加齢と専門医の言葉 後藤 ひとみ
中日新聞 夕刊 紙つぶて 2014.7.10 Thu.
3月から10年ぶりに歯科治療に通っている。遅れて育った2本の親知らずを抜歯してもらうために受診したのがきっかけである。エックス線撮影を行った結果、治療済みの歯の再治療も必要と言われた。
身体に起こる異常の中でも、虫歯は独特である。むしばまれた箇所の進行を止めることはできても、外傷のように自然治癒することはない。なので、諦めて治療することにした。しかし、なかなか完了しない。同じ歯で同じような治療が続くため、治療の腕は大丈夫なのかという疑念が高じ、「随分かかりますね」と言ってしまった。すると、「年齢的なこともあって、石灰化が進んでいると時間がかかります」とのこと。この言葉を聞いた途端、何も話したくなくなってしまった。
そして、85歳になる母を思い出した。母が60歳代後半のときのことである。膝が痛いと言って、かかりつけの医師を受診したところ、「年寄り病」と言われたそうである。その後、徐々に進行したため、大きな病院での受診を勧め、かなり強引に専門病院にも連れていったが、「年なんだから仕方ない」と言って治療を拒み続けた。
今は車椅子で暮らす母の気持を考えてみた。加齢は誰にでも起こるものだが、専門医からの言葉は告知になったのだと思う。年をとるということに優しい人を育てたい、優しい社会をつくりたい。心底、そう思う。
〈愛知教育大学長〉
* * * * * * * * * * * * * * * * * * *
yomiDr. 元「保健室の先生」が愛知教育大学長に 後藤ひとみさん
2014年4月14日 読売新聞
後藤(ごとう)ひとみさん(57)
「思いやりと常識のある教師を送り出したい。それが今の若者には欠けている」
1日から愛知教育大学長を務める。「いじめや不登校の問題に対処でき、やりたいことを見つけられる子供を育てる」。理想の教師像を、そう思い描く。
同大で養護教育を学び、大学院修了後、25歳で愛知県内の小学校養護教諭に。児童の健康管理や病気・けがの応急処置にあたる「保健室の先生」出身という、国立大の学長としては異色の経歴を持つ。児童の親に性教育に関するアンケート調査を行うなど先駆的な取り組みを続け、「自分はパイオニアだという意識を持ち続けた」と振り返る。
9か月間勤めたが、当時は専門家が少なかった養護教育の研究を深めたいと、同大の非常勤講師に転身。生活のため、専門学校で教べんを執った時期もあった。48歳で教育学部の教授に。
学長就任にも、気負いはない。「自分のカラーは意識して出すものではない。やれば結果はついてくる」。6年間の大学運営に自然体で臨むつもりだ。(中部支社編集センター 南省至)
◎上記事の著作権は[讀賣新聞]に帰属します