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「大義なし」批判は、財務省からのアメを失った増税派の遠吠えにすぎない! 高橋 洋一

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衆院解散「大義なし」批判は財務省からのアメを失った増税派の遠吠えにすぎない!
 現代ビジネス 2014年11月24日(月)高橋 洋一「ニュースの深層」 
「問われる、費用700億円 解散理由に賛否」 朝日新聞に出てくる見出しだ(→こちら)。
 本サイトにも、「#どうして解散するんですか?」Twitter上で政府・メディア関係者ほか100万人に届けられた疑問の声(追記あり)(→こちら)がある。もっとも、これは追記にあるとおり、子供の名を語った大人のやらせであることがわかっている。まったく卑劣な話だ。
 ネット上では、デマはあっという間に広がる。公共電波も同じだ。選挙ではそうしたデマで有権者の判断が歪められたら本当に怖い。そこで、冒頭にあげた記事を検証してみたい。
■「ご説明」に籠絡された議員、マスコミ、有識者
 まず朝日の記事にあるこの記述。
 〈経済ジャーナリストの荻原博子さんは「解散は必要ない」と言い切る。消費増税法には、景気が想定以上に悪くなれば増税の先送りやとりやめができる「景気条項」があるからだ。「法律に基づいて増税を先送りすれば良いのに」〉
 荻原氏はもともと消費増税に反対なので、悪意はないと思うが、単に法律を知らないだけだろう。景気条項とは、消費増税附則18条である。そこには、
 「この法律の公布後、消費税率の引上げに当たっての経済状況の判断を行うとともに、経済財政状況の激変にも柔軟に対応する観点から、第二条及び第三条に規定する消費税率の引上げに係る改正規定のそれぞれの施行前に、経済状況の好転について、名目及び実質の経済成長率、物価動向等、種々の経済指標を確認し、前二項の措置を踏まえつつ、経済状況等を総合的に勘案した上で、その施行の停止を含め所要の措置を講ずる」
 と書かれている。この「措置を講ずる」というのは、政府としては新たな法案を国会に提出することだ。それが実効性を持つためには、国会で成立しなければいけない。この条項は増税阻止のきっかけになっても、その決定打にはならない。このあたりは、マスコミにも誤解する人がきわめて多い。
 荻原氏を含め多くの人は、政府のトップの首相が決断すれば法律が成立すると思い込んでいるが、違う。郵政解散の時でも、小泉首相が出した郵政民営化法案は国会で否決された。今回も、消費増税ストップ法案は国会で否決されるどころか、提出もできなかったのは、誰でも知っている事実だ。というのは、財務省が増税すれば予算措置のアメを与えると国会議員の大半を籠絡していたからだ。
 そこで、安倍総理は、衆議院議員を全員クビにして、つまり解散して、総選挙で財務省ではなく国民から意見を聞いてこいといったわけだ。
■財務省のいうことをきかなかった安倍首相
 〈財務省出身で税制に詳しい森信茂樹・中央大法科大学院教授(税法)は「増税するなら解散すべきだが、先送りは解散の大義にならない」と話す。「増税を先送りするなら、社会保障も先延ばしするということも具体的に示して国民の判断を仰ぐべきだ」〉
 森信氏は、強硬な消費増税論者なので、せっかくうまく仕組んだ増税が吹っ飛ぶことをおそれているだけだ。
 そもそも、今回の消費増税の根拠になっている消費増税法は、民主党政権の選挙公約になかったのに、財務省が政権運営に不慣れな民主党幹部を籠絡して、同時に野党の自民党も抱き込んで、国会で成立させたものだ。財務省は、国民ではなく国民に選ばれた議員による間接民主主義の弱点を知悉している。国民すべてを騙すのは難しいが、少数の国会議員なら騙しやすいのだ。
 その時には、国会議員だけではなく、マスコミ、有識者、学者への「ご説明」を組織で行う。これらの人は単独で財務省の「ご説明」を受けると、ほとんど折伏される。筆者も大蔵官僚時代に、こうした「ご説明」要員であり、学者を担当していた。大蔵省幹部の国会議員やマスコミへの「ご説明」にも同行したことがある(かつて「ナベツネ」にもあった)。
 消費増税については、財務省の国会議員、マスコミへの「ご説明」が行き届いた状態であった。「ご説明」だけではない。国会議員は、増税後の予算のアメ、地方議員や地方の首長も増税後のアメ、経済界は増税後の減税、マスコミは増税後の軽減税率、エコノミストは親金融機関への財務省の便宜供与、学者・有識者はそれぞれ増税後のステータスなどで、増税支持を既に明確にしていた。
