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【なぜマスコミは「憲法9条」がらみになると話を盛ってしまうのか】 窪田順生

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窪田順生の時事日想:なぜマスコミは「憲法9条」がらみになると話を盛ってしまうのか
  2014年07月01日 08時04分 更新 [窪田順生,Business Media 誠]
 大手マスコミによる「憲法9条」の伝え方をみると、「なにそれ!?」と違和感を覚えることがある。例えば、『サンデーモーニング』(TBS)や『朝日新聞』の報道をみると……。

 先日、ザッピング中になに気なく、TBSの『サンデーモニング』にチャンネルをあわせたところ、異様な光景に思わず“ぎょっ”とした。オランダの有名な昔話『ハンス少年の小さな腕』を紹介していたからだ。
 なんじゃそりゃ、という人のために以下にざっとあらすじを紹介しよう。

 昔々、オランダにハンスという8歳の男の子がいました。ある日、ハンス少年が堤防の近くを通りかかったところ、小さな穴が開いて水が漏れています。オランダは国土の多くが海面よりも低いので、このままではえらいことになります。ハンス少年はすぐに大人に知らせようとしましたが、周囲には誰もいません。かといって遠くまで呼びにいっていたら、大洪水です。
 困ったハンス少年はえいやと穴に自分の腕をつっこみました。そのうち、誰かが通るだろうと待っていましたが結局、彼が発見されたのは翌朝のことでした。一晩中、腕を水につけて衰弱しきったハンス少年を見て、大人たちは涙を流しながらこう言ったそうな。
 「ありがとう、お前のおかげで、オランダの人たちと国が救われた」

 国家を守るためには8歳の子どもだろうが、甘っちょろいことを言ってないでその身を投げ出さなくてはいけない――。安倍政権が掲げる「愛国心教育」の教材になってもおかしくないよう逸話だが、このような愛国少年ストーリーが生まれた背景には、オランダが「80年戦争」(1568年から1648年にかけて、オランダ・ネーデルラント諸州がスペインに対して反乱を起こした戦争)なんて呼ばれる血で血を洗う戦いの末、スペインからどうにか独立を勝ち取ったという歴史も無関係ではない。
 お国のために国民が危険をかえりみずに身を投げ出すなんて語をサヨ……いや、リベラル知識人御用達番組の『サンデーモーニング』は最も嫌う。にもかかわらず、まるで美談のようなもちあげっぷり。ついに司会の関口宏さんまで右傾化してしまったのかしらと心配しながらVTRを見ていたら、すぐにズッコケるような展開となった。
 カミソリ後藤田こと、衆議院議員だった後藤田正晴さんを画面上に登場させ、こんな感じのナレーションを重ねる。

