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国際法的にグレーでも他に手段がなかったシリア空爆 オバマとイスラム国の戦争(その1) 黒井文太郎

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国際法的にグレーでも他に手段がなかったシリア空爆 オバマとイスラム国の戦争(その1)
 JBpress 2014.09.29(月) 黒井 文太郎  
 「この3年半、国際社会は何もしてくれなかった。今回の空爆はイスラム国だけに対するものだが、それよりもアサド政権を倒すために、もっと僕らを支援してほしい」
 シリアの首都ダマスカス北東郊外の町・アルビンの反政府活動家であるハイサムは、そう語る。
 アルビンは現在も、もっぱらアサド政権軍の猛攻を受け続けている町だ。そこで苦しい戦いの日々を送っている彼らは、極端な過激派組織であるイスラム国への警戒感は共有しているものの、それよりも目下の問題は、市街地への無差別な砲爆撃に加え、猛毒の塩素ガスまで使用して住民の虐殺を続けているアサド政権である。
 9月23日、米軍はアラブ5カ国とともにシリア空爆に踏み切ったが、いよいよアメリカが軍事介入したことには、シリア国民の間には期待とともに、不安や不満もあるようだ。
 他にも何人かのシリア人に話を聞いたが、アメリカがアサド政権打倒を助けてくれないことへの不満の声と、それでもようやく外国が軍事介入に動いたことへの期待の声が、両方あった。反体制派関係者には、米軍の介入をなんとかアサド政権に向けさせたいと願う声もあれば、これまでのようにどうせ何も変わらないだろうと諦める声もあった。SNS上のシリアからの声には、空爆は結果的にアサド政権を助けているだけだという激しい批判も多くある。
 総じて言えば、北部のクルド人地域など、イスラム国の激しい攻撃を受けている地域を除けば、反体制派の主敵は今でもイスラム国よりアサド政権だ。ところが、今回のアメリカの軍事行動の目標は、あくまでイスラム国の壊滅であり、アサド政権を弱体化させるものではない。その点に対するいらだちの声は確かに多い。
 しかし、とにかく3年以上にもわたって日々殺され続けている人々にとっては、外国軍の介入こそが最後の希望でもある。なにせ人口2200万人の国で、すでに死者は19万人超。国内外への難民・避難民は人口の半分近い1000万人弱に上っているのである。このまま何も変わらなければ、犠牲者の数がますます増えるだけなのだ。
 今もイスラム国の脅威にさらされている人々は、むろん空爆への期待は大きい。9月18日からのイスラム国の侵攻を受け、トルコに逃れたクルド人たちには、各国際メディアの取材に対し、空爆への期待を口にする人が多く いる。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によれば、23日までの6日間だけで14万人もの人々が国境を越えたというが、それはイスラム国の戦闘員に捕まれば、殺害される恐れがあるからだ。
 こうした人々を救うためには、アメリカの軍事介入でイスラム国に打撃を与えるしかないのが現実である。しかし、批判の声ももちろんある。
 その理由は主に「(1)国際法違反ではないか?」「(2)軍事的手段ではなく、平和的手段で解決すべきではないか?」「(3)民間人の巻き添え被害が出るのではないか?」「(4)国民を殺害し続けているアサド政権を利するだけではないか?」「(5)空爆だけで成果が期待できるのか?」「(6)逆に海外でのテロが増えるのではないか?」といったことだ。
 これらの懸念はそれぞれ根拠がないわけではない。しかし、イスラム国によって苦しめられている人々が存在していることは事実であり、これを放置していていいわけがない。観念的な議論をしている間にも、人々は殺害されることになるのだ。
 リアルに可能なことで、国際社会は何をどうすべきか? よりベターな方法を考えるため、一つずつ検討してみよう。
*アメリカの理屈は「自衛権の行使」
 まず「国際法違反ではないか?」という点に関して言えば、結論としては「厳密にはおそらくその通り」と言うしかない。
