【東京特派員】進駐軍も「慰安婦」を求めた 千葉県公文書からの無言の叫び
zakzak 2014.06.10
内房の港町・木更津はどこから見ても海があった。陽光にきらめく遠浅の海は、潮干狩りや簀立(すだ)て遊びの家族連れでにぎわう。簀立ては、潮が満ちたとき、定置網に迷い込む魚を潮が引くタイミングでつかみとる粋な遊びである。もう30年以上も前に、木更津駐在の駆け出し記者の時代に1度だけ試したことがあった。
木更津再訪の折には、いつも「三味線横町」といわれた界隈(かいわい)をのぞいた。芸寮組合の「見番」や芸者置屋の「君乃家」があった筋だ。亡くなった「君乃家」の女将(おかみ)、犬塚とくさんには町のよもやま話をよく聞いた。当時、70歳を少し超えた犬塚さんは、この町の生き字引である。
犬塚さんから聞いた悲運の女たちを思い浮かべたのは、米国内で相次いで設置される慰安婦像が伝えられてからだ。慰安婦募集の強制性を認めた河野談話から、「性奴隷」として日本を貶(おとし)める言葉が流布されている。しかし、敗戦直後の上総地方でも、進駐した米軍から町の娘たちを守る「性の防波堤」という秘話がある。
来日する知日派米国人に聞かせる悲しい秘史を、何度も書いておく必要があると思う。あれは昭和53年夏、取材を始めると、何人かの証言と千葉県公文書から米軍相手の慰安婦たちの無言の叫びを聞くことになる。
それは、昭和20年9月5日、館山に上陸した米軍第112騎兵連隊が、列車で木更津に到着したことから始まる。進駐軍を迎える市民たちは「鬼がやってくる」と雨戸を閉めて息を殺した。まもなく、警察署長が割烹(かっぽう)旅館に「旅館を進駐軍の慰安所に使いたい」と申し入れた。建物はともかく、いったい、だれが米兵たちの鬱屈した性の相手をするのか。
毎日新聞の地元記者をしていた河田陽さんは「隊長の中尉が、司令部に署長を呼んで『米兵のために日本人女性20人を提供しろ』と要求した。そこで署長が町の有力者に相談した」と、占領軍要求説をとる。まもなく酌婦、娼婦(しょうふ)のほかに百数十人いた芸者衆が集められた。相手はついこの間までの「鬼畜米英」で、怖くなって木更津から逃げ出す芸者もいた。
内務省警保局はこれより前の8月18日に、全国の警察に慰安施設の設置を指示していた。千葉県庁の倉庫で10月10日現在の県警察部保安課の文書「慰安施設調」を見つけた。ほこりをかぶった文書からは、時代に翻弄された女たちの声が聞こえてくる。木更津の慰安婦は47人にのぼり、米軍司令部がおかれた館山、千葉に次いで3番目に多い。県全体では12署316人になった。米軍司令部からも、「市中ニ既存スル慰安所ノ開設」を申し入れてきたとあるから、先の河田説を裏付けている。
女たちの需給分析としてこの文書は「進駐軍ノ遊興ハ一日平均人員四百人一割程度ニシテ何レモ満足シ居ル状況ナリ」と報告している。翌年には慰安婦が22署624人と2倍に増えた。郷土史家の鈴木悌一さんは「あのころはみんな生きるのに必死だったね」といっていた。だが、「守られる多数」と「犠牲になる少数」が生まれてしまったのは、この時代の限界であった。
その顛末(てんまつ)を知人の米国人に語ると「そういう認識はなかった」というだけであった。悲しい秘話は世界中にある。それを国際舞台で外交の材料にすれば、歴史観それぞれの対立になるのは避けられないだろう。
昭和が終わるころに犬塚さんが亡くなり、前後して木更津の花柳界も灯が消えた。「君乃家」の跡地は駐車場になり、芸者が技を磨いた見番は見る影もない。鈴木さんはただ、「苦難の道を歩んだ歴史はそれぞれが忘れちゃあいけない」とつぶやくだけだった。(湯浅博)
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◇ “ケンカ上手”橋下市長の「慰安婦制度は必要」発言はわざとなのか? 窪田順生 2013-05-21 | 政治〈領土/防衛/安全保障/憲法〉
窪田順生の時事日想:“ケンカ上手”橋下市長の「慰安婦制度は必要」発言はわざとなのか?
