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【“恐怖の大王”プーチンが日米関係を変えた  日米vs中ロの新パラダイムをどう読むべきか】 北野幸伯

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 Diamond online ロシアから見た「正義」“反逆者”プーチンの挑戦 第1回】2014年5月19日 北野幸伯 [国際関係アナリスト]
 “恐怖の大王”プーチンが日米関係を変えた  日米vs中ロの新パラダイムをどう読むべきか

*突如好転した日米関係
 日本から遠く離れたウクライナ。その異国の地で勃発した事件が、日本の将来を大きく変えたと言えば、読者の皆さんは驚くだろうか?
 昨年末から今年2月にかけて、日米関係は最悪だった。きっかけは、安倍総理が昨年12月26日、バイデン米副大統領の要請を無視する形で「靖国神社参拝」を強行したことだ。米国大使館、そして国務省は、靖国参拝に「失望した」と声明を発表。「ニューヨーク・タイムズ」「ワシントン・ポスト」「ウォール・ストリート・ジャーナル」など有力紙が、相次いで安倍総理を非難する記事を配信した。
 安倍、そして日本バッシングはその後もおさまらず、新年2月半ばになっても「ブルームバーグ」が「日本への懲罰」を呼びかけるなど、緊迫した状態がつづいていた。
 ところが、4月にオバマ大統領が訪日した時、ムードは全く変わっていた。TPPでは合意にいたらなかったものの、25日に発表された「日米共同声明」には、「尖閣諸島は、日米安保の適用対象である」ことが明記された。これは、「尖閣諸島は『固有の領土』『核心的利益』」と宣言している中国への強力な牽制となる。
 米中は、年末年始にかけて、「反安倍」「反日」で共闘体制にあった。それが、今では逆に、日米が「反中」で一体化している。いったい、何が日米関係を変えたのか?そこには“恐怖の大王”プーチンの存在があった。*世界で孤立していた日本
 「なんだか、大げさだな〜」と思われた方もいるだろう。日本では、「靖国参拝に反対しているのは、中国、韓国だけ」と報道されていたのだから。しかし、本当にそうなのだろうか?
 国際世論を甘くみると破滅することを、日本は第2次世界大戦で思い知らされている。だから、世界が靖国参拝についてどのような反応をしたか、色をつけずに知っておく必要がある。少々長くなるが、世界各国の反応を整理してみよう。
 以下は、安倍総理の靖国参拝以降の動きだ。
・2013年12月26日、安倍総理の靖国参拝について、米国大使館が「失望した」と声明を発表。
・アメリカ国務省も「失望した」と、同様の声明を発表。
・英「ファイナンシャル・タイムズ」(電子版)は、安倍総理が「右翼の大義実現」に動き出したとの見方を示す。
・欧州連合(EU)のアシュトン外相は、(参拝について)「日本と近隣諸国との緊張緩和に建設的ではない」と批判。
・ロシア外務省は、「このような行動には、遺憾の意を抱かざるを得ない」「国際世論と異なる偏った第2次大戦の評価を日本社会に押し付ける一部勢力の試みが強まっている」と声明。
・台湾外交部は、「歴史を忘れず、日本政府と政治家は史実を正視して歴史の教訓を心に刻み、近隣国や国民感情を傷つけるような行為をしてはならない」と厳しく批判。
・12月27日、米「ニューヨーク・タイムズ」、社説「日本の危険なナショナリズム」を掲載。
・12月28日、米「ワシントン・ポスト」は、「挑発的な行為であり、安倍首相の国際的な立場と日本の安全をさらに弱める」と批判。
・同日、オーストラリア有力紙「オーストラリアン」は、社説で「日本のオウンゴール」「自ら招いた外交的失点」と指摘。
・12月30日、米「ウォール・ストリート・ジャーナル」、「安倍首相の靖国参拝は日本の軍国主義復活という幻影を自国の軍事力拡張の口実に使ってきた中国指導部への贈り物だ」。(つまり、「日本で軍国主義が復活している」という、中国の主張の信憑性を裏付けた)
