朝日新聞と集団的自衛権批判者が戦争を引き起こす 「抑止力」無視の無気力平和主義こそ武力行使を招く
JBpress 2014.09.29(月) 森 清勇
カーナビは、米軍が世界に展開する部隊を指揮するために開発したGPS(全地球位置システム)が民間に開放され、活用されるようになった結果である。
車いすや杖を持った高齢者の乗り降りを容易にするために、バスはほとんどがノン・ステップになり、同時に油圧で乗降口を下げるニーリング・システム(ニールは膝まずくこと)を採用している。
これは戦車が移動中も地形の凹凸に関わりなく命中精度を維持するために開発された技術の応用である。
*「想定外」の次は「抑止力」だ
軍事技術ばかりでなく、今日では軍事用語が一般社会、就中スポーツ界に浸透している。ストライク(一撃を食らわす)やシュート(矢を射る・弾丸を撃つ)などは野球やサッカーに特化され、本来軍事用語であることなど念頭にもない。
東日本大震災では「想定外」という言葉が多用された。国民には馴染みの薄い用語であったが、国家の安全に関わっている軍事関係者には日常茶飯事的に使われてきたものである。
「想定外」も今では完全に一般用語となり、市民も「想定外であってはいけませんよね」などと容易に使うようになった。先日の豪雨による広島の災害は想定外であったが、極力想定内にすることで、こうした災害にも事前の対策がとれるようになる。
先の国会では「集団的自衛権の行使容認」が最大の論点であった。しかし、朝日新聞を筆頭に度外れの反対キャンペーンが繰り広げられ、野党の一部も悪乗りして論戦はかみ合わなかった。
その要因は「抑止力」の問題でありながら、ほとんど抑止力が議論にならなかったからである。国家の存続よりも政党の存在を意識することが先にあり、「抑止力」を議論の中心に据えることができなかった。
与党協議の座長を務めた高村正彦自民党副総裁は「そもそもの原点は、日本が戦争に巻きこまれないための『抑止力強化』だ」と語り、「抑止力って『伝家の宝刀』なんですよ。あの家に宝刀があると思えば、ならず者は寄りつかない。『あるぞ』と思わせ、実際は抜かずに済ませるところが妙味」(「産経新聞」26.8.18)であると説明する。
北朝鮮に拉致された蓮池薫氏は『拉致と決断』で、協同農地と違って貴重な食糧をもたらしてくれる個人農地を盗難から防止する農民の涙ぐましい努力について、鉄条網、鳴子式警報、番犬などで守る方法が一般的であるが、「極めつきは鉄条網の最上部に被覆なしの電線を張り巡らせ、触ったら感電するように作った装置だった。(中略)停電の多い農村でどれくらいの抑止力になるのか、大いに疑問だった」と書いている。
抑止力とは何も安全保障だけではなく、個々人の生き方にも関係している用語である。次の臨時国会でも議論になりそうな軍事用語がいくつかある。
軍事抜きの戦後が続いたために、自国が危急存亡の淵に立ちつつある緊迫した国際情勢の中にありながら、我関せずの人が多過ぎる。せめて、以下の用語は理解してほしい。
*集団的自衛権と集団安全保障
高学歴高所得の購読者が多いこともあってクリティペーパーと称されてきた朝日新聞であるが、虚偽であった吉田清治証言を引用して従軍慰安婦の強制連行を主張してきたことや、福島第一原子力発電所の事故に絡む吉田調書の誤報に見るように、日本の名誉を傷つけ失墜した。
スポーツ紙と違わない煽動紙であったわけで、日本の政治をも左右する知識人たちが洗脳されていた現実を見ると、ぞっとするというのが本音である。
政府は集団的自衛権の行使容認の必要性を3分類して15の事例で示した。グレーゾーン事態(3事例)、PKO(平和維持活動)や多国籍軍として行動する事態(4事例)(集団安全保障)、そして集団的自衛権の行使事態(8事例)である。
現在進行形で、日本の存続や浮沈にも関わる集団的自衛権に関しても、朝日新聞は戦争準備であるかのような報道に注力した。挙句、政治記者かデスクか、はたまた編集部か知らないが、集団安全保障の悪例を引っ張り出して集団的自衛権であるかのごとく報道していたことが検証(『正論』2014年9月号、佐瀬昌盛氏論文参照)されている。
自助、共助、公助というカテゴリー区分から言えば、自分の国は自分で守るという考えが自助であり「個別的自衛権」の行使である。敵性国家が我が主権を侵略した場合、自助で対処し頑張れば、同盟関係にある米国が「集団的自衛権」を発動して共助してくれるだろう。
前後して、国連の安全保障理事会が協議して公助の「集団安全保障」を発動するかどうかを決めることになる。
先の国会における集団的自衛権の行使容認論議の過程で、一部与党や野党は「個別的自衛権の拡大で対応できる」ということを盛んに言ってきた。
しかし、自助と共助は全く異なるカテゴリーであり、机上でカバーできるかのごとく見せかけても、現実の修羅場に直面した時に動きが取れなくなるのが関の山であろう。
同様に、集団的自衛権と集団安全保障は全く異なり、利害を異にする安保理での協議はすんなりと行かないことを念頭に置く必要がある。
*「武力の行使」と「武器の使用」
また、非常に重要な用語に「武力の行使」と「武器の使用」がある。一見区別が難しいが、厳とした法律用語で大きな違いがあり、その理解は重要である。
「武力の行使」は自衛隊法88条に基づき、防衛出動を命ぜられた自衛隊がわが国を防衛するために行う行動を指している。その中には指揮官の命令による武器の使用が常在的に存在する。
