◇ オウム平田信被告 第11回公判 2014.2.5 林泰男死刑囚に対する証人尋問 (午前)
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【オウム法廷再び 林死刑囚尋問(4)】爆破事件時の運転手役「私が平田被告を誘ったのかも…」
産経ニュース 2014.2.5 18:28
《平成7年の目黒公証役場事務長、仮谷清志さん=当時(68)=拉致事件など3事件に関わったとして逮捕監禁罪などに問われたオウム真理教元幹部、平田信被告(48)の裁判員裁判の第11回公判。東京地裁(斉藤啓昭裁判長)の104号法廷では、休憩を挟んで審理が再開され、午前中に続いて林(現姓・小池)泰男死刑囚(56)に対する検察側証人尋問が始まった》
《林死刑囚は教団の「科学技術省」次官を務め、地下鉄、松本両サリン事件など3事件に関与。13人が死亡した平成7年の地下鉄サリン事件では、散布犯として最多の8人殺害に直接関与したと確定判決で認定されている》
《午後1時半、連日続く長時間の審理に疲れたのかスーツ姿の平田被告は伏し目がちに入廷。続いて裁判員6人も入廷し、裁判官3人とともに一礼して着席した》
裁判長「証人の方、お願いします」
《アコーディオンカーテンで視界が遮られ、林死刑囚が遮蔽板に隠された証言台へ移動する気配がする》
裁判長「それでは午後の審理を始めます」
《男性検察官が立ち上がり、東京都杉並区にあった宗教学者、Bさん(法廷では実名)の元自宅マンション爆破事件について尋問を始める。午前中の検察側尋問で、林死刑囚は何が起こるのか知らされないまま、井上嘉浩死刑囚(44)の指示で平田被告とともに爆発を見たことを証言した》
検察官「井上は説明をしなかったのか」
証人「きちんと説明することなく爆発を見せました」
検察官「当時、井上は何のために2人に爆発を見せたと思っていましたか」
証人「当時ですか…、うーん…。当時の考えは思い浮かびません。けど、この犯行に何らかの不安があって連れて来られたのかなと」
検察官「今から思い起こせばどうでしょうか」
証人「今、振り返っても同じです」
検察官「なぜ確認役が要るのか聞くこともなかったのですか」
証人「ありませんでした」
《男性検察官は、はきはきした口調で証言のあいまいな部分を問いただしていく。林死刑囚は時折言葉に詰まりながらも、はっきり言葉を述べている。尋問はマンション爆破事件前の場面にさかのぼる。爆破事件について弁護側は「事前に計画を知らなかった」と無罪を主張している》
検察官「杉並区の教団施設を出るときに証人が『帰っていい』と伝えたはずの被告がなぜ一緒にいると思いましたか」
証人「えっとですね…、その辺のいきさつは記憶にありません」
検察官「被告は井上から指示を受けているとは思いませんでしたか」
証人「思いました。被告は井上の指示を受けたのだと思いました。それと、もう一つには…」
検察官「もう一つとは」
証人「前から思っていたのですが、井上の許可をもらって私が個人的に運転手として誘ったのかなという気もしています」
検察官「移動中、2人きりの車内でこれから起こること、爆破事件やサリン事件のことを話しませんでしたか」
証人「車の中で…。記憶としてないです」
検察官「井上が紙袋を置いて立ち去った後、いつまで見ていようと思ったのですか」
証人「井上から指示があるまで」
検察官「どのくらいでも」
証人「何十分、何時間だと、そうは思わないかもしれません」
検察官「どんな指示があるはずだと思いましたか」
証人「何も分かっていなかったので」
検察官「井上はどこへ行ったのだと」
証人「戻ってくるはずだと思っていました」
検察官「井上が置いた紙袋に何が入っていると思いましたか」
証人「分かりません」
検察官「爆発するまで長く感じませんでしたか」
証人「分かりません」
検察官「それまでに中身を見に行こうとは思いませんでしたか」
証人「いいえ」
検察官「なぜですか」
証人「なぜと言われても、そのように言われなかったからです」
検察官「証人も被告も何が起こるか分からないのであれば、爆発に巻き込まれたり逃げ遅れたりすることもあり得たのではないですか」
《ここで女性弁護人の鋭い声が法廷に響く》
弁護人「証人は紙袋の中身を知らなかったことを前提に証言しています。今の質問は誘導尋問です」
裁判長「もう一度質問し直してください」
検察官「今から振り返ってみて当時、自分たちの置かれた状況はどうだったと思いますか」