・同日、ロシアのラブロフ外相は、「ロシアの立場は中国と完全に一致する」「誤った歴史観を正すよう促す」と語る。
 これらを見ると、「反対なのは中国、韓国だけ」という日本国内での報道のされ方は、かなり強引であったことがわかる。実際には、中韓に加え、米国、イギリス、EU、オーストラリア、ロシア、親日の台湾まで、靖国参拝を批判していたのだ。そして、この問題は長期化し、「日本はますます孤立化していく」兆候を見せていた。
 たとえば、「ブルームバーグ」は2014年2月19日、「日本のナショナリスト的愚行、米国は強い語調で叱責を」という社説を掲載している。何が書いてあったのか、抜粋してみよう。
<悪いことに、日本は米国から支持を受けて当然と思っているようだ。バイデン米副大統領が事前に自制を求めていたにもかかわらず、安倍首相は靖国参拝を断行した。非公開の場でのこの対話の内容はその後、戦略的に漏えいされた。恐らく、安倍首相の尊大な態度を白日の下にさらすためだろう>
 米国の本音は、「属国の長が、宗主国No.2の要求を無視するとは、なんと尊大な!」ということなのだろう。
<米国は反論すべきだ。それも通常より強い言葉で切り返すべきだ。4月のオバマ大統領のアジア訪問は、中国政府の外交的冒険主義を容認しないことをあらためて表明する良い機会であると同時に、安倍首相の挑発がアジアの安定を脅かし、日米同盟に害を及ぼしていることをはっきりと伝えるチャンスだ>(同上)
 要するに、「オバマは4月に日本に行ったら、『ガツン』といってやれ!」と主張しているのだ。
<日本が何十年もかけて築いてきた責任ある民主国家として受ける国際社会からの善意を、安倍首相は理由もなく損ないつつある。
 首相が自分でそれに気づかないのなら、米国そして日本国民が分からせてあげられるだろう>(同上)
 つまり、「尊大な」安倍総理が悔い改めないのであれば、米国が「わからせてあげよう!」。これは、一種の脅迫ですらある。
 日本人としてはいろいろ言いたいこともあるが、話が長くなるので、黙っておこう。ここでは、「日米関係が2月の時点で、最悪だったこと」を理解していただきたい。ちなみに「ブルームバーグ」は、経営者、投資家、ビジネスマンなどが読者層のきわめてマジメな媒体である。つまり、この記事は、「エリート、富裕層に、強い反日ムードがひろがっていた」ことを示しており、深刻だ。
*3月に起こった世界的大事件
 「ブルームバーグ」の記事からもわかるように2月半ばから後半にかけて、日米関係は最悪だった。しかし、4月23日にオバマが日本にきたときには状況は一転、両国関係はよくなっていた。
 ということは、2月末から4月に何かが起こり、日米関係に変化が生じたことになる。何が起こったのか?
 そう、プーチン・ロシア大統領による「クリミア併合」である。プーチンは3月1日、「クリミアのロシア系住民を守る」という名目で、「軍事介入する」と発表。3月16日、ウクライナ・クリミア自治共和国で、住民投票が実施され、96%以上が「ロシアへの併合」を支持。3月18日、プーチンは、クリミア共和国とセヴァストポリ市の併合を宣言する。
 プーチンのあまりの大胆さと迅速さに、全世界が驚愕した。ロシアは、これで米国最大の敵になった。
 我が国の安倍総理と、プーチンを比較してほしい。安倍総理は、「靖国に行った」が、プーチンは「クリミアを併合した」のだ。米国から見た脅威度において、二人は「不良小学生」と「マフィアの親分」ほどの差がある。
 「敵の敵は味方」という。かつて米国と共産ソ連は、お互いを「最大の敵」と認めていた。ところが、ヒトラーが登場すると、両国はあっさり手を握り、ナチスドイツを叩きつぶしたのだ。今の日本と米国の関係も同じ。バイデン副大統領に大恥をかかせた安倍総理は問題だが、プーチンの方が大問題。だから、米国は安倍ジャパンとの和解に踏み切ったのだ。
*中国もタジタジした米国の豹変
 ロシアが日米共通の敵になったことはわかる。しかし、中国はどうだろう?「尖閣は日米安保の適用範囲」と日米共同声明に記されたことと、プーチンはどういう関係があるのだろうか?