他方、「武器の使用」は、自衛官が公共の秩序の維持や人命・財産の保護などに際し、法律で認められている。より具体的に言うと、
(1)治安出動、警護出動、海上における警備行動
(2)武器などの防護
(3)自衛隊の施設の警護
(4)自己の保存 (自然権的権利)
などである。国連の要請に基づくPKOなどが増えるにつけ、日本が異常に制約してきた(4)項が逐次見直され、国際基準に少しづつ近づいている。
換言すれば、「武力の行使」(武力行使)は自衛隊法に基づく国家の安全に関わる事象に適用され、自衛隊という集団が行動すること自体を指すが、「武器の使用」は警察官職務執行法に基づく行為で、個々人に適用されるとみていいだろう。
集団的自衛権の行使容認は「武力の行使」を基本とするものであり、「わが国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」「他に適当な手段がない」「必要最小限」など、新三要件として見直されたことは記憶に新しい。
「武力の行使」と「武器の使用」は、一般国民に馴染みが薄く混同されやすいが、用語が含む比重の置かれ方は国家の安全と個人の安全という、別次元にある。
新聞社などの世論調査などで著しい差が時折見られる。これは意図的なひっかけ質問もあろうが、武器の使用と武力行使や、集団的自衛権と集団安全保障のような類似語の混同も影響しているようである。
正しい世論を反映するためには、こうした軍事用語の普段からの理解が不可欠である。
*ネガリストとポジリスト
軍隊は国家の最終的な拠り所である。戦争においては相手の意表を突く戦略・戦術・戦闘で勝利を目指す。そのため想定外のことも多く、ありとあらゆる手段を駆使して対処する以外にない。
そこで、軍隊にはやってはいけない最小限の縛りだけを示し、任務を完遂することが期待されている。これはネガティブ・リスト方式、略してネガリストと呼ばれ、世界のほとんどの軍隊が採用している。
ところが軍隊でない自衛隊では、やっていいことだけ(これをポジティブ・リスト、略してポジリストという)が示される。
先の東日本大震災では死者が多数出たが、自衛隊のポジリストに死者の取り扱いはない。現場の指揮官は多数の死者を前にして素通りするわけにもいかず、当初は命令違反となるために処罰覚悟で対処せざるを得なかったと仄聞した。
同様に、これまで派遣されたPKOにおいても、派遣された指揮官たちはポジリストのゆえに派遣部隊の安全や日本の名誉に関わる事象であるにもかかわらず、適切に対処ができなかったことをしばしば告白している。
ましていわんや何が起こるか分からない戦場において、生存して対処する原点に立つならば、人道に悖るようなことだけを禁止するネガリストでなければ、有効な対処ができないことを戦史が示している。日本のポジリストは有効な対処を制約し、任務の完遂を阻害する。
*デユアル・ユース
従来の武器輸出三原則では、信頼性の高い日本の防衛技術などが輸出できず、開発・生産した武器・装備品や防衛技術の得意先は防衛省だけで、防衛装備品は高価となり、調達数は減少の一途をたどった。
その結果、自衛隊の装備更新は遅々として進まず老朽化し、防衛企業の開発・生産意欲は萎えて防衛産業の存続、即ち日本の安全保障が危惧されるまでになってきた。
また、日本が次世代戦闘機として導入する「F-35」の製造にかかる国際的な後方支援システムへの国内企業の参画を図ろうとした際や、南スーダンPKOで活躍中の陸自部隊が保有する弾薬を国連に提供した際も武器輸出三原則が阻害要因となるために、内閣官房長官談話を新たに発出して同原則等によらない措置を取らなければならなかった。
このような障害を排除して、新たな国家安全保障戦略(平成25年12月制定)で規定した「国際協調主義に基づく積極的平和主義」の観点から、防衛装備品の活用などによる平和貢献・国際協力に一層積極的に関与し、併せて防衛装備品などの共同開発・生産などに参加が求められている状況などから、武器輸出三原則に代る「防衛装備移転三原則」が閣議決定された。
これまではGPSや戦車の車高昇降装置に見られたような、軍用に開発された技術が民間に開放されてインターネットやバスなどに利用 (これをスピンオフと言った) されることが多かった。
しかし、今日は進歩の著しい民間技術が逆に軍用に利用 (これをスピンオンという) されることも多くなってきた。こうして、軍用と民間で共用可能な技術開発が目指されることも多くなり、これをデュアル・ユースと呼ぶ。
安全保障と国益の双方に資する観点から産官学を結集させるように注力されている。
*おわりに
日本人の言霊信仰もあり、戦争に関わる用語は特殊なもの、自分には関係ないものとしたいのが山々の様である。しかし、不確定性を増している近未来を生き抜くためには、国民にも軍事問題に関心を持ち、かつ参画してもらう必要がある。
とは言っても、難しいことではなく、自分で自分を守るのが個別的自衛権であり、家族あるいは親しい友人と力を合わせるのが集団的自衛権と言えよう。
同時に、個人はより大きな地域社会に所属している。最終的には、その地域社会が守ってくれるのが集団安全保障とでも言えばいいかもしれない。
自衛権論議は国や国際社会という大きな器よりも、家庭や地域社会という身近なところで考える方がさらに理解しやすいのではないだろうか。
◎上記事の著作権は[JBpress]に帰属します *強調(太字・着色)は来栖
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