証人「状況ですか…。(井上死刑囚自身から)井上の行動を見ていてくれと言われただけなので」
検察官「爆発があると説明を受けたのではないですか」
証人「もし受けたのであれば、随分抵抗したのだと思います」
《林死刑囚は記憶をたどりつつ証言を続けたが、検察官の追及に対して証言を翻すことはなかった》
《午後1時44分、検察側尋問が終了し、弁護側尋問に移る。女性弁護人が立ち上がり、よく通る声で地下鉄サリン事件について反対尋問を開始した》
弁護人「地下鉄サリン事件の計画段階で、仮の運転手役として平田被告、杉本繁郎受刑者(54)、Oさん(法廷では実名)を選んだのは井上の提案ですか」
証人「はい」
弁護人「証人が提案することはあり得ませんか」
証人「犯罪に関わることは麻原の指示が必要です。(誰が関わるかは)麻原が決めるか、麻原と謀議した人間が決めるかしないといけません。それ以外の人が勝手に決めることはあり得ません。井上は麻原と直接謀議できる立場でした」
弁護人「証人が仮の運転手役から被告を外すよう提案したのはなぜですか」
証人「被告は直前の(違法な)ワークで非常に精神的に不安定でした」
弁護人「被告からどんな話を聞いていたのですか」
証人「『こういうことはしたくない』と。『井上といると息苦しくなる』とも言っていた」
弁護人「それはいつ頃?」
証人「仮谷さん事件の後、1週間以内だったと思う」
弁護人「井上と証人の仲は良かったですか」
証人「うーん…。良かった部分も悪かった部分もあります」
弁護人「外に食事に行くこともありましたか」
証人「ありました」
弁護人「井上の口から教団の愚痴を聞くことは?」
証人「若干ありました」
弁護人「証人から見て井上はどういう人ですか」
証人「例えば麻原の信頼が厚く、教団内でも仕事ができる人だった」
《弁護人は関係者同士の人間関係や事件当時の動向について、詳細に聞き出していく。尋問はマンション爆破事件前の教団施設での場面に移った》
弁護人「施設に着いたとき、井上を待つ形で時間をつぶしましたね。サリン事件について聞くこともできたのではないですか」
証人「聞くこともできたと思います」
弁護人「うやむやにしたいという気持ちもありましたか」
証人「違法行為に反対だったので、心情としてはそういう気持ちでした。(他のメンバーが行った)下見に行かなかったのもそういう気持ちがあったから」
《平田被告は手元のペンを止めて、じっと林死刑囚に視線を向けていた》
弁護人「被告と2人でどこへ行きましたか」
証人「本屋に行ったり、アイスクリームを食べたり、(犯行に使う)ジュースの容器を買ったりしていました」
弁護人「教団施設に戻って10分後くらいに井上が到着しましたね。そのときの井上の様子は急いでいましたか」
証人「はい」
弁護人「過去の証人尋問でも『井上は早口でぱっぱと話す』と答えていますね」
証人「ええ」
弁護人「(爆破事件に同行することを)断ることも可能だったのではないですか」
証人「井上の口調が『断ってもいい』という感じで、そんな大したことじゃないと高をくくっていた。お茶に行くのかなという感じを最後まで捨てきれなかった」
弁護人「自分が誘ったから被告人も一緒に来たのだと思っていますか」
証人「ずっと私が巻き込んだものだと思っていました」
弁護人「井上の声は小さかったですか」
証人「周りの人に聞こえないよう小さかった。非合法な活動のときは常にそうでした」
弁護人「こういうときの井上は説明を十分にしないのですか」
証人「常に最低限のことしか話しません」
弁護人「井上から説明なく非合法な活動で指示されたことはありますか」
証人「『(創価学会名誉会長の)池田大作暗殺計画』や教団を逃げた信者を捜し出すときもそうでした」
=(5)に続く
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【オウム法廷再び 林死刑囚尋問(5)】「保身のため平田に出頭するなと頼んだのは私」 「ご迷惑をおかけし、おわびします」
産経ニュース 2014.2.5 19:37
《女性弁護士が、教団内での林死刑囚と井上死刑囚のそれぞれの立場や上下関係などについて質問している》 《林死刑囚は教団の「科学技術省」次官として、地下鉄、松本両サリン事件など3事件に関与した。一方の井上死刑囚も教団の要職を歴任。産業スパイ活動などを行う「諜報省大臣」として非合法活動の多くに関与し、今回の仮谷さん拉致事件でも指揮役を務めた》
