原油安 政治の影
シェールオイルつぶし 「イスラム国」対策説も
中日新聞 2015年1月13日 核 心
世界的な原油安が昨年後半から続いている。資源を輸入に頼る日本にとっては歓迎すべき状況である半面、産油国のイランやロシアなどは大きな打撃を受けている。安値の要因として、原油がだぶついていながら減産しようとしないサウジアラビアの態度も挙げられているが、国際社会ではサウジが減産しない理由を経済的要因とする分析からイスラム教スンニ派の過激派組織「イスラム国」への対策といった声まで多くの見方が出ている。 (カイロ・中村禎一郎)
■減産拒むサウジ
世界の原油価格の指標である米国産標準油種(WTI)は、昨年6月には1バレル=107ドル台だったが、今月5日には一時50ドルの大台を割り、12日には一時45㌦台に下落した。専門家の間では、サウジが減産できない状況に追い込まれているとの観測が優勢だ。米国などでは新型エネルギー「シェールオイル」の開発が進む。シェールオイル開発を採算割れに追い込み、競争に勝つには、原油安を容認せざるを得ないわけだ。
米国では実際、原油安の影響を受けて南部テキサス州のシェールオイル企業が破綻したことが8日に明らかになった。シェールオイル開発はそもそも費用が高いため、価格競争は最終的に、サウジに有利に働くとの思惑もあるとみられている。
一方、混乱が続くリビアやイラクからは安い原油が流れている。エネルギー問題に詳しいアルアハラム戦略研究所(カイロ)のアハマド・カンディール氏は「サウジが減産しても客が安い原油に流れるだけで、シェアを奪われる結果になる」と分析する。
■ロシアへの圧力
原油安で困難な状況に陥っているのは、比較的余力のないロシアやイラン。目立った動きを見せていない米国がサウジと協力し、政治的に対立するこうした国に圧力を与えているとの見方も有力だ。
例えばスンニ派国家のサウジは、シリアやイエメン情勢をめぐってイスラム教シーア派国家のイランと対立。内戦が泥沼化するシリアではシーア派系のアサド政権をロシアとイランが支援する一方、サウジや米国は反体制派を支えており、ロシア、イランとは利益が相反する。
また、イランとの核協議で進展を期待する米国が原油カードを使って譲歩するよう迫っているとの考え方もできる。ウクライナ問題でロシアと鋭く対立する米国には、ロシアを屈服させたい意図もありそうだ。
■資金断つ狙い?
原油安の理由に「イスラム国」への対策説も浮上している。サウジは「イスラム国」が活動するイラクと国境を接しており、その脅威はひとごとでない。
「イスラム国」は活動地のイラク、シリアから石油を安値で密輸し活動資金を調達。石油問題に詳しいクウェートのジャーナリスト、ムハンマド・ガリ氏は「原油価格を高騰させないことで、『イスラム国』の資金源を断とうとしている可能性も否定できない」と述べる。
ロイター通信によると、サウジのヌアイミ石油鉱物資源相は昨年末、「石油輸出機構(OPEC)の非加盟国が減産しても、われわれは原産しない」と発言しており、原油安は中長期的に続きそうだ。
◎上記事の著作権は[中日新聞]に帰属します (中日新聞2015年1月13日朝刊より、書き写し=来栖)
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原油安で米シェール関連企業が経営破綻
NHK NEWS WEB 1月9日 8時36分
世界的に原油安が続いていることを受けて、アメリカ南部のテキサス州では、シェールオイルやガスの開発を手がけていた企業が採算が悪化して経営破綻し、今後も関連企業の破綻が続くという見方が出ています。
経営が破綻したのは、アメリカ南部でシェールオイルやガスの開発を手がけていた「WBHエナジー」という企業です。
この企業は、ここ最近の急激な原油安で採算が悪化したことにより、最大で60億円の負債を抱えて経営破綻したもので、原油安の影響でシェールオイルやガスの開発企業が破綻したのは初めてとみられます。
アメリカでは、ここ数年、中東やアジアの原油やガスより割安になるとして、日本企業をはじめシェールオイルやガスの開発に乗り出す企業が相次いでいました。
しかし、去年7月以降の半年で国際的な原油取引の指標となるWTIの先物価格は半分以下に値下がりするなど、経営環境は厳しさを増していました。
このため採算が悪化し、シェールオイルやガスの開発を縮小する企業も相次いでいて、今後も関連企業の破綻が続くという見方が出ています。
◎上記事の著作権は[NHK NEWS WEB]に帰属します
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原油安は世界経済にどう響く? 輸入国の日欧にとって朗報も最悪シナリオも
zakzak 2015.01.10 連載:「日本」の解き方
原油価格の下落が急ピッチで進んでいる。昨年6月には1バレル=100ドルを超えていたが、50ドルを下回る場面もあった。この価格下落は世界の景気動向や地政学問題にどのような影響を与えるのだろうか。
原油価格は2011年から14年半ばまで3年半もの間、1バレル=100ドルを超えていた。これまでの歴史でみられなかった高値だ。この間、シェールオイルの開発によって供給が増える一方、欧州の景気低迷などで石油の需要は低下気味だったが、実際の相場は下がらなかった。そこには11年のリビア内戦や14年の過激派「イスラム国」の問題があった。
需給関係が崩れていても原油相場が維持されていたところ、昨年後半になって、そうした地政学的な要因の悪影響がないとわかると原油価格は下げ始めた。それが鮮明になったのは10月初旬のことである。
引き金となったのは、サウジアラビアの石油輸出価格の引き下げだった。サウジアラビアを含むOPEC(石油輸出国機構)加盟国が価格支持のために減産にすると予測されていたが、合意に至らなかった。
かつてであれば、OPECは減産に踏み切り、自らの存在感と影響力を誇示できた。しかし、今やその力がないほどに、種々のエネルギーが出てきている。OPECが減産合意できなかった背景には、石油のウエートが減ってきたというエネルギー事情の変化がある。
しかも、OPECがかつて減産した際に非OPECを利することになったという過去もあった。このため、減産すればライバル関係にあるシェールオイル開発事業者を利することになると考えても不思議ではない。こうした合理的な選択の結果として、OPECは減産しなかった。これによって一部の北米シェールオイル開発事業者は苦境に追い込まれるだろう。
原油価格が1バレル=60ドル台以下になると、最近の技術進歩で生産採算ラインはかなり下がっているとはいえ、一部のシェールオイル開発事業者は苦しくなるだろう。
今年前半くらいまでは、80ドル程度で生産価格をヘッジしているはずで、経営悪化は今年の後半からとみられる。その後も原油価格は上がりそうもないので、原油安は米国のエネルギー産業にマイナスだ。実際に、一部のシェールオイル開発事業者が倒産し始めると、可能性は少ないながらリーマン・ショックの再来という最悪のシナリオも考えられなくもない。
さらに、ロシアにとっては、欧米各国の経済制裁とは比べものにならないほどに打撃になる。ロシアは輸出収入の約7割をオイルとガスに頼っているが、原油価格の低下は、ガス価格にも影響するので、ロシア経済は苦しくなる。
原油価格の低下は、エネルギー輸入国の日本や欧州にとっては朗報であるが、世界経済の牽引(けんいん)車であるアメリカにとっては必ずしも良いことではない点が気がかりだ。 (元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)
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