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世界を奔走した安倍首相に折れた習主席 「遠交近攻」2年弱で50カ国を駆け抜けた外交努力の結実

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 産経ニュース 2014.11.25 05:37更新
【政権の是非を問う】地球儀外交(上) 世界を奔走した安倍首相に折れた習主席 会談しても「市場に引かれていく牛」と評され…
 北京で開かれたアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議に先立つ今月10日、安倍晋三首相と中国の習近平国家主席による日中首脳会談が実現した。日本の首相と中国主席の会談は3年ぶりであり、両国の関係改善に向けた「大きな一歩」(首相)となったが、話題を呼んだのは会談の内容よりむしろ、握手を交わす両首脳の表情だった。
 安倍首相が淡々とした様子だったのに対し、習主席は伏し目がちで笑顔はなく、背後には両国の国旗さえ置かれなかった。
 日本国内では「無礼だ」と反発が起き、韓国メディアは「日本冷遇」と報じたが、APECに参加したリーダーたちの受け止め方は異なっていた。一部始終を目撃した政府高官はこう証言する。
 「首脳間ではむしろ習主席の頑なな態度が笑いものになっていた。習氏の沈鬱な表情を『市場に引かれていく牛みたいだった』と表現した首脳もいた…」
 各国首脳は、習主席が「日本に歩み寄った」とみられると政治基盤が打撃を受けるため、国内向けの演出に腐心していることを見透かしていたのだ。当然、日中どちらが会談の主導権を握り、どちらが追い込まれていたのかも理解していた。
 実際、会談で習主席は、これまで執拗(しつよう)に問題提起し続けてきた靖国神社参拝問題も、尖閣諸島(沖縄県石垣市)問題も一切言及しなかった。首相は中国に何ら譲歩することなく、首脳会談を実現したのだった。
 外交は「何かを求めた方の立場が弱くなる」(外務省幹部)のが常識である。
 日中外交筋によると、首脳会談に先立ち、日中間で交わした合意文書は、首相が会談をドタキャンすることを懸念した中国側の要請でまとめたものだった。中国側は文書に、首相の靖国神社不参拝の確約を盛り込むことにこだわったが、日本側が「それならば会談しなくてもよい」と突っぱねたところ、あっさりと折れてきたという。
 中国側はこの文書を日中同時発表するに当たり、こうも頼んできた。
 「日本の外交的勝利だとは宣伝しないでほしい…」
 首相はその後、訪問先のミャンマーで李克強首相とも関係改善で一致し、オーストラリアでは再び習主席と握手を交わした。
 では、なぜ中国はそれほど軟化したのか。安倍外交の何が奏功したのか。
 ヒントは首相の祖父、故岸信介元首相にある。岸氏は「岸信介の回想」(文春学芸ライブラリー)で、昭和32年に日本の首相として初めて行った東南アジア歴訪をこう振り返っている。
 「私は総理としてアメリカに行くことを考えていた。それには東南アジアを先きに回って、アメリカと交渉する場合に、孤立した日本ということでなしに、アジアを代表する日本にならなければいけない、という考えで行ったわけです。(中略)それでアメリカに行く前後に十五カ国を二つに分けて回りました」
 アメリカを中国に置き換えるとどうか。
 「地球儀を俯瞰(ふかん)する外交」を掲げる首相は、日中首脳会談の前に5大陸を股に掛けて世界49カ国を巡り、200回以上の首脳会談をこなした。米国、東南アジア諸国連合(ASEAN)、オーストラリア、インド、ロシア、トルコなど各国との関係を次々に強化し、日本の発言力・発信力を高めた上で50カ国目の訪問国として中国を選んだ。
 では、日中首脳会談の実現に最も焦ったのは誰だったのか。歴史問題などで軋轢が生じている韓国の朴(パク)槿恵(クネ)大統領だった。実はこれも首相の読み通りだった。(政治部編集委員 阿比留瑠比)