 実をいうと、プーチン・ロシアは、世界で孤立しないために、中国に接近している。3月18日の演説で、プーチンは、「クリミアへの我々のアプローチを理解してくれた国々には感謝したい。まず中国だ。中国の政権は、ウクライナとクリミア周辺の歴史的、政治的な側面をすべて検討してくれた」と述べた。
 実際、中国はロシアをサポートしている。まず、米国主導の対ロシア制裁に参加していない。そして、ロシアからの原油・ガス輸入を増やそうとしている。現在ロシア最大の顧客である欧州は、ロシアへの「資源依存度」を減らす意向を示している。だから、中国の存在は、ロシアにとってありがたい。
 一方、覇権を狙う中国にとって、超反米の「ロシア」は捨てがたいパートナー。そして、ウクライナ危機で欧米とロシアの関係が悪化することは、「原油」「天然ガス」価格を「値切る」好機でもある。そう、中ロは「利」によって結びついている。
 この二国を米国から見るとどうだろうか?「中国は、我が国の要請を無視して、対ロシア制裁に加わらない。そればかりか、原油・天然ガス輸入を増やし、ロシア経済を救おうとしている」となる。だから、中国は、プーチンと「同じ穴のムジナ」なのだ。
*日本はどうするべきか?
 さて、このような世界情勢の中で、日本はどうすべきなのだろうか?安倍総理は米国の強い要請によって、しぶしぶ「対ロシア制裁」に同調している。同時に、「ロシアとの関係を損ないたくない」という配慮も見える。
 これは正しい方向である。ただし、「動機」はいただけない。総理は、「私の代で、領土問題を解決する」と意気込んでいる。だからロシアに対し、強硬にならない。しかしこういう態度は、プーチンに歓迎されないだろう。「ロシア制裁はしますが、ゆるく行きます。だから島返してね!」というのは、「下心」が見え見えすぎる。
 もちろん、プーチンが日本の“配慮”に謝意を表することもなかった。日本は、「なぜロシアとの協力が必要なのか?」をはっきり自覚しておく必要がある。
 尖閣をめぐって、日本と中国が戦争になったとしよう。日米関係がしっかりしていて、「日米 対 中国」の戦いになれば、圧勝できるだろう。しかし、「日米 対 中ロ」ならどうだろうか?どちらが勝つかわからない。もし米国が日本を裏切り、「日本 対 中ロ」の戦いになれば、日本に勝ち目は1%もない。
 結局日本は、ロシアが「尖閣有事」の際、最低でも「中立」でいてくれるよう、中ロを分裂させなければならないのだ。
 北方領土は、もちろん返してもらうことが必要である。しかし、今はあまり欲を出さず、ロシアとの関係を損なわないよう、繊細な言動が必要なのである。日本は、同盟国・米国の要求を無視することはできない。だが、ロシアと水面下の交流を密に行い、「良好な関係を維持したい」という日本の意志を伝えつづけることが必要である。

 ◎上記事の著作権は[Diamond online]に帰属します *強調(太字・着色)は来栖
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【「集団的自衛権」行使容認は日本の「安全」のため  戦争準備に入った中国を牽制する唯一の道】 北野幸伯 2014-06-30 | 政治〈領土/防衛/安全保障/憲法/歴史認識〉 
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『知の武装 救国のインテリジェンス』手嶋龍一×佐藤優 新潮新書 2013年12月20日初版発行 2014-03-04 | 本/(演劇) 
 『知の武装 救国のインテリジェンス』手嶋龍一×佐藤優 新潮新書 2013年12月20日初版発行
 (抜粋)
p14
第1章 アジア安保としてのオリンピック
 東京支援に動いたロシア
p15〜