 中曽根内閣の官房長官を務めた後藤田氏は自衛隊の海外派遣に対して「通すな、蟻の一穴になる」と最後まで反対しました。

 要するに、集団的自衛権の行使容認も「蟻の一穴」なので、これを認めるとダムが決壊するように日中戦争が開戦しますよ、という結論へもっていくために、「蟻の一穴」つながりで「堤防の小さな穴」からプレゼンを始めたということらしい。
 みんなで集団的自衛権容認を食い止めましょう、ほら耳を澄ませばもうザッザッザッという軍靴が聞こえてきましたよ、なんて毎度おなじみのシュプレヒコールだ。オランダの愛国少年まで引っぱりだしたわりには、メッセージはいつもとなんら代わり映えしない。
 この“後藤田「蟻の一穴」理論”は反対派のみなさんのお気に入りらしく、『報道ステーション』(テレビ朝日)でもやっていた。なかなかいいスローガンだとご本人たちは思っているようだが、ぶっちゃけあまりフェアではない。
 なにも知らない人が見ると、「立派な政治家も反対していたのか、そうかそうか、やっぱりこりゃ軍国主義の復活だな」といった感じで誘導されてしまうが、後藤田さん自身は決してニュートラルな人ではない。「河野談話」で最近注目も集める河野洋平さんを手下にしてたことからも分かるように、コテコテの親中派、護憲派として鳴らした御仁なのだ。良い悪いは別にして、こういう信念の人が使う「蟻の一穴」というのは、ただちに戦争になるとかではなく、自らのイデオロギーの敗北を意味する。
 つまり、『サンデーモーニング』も『報道ステーション』も正しくはVTR中で、「護憲派の後藤田さんは『通すな、蟻の一穴になる』と最後まで抵抗した」というナレーションにしなくてはいけない。
*マスコミは不都合な話を飛ばす
 日本のマスコミはこういう大事な部分を隠して、「あれ、言ってませんでしたっけ?」みたいな顔をしてニュースを流すことが多い。その最たるものが「憲法9条」だ。
 先ほどのリベラル系番組ではよく憲法9条を「世界でも唯一の平和憲法」とか言うが、これは正確ではない。駒沢大学名誉教授の西修氏が世界の憲法188を調べたところ、平和項目がある憲法は158もあった。さらに言えば、「国際紛争を解決する手段としての戦争放棄」という条文はイタリア(1947年)、アゼルバイジャン(1995年)にもあるという。
 ちなみに、イタリアもベルルスコーニ首相の時にイラク戦争に参加しているし、アゼルバイジャンの軍隊もPKOでコソボ、アフガニスタン、イラクに派兵をしているだけではなく、NATO(北大西洋条約機構)も加盟する「平和のためのパートナーシップ」に加わった。「蟻の一穴」理論でいけば、両国とも権力者が平和憲法を無力化しているわけだから、軍国主義になっていなければいけないが、そういう話は聞こえてこない。
 このことからも分かるようにマスコミ人の間では、「憲法9条」がらみでは多少話を盛ってもいい、みたいな免罪符がある。
 その象徴が『朝日新聞』が4月に出した「憲法9条にノーベル賞を 主婦が思いつき、委員会へ推薦(参照リンク)」という記事だ。タイトルそのままの内容だと、9条に対してなんの思い入れもない奥様がある日、突然閃(ひらめ)いたみたいな印象を受けるかもしれないが、事実は違う。
 この「主婦」なる女性は、キリスト教系の団体でさまざまな平和活動をしているのだ。だから、読者を誤解させないためには正しくはこう書かなくてはいけない。
 「憲法9条にノーベル賞を 女性平和活動家が思いつき、委員会へ推薦」
 後ろめたいことがないなら正々堂々とすればいい。それがあるとだいぶニュアンスが変わるでしょ、というところを隠すので、ネット右翼のみなさんから「捏造(ねつぞう)」とか叩かれちゃうのだ。
 件の『サンデーモーニング』のVTRは、視聴者へこんな問いかけをして締められていた。
 蟻の一穴を押しとどめるハンス少年はあらわれないのでしょうか――?
 焦っているのはよく分かる。でも、蟻の一穴を押しとどめたいがため、話を盛ってしまうオオカミ少年がいなくならない限り、まともな護憲派は現われないんじゃないスかね。
<窪田順生氏のプロフィール>
 1974年生まれ、学習院大学文学部卒業。在学中から、テレビ情報番組の制作に携わり、『フライデー』の取材記者として3年間活動。その後、朝日新聞、漫画誌編集長、実話紙編集長などを経て、現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌でルポを発表するかたわらで、報道対策アドバイザーとしても活動している。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。近著に『死体の経済学』(小学館101新書)、『スピンドクター “モミ消しのプロ”が駆使する「情報操作」の技術』』(講談社α文庫)がある。

 ◎上記事の著作権は[Business Media 誠]に帰属します 
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平和ボケ、ここに極まれり=「憲法9条をノーベル平和賞に 主婦が思いつき、委員会へ推薦」 2014-04-12 | 政治〈領土/防衛/安全保障/憲法/歴史認識〉 
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国際常識を知る者から見れば、顔から火が出るほど恥ずかしい福島瑞穂氏の憲法第9条「推薦文」 高橋洋一 2014-06-18 | 政治〈領土/防衛/安全保障/憲法/歴史認識〉 
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