 産経ニュース 2014.11.25 05:37更新
【政権の是非を問う】地球儀外交(下) 「日中関係で異常なのは中国の方」2年の外交努力で手応え 世界で認識共有
 「遠くない将来、日中韓外相会談と、それを土台にした3カ国首脳会談が開かれることを期待する」
 日中首脳会談から3日後の今月13日、韓国の朴(パク)槿恵(クネ)大統領はミャンマーの首都ネピドーで開かれた東南アジア諸国連合(ASEAN)プラス3(日中韓)首脳会議で唐突にこう表明した。
 「実現しない」と踏んでいた日中首脳会談が行われたのに衝撃を受け、孤立を恐れて方針転換したのは明らかだった。
 これは「日中両首脳が会えば韓国は必ず折れてくる」という安倍晋三首相の読み通りの展開だった。
 野党や一部メディアは、安倍外交によって、あたかも日本が世界で孤立しつつあるように訴えてきたが、現実は逆で、今の日本外交には順風が吹いている。
 では、首相はいつ、日中、日韓関係改善に向けての手応えを感じたのか。
 それは5月末、シンガポールで開かれたアジア安全保障会議(シャングリラ対話)での基調講演だった。
 ここで首相は、海における法の支配について(1)国家が主張をなすときは法に基づいてなすべし(2)主張を通したいからといって力や威圧を用いないこと(3)紛争解決には平和的収拾を徹底すべし-という3原則を掲げ、こう説いた。
 「日本は法の支配のために。アジアは法の支配のために。そして法の支配はわれわれすべてのために。アジアの平和と繁栄よ、とこしえなれ」
 名指しこそしないが、国際法を無視して海洋進出を進める中国を批判したのは明らかだった。講演が終わると、各国の政府・軍関係者ら約500人の聴衆から盛大な拍手が起きた。
 一方、会場には中国軍人もいて講演後の質疑で首相への反論を試みたが、聴衆の反応は冷ややかだった。首相は後にこう語った。
 「私の講演であんなに拍手が起きるとは思っていなかった。日中問題に対する世界の見方、立場が事実上逆転したのを実感した」
 この2年間の外交努力により「日中関係で異常なのは中国の方だ」という認識は世界で共有されてきた。
 日米関係に関しても、オバマ大統領は当初、首相を警戒していたが、6月のベルギーでの先進7カ国(G7)首脳会議(サミット)では、首相にハグするまで距離が縮まった。
 また、首相はアジア・太平洋地域のシーレーン確保の観点から、オーストラリア、インドとの関係強化を重視している。
 7月の豪州訪問時には、アボット首相と「日豪が特別な関係」であることを確認し、両国関係を「準同盟関係」に引き上げた。
 アボット首相は共同記者会見で歴史問題について日本をこう擁護した。
 「日本にフェア・ゴー(豪州の公平精神)を与えてください。日本は今日の行動で判断されるべきだ。70年前の行動で判断されるべきではない。日本は戦後ずっと模範的な国際市民であり、日本は法の支配の下で行動をとってきた。『日本にフェア・ゴーを』とは『日本を公平に見てください』ということだ」
 歴史問題で対日批判を繰り返していた中国は穏やかな気持ちではいられなかったことだろう。
 首相は今月14日、インドのモディ首相との会談でも「日米印、日米豪の協力を重視している」と述べた。これは首相が第2次政権発足時に発表した日米豪印を菱(ひし)形に結びつける「安全保障ダイヤモンド構想」とつながる。この構想はフィリピン、ベトナム、マレーシア、インドネシアなど海洋国家との連携にも広がる。そうなれば日本の安全保障は大幅に強化される。
 「遠交近攻」という中国の兵法がある。遠くの相手と友好を結び、近くの敵を攻めるという意味だ。首相の「地球儀を俯瞰(ふかん)する外交」は実はこれに近い。
 今回の衆院解散・総選挙により首脳外交は年明けまで小休止するが、就任から2年弱で50カ国を駆け抜けた外交努力は、今まさに実を結ぼうとしている。
(政治部編集委員 阿比留瑠比)

  ◎上記事の著作権は[産経新聞]に帰属します
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