手嶋 それではインテリジェンスの視点から、今回の2020年東京オリンピックの決定劇を佐藤さんと読み解いてみたいと思います。
 オリンピックは「スポーツの祭典」ということになっていますが、その時々の国際情勢を見事に映しだしてきました。ヒトラーがレニ・リーフェンシュタール『民族の祭典』として映像で記録させたベルリン・オリンピック(1936年)、パレスチナの過激派による史上最悪のテロに見舞われたミュンヘン・オリンピック(1972年)、ソ連のアフガニスタン侵攻によって西側諸国の多くがボイコットしたロサンゼルス・オリンピック(1984年)と、まさしく激動の現代史がそのまま刻まれています。
佐藤 1940年に開催されるはずだった幻の東京オリンピックも忘れるわけにはいきません。1937年から始めた日中戦争国際社会から非難が浴びせられ日本は開催を中止。代わりにヘルシンキで開催されることになったものの、1939年に第二次世界大戦が始まったことで、開催を断念しなければならなかった。オリンピックとは、国際政治そのものと言っていいんですよ。
p16〜
手嶋 今回の2020年東京オリンピックの開催地を決める最終局面では、プーチン大統領率いるロシアは、東京開催に好意的だったと言われます。その最大の理由は、安倍晋三総理が率いる日本が、アメリカと微妙に距離を置いていることを評価したからだと、オリンピックのオブザーバーは揃って指摘しています。
佐藤 東京、イスタンブール、マドリードが三つ巴で、最後の多数派工作を繰り広げていた2013年8月19日に、モスクワで行われた杉山晋輔外務審議官とロシアのモルグロフ外務次官による次官級協議から、重要な流れを読み取ることができます。この席で「9月5日を軸に日ロ首脳会談を行う」と決定したのですが、ロシア側はこれを日本側の極めて大胆な政治決断だと受け止めたんです。
 その背景には、同年6月に起きた「スノーデン事件」があります。米ロ関係を冷やし、米中関係にも影響を与えたこの事件は、後に詳しく説明しますが、スノーデンCIA元職員の送還をめぐって、アメリカと亡命先のロシアとの関係がにわかに悪くなっていたのです。その後、アメリカのオバマ政権が米ロ首脳会談をキャンセルしたことを、プーチン政権は「難癖」だと受け止めた。そもそもアメリカのインテリジェンスがスノーデン捕択・拘束作戦に失敗したのがこのトラブルの原因なのに、その失敗のツケをロシアに回し、挙句の果てに早く送還しろと文句を言ってくる。これはどういうことだ、というわけです。
p17〜
手嶋 そんな状況下で、アメリカの緊密な同盟国である日本は日ロ首脳会談を決断してえらい、安倍総理の決断は勇気がある、とロシア側はこう受け止めたわけですね。実態はともかく、オリンピックの開催でロシア側は側の3票が何としても必要だった日本にとって、そう受け取ってもらえたことは、まことに幸いなことでしたね(笑)。安倍総理は運が強い。
佐藤 もう一つ、日本ではほとんど報道されなかったことですが、ロシア側で「同性愛宣伝禁止法」が議会で成立し、これが西側諸国からは大変な顰蹙を買っていました。このロシア批判の流れが収まっていない中で、安倍総理はプーチン大統領と会う決断をしたことも、好意的に受け止められた一因です。西側世界と価値観を共有している国家のリーダーである安倍総理が、大きな政治的リスクを取って決断してくれたと、ロシア側は高く評価したわけです。
p29〜
手嶋 東京オリンピックの開催は、たとえてみれば、尖閣諸島に国連の環境関連機関が設立されたようなものと言っていいでしょう。もし中国が本気で奪取しようと軍事攻勢でも仕掛けようなものなら、平和の祭典をぶち壊した張本人として国際社会の厳しい批判にさらされることは間違いありません。日本の実効支配は国際的に明らかですから、あまりに分が悪い。つまり、さしもの中国も、うかつに尖閣諸島に手を出せなくなったはずです。
