産経WEST 2014.11.11 15:00更新
【言葉ってすごいの?(4完)】遺族の許しはありえるのか 神戸・児童連続殺傷事件の淳君の父「加害男性の言葉と向き合うことが淳への愛情」
「僕が生きている間、許すことはないだろうと思います」。静かに、だが揺るぎのない口調で、土師守(58)は、息子の命を奪った男性(32)への思いを語った。
平成9(1997)年に世間を震撼(しんかん)させた神戸・児童連続殺傷事件。11歳だった淳君が犠牲になり、穏やかな土師の生活は一変した。17年の歳月が流れてなお、「気が変になりそう」な深い傷を心に残している。
今年は、長崎・佐世保で高1の女子生徒が同級生に惨殺され、神戸では小1女児が失踪後に遺体で発見される殺人事件が起きた。
事件の数だけ、癒えることのない悲しみを背負った遺族と、命を奪った殺人者も増えていく。両者の間には、計り知れぬほどに深い溝が横たわる。遺族の心に届く「謝罪の言葉」はあるのだろうか。
*言葉に向き合う苦しさ
土師にとって、男性の言葉は、毎年、淳君の命日の前に、弁護士を介して届く手紙が全てだ。
「すみません」。謝罪の言葉は当初、誰かに書かされている感じがあった。事件当時、男性は14歳。成長するにつれ、文面は重みを増した。「最近は罪深さを自覚していると感じられるようにもなった」と言う。
しかし土師に、謝罪を受け入れる気持ちはない。理由は、犯行にいたるまでの一つ一つの行動、心境の変化を本人の言葉で説明していないから。「事件の経緯を話さずに謝られても、何を悪いと思って謝罪しているのか分からない」
毎年、進んで読みたいとも思わない手紙の封を切る理由は一つ。なぜ淳が殺されなければならなかったのか-。脳裏を離れない疑問への答えが、「本人の言葉で語られているかもしれない」と思うからだ。
男性の犯行時の心理は、多くの専門家が分析を試みてきた。だが、土師は「事件にいたる男性の心の中の動きは、結局、男性にしか分からない」と信じる。
事件を思い出すのは苦しい。それでも、「真相を知ることが親の義務」と思うから、男性の言葉と向き合ってきた。
もし男性が当時の心境を自分の言葉で語り、謝罪の手紙を書いたら、許すことができるだろうか-。
間を置かずに、土師は首を振った。奪われたのはモノやカネではない、かけがえのない命だ。「自分の子供を殺された親が、加害者に『すみません』と言われて、『いいですよ』と答えるなんてありえない」
*償いとは、誠実に命をかけて謝り続けること
遺族は絶対に加害者を許さないのだろうか。歌手、さだまさしに「償い」という作品がある。交通事故で夫を亡くした女性と、加害者の若者の胸中を歌う。
事故の直後、女性は「人殺し あんたを許さない」とののしった。床に頭をこすりつけて謝った若者は、「償いきれるはずもないが せめてもと」、毎月、仕送りを続けた。
7年後、女性から若者に初めて手紙が届く。感謝の気持ちを伝えた上で、仕送りをやめ、人生をやり直すように求めていた。
作品は、さだの知人の実話をもとにした創作だ。しかし優れた芸術には真実が宿るという。東京地裁の裁判長が説諭に引用したり、交通キャンペーンに使われたり、「償い」は創作を超えた「真実の物語」として受け入れられてきた。
現実の世界で息子を亡くし、今も心に深い傷を負う土師は「償い」の物語に否定的だ。「そんな簡単なものではないでしょう。世間は美談を求めたがる」と皮肉すら口にする。
ただ、命を奪った罪への謝罪は言葉だけでは足りないという考え方は「償い」のテーマと共通する。
「大事なのは『すみません』という言葉を態度で示すことだ」と土師は言う。
「謝罪して許されるかどうかは問題ではない。誠実に命をかけて謝り続ける行為こそが償いでしょう。それならば、遺族に届く『真摯(しんし)な言葉』がないことはないだろうと思います」
来年も男性から手紙が届けば、土師は悲しみをこらえて封を切るだろう。「男性の言葉と向き合い、殺害された理由を知ることが淳への愛情であり、14歳の少年だった男性が更生するために『大人』としてできる唯一のことだから」 (平田雄介) =敬称略、おわり
【用語解説】神戸・児童連続殺傷事件
神戸市須磨区で平成9年2~5月、小学生5人が襲われ、小6の土師淳君=当時(11)=ら児童2人が死亡した。殺人容疑などで逮捕された中3の少年=当時14歳、現在32歳の男性=は17年に関東医療少年院を退院し、社会復帰している。
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◇ 神戸連続児童殺傷事件から17年 土師守さんが手記 今年も元少年から手紙「1年毎に変化 人間として成長」 2014-05-24 | 社会
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◇ 【「少年A」この子を生んで…】神戸連続児童殺傷事件・酒鬼薔薇聖斗の父母著 文藝春秋刊1999年4月 2014-08-09 | 本/(演劇)
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