弁護人「林さんは井上さんからの指示を断れる立場にありましたか」
証人「ケース・バイ・ケースです」
弁護人「林さんと井上さんの上下関係は」
証人「表向きのステージ(教団における階層)は地下鉄サリン事件までは私が上でした。事件の直後に井上君の方がステージが上になりました。でも実質的には麻原(彰晃死刑囚)への近さが重要でした。そうすると井上君の方が格段に(上だった)」
弁護人「麻原への近さとは」
証人「どれだけ麻原と秘密を共有しているか。殺人事件のことなど、秘密を共有している人ほど麻原の信頼度も厚かったと思います」
弁護人「では麻原さんからすると、井上さんは信頼できて、林さん、平田さんは信頼できないということ?」 証人「ええ」
《弁護人の質問は、平田被告が関与したとして起訴されている宗教学者、Bさん(法廷では実名)の元自宅マンション爆破事件へと移る》
《この爆破事件をめぐっては、弁護側は「指示や打ち合わせはなかった」として無罪を主張。だが、3、4の両日に証人として出廷した井上死刑囚は「打ち合わせに平田さんもいた」と証言。主張が対立する中、林死刑囚は午前に行われた検察側の主尋問で「爆発するとは知らされていなかった」と、平田被告の主張に沿う証言をしている》
弁護人「(爆破事件の現場へは)チェイサー(乗用車)に乗っていったのですね」
証人「はい」
弁護人「チェイサーは林さんの専用車ですね」
証人「はい」
弁護人「山梨ナンバーでしたね」
証人「そうです」
弁護人「山梨ナンバーの車を使わない方がいいとは思いませんでしたか」
証人「そんな大それたことをするとは思っていなかったので、そこまで考えませんでした」
弁護人「当時、非合法活動と山梨ナンバーの関係はどうでしたか」
証人「非合法活動のときは、山梨ナンバーはまずいということで、東京ナンバーの車を頼んでいました」
《弁護人は、林死刑囚と平田被告に爆破事件を手伝うという認識がなかったことを改めて確認しようとしているようだ。弁護人はさらに続ける》
弁護人「(現場での動きについて)井上さんからはどんな指示がありましたか」
証人「(マンションの)前の駐車場で、車を止めて井上たちがしていることを見るように、ということでした」
弁護人「『爆発を見てくれ』ということではありませんね」
証人「ええ」
弁護人「駐車場に止めた車内で、平田さんとはどんな話をしましたか」
証人「『何をしたらいいかわからない』『これからどうなるんだろうね』と」
弁護人「平田さんも何をすればいいのかわからない様子でしたか」
証人「はい」
弁護人「その後、爆発を見たということですが、そのときはどんな思いでしたか」
証人「井上に『バカヤロー』と言いたかった」
弁護人「そのとき、平田さんといた車内の雰囲気は」
証人「私はもう完全に井上に頭にきていたので、平田のことまで思いが及んでないです」
《地下鉄サリン事件で警視庁が教団への強制捜査に着手した後、林死刑囚と平田被告はそれぞれ逃亡生活を送ることになる。弁護人は、林死刑囚が逃走中に平田被告と会った際の様子などを聞いていく》
弁護人「強制捜査が入った直後、平田さんとはどんな話をしましたか」
証人「私は精神的にめいっていたので、2、3日2人であちこちフラフラして…。彼に慰められていたという感じです」
弁護人「その後バラバラに逃げているときにも、平田さんと会っていますね」
証人「名古屋でもう一度彼と会いました」
弁護人「平田さんは何と言っていましたか」
証人「彼は私と違って死刑になるような罪ではないので、『いつ捕まっても、いつ出頭してもいい』と言っていました」
弁護人「それに対して林さんは何と言ったのですか」
証人「『平田には申し訳ないけど、出頭しないでほしい』と。彼は私の逃走手段などを知っていましたから、彼が捕まったら私の逃走が苦しくなる。自己保身のために、彼に出頭しないようお願いしました」
《午後2時32分。斉藤裁判長が休廷を告げる。約30分後に審理が再開され、弁護人は林死刑囚から見た平田被告の人となりについて質問を進める》
弁護人「平田さんと2人で出かけることもあった?」
証人「はい」
弁護人「平田さんのことをどう思っていましたか」
証人「やはり公然と『ヴァジラヤーナ(教団が行った犯罪行為を含む活動)にはついていけません』と言っていて、それって私たちにとってはすごいことなんだけども、彼に対する尊敬の念もありました」
