかは,本件の重要なポイントでもあると思われる。以上について,原判決は,同情すべきものがあり,人格形成や健全な精神の発達に影響を与えた面があることも否定できないが,「経済的に何ら問題のない家庭に育ち,高校教育も受けることができたのであるから,生育環境が特に劣悪であったとはいえない」とするにとどめている。しかしながら,家庭裁判所調査官は,「3歳以前の生活史に起因すると思われる深刻な心的外傷体験や剥奪,あるいは内因性精神病の前駆等により人格の基底に深刻な欠損が生じている可能性も疑える」と記述しているのであり,鑑別結果通知書中においても,顕著な内面の未熟さのほか,幼児的万能感の破綻,幼児的な自我状態が指摘されている。そして,家庭裁判所調査官は心理テスト(TAT:絵画統覚検査)結果の解釈として,「いわゆる罪悪感は浅薄で未熟であり,発達レベルは4,5歳と評価できる」と記述し,バウムテスト(ツリーテスト)でも「幼稚で自己愛が強く」と記述している。これについて,原判決は,「TATの結果のみから精神的成熟度を判断するのは相当でない上,前後の文脈に照らすと,この記載は,主として被告人の罪悪感に関する発達レベルを評価したものと解される」と述べているが,それ以上の付言はない。罪悪感に関する発達レベルとは,行為規範の内在化がどの程度進んでいるかということであり,行為の是非を弁別する能力の発達レベルそのものであろう。それは,精神的成熟度の重要な指標と考えるべきものでもあろう。「4,5歳」であるとの評価には疑問もあるが,家庭裁判所調査官の認識は被告人においては行為規範の内在化はかなり遅れており,人格的成長は幼いというものであったと思われる。原審においては,これら少年調査記録の内容を基に,被告人の人格形成や精神の発達に何がどのように影響を与えたのか,犯行時の精神的成熟度のレベルはどのようなものであったかを分析し,測るという作業が必要であった。
5 本件においては,被告人側から,B教授の「犯罪心理鑑定報告書」(原審弁9号証)とC教授の「精神鑑定書」(原審弁10号証)が証拠として提出されており,2人の証人尋問が行われている。前者は,それぞれ2時間前後をかけた8回の被告人面接調査を行い,幾つかのテストを実施したほか,父親に4回,母親の妹,義母,高校時代の指導教員,同級生2名にそれぞれ1回の面接調査を行い,各判決書,公判記録,捜査段階の調書,書簡等の資料,前記少年調査記録を参照した上での,犯罪非行臨床心理学の専門家としての知見に基づく鑑定報告である。後者は,被告人とそれぞれ2時間をかけて3回の面接調査を行い,父親,友人1名,被告人の祖母及び母親の妹に面接調査を行い,その他捜査段階の調書を除く前記資料を参照した上での,精神医学,とりわけ青少年の精神病理に関する研究者・医師としての専門的知見に基づく鑑定報告である。B鑑定における「母胎回帰ストーリー」という動機が存在するという鑑定意見は採用できない。しかし,被告人が母親の自殺による急激な自己愛剥奪の影響を強く受けていること,父親との関係での被虐待経験の後遺症があること,身体的性の成熟に対してそれを統制できる精神的成熟が著しく遅れていること,人格の統合性,連続性が乏しく,社会的自我の形成がなされていなかったこと等の意見は,無視できない説得力を有していると思われる。また,C鑑定意見のうち,被告人の人格発達は極めて幼いこと,その原因は,被告人が父親の暴力に母親とともにさらされ,その恐怖体験が持続的な精神的外傷となっており,またそうした暴力を振るう父親に恐怖しながら,強い父親に受け入れてもらいたいという矛盾する感情に引き裂かれてもいること,こうした生育歴の中で被告人は同年齢の者よりも幼い状態であったが,12歳の頃,母親が苦しみ抜いて自殺したことを目撃するという強烈で決定的な精神的外傷体験があり,この結果として,被告人の精神的発達はこの時点の精神レベルに停留しているところがあるという意見は,説得力があると思われる。二つの鑑定意見は,被告人が述べることのみによらず総合的に判断しているとみることができるが,相互に関連し合い,前記少年調査記録とも相応している。
6 原判決は,被告人がそれまでの供述を原審において翻し虚偽の弁解を弄しているとしてこれを厳しく批判し,このこと自体,被告人の反社会性が増進したことを物語り,改善更生の可能性を大きく減殺する事情といわなければならないと指摘している。私も,被告人の原審における供述態度を誠に残念に思う。しかし,人は関係の中でしか成長しないのであって,人間的成熟が12歳かそれを幾ばくか超えたところで停滞しているのであれば,その状態で教育的処遇を受けることなく,拘置の歳月を8年,9年と過ごしたとして,反省・悔悟する力は生まれない。不合理で破綻しているとしかみることができない弁解に固執していることは事実であるが,これを原判決のように「反社会性が増進した」と厳しく批判するのは酷であろう。被告人は,適切な処遇を得れば,時間を必要とするが,自己を変革し犯した罪と正しく向き合うよう成長する可能性があるとみることもできるのであり,前記鑑別結果通知書も,被告人について,公判段階を通じ,被害者の苦悩についての厳しい現実等に直面させる中で,真に贖罪の気持を喚起させることが必要であるが,その作業は,事件の重さに応じた相応の期間を要し,また,精神的なサポートを受け,ある程度安定した状態にないと困難であるため,定期的なカウンセリングが望まれるとしている。記録によると,被告人は精神安定剤を多量に服用するという日々が続いていたことがうかがわれるが,平成16年2月,自ら進んで教誨師による教誨を受け始める等,年月を経て,現在は,次第に事実と向き合い,贖罪の気持ちを高めつつあることをうかがうことができる。
7 被告人の精神的成熟度が相当程度低いということが認定できるのであれば,本件犯行の犯情(計画性,故意の成立時期等)及び犯行後の行動に関わる情状についての理解も変わってくる可能性がある。本件は,被告人の人格形成や精神の発達に何がどのように影響を与えたのか,犯行時の精神的成熟度のレベルはどのようなものであったかについて,少年調査記録,B鑑定及びC鑑定を的確に評価し,さらには必要に応じて専門的智識を得る等の審理を尽くし,再度,量刑事情を検討して量刑判断を行う必要がある。したがって,原判決は破棄しなければ著しく正義に反するものと認められ,本件を原裁判所に差し戻すことを相当とする。
 検察官慶徳榮喜 公判出席
 (裁判長裁判官 金築誠志  裁判官 宮川光治  裁判官 櫻井龍子  裁判官白木 勇)

