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集団的自衛権行使容認の閣議決定を、中国は自らの行動を阻むものとして「正しく」受け止めている 倉田秀也

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【正論】ガイドラインで日米韓の復元を 防衛大学校教授・倉田秀也
 産経ニュース 2014.7.25 03:25 
 この1日、集団的自衛権の限定行使を容認した閣議決定が下された後、中国の習近平国家主席はあえて公式の論評を控えていた。その3日後、ソウルで朴槿恵大統領と「一致して」憂慮を表明するためだった。習氏の意図は説明には及ばない。中国の「磁力」が確実に通じる韓国で、閣議決定非難の相乗効果を期待しつつ、韓国の日米同盟からの離間を図ったのであろう。
 安倍晋三政権は、国家安全保障会議(NSC)幹部を通じて閣議決定を説明しようとしたが、韓国側はいったんは「適切な時期ではない」として断ったという。韓国で中国の「磁力」は依然として健在だったというべきか。それとも米中間で「バランス」をとってきた朴氏が、今度はむしろ、習氏に逆手をとられたというべきか。
 ≪日韓の安全を結んだ線と面≫
 以前に本欄で指摘したように、日本が韓国の安全に責任を表明したのは1969年11月、佐藤栄作首相がニクソン米大統領との共同声明で「韓国の安全は日本の安全にも緊要である」とした、「韓国条項」を以(もっ)て嚆矢(こうし)とする。その後、83年1月に中曽根康弘首相が初の公式訪韓を果たしてからは、日韓両首脳は韓国の安全についての日米間の共通認識を日韓関係に読み替え、米国を共通の同盟国とする安保関係を確認してきた。
 もとより、そこに自衛隊の役割が示唆されることはなかった。集団的自衛権行使と看做(みな)されかねない武力行使との一体化を慎重に避けながらも、韓国が「戦時」に陥った際の日米協力の輪郭が形成されるには、97年の日米防衛協力のための指針(ガイドライン)改定を待たなければならなかった。
 その枠組みに韓国の安全をあえて組み込んだのが、金大中大統領だったことは銘記されてよい。北朝鮮の弾道ミサイル、テポドン発射の余韻も冷めやらぬ98年10月に金氏は訪日し、小渕恵三首相と日韓共同宣言を発表した。そこには次のように謳(うた)われた。

「北朝鮮のミサイル開発が放置されれば、日本、韓国および北東アジア地域全体の平和と安全に悪影響を及ぼすことにつき意見の一致をみた」

 「韓国条項」以来みられた、韓国の安全と日本の安全を「線」で結び付ける発想は姿を消し、代わって「北東アジア地域全体」の表現に凝縮されるように日米韓関係を北東アジア全体という「面」で捉える発想が現れた。筆者はそれを「北東アジア条項」と呼ぶ。
 ここでいう「北東アジア地域全体」は、当時の北朝鮮の弾道ミサイルの射程に収まる範囲と考えてよい。その限りで、金氏は北の弾道ミサイル脅威を対日関係改善に巧みに利用したといってよい。
 ≪金氏の戦略観は朴氏になく≫
 しかも、日韓共同宣言と同日に採択された日韓行動計画は、日韓安保対話と防衛協力の端緒となった。翌年の「周辺事態安全確保法」による韓国からの反発が最低限に抑えられたのも、これら2つの文書によるところが大きい。
 当時、集団的自衛権の行使に関する憲法解釈はほとんど議論されていなかった。だから金氏は日韓共同宣言と日韓行動計画をまとめあげられた。それは否定しない。だが、集団的自衛権の限定行使を容認する閣議決定が下されガイドラインが再改定されようとしているとき、今の隣国大統領が−金氏の時代以上に北のミサイル脅威に晒されているにもかかわらず−韓国「戦時」を念頭に置いた日韓協力に同調するとは考えにくい。
 とはいえ、韓国が中国の「磁力」に引き寄せられるのを傍観することは、日本の安全と韓国の安全を「線」としてであれ「北東アジア地域」という「面」としてであれ不可分と捉えてきた、日本の安全保障認識とは相容(あいい)れない。
 安倍首相が言うように、日本の集団的自衛権の行使が限定的であることに、韓国の理解を得る意義は大きい。それが限定的である以上、議論は須(すべから)く禁欲的であるべきである。そうしたとしても、韓国はそこに歴史認識の問題を持ち込んで対抗するに違いない。現在の日韓関係は安全保障問題への対処能力を明らかに欠いている。
 ≪日米安保の磁力で中韓離せ≫
 ならば、今回の閣議決定を歓迎する米国を介在させない手はない。閣議決定は、韓国にとっては劇薬ではなくとも苦薬であるに違いない。いくつかの「副作用」は考えられるが、それを希釈できるのは米国を措(お)いて他にない。
 再改定される日米ガイドラインは、日本による集団的自衛権の限定的行使の容認を前提に韓国の安全を位置づけることによって、日米韓の関係が「北東アジア地域全体」として不可分であることを強く示唆するものであるべきだ。
 ソウルでの習氏の非難発言に示されるように、中国は今回の閣議決定を自らの行動を阻むものとして「正しく」受け止めている。来るべきガイドラインは、対中抑止力を誇示するものになるべきであるのは当然だが、同時に、中国の「磁力」に対抗できる日米の安全保障の「磁力」を帯びる必要がある。それは日米韓関係を復元する機会とならなければならない。(くらた ひでや)
 ◎上記事の著作権は[産経新聞]に帰属します  *強調(太字・着色)は来栖
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【嚆矢 こうし】とは。
 1 《「嚆」は叫び呼ぶ意》かぶら矢。2 《昔、中国で戦いを 始めるとき、敵陣に向かって1を射たところから》物事のはじまり。最初。「二葉亭の『浮雲 』をもって日本近代小説の―とする」
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