2015年1月14日 中日新聞 社説
名張・再審認めず 証拠は検察のものか
触らぬ神にたたりなし、ということなのか。検察側の倉庫に眠ったままの証拠は、今回も、調べられることがなかった。証拠開示への逃げ腰は、司法に対する国民の信頼を損ないはしないか。
奥西勝死刑囚(89)の再審開始を認めなかった名古屋高裁の名張毒ぶどう酒事件異議審決定は、昨年五月の請求棄却決定と同様、弁護団が新証拠として提出した三通の意見書を「再審請求の要件を満たさない」と一蹴した。弁護団は「検察官の証拠隠しを許したまま非情な決定を出したことは許し難い」と高裁の対応を非難している。
証拠隠し、とは、裁判所にも弁護側にも見せていない検察側の手持ち証拠の存在を指す。
検察側はかつて、裁判所と弁護団との三者協議で「証拠はまだ膨大にある」と認めていた。弁護団は、その中に奥西死刑囚の無実を明らかにする手掛かりがある可能性が高いとみて証拠の開示を求めてきたが、裁判所も検察側も応じぬまま、異議審も終結した。
近年、証拠開示が突破口になった再審開始が相次いでいる。
二〇一二年に再審無罪となった東京電力女性社員殺害事件では、被害女性の爪に残された皮膚片などが開示され、DNA鑑定で真犯人が別にいる可能性を示した。昨年、再審開始決定が出た袴田事件も、血痕付き衣類のカラー写真など新たに開示された六百点が確定判決への疑問を深めた。
裁判員制度導入に際し、公判前に争点を整理するため、検察側が段階的に証拠を開示する制度が施行されたが、再審請求審の証拠開示は制度化されておらず、裁判所と検察庁の裁量任せだ。
東電、袴田両事件では、証拠を出し渋っていた検察側が裁判所に促されて開示を決断したが、今回の名張事件では、裁判所も消極的な対応に終始した。
公権力が公費を使って集めた証拠は、一体、だれのものだろう。
一九六四年の一審判決は無罪、〇五年に一度は再審開始決定。未開示証拠を検察側が独占したまま二転三転した死刑判決を維持することは、国民の目に、司法の正義と映るだろうか。
弁護団は十四日、特別抗告し、舞台は最高裁に移る。「再審制度においても、疑わしきは被告人の利益に、という刑事裁判の鉄則が適用される」とは、その最高裁の白鳥決定である。扱いが分かれる証拠開示の問題でも、白鳥決定に即した対応を望みたい。
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中日新聞 2015年1月14日 13時30分
奥西死刑囚側が特別抗告
三重県名張市で1961(昭和36)年、農薬入りぶどう酒を飲んだ女性5人が死亡した名張毒ぶどう酒事件で、奥西勝死刑囚(89)=東京・八王子医療刑務所収監=の弁護団は14日、第8次再審請求を再度退けた名古屋高裁刑事二部の決定を不服として、最高裁への特別抗告の申立書を名古屋高裁に提出した。
第8次請求は2013年11月に申し立てられたが、高裁刑事一部が14年5月に棄却。弁護団の異議申し立てを受けた高裁刑事二部が今月9日、あらためて退けていた。
弁護団が新証拠として提出していたのは、農薬化学の専門家ら3人の意見書で、「犯行で使われた毒物は、奥西死刑囚が事件直後に自白した農薬でない疑いがある」として、自白の信用性を否定する内容だった。
ただ、各意見書は第7次請求の最高裁にも出されていたもので、高裁の刑事一部も刑事二部も「第7次請求で審査済み」として、再審請求の要件である新規性を否定。特別抗告審でも、最高裁が新規性を認めるか否かが争点になる。
鈴木泉弁護団長は特別抗告の申し立て後、「闘いの舞台は最高裁に移るが、再審開始に向け引き続き全力で臨みたい」と述べた。
奥西死刑囚はこの日が89歳の誕生日。12年6月、体調悪化で名古屋拘置所から八王子医療刑務所に移され、現在は寝たきりの状態が続いている。
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◇ 名張毒ぶどう酒事件 奥西勝死刑囚の第8次請求…再審認めず 2015/1/9 名高裁刑事2部 木口信之裁判長 2015-01-09 | 死刑/重刑/生命犯 問題
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