【正論】「8・15」に思う 「慰安婦」歪曲をまだ続けるのか 東京基督教大学教授・西岡力
産経ニュース 2014.8.12 03:07
「西岡さんと私が世間から極悪人と呼ばれることを覚悟して真実を追究しましょう」。22年前、ある月刊誌で慰安婦問題に関する論文を書いていたとき編集長が私に語った言葉だ。朝日新聞が、過去の自社の慰安婦問題に関する記事の検証を行った。それを読みながら、そのことを思い出した。
≪22年前の朝日記事批判≫
朝日は検証を行った理由について5日付の紙面で〈一部の論壇やネット上には、「慰安婦問題は朝日新聞の捏造だ」といういわれなき批判が起きています。しかも、元慰安婦の記事を書いた元朝日新聞記者が名指しで中傷される事態になっています〉と書き、読者の疑問に答えるとした。検証は私への反論とも取れた。なぜなら、私は22年前、元慰安婦の記事を書いた植村隆記者の実名を挙げて最初に批判し、その後も今まで論文や著書で批判し続けてきたからだ。
22年前の論文で私はまず、植村氏が、最初に名乗り出た元慰安婦、金学順さんについて「『女子挺身(ていしん)隊』の名で戦場に連行された」(1991年8月11日)、「地区の仕事をしている人にだまされて17歳で慰安婦にさせられた」(同年12月25日)などと書いたことを紹介した。次に、彼女が記者会見や訴状で「母親によって一四歳の時に平壌にあるキーセン(編注、朝鮮半島の芸妓・娼婦)の検番に売られていった。三年間の検番生活を終えた金さんが初めての就職だと思って、検番の義父に連れられていった所が、華北の日本軍三〇〇名余りがいる部隊の前だった」(「ハンギョレ新聞」同年8月15日)という経歴を明らかにしたことを指摘し次のように批判した。
〈女子挺身隊という名目で明らかに日本当局の強制力によって連行された場合と、金さんのケースのような人身売買による強制売春の場合では日本軍ないし政府の関与の度合いが相当に違う。(略)まして最も熱心にこの問題に関するキャンペーンをはった朝日新聞の記者が、こうした誤りを犯すことは世論への影響から見ても許されない〉。また植村氏が、個人補償請求裁判の原告組織である「太平洋戦争犠牲者遺族会」のリーダー的存在、梁順任・常任理事の義理の息子であることを指摘し、〈彼自身が韓国人犠牲者の遺族の一員とも言えるわけで、そうであればなおのこと、報道姿勢には細心の注意を払わなくてはならないと筆者は思う。たとえ仮に自分の支持する運動に都合が悪いことでも、事実は事実として伝えてくれなければ、結局問題の正しい解決にはつながらないのである〉(「文芸春秋」92年4月号)。
≪ごまかしと弁明ばかり≫
今回やっと検証し私の批判に対する回答が来たのかと期待して記事を読んだが、ごまかしと弁明ばかりで怒りが増すだけだった。
朝日は「記事に事実のねじ曲げない」とする大きな見出しをつけて検証結果を掲載した。植村氏が91年8月の記事で金さんのことを「『女子挺身隊』の名で戦場に連行され」などと書いたことについて「慰安婦と挺身隊との混同については、韓国でも当時慰安婦と挺身隊の混同がみられ、植村氏も誤用した」と弁解した。しかし、これは弁解になっていない。
当時、慰安婦連行が挺身隊制度によって行われたと誤認していた韓国人、日本人は多かった。しかしその制度上の誤認と、金学順さんという一人の元慰安婦が「女子挺身隊」の名で連行されたのかどうかという問題とは無関係だ。金さんは「女子挺身隊」の名で連行されていない。これが事実だ。植村氏は金さんが話していない経歴を創作、でっち上げたのだ。「事実のねじ曲げ」そのものだ。
≪誰にだまされたか隠すな≫
また、朝日は植村氏がキーセンに売られた事実を書かなかった理由として、8月の記事では金さん本人がそのことを明らかにする前だったと弁解した。しかし、12月の記事にはその弁解は通じない。それなのに朝日は今回の検証で、「金さんが慰安婦となった経緯やその後の苦労などを詳しく伝えたが、『キーセン』のくだりには触れなかった。植村氏は『キーセンだから慰安婦にされても仕方ないというわけではないと考えた』と説明。『そもそも金さんはだまされて慰安婦にされたと語っていた』といい」と弁解した。
これもおかしい。彼女が誰にだまされたかという事実関係が問題なのだ。金さんは会見や訴状で、「母がキーセンとして彼女を売った相手の」義父に中国の慰安所に連れて行かれたと証言していた。だまされたとするなら、義父にだまされたことになる。植村氏が「キーセンだから慰安婦にされても仕方ないというわけではない」と考えるのは自由だが、その個人の考えから、「母がキーセンとして金さんを売った」義父の存在を隠して「地区の仕事をしていた人」という正体不明の人物を登場させたことも、やはり事実の歪曲である。(にしおか つとむ)
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産経ニュース2012.8.31 03:28[正論]
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