 現在の国際法では、他国への軍事攻撃は「自国か同盟国が攻撃を受けた場合」「主権国の同意がある場合」「国連安保理の武力行使容認決議がある場合」などに限られる。8月9日から行われているイラクでの空爆に関しては、主権国であるイラク政府の承認があったが、シリア国内ではそこがグレーゾーンになっている。
 アサド政権としては、自分たちの主権の尊重は絶対に譲れない部分だったが、アメリカと対立することも恐れているため、自らの主導の下でアメリカと協調すること自体は容認していた。例えば8月25日には、シリアのワリード・ムアッリム外相が、対テロ戦での「国際社会との協力」を提案。その際、あくまでアサド政権による主権を侵害しないように事前の調整を求めていた。
 しかし、アメリカ側はそれを拒否。一貫して「アリ・アサド政権と協力するつもりはない」との姿勢を崩さなかった。それに対し、9月11日にはシリアのハイダル国務相(国民和解担当)が「シリア政府の同意がなければ、わが国への攻撃と見なす」と発言。アメリカ側を牽制した。
 そうした中でアメリカは、アサド政権の意向などまったく考慮することなく、9月23日に空爆に踏み切った。イスラム国は8月19日と9月2日、人質としていた米国人ジャーナリストの斬首処刑映像を相次いで公開していたが、オバマ政権はそれを「米国人へのテロ攻撃」と見なし、「自衛権の行使」という理屈で空爆を強行したのである。
*アサド政権は米軍の空爆を容認
 もっとも、その理屈自体は、かなり無理がある。イスラム国はアメリカが空爆を決断した時点では、米国および米国人に対し、明確に攻撃を仕掛けてきているわけではないからだ(空爆前日の9月22日、イスラム国のアブムハマド・アドナーニ報道官が、特にアメリカ、カナダ、フランス、オーストラリアを名指しし、「イスラム教徒はこれらの国民をどんな方法を用いても殺害せよ」との声明をツイッターで発表しているが、オバマ大統領がシリア空爆を決断したのはそれより以前のことだ)。
 しかし、確かに狂信的イスラム過激派の台頭を放置すれば、将来的にテロの温床になるとの判断は合理的だ。イスラム国殲滅は、いわゆる「対テロ戦」の延長という位置付けである。
 とはいえ、米国人ジャーナリスト殺害などは犯罪の部類に入るが、犯罪の摘発のために、ある国が他国内で勝手に軍事行動を取ることは、通常なら許されない。現在でも国連のシリア代表部はアサド政権が掌握しており、アサド政権がシリアの主権を代表している。したがって、アサド政権の同意がなければ、勝手な軍事行動は、形式的にはやはり国際法違反にあたる。
 ただ、前述したようにアメリカとの対決を避けたいアサド政権が、その部分をあえて曖昧にしている。実際に空爆が始まった直後の同23日、アサド政権は「アメリカが事前に通告してきた」ことを強調。自分たちの主権の尊重を条件に「テロとの戦いにおける、いかなる国際的な取り組みも支持する」との声明を発表し、米軍の空爆を事実上容認する姿勢を示したのだ。
 翌24日には、ハイダル国務相も「米軍は事前に知らせてきたうえ、空爆でも民間人やシリア政府の軍施設は標的としなかった」ため、空爆は「正しい方向で行われている」と発言している。つまり、形式上は主権を代表しているアサド政権自身が、主権侵害を声高に指摘していないのである。
*二の足を踏む欧州諸国
 アサド政権の庇護者であるロシアも、対応には苦慮している。
 例えば、ロシア外務省は9月11日、「安保理決議がない場合、侵略と見なす」との声明を発表し、アメリカを牽制したが、同23日には「安保理決議がない場合か、もしくはシリア政府の同意がなければ認められない」と言い方を変えている。これはつまり「アサド政権の同意があれば、安保理決議がなくとも容認する」ということで、アメリカへの牽制としてはトーンダウンしたことになる。
 しかし、だからといって、国際法的に問題があることには変わりない。
 今回のシリア空爆では、アメリカ以外の参加国は、極めて限られている。今回、空爆作戦に参加した「有志連合」は、アメリカの他にはヨルダン、サウジアラビア、カタール、UAE、バーレーンの親米派のアラブ5カ国だけだ。