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永山則夫事件 判決文抜粋  

 1983年7月8日最高裁第二小法廷(裁判長裁判官大橋進)宣告

  主文

原判決を破棄する。
本件を高等裁判所に差し戻す。

  理由

〔一〕第一審判決は、犯行の動機に同情すべき点がなく、ピストルに実包を装填して携帯する計画性があり、その態様も残虐で、四人の生命を奪った結果が重大で、遺族らは精神的、経済的に深刻な打撃を受け、「連続射殺魔」と報道されて社会的影響が大きく、被告人に改悛の情の認められないことを総合すれば、生育環境、生育歴に同情すべき点があり、犯行当時は少年であったことを参酌しても、死刑の選択はやむをえないとした。
〔二〕第二審判決は、不利な情状を総合考慮すれば、死刑判決は首肯できないではないとしながら、被告人にとって有利な情状を考慮し、第一審判決を破棄して、無期懲役に処した。
〔三〕死刑は残虐な刑罰にあたるものではなく、死刑を定めた刑法の規定が憲法に違反しないことは、当裁判所大法廷の判例にあるが、生命そのものを永遠に奪う冷厳な極刑で、究極の刑罰であることにかんがみると、その適用が慎重におこなわれなければならないことは、第二審判決の判示するとおりである。
 しかし、犯行の罪責、動機、態様、殺害の手段方法の執拗性・残虐性、結果の重大性、殺害された被害者の数、遺族の被害感情、社会的影響、犯人の年齢、前科、犯行後の情状などを考察したとき、その罪責が誠に重大であって、罪刑の均衡の見地からも、一般予防の見地からも、極刑がやむをえないと認められる場合には、死刑の選択も許される。
 本件犯行についてみるに、犯行の罪質、結果、社会的影響はきわめて重大である。殺害の手段方法は、凶器としてピストルを使用し、被害者の頭部、顔面などを至近距離から狙撃して、きわめて残虐というほかなく、名古屋事件の被害者・佐藤秀明が、「待って、待って」と命乞いするのを聞き入れず射殺し、執拗かつ冷酷きわまりない。
 遺族らの被害感情は深く、佐藤秀明の両親は、被害弁償を受け取らないのが息子に対する供養と述べ、東京プリンスホテル事件の被害者・村田紀男の母も、被害弁償を固く拒み、どのような理由があっても被告人を許す気持ちはないと述べており、その心情は痛ましいの一語に尽きる。
 被告人にとって有利な情状は、犯行当時に少年であったこと、家庭環境がきわめて不遇で、生育歴に同情すべき点が多々あり、第一審の判決後に結婚して伴侶をえたこと、遺族の一部に被害弁償したことなどが考慮されるべきであろう。幼少時から赤貧洗うがごとき窮乏状態で育てられ、肉親の愛情に飢えていたことは同情すべきであり、このような環境的な負因が、精神の健全な成長を阻害した面があることは、推認できないではない。
 しかし、同様の環境的負因を負う兄弟は、被告人のような軌跡をたどることなく、立派に成人している。犯行時に少年であったとはいえ年長少年で、犯行の動機、態様からうかがわれる犯罪性の根深さに照らしても、十八歳未満の少年と同視することは困難である。そうすると、犯行が一過性のもので、精神的な成熟度が十八歳未満の少年と同視しうるなど、証拠上明らかではない事実を前提として、国家・社会の福祉政策を関連づけることは妥当でない。
 第一審の死刑判決を破棄して、被告人を無期懲役に処した第二審判決は、事実の個別的な認定および総合的な判断を誤り、はなはだしく刑の量定を誤ったもので、これを破棄しなければ、いちじるしく正義に反するものと認めざるをえない。
〔四〕よって第二審判決を破棄し、本件事案の重大性、特殊性にかんがみ、さらに慎重な審理を尽くさせるために、東京高等裁判所に差し戻すこととし、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
  一九八三年七月八日
     最高裁第二小法廷
                                          裁判長裁判官 大橋 進
                                               裁判官  木下忠良
                                               裁判官  鹽野宜慶
                                               裁判官  宮崎悟一
                                               裁判官  牧  圭次

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