 増税をストップさせ、こうした利権にまみれた事態をひっくり返すには、もはや解散しかなかった。そうした中で、最後の「ちゃぶ台返し」をした安倍首相について、増税のアメを失った増税論者が批判しているのが「大義がない」という言い方だ。
■「税はエリートが決めるべきだ」というホンネ
 安倍首相は、18日の解散の記者会見で「代表なくして課税なし」という言葉を引用している。これは、米国独立戦争の時の言葉であり、税を国民で決めようという言葉だ。偶然にも、18日の会見の当日の夕刊フジで、筆者はこの言葉を引用している(ネット掲載は翌日→こちら)。
 この言葉は財務官僚なら誰でも知っているが、本音ではこれを嫌っている。税は大衆に任せるとダメになるので、エリートだけ決めればいいと内心は思っている。その意味で、民主党政権の時、公約に載せずに消費増税をうまく仕組めたことがベストだと思っている。
 森信氏は「増税するなら解散すべき」と言うが、消費増税を国民の信を問うことなく成立させた民主党政権を批判したことがないのは、まったく整合性がない。
 安倍首相が、上げるのではなく下げるのにも国民の信を問うといったので、財務官僚はそれにショックを受けているだろう。「代表なくして課税なし」というのは、財務省に意見を聞くのではなく、国民に意見を聞くという意味だ。財務省の言うことを聞かなかった総理は、戦後ではまずいないだろう。それほど歴史的には珍しい出来度だ。
■700億円は「民主主義のコスト」の範囲内
 最後に、選挙費用700億円に見合うかという問題であるが、マスコミが国民の意見を聞くチャンスを遮るのはおかしい。沖縄県知事選、集団的自衛権等の時には、いつも国民の声というではないか。そもそも、国民の声を代弁しているはずのマスコミが、選挙で直接国民の声を聞くと、財務省の言いなりで国民の声を代弁していないという事実が露見するのが困るかのようだ。
 間接民主主義では、民意を反映するために一定期間で選挙を行う必要がある。これまで衆院の平均任期は2年9ヶ月なので、2年で総選挙は民主主義のコストの範囲内である。
 しかも今回は、民主主義の基本の税が争点である。急に増税から方向転換した民主党や、自民党でも増税を主張していた議員の是非を問うことができる。急に手の平返しをした人は、選挙後に豹変するかもしれない。
 確実に起こった影響は、安倍首相が解散を言ってから、少なくとも増税派(予算をばらまきたい財務省、そのおこぼれをもらおうとする国会議員、地方議員、首長、経済界、マスコミ、有識者、学者など)から表立っての増税論はなくなったことだ。
 ただし、この増税派は反省してもらいたい。昨年夏から、増税しても景気は大丈夫というウソをつき、その結果、増税後に景気は悪くなった。それを、天候不順、なかには、エボラ熱、デング熱などが原因という「お笑い」までが官邸のホームページに出てきた(→こちら)。いかに〝ポチ・エコノミスト〟がデタラメかということが誰にもわかる。
 実際、増税前には2%以上の成長が増税後にパタッととまった(下図)。 (図は省略=来栖)
■財政再建のために必要なのは増税ではなく増収
 筆者はしばしば「財政再建を無視している」というデタラメを言われるが、官僚として、小泉政権・第一次安倍政権で財政再建をほぼ実現できたという珍しい経歴がある。しかも、その時に大きな増税はしてない。
 本コラムその他でも何回も強調しているが、財政再建のためには経済成長であり、成長があれば後から財政再建はほぼついてくるのだ。下図 (図は省略=来栖)は、経済成長の1年後に基礎的財政収支がほぼ決まるという事実を示している。これは、日本だけではなく、先進国でも当てはまる事実だ。
 間違った4月からの増税で景気を悪化させた。4月からの増税をやめていれば、2%程度の成長だっただろう。そこで、4月からの増税によって失われたGDPはだいたい15兆円程度(年換算)と推計できる(下図)。 (図は省略=来栖)
 その場合、国と地方の逸失税収は3兆円(年換算)ほどだ。まさしく、安倍首相が繰り返していた「増税して景気がわるくなり、税収が減れば元も子もない」が起きたわけだ。
 また増税をすれば、今度は10兆円程度のGDPが失われるだろう。朝日新聞の言うように700億円をケチって、解散せずに10兆円を失うのはあまりに馬鹿げた話だ。どうも、マスコミにはこのあたりの算数は難しすぎて理解できないようだ。
 財務省よ、いい加減に「財政再建のために増税が必要」というウソはつかないほうがいい。「財政再建のためには、増税ではなく、増収が必要」が正しい。
 ◎上記事の著作権は[現代ビジネス]に帰属します *強調(太字・着色)は来栖
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