 尖閣問題はもちろん、シリア問題も竹島問題も、いわば「オリンピックの人質」に取られてしまったわけです。ただし、ロシアが北海道の北半分を奪取しようと試みているわけではないし、韓国も対馬を奪い取ろうとはしていない。ここが中国との違いです。その点でも、開催決定を機にロシアや韓国との関係改善に動き、中国を平和の祭典に引きずり込む戦略を推し進めるべきなのです。
 歴史の中の東京オリンピック
手嶋 安倍総理は、日本の政治家には珍しく、スピーチ・ライターを抱えています。ジャーナリストから外務省の外務副報道官に政治任用され、その後、安倍官邸に内閣審議官として迎えられた谷口智彦氏です。
(p30〜)私が教授を務めている慶應義塾大学の大学院では、彼に国際政治・経済システム論を講じてもらっているのですが、その講義はじつに秀逸なんです。
 彼の講義の1コマに、「戦後史の節目としての1964年東京オリンピック」というのがあります。開会式で最終ランナーを務めた坂井義則君が、原爆が落ちた昭和20年8月6日に広島で生まれたというエピソードを紹介しつつ、東京オリンピックとは、先の大戦で徹底的に打ちのめされた日本が、国際社会に雄々しく復権する舞台となったことを、様々な例証をあげて論じているのです。この青年によって聖火が灯され、その上空には航空自衛隊のブルーインパルスが姿を現し、見事な五色の大輪を天空に描く。それは完璧なほどのミリタリズムに彩られており、戦後のニッポンはあのとき初めて真の主権国家として蘇った---と朗々たる講義は続きます。安倍総理は思想信条とぴたりと重なるスピーチ・ライターを見つけたものですね。
 ただ、谷口智彦氏は、あの日のニッポンがあれほどミリタリズムを前面に押し出すことができたのは、アメリカの庇護のもと、日米同盟にまるごと身を寄せていたからだと怜悧に分析しています。この人は保守派にして日米同盟論者なのです。(p31〜)来たるべき2020年の東京オリンピックは、敗戦国の復権の祭典でもなければ、土建国家の祭典でもない。光輝くような民主主義の理念を体現して、東アジアの平和を先導する祭典にしなければなりません。
 超大国の終わりの始まり
手嶋 超大国の終わりの始まり---。しばしばアメリカはこう形容されてきましたが、従来はレトリックの域をでませんでした。ところが、シリアへの力の行使をめぐって、ふらつくオバマ政権を見ていますと、「超大国の終わり」が本当に始まっているのかもしれないと思ってしまいます。
佐藤 オバマ政権の迷走ぶりはシリア情勢を一層、昏迷させてしまいました。乱暴なことを言えば、武力行使の可能性を秘めたこの種の問題は、わかりやすくやらなきゃいけないんです。武力を行使するという行為は、人類が誕生したときから、その本質はさして変わっていない。殺戮の武器を手に相手に立ち向かっていくのですから、究極の本性が露わになります。その限りでは、原始の部族闘争と何ら変わるところがありません。
p32〜
つまり、「殺るか殺られるか」という単純明快な原理で貫かれている。「アサド政権は許せない」と武力行使するのであれば、ミサイルを撃ち込み、地上軍を突っ込ませて、アサド政権の要人を皆殺しにして傀儡政権を打ち立てる。さもなければ、「いや、他国の政治には介入しない」と決めて、完全に放置しておかなくてはいけない。ところがオバマ政権は「化学兵器を使用したかどうか」という中途半端なところにレッドラインを引いちゃった。
p33〜
手嶋 オバマ政権の迷走ぶりは、すなわち、スーザン・ライス国家安全保障担当大統領補佐官が率いる国家安全保障会議が十分に機能していないことを物語っています。「アサド大統領がレッドラインを越えたらアメリカには覚悟がある」と警告しておきながら、実際には米議会の顔色を窺ってお墨付きをもらいにいき、どうも同意を得られそうにないとみたら、伝家の宝刀を引っ込めてしまった。