弁護人「尊敬とは」
証人「教団の中にありながら、批判する面を持っていた点です」
弁護人「平田さんと2人で(無理やり高温の湯に入れられて後に死亡した男性信者の)お見舞いに行っていますね」
証人「はい。彼は女性のことで破戒して罰を受けて入院していたのですが、教団内では破戒した人とは口を利いてはいけない、付き合ってはいけないとされていました」
弁護人「どうしてお見舞いに?」
証人「平田に誘われたからです。私が(男性信者と)親しかったからというのもありますが、やはり優しい人というように思っていました」
弁護人「ほかに何か平田さんのエピソードはありますか」
証人「阪神大震災のときに、ペットボトルに水を詰めて被災地で売ろうという話がありました。それを聞いた平田は怒って『尊師(麻原死刑囚)は鬼だ』と言っていました」
《平田被告とのエピソードを語る林死刑囚を、平田被告は背筋を伸ばしてじっと見つめていた。弁護人はいよいよ反対尋問の最後の質問をする》
弁護人「反対尋問の最後に、林さんから何か言いたいことはありますか」
《長い沈黙。遮蔽(しゃへい)板があるため傍聴席からは林死刑囚の表情はうかがえないが、呼吸を整えたのだろうか、少し間を置いて口を開いた》
証人「この場を借りて、私がご迷惑をおかけした皆様におわびを申し上げたいと思います。どうも申し訳ありませんでした」
=(6)に続く
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【オウム法廷再び 林死刑囚尋問(6)完】証言に不信感? 裁判員「どれが本当の記憶ですか」
産経ニュース 2014.2.5 20:49
《平成7年の目黒公証役場事務長、仮谷清志さん=当時(68)=拉致事件など3事件に関わったとして逮捕監禁罪などに問われたオウム真理教元幹部、平田信被告(48)の裁判員裁判の第11回公判。東京地裁(斉藤啓昭裁判長)の104号法廷では、教団元幹部、林(現姓・小池)泰男死刑囚(56)に対する弁護側の証人尋問が続いている。弁護人は、林死刑囚の逮捕時期などを確認して、尋問を終えた。続いて裁判所からの尋問が始まった》
裁判長「裁判所から何点かうかがいます」
《女性裁判員が林死刑囚に尋ねる》
裁判員「爆破事件の前、証人は『被告が爆発物について(井上嘉浩死刑囚から)指示を受けていると思った』と証言していますが、実際には指示を受けていなかったとわかったのはいつですか」
証人「(爆破現場の車内で)どうしていいかわからないと彼(平田被告)が言っていました。そのときにわかりました」
裁判員「証人は『自分のせいで平田を巻き込んでしまった』と言っていました。証人は平田が指示を受けたとも言ったし、平田を巻き込んでしまったとも言っている。どれが本当の記憶なのですか」
証人「運転手を頼んだのは私なので、もしかしたら(巻き込んでしまったのでは)と。そう思っている」
裁判員「爆発物が入った袋を最初に見たのは、いつですか」
証人「T字路からマンションの方にP(法廷では実名)たちが歩いてくるときです」
裁判員「(杉並区にある)教団の活動拠点では見ていないのですか」
証人「はい」
《変わって、男性裁判員が質問する》
《裁判員は、かすれた声で質問に答える林死刑囚の方を見ながら、熱心にメモをとっている》
裁判員「新宿から教団の活動拠点に帰ったときの話ですが、井上と電話でやりとりしたと(証人は)話していましたが、井上は証人たちが教団の活動拠点にいるという感覚だったのですか」
証人「そうです」
裁判員「電話でのやりとりは携帯電話でしたのですか。固定電話ですか」
証人「おそらく私の携帯電話だったと思います」
裁判員「証人が被告に『運転手から外れてよかったね』と言ったときの被告の表情はどうでしたか」
証人「前から何回も聞かれましたが、思い出せません」
《林死刑囚は、記憶にあいまいな部分が多いのか、当時の様子を思い出しながら話しているようだ。たびたび法廷が静寂に包まれる》
《裁判員は、林死刑囚がマンション爆破事件に誘われた場面について尋ねる》
裁判員「証人が(教団の活動拠点の)台所で、井上から『一緒に来ない?』と言われたとき、どういう状況でしたか」
証人「はっきりしたことは言えませんが、トイレの前でP(法廷では実名)を紹介されました。トイレから出て台所あたりで私がぶらぶらしているときに、そういう話をされたと思います」