[Business Media 誠]2013年05月21日 08時01分 UPDATE
橋下徹市長が全方向からボコボコに叩かれている。
5月13日、退庁時のぶら下がり会見で、「慰安婦制度は必要だった」と発言したことが大炎上してしまったわけだが、一連の報道を見て、マスコミの“世論誘導力”の高さにただ関心している。
橋下氏と記者のやりとりを改めて読み返してみても、大騒ぎするほどのことは言っていない。例えば、橋下氏は慰安婦制度についてこう述べている。
「軍を維持するとか軍の規律を守るためには、そういうことが、その当時は必要だったんでしょうね」
日本の軍隊に慰安所があったのは、さまざまな歴史資料や当時の証言から見ても動かし難い事実だ。存在したということは、当時の軍隊が必要だと思ったからつくった。なにも間違ったことは言っていない。
橋下氏に「世界各国の軍は活用していたというが、それは具体的にどこの国が?」なんて調子で、必死に失言を引き出そうとしていた記者たちは知らないだろうが、彼らの先輩もそんな「現実」を目の当たりにしている。朝日新聞の木更津支局長だった明石清三さんの『木更津基地――人肉の市』(洋々社)には、「慰安制度が必要だ」と訴える米軍将校3人が1945年9月12日、木更津市長室に武装して押し掛けた、と記されている。そしてその将校は「女を提供してもらいたい。すぐ血液検査をする。30人以上」などと迫ったという。
このままだったら何をされるか分からんということで、戦時中に海軍の飛行機搭乗員を得意客としていた「海軍慰安所」の女性たちが引き受けることになった。話が決まると、警察署長は「この町の治安維持のため唐人お吉※と同じ働きをされるのです。お願いします」とあいさつをした。
※唐人お吉(とうじんおきち):幕末、日米条約締結のため伊豆下田に来航したハリスの愛妾として仕えた。
2013年の人権感覚からすればまったく許されざる行為だが、これを拒否するという選択は敗戦国・日本にはなかった。慰安婦制度はなにも日本軍だけではなく、占領軍も必要とした。このような「過去の現実」について橋下氏は言及しただけだ。
■「言葉狩り」は昔からあった
しかし、そんなさして特筆すべきでもない歴史認識も“ニュースの職人”たちの手にかかると、国際問題に発展する暴言に早変わりする。ダラダラとしゃべる発言の一部分を切り出して、ちょんちょんとカギカッコでくくれば、あっという間に「女性蔑視の国粋主義者」のできあがり。河村たかし名古屋市長が南京市の人間に、「南京大虐殺事件はなかった」とケンカを売るような発言をした、という一連の報道とまったく同じスキームである(関連記事)。
ただ、だからといって橋下氏が気の毒だとかは思わず、むしろここまでやられっ放しなことに違和感を覚える。
こういう「言葉狩り」は今に始まったことではなく、もうすいぶん昔から続いており、政治家などからすればかなり知られた手法だ。そんなベタベタな罠に、朝日新聞の社長にわび入れさせたほど口ケンカ上手の元弁護士がひっかかるというのもかなり釈然としない。たとえるなら、総合格闘技の選手がプロレス技の「足四の字固め」をキメられているような違和感だ。
元「従軍慰安婦」だと主張する韓国人女性と面会する予定も控えていたので、最近めっきり影の薄い「維新」と自らの存在をアピールするため、わざと炎上騒ぎを起こしたのではないか、なんて勘ぐってしまう。
そう思うと、確かに「伏線」から怪しかった。「国際感覚がない」とご本人は釈明していたが、米国人に風俗を活用したらどうだ、というのは無知をとおりこしてもはやケンカを売っている。
米軍は公娼制度というものをかなり早くにやめている。女性の人権というものが早くから確立していたのだが、もちろんこういう美談には「裏」がある。女性の人権保護を高らかにうたいながら、軍人はこっそりと「私娼制度」を活用する、というのが暗黙のルールだった。つまり、フリーの売春婦である。
もちろん、お金は介在するが、「建前」としては自由恋愛となる。 だから、兵士たちは娼婦と一夜を過ごしても「ガールフレンドだ」と言い張った。こういうウソのツケは必ず出てくる。
あまり知られていないが、第二次大戦中、米軍兵士の性病感染率はずばぬけて高い。
イギリス軍やオーストラリア軍も売春宿を利用していたが、それをちゃんと公に認めていたので衛生管理を徹底した。それをもっとシステム化したのが、法律的に認められた娼婦、「公娼制度」である。これを活用していたのがドイツ軍と日本軍だ。つまり、敗戦国は“合法な娼婦”を活用し、戦勝国は“違法の娼婦”を活用したという構図である。
なんて醜悪な連中だ、おまえらには人としてのプライドはないのか、なんて説教を垂れていた連中が、実はこっそりと娼婦を利用して、おまけに性病まで――。これほど格好の悪いことはない。
橋下氏の「風俗活用」話を、普天間の司令官が「もうこの話題はやめよう」と打ち切ったのは、あまり突っ込まれると、「米軍は兵士の下半身がコントロールできない」という過去が掘り返されてしまうからだ。
実際は“プロ”のお世話になっているくせに、かたくなまにでシラをきりとおす――。なぜそこまで「建前」に執着するのかというと、実はこれは彼らのアイデンティティにも関わる大問題だからだ。米国の歴史の1ページ目は、平和にのんびり暮らしていた500万人のネイティブアメリカンを大虐殺したところから始まらなくてはいけないが、「フロンティアスピリッツ」なんて言い換えている。こういう人から「建前」をとったら、もう何も残らない。
だからムキになって反撃にでる。AP通信やらワシトンポストが「大阪市長は『戦時性奴隷は必要だ』と言った」とホニャララ新聞の記事をかなり盛った形でぶちまけた。
こうなると、「おいおいなにが戦時性奴隷だ」と愛国心のある人たちが立ち上がる。橋下氏が論点にしたかったという「レイプ国家と批判されていることに断じて違うと言わなくてはいけない」というリングに好む好まざるとにかかわらず多くの人があがらされている。
そこまで計算したうえでの、あの発言なら本当にケンカの天才かもしれない。
*窪田順生氏のプロフィール:
1974年生まれ、学習院大学文学部卒業。在学中から、テレビ情報番組の制作に携わり、『フライデー』の取材記者として3年間活動。その後、朝日新聞、漫画誌編集長、実話紙編集長などを経て、現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌でルポを発表するかたわらで、報道対策アドバイザーとしても活動している。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。近著に『死体の経済学』(小学館101新書)、『スピンドクター “モミ消しのプロ”が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)がある。
*強調(太字・着色)は来栖
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進駐軍も「慰安婦」を求めた 酌婦、娼婦のほかに百数十人の芸者衆が… 千葉県公文書「慰安施設調」
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