p34〜
手嶋 そもそも安全保障分野の「抑止力」とは、その奥底に「力の行使」の覚悟を秘めていなければ効き目がありません。誤解のないように申し上げておきますが、アメリカにシリアで軍事力を行使しろと唆しているんじゃありません。当然ながら戦争などないほうがいいに決まっています。しかし、究極の場合に武力を行使するという可能性を残しておかなければ、安全保障そのものが機能しなくなります。そもそも、アメリカ大統領の座に座るような人物なら、こんなことは本能的に知っているはずなんです。いまのシリア情勢に真っ向から立ち向かうつもりなら、武力行使から目を逸らしてはいけない。超大国アメリカの歴史を振り返ってみると、ときには「力の行使」に踏み切ることには、リベラル派から保守派まで、知識人から草の根の人々まで、幅広いコンセンサスがありました。冷戦期も冷戦後も、抑止力として「力の行使」を最後のカードとしてその手に握りしめてきたのは、事実としてアメリカだけです。
p36〜
 「ロシアの半沢直樹」が投げ込んだクセ球
佐藤 アメリカが迷走した隙を突いて巧みに動いたのがプーチン大統領です。「ロシアの半沢直樹」として彼は、明らかにアメリカに「倍返し」をやっているんですね。彼の発言を裏返して読んでいけば判ります。
 2013年8月31日、プーチン大統領はオバマ大統領を牽制する「声明」を発表します。彼はアメリカ政府の報告書に対して、次のような問題点を指摘しました。まず1点目は「シリア政府が優勢であるのに化学兵器を使う合理性がない」。一部の地域では、政府側が反政府側をすでに包囲している。そのように優位にある者が化学兵器を使っても、外敵を侵入させるだけで合理性がないと指摘したわけです。2点目は「アメリカは証拠があるなら、きちんと公表すべきである」と注文をつけました。(p37〜)たしかに、アメリカのインテリジェンス当局は、最初の頃は電波傍受の他にがっちりとした証拠を持っていなかったため、現場からの報告もどうしても限定的なものにならざるを得なかったようです。
p37〜
手嶋 しかしオバマ政権は、シリアのアサド政権が化学兵器を使用した事実については、かなりの自信を持っていたのでしょう。ただ、その裏付けを明らかにすることは、シリアでいかにして情報を得ていたかという手の内を明かしてしまうことになりかねません。プーチン大統領は、インテリジェンスのプロフェッショナルですから、アメリカの弱みを衝いてきたのです。
p39〜
 ソチ・オリンピックという人質
手嶋 アメリカのオバマ大統領は、国の内外の批判を向こうに回して、敢然と力の行使」に打って出る覚悟がない---。プーチン大統領はこう読んで、クセ球をワシントンに投げ込んだわけです。オバマ大統領はプーチン提案にやすやすとのり、「国際管理」という罠にかかってしまいました。
(p40〜)かくして、シリアのアサド政権は、化学兵器を国際管理に委ねるという計画を受け入れ、アメリカの軍事攻勢はひとまず回避された。まさしくプーチン大統領の思い描いた通りに事が進んだのです。
佐藤 私がモスクワから得た情報では、プーチン大統領は、今回の出来事を通じて、オバマ大統領を見下すようになったといいます。それに対して、安倍総理はなかなかにしたたかで、見どころのある保守政治家だと、その評価はうなぎ上りだそうです。
手嶋 東京オリンピックの招致で、ロシアのプーチン大統領の協力を取り付けた成果は認めますが、その反動が気がかりですね。
佐藤 私も今後の事態の推移を心配しているんですよ。たしかにロシア側からすると、オバマ大統領より安倍総理のほうがしっかりしているように見えるかもしれない。しかし、いつ日本外交の実態がバレてしまうか、わかりませんからね。