 イラクでの空爆には米軍の他に仏軍がすでに参加しており、さらにイギリス、オーストラリア、ベルギー、オランダ、デンマークが参加を表明しているのに比べると、欧州諸国のサポートが遅れている(イラクでは他にカナダ、イタリア、ドイツなどがクルド人部隊などを支援している)。
 このように欧州諸国が二の足を踏んでいるのは、前述したような様々な懸念があることが理由だが、中でもこの国際法上の是非が大きなブレーキになっている。
*国際社会は米軍の空爆を事実上容認
 とはいえ、国際世論の動向は、アメリカに味方しているように見える。イスラム国の蛮行はすでに国際メディアで詳細に報じられており、このまま放置はできないとの認識が広がっているからだ。
 9月24日、ニューヨークではオバマ大統領の主導で、イスラム国を排除するために結束を呼びかける国連安保理の首脳級会合が召集され、外国人戦闘員をイスラム国に送り込まないための措置を取ることを各国に義務付ける決議が採択されるなどしたが、会合はほぼアメリカのペースで進んだ。
 アメリカの空爆に関しては、ロシア、中国、およびアサド政権の同盟国であるイランが批判的な立場にあるものの、例えば国際法違反かもしれないアメリカの軍事行動に対する非難決議案が国連安保理に提出されるような動きは、今のところ一切ない。当のアサド政権が表立ったアメリカ批判を控えているため、外交の舞台では、米軍の空爆は現時点では国際社会に事実上容認されていると言える。
 これは、当のアサド政権が表立ったアメリカ批判を控えているということに加え、人道的な観点からもアメリカ批判がしにくいという事情もある。つまり、形式上は国際法的にグレーな点があったとしても、狂信的な武装集団が跋扈し、人々が理不尽に殺害されているという現実を前に、明確な代案もなく反対はしづらいということにほかならない。外交上の駆け引きという生温い世界ではなく、まさに人の生死がかかっている緊急事態では、反対のための反対は説得力を持たないということだろう。
 前述したように、オバマ大統領は、テロに対する自衛のために軍事行動を決断した。アメリカ世論も、例えば8月のイラクにおけるイスラム国のヤジディ教徒に対する蛮行(男性は虐殺し、女性は戦利品扱い)の際はさほど反応を見せなかったが、2人の米国人記者の斬首処刑のニュースで、一気に軍事介入を支持する声が高まった。オバマ大統領の決断の背景にはこうした事情がある(11月の中間選挙に向けて、弱腰外交との批判を恐れたというような見方もある。そういう部分が多少はあるのかもしれないが、主にはアメリカの安全保障上の判断であろうと思う)。
 アメリカの国内世論では、米軍が単独で他国の紛争に介入することには慎重な声が多く、オバマ大統領も国内向けには「自衛」という大義が必要だが、国際世論に向けてはそれだけでは充分ではない。つまり、アメリカは決して「世界の警察」として現地の人々を助けるというような「人道目的」で軍事行動を起こすわけではないのだが、国際社会の支持を得るためには、人道上の是非も重要になるのである。 
 国際法的にアウトかもしれない米軍の空爆も、他に現実的に有効な手段がないということで、現時点では国際社会に容認されている。アメリカがこうした軍事行動を起こす以外に、誰かがイスラム国の蛮行をストップさせることはできないからだ。アメリカを批判するなら、他に代案を示さなくてはならないが、それは現時点ではまったく見当たらない。
 この「他に代案があるのか?」という点に関しては、冒頭で示した6つの論点のうち、2つ目の「軍事的手段ではなく、平和的手段で解決すべきではないか?」ということが大きく関わってくる。次回はその話から考えてみたい。
(つづく)
 ◎上記事の著作権は[JBpress]に帰属します
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「イスラム国」と「アサド政権」は打倒すべき 黒井文太郎 2014-09-28 | 国際 
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