裁判員「井上から誘われたとき、『また盗聴かと思った』と言っていましたが、機械は井上が用意するのですか」
証人「そうです」
《裁判員は矢継ぎ早に質問する。場面は爆破事件の現場となったマンション前の駐車場で、井上死刑囚の様子を見守っていたときのことに移る》
裁判員「井上の動きを見ていたとき、井上から指示が来るまで待っていようというつもりだったと言いました。井上からの指示は携帯電話にくると思っていたのですか」
証人「いいえ。また戻ってくると思っていました」
《平田被告は、じっとしたまま林死刑囚の話を聞いている》
《別の女性裁判員が質問を始める》
裁判員「(証人は)主尋問のとき、『もし井上から爆弾を仕掛けろと言われたら抵抗していた』と言っていましたが、抵抗とはどういうことですか」
証人「(科学技術省次官という)立場上、私は麻原(彰晃死刑囚)か(刺殺された)村井(秀夫元最高幹部)の許可なしには勝手に使われる立場ではありませんでした。(私を使うには)麻原か村井の指示が必要と思っていました」
《裁判員からの質問が終わり、裁判官が質問を始める。証人が教団の活動拠点で、井上死刑囚から『ちょっとよかったら一緒に来ない?』と言われた場面についてだ》
裁判官「井上がわざわざ(地図を見せながら)説明しようとしていたのに、なぜ遮ったのですか」
証人「地理がわからなかったし、説明されても面倒くさいと思ったからです」
裁判官「そこに何をしに行くのかとは思わなかったのですか」
証人「思いませんでした」
《質問は教団内で行われていた「ヴァジラヤーナ」に移る》
裁判官「麻原が『ヴァジラヤーナについていけない者は手を挙げろ』と言ったのはいつですか」
証人「ロシア射撃ツアーの直後にメンバーを集めて話し合いがあったときだったと思います」
裁判官「麻原の武装闘争についていけない者は手を挙げろという意味なのですか」
証人「そうだと思います」
《裁判官からの質問は、証人が新宿から教団の活動拠点のこたつの部屋に帰ってきてからのことに移る》
裁判官「井上が帰ってきてから、証人がこたつの部屋に入ったということはありましたか」
証人「記憶していませんが、(施設内には)たくさんの人がいてスペースがありませんでした。座るとしたらこの部屋しかないので、入ったのではないでしょうか」
裁判官「井上が帰ってきてから、被告がこたつの部屋にいたかどうかの記憶はありますか」
証人「平田に限らず、誰がどうこうというのはわかりません。全体的な動きは覚えていません」
《最後に斉藤裁判長が質問する》
裁判長「被告に『外れてよかったね』と言ったとき、証人から被告に上九(山梨県旧上九一色村)に戻ってよいと言ったのですか」
証人「はい。用が済んだし、彼(平田被告)もこれ以上することがないと思ったので」
裁判長「その夜に被告と出かけることになりますが、このことに不思議はありませんでしたか」
証人「特に記憶はありません」
裁判長「なぜ被告が上九に戻らず、証人と出かけるのですか」
証人「もしかしたら私が誘ったのかもしれませんし、別で井上から誘われたのかもしれません」
裁判長「証人が被告に運転手を頼むことはありましたか」
証人「井上に頼まれて、ということです」
裁判長「(爆破事件を起こした)マンションに行くまでに『なぜ被告が一緒に行くのか』と車中で話をしなかったのですか」
証人「記憶にないから、行く前にわかっていたのではないでしょうか」
裁判長「何がわかっていたのですか」
証人「私と同じような事情で行くことになったということです」
裁判長「証人は井上たちがやることを見ていてほしいと言われたと言っていたが、他にこれをやってほしいという頼みはなかったのですか」
証人「車の中から見ているようにということだけでした」
裁判長「その時点で、証人は何をしに来たんだと思いましたか」
証人「車を下りて(井上死刑囚に)聞きに行こうと思いましたが、できませんでした。わからないままです」
《裁判長が、林死刑囚にマンション爆破事件の際の位置関係を示した図面などに署名するよう促し、遮蔽(しゃへい)板越しに、マイクを通して紙がこすれる音が聞こえる》
裁判長「証人の方、出てください」
《アコーディオンカーテンが設置され、林死刑囚が退廷する》
《裁判長が閉廷を告げ、裁判員に続き、平田被告が一礼して法廷を後にした。これで確定死刑囚3人に対する証人尋問がすべて終わった》
=完
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