 先ほども申し上げたように、2020年の東京オリンピックが、日本にとっての一種の制約要因になっている。同様に、プーチン大統領も、2014年のソチ・オリンピックという名の人質を取られているんです。ソチという場所は、チェチェン独立運動あるいはイスラム原理主義勢力のテロが起きる恐れがある場所だからです。
p89〜
第3章 サイバー時代のグレート・ゲーム
 スノーデン事件が意味するもの
手嶋 2013年8月1日、ロシアのプーチン政権が、ついにCIA(米中央情報局)エドワード・スノーデン元職員の一時亡命を受け入れました。アメリカを脱出してからすでに2か月以上経過していました。アメリカのバラク・オバマ大統領は、この決定に抗議して9月初旬にサンクトペテルブルグで予定されていた米ロ首脳会談を取りやめ、米ロ関係はにわかに緊張の度を高めました。
 この事件の陰の主役はなんといっても、冷戦期にKGB(ソ連国家保安委員会)のインテリジェンス・オフィサーとしてスゴ腕を振るったウラジミール・プーチン大統領です。彼が吐いた警句は、事件の本質を抉って余すところがありません。
p90〜
佐藤 「元インテリジェンス・オフィサーなど存在しない」というのがプーチンの口癖です。ひとたびインテリジェンス機関に奉職した者は、生涯を通じて諜報の世界の掟に従い、祖国に身を捧げるべきだ。この約束事に背きし者は命を失っても文句は言えない、というのですね。スノーデン問題にも、この哲学で対処していました。
手嶋 米ソ超大国が「核の刃」を互いに突きつけて対峙していた、あの冷たい戦争の時代に、泣く子も黙ると怖れられたKGBのオフィサーとして、情報戦(インテリジェンス・ウォー)の最前線に身を置いていたプーチン大統領から出た警句だけに、その切れ味はひときわ際立っています。
佐藤 スノーデンもアメリカという祖国を捨てて、一時なりともこの寒い国に亡命したのですから、よほど強靭な意志力を持っているんでしょうね。
手嶋 17世紀にヨーロッパでウェストファリア条約が結ばれて、ネイション・ステート(国民国家)ができる遥か昔から、中国には祖国を捨てる意を表す「亡命」という言葉がありました。祖国を去ることとは即ち命を亡ぼすことを意味したのです。スノーデンがどこまで自覚しているのかわかりませんが、彼はいま、亡命の恐ろしさ、その深淵を覗き見ていると言っていい。
p91〜
佐藤 スノーデンは、CIAに勤務して「シギント」(電波傍受)の技術的作業にだけのめり込んでいたため、諜報世界の真の恐ろしさを知らないのかもしれませんね。
p109〜
手嶋 プーチン大統領は、スノーデン個人には終始、冷ややかな反応を示しながらも、最終的に一時亡命を認めました。そしてアメリカ側が、重要な国家機密を漏洩し、アメリカ国民の生命・安全を損なった犯罪者として訴追しているにもかかわらず、スノーデンをジュリアン・アサンジと並べて、「人権活動家」と呼び、アメリカ人の自尊心をいたく傷つけました。その結果、オバマ大統領はロシア主催のG20サミットでの首脳会談を取りやめると発表し、米ロ関係は一時的に冷え込む事態となりました。
佐藤 ただ、プーチン大統領は、スノーデンと戦っている連中のことを指して「全員、子豚の体毛を刈っているいるようなものだ」と揶揄しています。
手嶋 プーチン大統領がこうした場合に使う警句は、それだけで一冊の本に編んでもいいほどに面白いですよね。ロシア社会とロシア人に深く通じていなければ、このニュアンスは十分に楽しめません。さあ、ここは「佐藤ラスプーチン」の出番です。
佐藤 プーチン大統領は、「子豚は毛を刈り取られると、ブヒブヒとたくさん鳴くが、(p110〜)刈り取られる毛は少ない」と言っているんです。子豚はスノーデンを指しているのですから、プーチンという人が、この亡命者をどう思っているか、いまさら説明の必要もないでしょう。
手嶋 その子豚を手に入れて、毛を刈ろうとしても、さして収穫はないとワシントンに警告しているというようにも見えますね。
佐藤 そう、スノーデンの身柄を是が非でも押さえようとしているCIAを、プーチン大統領は痛烈に皮肉っているんです。「アメリカという小屋の外にゴミがでてきたと思ったら、家主がすぐに常軌を逸してしまった」と揶揄しているのです。アメリカのインテリジェンス機関からスノーデンのような「ゴミ」が出てきただけで、アメリカはそうしてそんなにうろたえるんだと、かつてKGB将校として鳴らしたプーチンは冷たく言い放っています。
p113
第4章 東アジアに嵐呼ぶ尖閣問題
p124〜
手嶋 にもかかわらず、日本にはいまだに新たな国家戦略がありません。新たに創設される日本版NSC(国家安全保障会議)の最大の責務は、新たな対中戦略を策定し、究極の有事に備えることにあるはずです。
佐藤 これも、中国を標的にした戦争計画を一刻も早く策定すべしと煽っているのではありません。中国がいまや真の脅威であるからこそ、表面的には中国との安定した友好関係をと呼びかけるべきでしょう。歴史認識や戦没者の追悼などで、中国側に日本攻撃の口実を与えてはなりません。民主主義陣営の要である日本の側に、国際世論をぐんと引きつけておくべきなのです。
 東アジアの球面争奪戦
手嶋 いまやアジア半球が世界を動かしていると言われます。たしかに、全ての経済指標は、東アジアこそ世界経済の推進エンジンであることを示しています。同時に、この地域は各国の国益がぶつかりあう「動乱の半球」でもあります。急速な経済発展を背景に軍拡を続ける中国の攻勢を牽制するためにも、日本は国際世論を自らの側に引きつけて、外交の主導権を握っておかなければなりません。
p125〜
 安倍内閣は地球規模の外交を展開して、対中包囲網を築こうとしていますが、日本がひとたび外交の舵取りを誤ってしまえば、中国の巧妙な外交キャンペーンによって、逆に「対日包囲網」を張られかねません。プロレスには四の字固めという技がありますが、相手を抑え込んだと思っても、気づくと自分が抑え込まれている恐れがあります。
佐藤 手嶋さんは、地球儀のアジア半球の球面を使ってよく「包囲」と「逆方位」の関係を説き明かしていますが、示唆に富んだ解説です。球面では、どちらが包囲し、包囲されているかが、本質的に定かではありません。中国に脅威を感じている東アジア諸国と共に対中包囲網を張っていると思っていても、ふと周りを眺めると日本が取り囲まれていたという事態も起こりうるんですよ。中国と韓国は、そのための手段として、歴史問題をじつに巧みに使ってきています。
手嶋 事実、半世紀を超える同盟国にして包囲網の中核を担うアメリカから、過去の歴史に対する日本の認識に危惧の声があがっています。
佐藤 歴史認識や靖国問題などをめぐって、日米の間に不協和音が生じれば、中国がそれを逆手に取って対日包囲網を構築しようとするでしょう。いまは国際世論を日本により引き寄せておくべきときで、対日攻撃の口実を与えてはいけないんです。
p126〜
 だからこそ、韓国との関係改善を優先すべきです。韓国とは、自由や基本的人権など民主主義の価値観を共に分かち合うことができ、また政治指導者も国民の選挙によって選ばれるからです。日韓関係に鋭く突き刺さった「トゲ」、竹島問題と慰安婦問題でh、中国の外交攻勢を念頭に置いて、賢明にさばいてみせる外交的知恵がいまこそ必要なんです。安倍政権も韓国に対しては、あえて大胆な譲歩をして見せる覚悟があってもいい。大きな戦略的構図の中では、「一歩後退、二歩前進」も辞さないという懐の深さが欠かせません。
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